世間一般的に医師不足、病院不足であるように報じられてきて、特に東北諸県では震災の影響もあって医師不足が続いている、医大を新設しなければ間に合わないと言われればはあ、そうなんですかと思わず納得しそうになるのですが、少しばかり面白い訴訟が先日発生したと報じられています。

違法指導で移転、補助金減 福島県の渡辺病院が損害賠償求め、県を提訴(2015年7月14日河北新報)

 東京電力福島第1原発事故で南相馬市から福島県新地町に移転した渡辺病院が13日までに、違法な行政指導で補助金を一部しか受け取れなかったとして、福島県に約7億3000万円の損害賠償を求める訴えを福島地裁に起こした。

 訴状によると、渡辺病院は福島第1原発から約26キロにあり、事故で緊急時避難準備区域に指定され、経営継続が困難になった。県と協議し新地町への移転計画を進め、2012年7月、県議会で関連予算が承認された。
 その後、公立相馬総合病院管理者でもある立谷秀清相馬市長が、医師の引き抜きを懸念した意見書を県に提出。県は「地元病院の理解を得るのが補助金交付の条件」と渡辺病院に通告した。
 渡辺病院は12年9月、開設許可を得て着工したが、県は補助金申請を受け付けず「翌年度に繰り越して申請可能」との説明も覆した。その上で交付可能額20億円の一部の約5億6000万円しか助成しなかった。

 県は「訴状は届いており、対応を検討している」と述べるにとどめた。


病院移転の補助金「違法指導で減額」 南相馬・医療法人、賠償求め県提訴(2015年6月15日朝日新聞)

 東京電力福島第一原発事故で南相馬市から新地町へ移転した渡辺病院(140床)を運営する医療法人「伸裕会」(南相馬市)が違法な行政指導などで補助金を一部しか受けられなかったとして、県を相手取り国家賠償法に基づき約7億3千万円の損害賠償を求める訴訟を福島地裁に起こした。いずれも被告ではないが、県の当時の担当課長(今年3月退職)と立谷秀清相馬市長が共謀して損害を与えたと主張している。

 8日付の訴状によると、渡辺病院は第一原発から約26キロにあり、事故で緊急時避難準備区域に指定され、移転を余儀なくされた。原告は県と協議し、開設許可と補助金が出るのを確認したうえで移転工事の準備を進めた。県議会は2012年7月、予算を承認した。
 ところが、相馬地方の病院でつくる協議会が県に新地町での病院建設に対し危惧を伝えると、県の担当課長は原告に「地元の病院の理解を得るのが補助金交付の条件」と口頭で伝えた。
 原告は同年9月、県から開設許可を得て工事を始めた。原告は補助金を申請しようとしたが、担当課長は「地元の病院の理解が得られておらず支出できない」と申請させなかった
 公立相馬総合病院(相馬市)を運営し、相馬市と新地町でつくる相馬方部衛生組合(管理者=立谷市長)は同月、移転反対を議決。その後、担当課長は「翌年度に繰り越して補助金の申請ができる」という原告への説明を覆した。そのうえで、担当課長は交付可能額の一部の約5億6千万円しか補助金を交付しないよう内部手続きをした
 原告は、担当課長が行った内部手続きは著しく裁量を逸脱し、違法と主張している。

 県は「内容を把握していないのでコメントを差し控える」とした。立谷市長は「同じ診療圏にもう一つ病院ができると、公立相馬総合病院の経営が相当圧迫されるので反対はしないが歓迎できない。県には『南相馬の被災病院とかけ離れた支援はいかがなものか』と申し上げた」と話した。

病院移転自体は原発事故の影響で仕方のないことであるし、その移転先に関してもきちんと県と協議して準備を始めていたことはことは県議会が予算を承認した点からも事実なんだろうと思うのですが、移転先の地元から「そんな病院が移転してきてもらっては当方の経営に差し支える」とクレームがついた、特にその反対派の中心となったのが地元公立病院の運営者である地元市長であったと言うことが問題だったと言えそうです。
好意的に解釈すると県としては県全体での医療を考えているはずで、被災地病院が移転するにしても県外移転や解散をされるくらいなら県内で移転再開してもらった方がいいんだろうと思うのですが、現地の市町村や地元医療機関にとってはまた別の考えがあると言うことなのでしょう、そのクレームに県側も突然態度を翻したように見えると言うのは県担当者とのパイプの太さに差があったと言うことなのでしょうか。
現地では病院がもう一つ出来ると経営が圧迫されるほどすでに十分な医療リソースが蓄積されていると言うことですから、それなら最初から別な場所に移転計画を進めればよかったと言う話なんですが、最初に県側が了承しながら後日になって翻したと言う点が一番のトラブルの原因と言え、賠償請求は当然であるかと言う気はします。

このところ社会保障費削減と言うことが喫緊の課題になっていて、特に大きくアナウンスされているわけではありませんがこのままでは医療費削減政策と言われた以前の水準よりもさらに厳しい(名目はともかく実質的な)マイナス改定もあり得ると言う話もあり、受診時定額負担性導入などによる受診抑制が医療現場に荒廃をもたらすと批判する声もあるようです。
いずれにしても保険診療が公定価格の統一料金で行われている以上、経営改善のためには顧客数を増やして薄利多売を推進するか、あるいは高度な医療や保険診療外の部分で儲けるか、さらには人件費など経費削減を推し進めるかと言うことになりますが、特に地方自治体病院などでは後二者の実行はなかなか難しいところもあるようですから、実質的にはとにかく顧客数を確保しろと言う方向で努力を促されそうには感じますね。
もちろんそれはそれで当然の経営判断ではあるのですが、限られた住民を奪い合う局面で今回のような事例が数多く出てくるようですと「病床数はすでに過剰である」と言う証拠とも受け取られかねないわけですから、国の進める「10年後に病床1割削減」も計画通り推進されても何も文句は言えないと言うことにもなりかねないでしょうね。