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Untitled

Page 1
3. 免震・制震技術の問題点
09
ANSWER
免震・制振にした場合の設計上の一
般的注意点を教えて下さい。
注意点1. 地震動
渡部 丹
設計対象とすべき地震動の大きさと周期特性を明確に設定
します。 この設定値を超える地震動を受けたとき免震或いは
制振装置がどんな挙動を示すのか、 また上部構造物がどうな
るのか,そのストーリー作りをしておきます。 地震動の特性
を設定するにあたっては地形, 地質および地盤条件を考慮し
ます。 これに関連して巨大地震時に特に顕著となる2~3秒
以上の表面波等を含む長周期成分に留意します。
注意点2. 免震・制振装置
地震動に対して加速度応答値は低減させることはできます
が、地震動の速度応答値は周期が0.5秒以上ではほぼ一定で
あり低減はできません。 速度応答値の自乗はエネルギーに比
例しますので、 免震・制振装置によって地震動の入力エネル
ギーは低減できません。 この入力エネルギーの大部分を集中
的に吸収するのが、免震・制振装置部分であるという長所で
あると同時に短所ともなるこの特性に特に留意します。 塑性
変形,或いは摩擦によって熱エネルギーに変換される量と入
力エネルギーとのつじつまを合わせること。 またいわゆるダ
ンパー設計にあたっては地震動は一方向ではなく水平2方向
および上下方向にも振動することを忘れないこと。 水平動に
よる転倒モーメントと上下動による応答が同時に作用して当
該装置に上下方向の引張りを生じて足上げ現象が起こること
を予想しておくこと。 またアイソレータの1つが性能を発揮
できないときの事故時による偏心入力或いは,この足上げ現
象による偏心入力による系全体のねじれに対する設計も必要
です。
ほかの荷重, 例えば風荷重時に対する挙動についても検討
が必要です。 さらに耐候性、耐久性および保守, 点検或いは
部品交換時の容易性等にも留意する必要があります。
134
注意点 3. その他
当該装置を支承する基礎部分はできるかぎり強剛にするこ
と。 免震・制震装置の高さは0.5m以下でこの間の層間変形
は 0.2~0.3m ですから,層間変形角は1.0に近いきわめて大
きな値です。 したがって P-4 効果の検討も必要であり, か
つ配管等のフレキシブルジョイントをどのようなものにする
か、層間変形角が1.0に近い未経験な範囲ですから慎重に検
討すべき事項です。
コストパフォーマンスの検討を注意事項については, 一般
に免震・制震装置のコスト, これに伴う基礎まわりの補強補
剛に要するエキストラコスト等を考えると, 従来架構法より
コストダウンすることはありません。 地震動の入力エネルギ
一一定則を認容するならば、エネルギーを集中的に吸収する
免震・制振構法よりも, 分散的に各構造全体で吸収する従来
の架構法のほうが建設費としては低いのは当然です。
しかし、 建築物或いは建屋内部に格納されているものが重
要文化財であったり,きわめて高価であったり危険なもので
ある場合の防災性能等を長い年月でみた場合のコストパフォ
ーマンスは免震・制振構法によるほうが優れていることもあ
ります。
このような場合に免震・制振工法は採用されるべきもので
あることに特に注意すべきでしょう。
M
M
チェック!
チェック!
建築技術/19875

Page 2
Q & A 9, 10
Q10
免震・制振の効果はどんなものでし
ようか? 揺れ方はどう変わります
か?
ANSWER
川股重也
現在試行されている積層ゴム支承と各種のダンバーを組み
合わせた免震装置を建物に使用した場合の直接的な効果は,
地震に対する建物の応答の加速度が低下することであり、 そ
の結果として,構造部材の応力が低下し, また建物の床上の
機器や物品および人体に及ぼす加振力が減少します。
実例として, 東北大学工学部の建設系棟に隣接して設けら
れている免震実証試験建屋 (在来構造1棟, 免震構造1棟。
ともにRCラーメン構造地上3階建。 東北大学 清水建設の
共同研究施設) で,本年1月9日の, 岩手県中部沿岸の深さ
70kmを震源とするマグニチュード6.6の地震のときに観測さ
れた最大加速度を表1に示します。 気象庁発表による仙台の
震度はⅣでした。
在来構造の建屋と比較した場合、 免震建屋の屋上階の最大
加速度は約1/3に低下しています。
次に,免震建屋の揺れ方はどうでしょうか。
図1は, 上述の試験建屋で観測された 6個の地震につい
て, 建屋に隣接する地盤のGL-1mの点における最大加速
度に対する建屋各部の最大加速度の比率を表わしたもので
表1 : 東北大学免震実証試験
建屋の最大加速度
す。 在来構造においては,地盤の加速度が逆三角の形で増幅
され, 最上階では,平均して4~5倍に拡大されるのに対し
て,免震構造では,上下を通して地盤とほぼ同じ最大加速度
となることがわかります。
これは,地震によってもっともよく誘起される, 最低固有
振動数に対応する振動モードが, 在来型の骨組において, 下
端が固定で上端でたわみが最大となる形をとるのに対して,
免震構造では,せん断変形する積層ゴム支承に乗っている上
部骨組が剛体的な併進運動をするのが, 1次固有振動のモー
ドとなっているためです。
さて、免震建屋において, 地盤と同程度の最大加速度を生
じるのは,どのような機構によっているのでしょうか。
図2は, 多田英之氏らが実大の免震建屋 (RC造2階建)
の振動台実験において, 試験体を地震波で揺らして得られた
在来構造建屋
免震構造建屋
最大加速度の倍率
0 1 2 3
最大加速度の倍率
5
10.
屋上階
(4階)
0
屋上階
(4階)
工階
0
-Y方向平均値
--X 方向平均値
1階
基礎
隣接地盤 (GL-1m) の加速度を1.0とする
図1 東北大学免震試験建屋
観測地震波 (6波) の最大加速度の倍率
(cm)
EL CENTRO NS ダンバー (□ 50-4C) ありの場合の計測波形
;振動台变位-
観測位置 方向
最大加速
度(ガル)
-10
1FL変位
X
建屋側方の地盤
Y
24.1
27.3
(Kine)
30+
振動台速度
1FL速度
(深さ1m)
0-
Z
27.8
-30-
在来工法建屋屋
X
80.4
(Gal)
MAN
WAAAAAAAA
振動台加速度 (10HzL.P. フィルタを使用)
200-
上階
Y
79.2
A
免震構造建屋屋
X
24.1
-200-
上階
Y
26.2
FL 加速度
* 1987.1.9 岩手県中部沿岸を震源と
する地震による。
建築技術/19875
図2 実大免震建屋の実験結果ㇼ
135

Page 3
3.免震・制震技術の問題点
波形記録です。 図は上から変位, 速度, 加速度の波形を表
わしており,いずれも振動台と建屋の記録を重ねて比較して
います。 振動台 (地盤) は, 加速度に鋭いピークをもつ不規
則な波形で揺れています。 これに対して免震建屋は自らの固
有周期 (この場合は1.2秒) を周期とする規則的な振動を繰
り返しています。 免震建屋は,地盤の加速度のピークを見事
にフィルタし、最大加速度を1/3程度に減少させていますが,
一方、速度と変位はむしろ拡大する傾向が見られます。
これは構造体が, 地震波に含まれる種々の周期の成分のな
かから、自らの固有周期と一致する波を選び出して, 微弱な
成分をも大きなものに増幅する選択的共振の現象です。 つま
り 免震建屋の最大加速度は,このような選択的共振の結果
として生じることがわかります。
構造物を長周期化すること以外に, 強力な減衰力の附与,
非線形性の導入, ジャッキなどによる人為的抑止力の利用な
どにより, 多面的に振動応答の抑制を図ろうとする制振構造
においては,構造物から選択的共振の性質をなくすことが重
要な課題となっており,それが成功するならば, 変位, 速度
のみならず, 加速度応答もさらに低下することが期待されま
す。 しかし、 制振構造の揺れ方を一般的な形で論じるには,
この分野の研究の具体的な進展と、データの蓄積にまたなけ
ればなりません。
参考文献
1) 多田英之 酒井章 高山峯夫;"基礎免震構造システムの実験
研究”,日本建築学会構造系論文報告集, 第362号, pp.54~64
(昭和61年4月)
ANSWER
和田 章
普通の建築の場合、 そのなかで動くものはドアとサッシだ
けでしょうが, 自動車, 車両の車輪を支えているばね, ショ
ックアブソーバの構造, 飛行機の離着陸時に使われる足の構
造などでは外的な振動、衝撃を軽減,防止するために積極的
に動くメカニズムを導入しています。 建築構造だけが地面に
固定されて作られなくてはならない理由はどこにもありませ
ん。
136
サンフェルナンド地震のさいのタコイマダム, 宮城県沖地
震のさいの東北大学での記録にあるように、地震時の応答加
速度は1Gに達することが実証されています。 剛性の高い低
層建物が弾性応答するとして、 高層ビルの設計に用いられて
いる地震動を同じ強さで入力した場合に, 1Gを超える最大
加速度が得られることも周知であり、 現行の建築構造設計に
おける2次設計はこれを基本として組み立てられています。
この応答に対して, 靭性, 変形能力のある建物を作り, 1G
の水平力に静的に耐えるほど強くはないですが、 地震時の入
力エネルギーを構造体の塑性変形によるひずみエネルギーに
置換させるというのがいまの考え方です。
この結果として, 建物は変形できることがもっとも重要事
項であると考えられすぎているように思われます。 例えば,
雑壁の周囲にスリットを設けることの行きすぎ, 大地震時の
応答層間変形を階高の1/100 まで許容し, この変位が残留変
形として残る可能性もある, などです。
このように現在の設計法で建てられる中層の建物は,大地
震を受けると, 建物が壊れない場合には1Gに近い加速度応
答を生じ建物内部は騒然とした状態となり、 逆に, 靱性に期
待した変形能力のある建物では応答加速度は前者に比べ若干
小さくなりますが、大きな層間変位を受けることになります。
一般の人々は自分の住んでいる部屋が地震時に菱形に変形す
るが壊れないという話を聞かされてはいるものの、そのこと
を常に忘れずに生活しているわけではありません。 このこと
は一般の大工, 左官, 建具屋として働く人々についても言え
ることですが、 建物はがっちりとして変形しないものと思い
込んで工事を行なっている場合がほとんどでしょう。 もし、
すべての工事をその相手である建物が変形することを考慮し
て行なったとすると, 日常生活の方が, 雨漏り, 気密性, 遮
音性などの点で成り立たなくなってしまうでしょう。
高層ビルの制振構造として実現されつつある各層にダンパ
ーを入れ,エネルギー吸収の効果をねらう考え方があります
が,これは上に述べた構造部材の塑性化によるエネルギーを
ダンパーに吸収させただけですので, 揺れ方について大きな
違いはないと考えます。
これに対し地盤と建物を絶縁しようとした Bass Isolation
建築技術/19875

Page 4
Q & A 10, 11
System による免震構造は, ほとんどの地震入力エネルギー
を免震装置部分の変形によって吸収させる方法です。 絶縁と
いう意味では, 建物を地盤から完全に浮かした状態を想定で
き,これが可能であれば、 建物は全体原点に対して不動とな
り,まったく振動現象を生ぜずに地表面だけが動いた状態と
なります。 しかし現状では, 或る水平剛性をもったばねで建
物と地盤をつないでいるので, 絶縁しているとは言えません。
その結果, 免震構造といえども、 地震に対して応答し上部構
造も振動します。 しかし, 免震装置部分を変形しやすく作っ
てあるため, 上部構造の層間変形は小さく, 応答加速度も小
さくなくなります。 このように, 大きく変形しているのは免
震装置部分だけである点が特長です。 一般の住人は装置部分
が変形することだけを忘れないように生活すればよく, 上部
構造の層間変形は小さいので自分の住んでいる空間が菱形に
変形することは忘れてもよいでしょう。
免震構造として建てられた建物について地震観測が行なわ
れています。これによると, 地表の観測加速度に比べ上部構
造の応答加速度は1/3~1/4となっています。 しかしこれらの
記録を分析すると,思いのほか短かい周期成分が含まれてお
り、船に乗っているようにゆらりゆらりと揺れるようにはな
っていません。 1次固有周期をさらに大きくし, ダンパーの
性能を改良することにより, 揺れ心地の良い免震構造を開発
し得ると考えます。
Q11
ANSWER
なかのもの (収納物) の揺れをどの
くらいに考えておけばよいのでしょ
うか?
河村壮一
地震時に収納物が揺れるメカニズムを分解して表わすと図
1のようになります。 まず, 地震波が建物に作用することに
より建物の揺れがひき起こされます。そしてその建物の揺れ
が収納物に作用することにより, 収納物の揺れをひき起こし
ます。 収納物が床の上に置かれている場合には, 床の揺れが
どのような振幅と周期であるかによって, また収納物がいか
なる振動性状であるかによって収納物の揺れがどのくらいに
なるのかが決まります。 建物床面の地震時の揺れは「フロア
レスポンス (床応答)」 と呼ばれています。
収納物が弾性体でなく剛体とみなせるような家具や電気器
応答 収納物の揺れ
↑ 応答
収納物
建物(床)の揺れ
(応答
入力
(フロアレスポンス)
1
建物
(A)層間変形が大
B層間変形は中
入力) 地震波
図1 地震時の揺れのメカニズム
/柱・梁の端部に生じる塑性
ヒンジにエネルギー吸収さ
せる
ダンバーにエネルギー吸収
させる
吸収)
K (塑性剛性)
靭性に期待した一般の建物
©層間変形が小
Q
各層にダンバーを入れた制振建物
降伏点
Base Isolation System.
建築技術/19875
「免震装置のゴム支承の弾
性ひずみエネルギーとダ
ンバーにエネルギーを吸
収させる
(弾性剛性)
変位
図2 免震機構の力学性状の例
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