Uber、日本でも攻勢へ ライドシェア(相乗り)で地域を変える
ライドシェア(相乗り)を可能にする規制緩和の検討が進むなど、日本でも追い風が吹くUber。現在は、東京でのサービス展開にとどまるものの、そのポテンシャルは、インバウンド対策や地方の活性化につながるインパクトを持つ。
帰宅の通勤ラッシュの時間に、激しい雨。タクシーを拾いたいと思ったが、全くつかまらない。イベントに行った帰り、混雑が予想される電車を避けてタクシーに乗ろうとしたら、争奪戦になっている――。
シチュエーションに違いはあれど、そうした経験をしたことがある人は多いだろう。
テクノロジーの力で、このようなタクシーの需要と供給のギャップを埋めるサービスを提供するのが、Uber(ウーバー)だ。
世界67ヵ国、360都市に拡大
Uberは2009年3月、トラビス・カラニック(現Uber Technologies CEO)とギャレット・キャンプが、サンフランシスコで創業したハイヤー・タクシー等の即時手配サービス。クルマに乗りたい人と空車のタクシーをマッチングさせ、Uberはドライバーからマージンを得る。
空車の位置がアプリ内にリアルタイムで表示され、一番近くにいるクルマとマッチングされる。アプリにクレジットカードを登録するため、支払いの手間もかからない。
Uberのサービスの中でも、今世界中で数多くのユーザーに利用されているのが、一般ドライバーが自家用車で運転する『uberX』だ。スマホからすぐにクルマを呼べる便利さ、料金の安さが受け、創業6年で世界67ヵ国、360都市以上に事業は拡大。その勢いは、とどまること知らない。
Uber Japanの髙橋正巳社長によると、世界では、1ヵ月で約1億回利用され、2015年1月~10月でドライバーに支払われた報酬は、アメリカだけで4.3兆円に達するという。
日本には2013年11月に進出し、2014年3月から東京で本格的なサービスを開始。髙橋社長はソニーなどを経て、2014年7月にUber Japanの社長に就任した。
「CEOのトラビスは、とても熱い経営者で、ものすごいビジョンを持っています。フランクな性格ですが、ナンセンスが嫌いで、常に本質を議論しようとする。そうした姿勢で社内のカルチャーも一貫しており、全員が同じ方向を見て、ベストを尽くす文化があります」
「ライドシェアと白タクは真逆」
アメリカのUberで人気を博しているのが、一般の人が乗客を運ぶサービスだ。しかし日本では、道路運送法で自家用車での有償送迎「ライドシェア(相乗り)」が禁じられている。東京では、Uber Japanが旅行代理店として登録し、タクシー会社・ハイヤー会社と提携、プロの運転手がサービスを提供する仕組みになっている。
世界各国でライドシェアに関するルール整備が進む中で、日本でも規制緩和の動きが出始めた。2015年10月、安倍晋三首相は「過疎地などで観光客の交通手段として、自家用自動車の活用を拡大する」と発言、ライドシェアの検討を指示した。
そうした動きは、一部のメディアで「白タク解禁」と報じられた。「白タク」とは、一般の人が運賃を取って人を乗せるタクシー営業であり、現状では違法行為となる。Uberに関しても、「白タク」という批判は根強くあった。
しかし髙橋社長は、「ライドシェアと白タクは完全に真逆のもの」と語る。
「白タクは運転手の素性が不明で、料金も不透明な営業形態で、何かあっても連絡先がわからない。きちんとした保険に入っているかも不明で、大変危険なもの。一方でUberは、ドライバーのバックグラウンド・チェックや評価システムが存在し、リアルタイムで走行データを記録しています。過去に問題があるドライバーは参加できませんし、ユーザーは事前にドライバーを知り、評価が低いときは乗車をやめることもできます。リアルタイムで運行を管理しているので、万が一の事故やクレームにも対応でき、保険も完備しています」
テクノロジーの力によって、ユーザーの不安感、抵抗感を取り除いたことで、Uberは成長した。髙橋社長は、「これほど海外で普及しているのは、ユーザーとドライバーの双方から、透明性・安全性が評価されているから」と語る。評価システムによってサービスレベルが担保されているため、実際、東京においても、女性の利用も多いという。
交通不便地域の移動を支える
とはいえ、既存のタクシー業界からは、Uberは脅威とみなされることが多い。それについて髙橋社長は、「Uberが新たな移動手段を提供することで、ドア・ツー・ドア市場が拡大している」と語る。
「Uberの開始以降、ロサンゼルスでは、タクシーを含む市場全体のパイが拡大し、金額ベースで2倍になりました。『uberX』の利用料金はタクシーの半額くらいなので、乗車回数は4倍になった計算です。Uberによって、人の移動が活発化しました。Uberは既存の市場でシェアを奪うことが目的ではなく、もともとタクシーを使っていなかった層や、普段は自家用車を使っている方、既存の交通手段がカバーできなかった需要を掘り起こしているのです」
Uberは、最先端のアルゴリズムで配車効率を向上し、地域全体の交通の利便性を高める。需要と供給が見えるようになるので、人が少ない地域におけるピンポイントの移動ニーズにも応えやすい。公共交通の空白地での貴重な移動手段にもなり得る。
「シカゴでは、4割の利用が交通不便地域でした。東京は一見、タクシーが多いように見えますが、実態は局地的で一部エリアに集中しています。それを効率的に配分できれば、東京の交通アクセスも改善されます」
ライドシェアが新たな需要を喚起できた要因の一つは、価格の安さだ。安価ならば、若者の利用も広がる。
Uberのビジネスは、実際の需要動向に合わせて、リアルタイムで価格を変動させるテクノロジーによって支えられている(日本は、国がタクシー料金の基準を定めているため、東京での『uberTAXI』は、通常のタクシー乗車料金+迎車料金)。
他の産業でも、ホテルや航空などが日によって価格を変え、収益の極大化を図っている。それは、部屋数や座席数が決まっている中で、需要(顧客数)をコントロールする施策だ。Uberが新しいのは、供給側のコントロールも行っている点だ。
「例えば、大規模イベントの終了時など、そのエリアでの乗車料金を上げれば、そこに行けば儲かるので、たくさんのクルマが集まります。利用者にとっては、すぐ近くに空車があれば、待ち時間が短くなり、より便利になる。そして、クルマが集まってくれば、需給のバランスが正常化し、料金が元に戻ります」
日本発のサービスを創出へ
安価で利便性が高く、安全な交通手段が存在することは、「移動が便利になる」以上の効果を地域にもたらす。
「移動の先には、人の交流がありますし、消費も活発化します。Uberによって、シアトルでは飲酒運転が10%減少したというデータもあります。また、ロサンゼルスでは月間の交通量が160万㎞減少し、渋滞の緩和、持続可能な都市交通の実現につながりました」
Uberは海外において、目的地が同じ方向のユーザーを同乗させ、料金を分担するライドシェアのサービス『uberPOOL』も始めている。
今、過疎化が進む日本の地方では、鉄道やバスの撤退・減少が進んでいる。ライドシェアは、高齢者の移動手段としても機能し、地方の交通課題を解決するツールになる。しかし、現状では、高齢者のスマホの利用率は高くはない。
「アメリカでは、高齢者向けソリューションの実証実験も進んでいます。フロリダ州などの7つの都市で、介護施設、老人ホームと提携し、講習会やデバイスの貸し出しを行っています。Uberへの期待は高く、日本でも、自治体から多数の問い合わせをいただいています」
また、世界67ヵ国で使われているUberは、インバウンド(訪日外国人)対策としても有効だという。
「あるコンサルティング会社の調査によれば、東京を訪れた外国人旅行者のうち、タクシーを利用したのは約14%にすぎませんでした。Uberのプラットフォームは世界共通で、どの国でも、その利用法は変わりません。日本でもそのまま使えるので、東京ではUberの利用のうち3割が外国人で、その国籍は63ヵ国に及びます(2015年9月実績)。外国人の移動ニーズに応えるうえで、Uberは有力な選択肢となります」
Uberは需要と供給をマッチングさせるプラットフォームであり、それを活かせば、さまざまなサービスが可能になる。アメリカでは、自転車便で荷物を運ぶ『UberRUSH』や、ランチデリバリーの『UberEATS』など、さまざまな新サービスがある。
「私の役目は、日本からもUberの新しいサービスを発信していくこと。高齢先進国の日本だからこそ生み出せる、新しいモデルがある。それを世界に示していきたいと考えています」
- 髙橋正巳(たかはし・まさみ)
- Uber Japan 執行役員社長
「MPD 1期生」の挑戦
住宅地域の「生活移動弱者」を救う!タクシーシェアリング
地域に公共交通があっても、日々の生活移動に不自由する「生活移動弱者」がいる。そうした生活移動弱者を救うビジネスが、エディラインソリューションズ・松田吉広代表が推し進める「タクシーシェアリング」だ。
「タクシーシェアリング」とは、タクシーに特定の運行エリアを専任させ、必ず送迎できるようにする方法だ。エリア決定には、タクシーのGPS機能を活用したデータベースによる統計的な分析と、地域の生活移動情報などのフィールド調査で得たデータベースが活用されている。それらのデータベースを活かし、UD(ユニバーサルデザイン)構造のタクシーを、エリア内で最適に配備・運用。松田氏は、そのアルゴリズムでビジネスモデル特許を取得している。
ターゲットは商業エリアでなく、日々の生活が営まれる居住区であり、多くのタクシー会社はそこに力を注いでいない。しかし、居住区エリアには、乗合バスの時刻表では生活移動に不便する子育てママや、自立生活を頑張る高齢者がいる。顔なじみのドライバーがいることで、安心安全で便利な移動手段を確保することができ、地域住民と協働して送迎移動を工夫する。
「いわば、移動のしくみ自体のユニバーサルデザイン化です。少子高齢化の中で、今後のモビリティは、生活移動でファンを獲得する、居住区ビジネスへ転換していく必要があります。デマンド方式ではない、シェアエコノミーの新しいビジネスモデルと言えます」
すでにエディラインソリューションズは、NPO法人三鷹ネットワーク大学推進機構の「民学産公」協働研究事業や、横浜市金沢区における横浜市立大学「地(知)の拠点整備事業(COC事業)」で、社会導入に向けた実証実験を行い、関係省庁にもレポートを提出している。
手応えを得た松田氏は、コンサルティングとして三鷹市に拠点を置く「寿タクシー」とパートナーシップを組み、2016年春の事業化に向けて動き始めている。
そして松田氏は、タクシーシェアリングと同時に、「タイムシェアリング」として、利用者がより便利な暮らしを目的として集まれる、コミュニティの場の形成も進めている。地域の魅力向上やCCRC(継続介護付きリタイアメント・コミュニティ)などの分野で、新たなビジネスを生み出そうとしている。
- 松田吉広
- エディラインソリューションズ 代表取締役
事業構想大学院大学 1期生
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