チェルノブイリでも過去 25 年間で 6000 人以上の放射線関連甲状腺癌(事故当時乳幼児か
ら学童)が手術されましたが、死亡例は約 15 名(0.25%)と非常に少ないものでした。し
かも、死亡例の多くは当初稀である小児甲状腺がんが大量に発見され、手術や術後治療に
慣れていない施設での両側反回神経麻痺などの術後合併症に起因し、現在では進行がんも
問題となっています。
広島長崎の原爆による被ばくでは甲状腺がんは、1Sv の外部被ばく線量で甲状腺がんのリ
スクが1.5倍に増加しております。被ばく量が高いほどまた被爆時の年齢が低いほど癌
の発生が増えております。100mSv 以上でリスクの増加が認められています。
チェルノブイリと福島の違い
チェルノブイリでは、放射性ヨウ素により汚染されたミルクを飲んだ子どもたちに甲状腺
内部被ばくをもたらしました。一方、福島の子どもたちは食の安全が確保されていますの
で状況は全く異なります。さらにチェルノブイリは内陸に位置し、いわゆるヨード欠乏地
域であり、地方病性甲状腺腫の後発地域でした。本邦では周囲を海に囲まれ、日本国内で
はどこでも海産物の摂取は可能となり、世界的にも高ヨード摂取地域とされています。甲
状腺の検査で 131I を投与して画像診断や治療を行うことがあります。日本人では投与前1
-2週間の厳格にヨード制限を施行しないと、131I を投与しても甲状腺に取り込まないと
いう事実があります。従って、通常、わかめのみそ汁や昆布ダシ、ひじきさらに魚等ヨー
ド含有量の多い日本食を食している場合、放射性ヨードの甲状腺への取り込みはチェルノ
ブイリに比して少なくなることが容易に予想されます。
現在の注意事項
現在の空間線量では急性放射線障害は考えられません。また、殆どの県民には現在の微
量慢性的な被ばくによって甲状腺がんが発症することは考えられません。しかし、県民の
皆様の不安を解消するために、県と医大では県民健康管理の一貫として、震災後3年目か
ら震災時県内全域に居住していた小児(震災時0歳から 15 歳)に対し、甲状腺超音波検査
を施行する予定です。
甲状腺がんは被ばく後すぐには発症しません。また、お家の方が頚部にしこりを気づいた
時点でも治療は可能です。むしろ小児甲状腺がんを過度に心配し、無用な医療用放射線被
ばく(CT・PET)を繰り返すことにより甲状腺がんの発症を誘発する可能性も少なく
ありません。甲状腺がんのスクリーニングには超音波検査が有用で第一選択となります。
小児に検診目的としてのCTやPET検査を先行することは勧められません。かえって医
療用被ばくを助長してしまうこともあります。超音波検査で甲状腺内のしこりが発見され
た人の大半は良性腫瘍が予想されます。確定診断には穿刺吸引細胞診を行います。採血の
注射をするのと同じ程度の侵襲で出来ます。