このように、富士御殿場蒸溜所の地下水が富士山から流れてきたものであることがわかってきました。では、どのように蒸溜所まで流れてきているのでしょうか。地下水の流れをさらに詳しく検証することにしました。
蒸溜所を中心に、富士山山頂から東側斜面、山中湖、箱根火山などを含む40キロメートル四方の標高データから地形モデルを作成し、第四紀火山噴出物、花崗岩など地質の組成から色分けしました。これが、高低差と地質の透水性(水の通りやすさ)の基本になります。ここに富士山周辺の降水量分布と地表からの蒸発散量を設定すれば、蓄えられる地下水量が推定できるため、地下水の流動シミュレーションができるのですが、この地表からの蒸発散量の設定が非常に難しいのです。というのも、落葉期と着葉期など、季節ごとの植生の状態によっても、地中に浸透する水の量が変わります。また、市街地や農地などの土地の利用区分、河川・湖沼なども考慮に入れなければなりません。

富士御殿場蒸溜所を中心に40キロメートル四方の地表面形状。地質ごとに、沖積層(Alluvium)、第四紀火山噴出物(Quaternary volcanic rocks)、新第三紀火山岩類(Tertiary volcanic rocks)、先進第三紀堆積岩類(pre-Cretaceous strata)、花崗岩類(Granitic rocks)で区分した。白線は断面図の位置を示す。
そこで今回は、御殿場市周辺の春と秋の衛星画像を比較し、土地の利用区分を推定することで、蒸発散量の試算に取り組みました。衛星画像から推定される落葉樹、常緑樹の違いのほか、市街地と推定される区分では、地下水の汲み上げによる流出を設定しています。その結果、地下を流れる経路と水量を含む、高い精度の地下水流動シミュレーションに成功しました。

地表の利用区分により、降水の蒸発散量が変わってくるため、春と秋の衛星画像から、落葉樹、常緑樹などの違いや、市街地かどうかなどを解析した。

地質、利用区分、気象データを総合的に解析し、降水の蒸発散量を算定した。
下の図が、富士山山頂から蒸溜所を通る地下水の全水頭(水位)の断面モデルです。実際に測定した蒸溜所および周辺の地下水面の標高とモデルの水頭値は整合しました。また、シミュレーションにより、標高2000メートル以上の斜面から蒸溜所に向う地下水の流れが予測され、酸素同位体比から推定された涵養標高(1100~2100メートル)とも整合しました。今回のシミュレーションモデルが高い精度であることを裏付けています。

富士山山頂と富士御殿場蒸溜所(Sampling Point)を通る全水頭(水位)の断面図。富士山山頂の地下水のポテンシャルが 非常に高いことがわかる。
下の図は、同じく富士山山頂からのダルシー流速断面モデルです。地下水は水頭(水位)の高いところから低いところに流れるため、高低差が大きく、地質の透水性が大きいほど流速が速くなります。標高2000メートルの涵養地から蒸溜所までの移動時間を計算すると、49.7±15年となりました。水の年代測定には、このほかにトリチウム濃度から推定する方法があり、およそ56年前と算出されることから、モデルとほぼ整合していました。

富士山斜面の涵養地(Recharge area)にしみ込んだ地下水は、富士御殿場蒸溜所(Sampling Point)に向う大きな流れとなっている。