当初、大阪市では周辺町会や地域団体の役員等に計画案を説明し、理解を求め
ていたが、地元説明会を開催するうちに「施設の必要性は理解するが、なぜここ
に建てるのか?」「障がい者施設は学校の多い文教地区にそぐわない」というよ
うな声や、「施設ができることで地価が下がる」といった根拠に乏しい意見まで
出されるような状況であった。
行政の説明が不十分という地域の声に対して、関係者の説得が続いたが、予定
地周辺の地域は、旧来の町会組織と、それに属さない新築高層マンションの住民
に分かれ、後者を中心として強硬な反対運動が組織され、展開されることとなっ
た。
大阪市では、区内各所での説明会の開催や障がい者への理解を求めるパンフレ
ットの個別配布をはじめ、地域の福祉関係者の協力等を得て、さまざまな啓発活
動を行ったが、地域外の勢力の関与もあって反対運動はさらに複雑化した。
この施設の整備は国庫補助の対象であり、当初から国に補助申請を行っていた
が、施設コンフリクトのために着工できず、申請を取り下げる状況が続き、また、
反対住民側からは、施設整備計画について毎年度、情報公開請求があった。国と
の関係からも建設着手を延期できない状態となり、平成12(2000)年1月、市・
関係者がボーリング調査に着手しようとしたが、反対住民が敷地のフェンスを封
鎖し、見張り小屋を設置してにらみ合う事態となった。大阪市は妨害行為の差し
止めの仮処分を大阪地裁に申請し認められた。予定地の周囲には「住民無視の市
政反対!」といったノボリが林立し、行政関係者が近づくとサイレンが鳴らされ
るというような異様な状況であった。
施設整備がこう着状態となる中で、当初、運営主体となる予定であった社会福
祉法人Mから辞退の申し出があり、代わりに社会福祉法人Nが内容を見直したう
えで計画を継承し、整備・運営することとなった。施設整備計画の発表から約1
0年が経過したが、この間、大阪市では阿倍野区役所にも担当者を置き、行政を
はじめ関係機関を動員して障がい者への理解を進める取り組みを行い、地域に居
住する学識経験者の協力も得てシンポジウムを開催するなど、総力を挙げて啓発
活動に取り組んだ。
このような取り組みの結果、表だった反対は影を潜めたものの一部住民の根強
い反対がある中、平成17(2005)年度に施設建設が着手され、平成19(2007)