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原発事故後の福島県内における甲状腺スクリーニングについて
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原発事故後の福島県内における甲状腺スクリーニングについて
福島県立医科大学器官制御外科学講座
乳腺内分泌甲状腺外科
鈴木眞一
はじめに
東日本大震災に続発して起こった東京電力福島第一原発の事故は、福島県のみならず日
本および北半球の大気に広範な放射線汚染をもたらしました。原発の事故のレベルとして
はチェルノブイリと同等のレベル7とされています。その際に最も話題となっているのは、
チェルノブイリでの事故で唯一健康被害として明らかになった放射性ヨウ素の内部被ばく
による小児甲状腺がんです。原発事故時に 0 歳から 15 歳であった子供たちに 5 年後から急
に甲状腺がんの発症を見たものです。このような状況から、今回の福島第一原発事故によ
る大気中の放射線汚染が生じた福島県内でも、「甲状腺」が話題となっています。しかし、
チェルノブイリと福島では被ばくの線量も様相も全く異なっています。
そこで、無用な心配と混乱を避ける為に、甲状腺を専門とする講座を主宰するものとし
て県民の皆様の最も身近にいるものとして、甲状腺に関する見解をお知らせ致します。
一般の甲状腺がんについて
甲状腺がんは頻度が高く、その予後(がんの成績です。生存、再発、死亡など)は良好
です。甲状腺がんの約 90%を占める乳頭がんの 10 年生存率は 95-6%と極めて予後良好で、
固形癌のなかで最も予後が良いとされています。また甲状腺がんの進行は極めて緩徐です。
また最近では、超音波検査機器の向上から 10mm 以下の微小癌が多数発見されるようにな
ってきましたが、極めて予後が良いものが多いために、甲状腺被膜外浸潤、リンパ節転移、
遠隔転移、遺伝性甲状腺がんなどが否定される場合には直ちに手術をせず経過観察をおこ
なうこともあります。成人の乳頭がんの約半数に BRAF の遺伝子変異が認められます。
小児甲状腺がんについて
頻度は 14 歳以下 0.3%、19 歳以下 1%と全甲状腺がんに占める割合は極めて少ない割合で
す。本邦、欧米とも年間発生率は人口 10 万人あたり約 0.2名とされています。予後は成人例と
はやや異なります。すなわち、遠隔転移とくに肺転移例が多く認められます。甲状腺全摘が多
く施行され、術後に 131I内照射治療も必要になることがあります。しかし、成人例に比べ再発
は多いものの生命予後に関しては成人に比較して良好とされています。従って、命にはかかわ
らないものの術後長期のフォローが必要となります。成人とは異なり小児例では RET/PTC 遺伝
子の再配列が多く認められ、チェルノブイリでの小児甲状腺がんでもこの遺伝子異常が多く認
められ、放射線誘発の甲状腺がんにも認められる異常とされています。

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チェルノブイリでも過去 25 年間で 6000 人以上の放射線関連甲状腺癌(事故当時乳幼児か
ら学童)が手術されましたが、死亡例は約 15 名(0.25%)と非常に少ないものでした。し
かも、死亡例の多くは当初稀である小児甲状腺がんが大量に発見され、手術や術後治療に
慣れていない施設での両側反回神経麻痺などの術後合併症に起因し、現在では進行がんも
問題となっています。
広島長崎の原爆による被ばくでは甲状腺がんは、1Sv の外部被ばく線量で甲状腺がんのリ
スクが1.5倍に増加しております。被ばく量が高いほどまた被爆時の年齢が低いほど癌
の発生が増えております。100mSv 以上でリスクの増加が認められています。
チェルノブイリと福島の違い
チェルノブイリでは、放射性ヨウ素により汚染されたミルクを飲んだ子どもたちに甲状腺
内部被ばくをもたらしました。一方、福島の子どもたちは食の安全が確保されていますの
で状況は全く異なります。さらにチェルノブイリは内陸に位置し、いわゆるヨード欠乏地
域であり、地方病性甲状腺腫の後発地域でした。本邦では周囲を海に囲まれ、日本国内で
はどこでも海産物の摂取は可能となり、世界的にも高ヨード摂取地域とされています。甲
状腺の検査で 131I を投与して画像診断や治療を行うことがあります。日本人では投与前1
-2週間の厳格にヨード制限を施行しないと、131I を投与しても甲状腺に取り込まないと
いう事実があります。従って、通常、わかめのみそ汁や昆布ダシ、ひじきさらに魚等ヨー
ド含有量の多い日本食を食している場合、放射性ヨードの甲状腺への取り込みはチェルノ
ブイリに比して少なくなることが容易に予想されます。
現在の注意事項
現在の空間線量では急性放射線障害は考えられません。また、殆どの県民には現在の微
量慢性的な被ばくによって甲状腺がんが発症することは考えられません。しかし、県民の
皆様の不安を解消するために、県と医大では県民健康管理の一貫として、震災後3年目か
ら震災時県内全域に居住していた小児(震災時0歳から 15 歳)に対し、甲状腺超音波検査
を施行する予定です。
甲状腺がんは被ばく後すぐには発症しません。また、お家の方が頚部にしこりを気づいた
時点でも治療は可能です。むしろ小児甲状腺がんを過度に心配し、無用な医療用放射線被
ばく(CT・PET)を繰り返すことにより甲状腺がんの発症を誘発する可能性も少なく
ありません。甲状腺がんのスクリーニングには超音波検査が有用で第一選択となります。
小児に検診目的としてのCTやPET検査を先行することは勧められません。かえって医
療用被ばくを助長してしまうこともあります。超音波検査で甲状腺内のしこりが発見され
た人の大半は良性腫瘍が予想されます。確定診断には穿刺吸引細胞診を行います。採血の
注射をするのと同じ程度の侵襲で出来ます。

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まとめ
今回の原発事故による放射線の健康影響の問題として、甲状腺がんが話題にされていま
すが、上記のような実態を良く理解して冷静に対応してください。今後3年後の本格的甲
状腺超音波検査実施にむけて、私ども甲状腺専門医と小児専門医が連携し、全国の学会に
も発信し連携する予定で、オールジャパンで県民の皆様に対応する予定です。ご不明な点
は、甲状腺専門家へのご相談を宜しくお願い申し上げます。