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北朝鮮「発射」に対峙する、日本のミサイル防衛の要「PAC-3」の実像 | Business Insider Japan

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北朝鮮「発射」に対峙する、日本のミサイル防衛の要「PAC-3」の実像

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11 月 29 日の未明、北朝鮮が ICBM 級とみられる弾道ミサイルを発射した。前回の発射に際しては、経路を外れた場合やミサイルの一部が落下してきた場合に備えて、航空自衛隊が基地を出てミサイルの予想通過地点にPAC-3を展開させていた。今回の状況は新たな情報を待つ必要があるが、そもそも日本におけるミサイル防衛の1つ、PAC-3とはどんな兵器で、どういう考え方のもと展開されているのかは、まだ十分に知られていない。

話が複雑な「パトリオット地対空ミサイル」

日本の空の守りを受け持つのは航空自衛隊だが、実は地対空ミサイルについては話が少々複雑だ。射程距離が短い低空向けのミサイルは陸上自衛隊、射程距離が長いミサイルは航空自衛隊、という分業体制になっている。 その航空自衛隊の地対空ミサイルは、1970~1994年にかけてウェスタン・エレクトリック社が開発したナイキ・ハーキュリーズを使用していたが、その後継として1989年に配備を開始したのが、レイセオン社製のパトリオット地対空ミサイルである(防衛省ではペトリオットと呼んでいる)。ちなみに、開発元のアメリカでは陸軍が運用している。

英単語で patriot といえば「愛国者」という意味だが、実はパトリオット地対空ミサイルは、Phased Array Tracking Radar Intercept on Target(フェーズド・アレイ式追尾レーダーによる迎撃、というぐらいの意味)という頭文字略語でもある。開発当初に想定していた脅威は航空機だ(フェーズド・アレイ・レーダーとは、回転式のアンテナではなく平面型のアンテナを使用するレーダーで、ビームの向きを変えながら広い範囲を捜索する)。

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パトリオット用のフェーズド・アレイ型射撃管制レーダー。写真で見て分かるように、平面型のアンテナで、ビームの向きだけを変えながら捜索・追尾を行う。

ところが、モノができた後でアメリカ陸軍では、「このミサイルの性能をもってすれば、弾道ミサイルの迎撃も可能ではないか?」と考えた。ただし、弾道ミサイルの方が速く、小さいために、航空機と比べると迎撃は困難だ。

そこで、ハードウエアやソフトウエアに手を入れて、弾道ミサイルへの対処能力を高めたモデルが作られた。まず、発射器のハードとソフトに手を入れたPAC-1が作られた後で、ミサイルの威力向上を図ったPAC-2が作られた。PACとはPatriot Advanced Capability(パトリオット先進能力)の略だ。

1991年の湾岸戦争で、イラク軍がサウジアラビアやイスラエルに向けて撃ち込んだ短射程弾道ミサイルを迎え撃ったのが、このPAC-2である。ただ、どれだけ迎撃の成果があったかについては、戦後も長いこと、議論が紛糾した。

地対空ミサイルはたいてい、炸薬と金属片を詰め込んだ「弾頭」を持っている。炸薬が起爆すると金属片が飛散して、それが目標の航空機を破壊する。ところが弾道ミサイルの場合、高速で落下する小さな目標に対して金属片を浴びせる形になるので、タイミングと距離が合わないと効果は限られる。湾岸戦争でも、「命中したが、完全には破壊できなかった」事例が少なくなかったであろう。

「PAC-3」は湾岸戦争のPAC-2とは別物のミサイル

そこで、「餅は餅屋」ということで、最初から弾道ミサイルの迎撃に特化したミサイルを用意することになった。それがPAC-3計画である。PAC-3とは厳密にいうと、ミサイル単体ではなく、発射器やレーダーなども含めたシステム一式のことだ。

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PAC-3の発射器。4発入りのコンテナをひとつだけ載せた状態。実際にはこのコンテナを4つ搭載でき、最大4個(16発)の搭載が可能だ。

そこで使用するミサイルについて、レイセオン社とローラル社が競合した結果、パトリオットの開発・製造元である前者を押しのけて、後者の採用が決まった(その後の企業買収により、現在はロッキード・マーティン社の製品になっている)。

それがERINT(Extended Range Interceptor)と呼ばれるミサイルで、PAC-2以前のモデルとは全くの別物だ。PAC-3システムでは、レイセオン製の発射器などに、ロッキード・マーティン製のミサイルを組み合わせた形になっているわけだ。

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上から PAC-3 (ERINT)、PAC-3 MSE、THAAD(1/1 スケールモデル)。2012 年の国際航空宇宙展にて撮影。

そのERINTは、従来のパトリオットと比べると細身で、パトリオット1発分のスペースに4発を収容できる。射程距離はPAC-2より短いが、撃てるミサイルの数が増えるので、迎撃成功の確率は向上すると考えられる。一つの目標に対して2発を連射するのが通常の迎撃手順になっている。

操縦の手段は、尾部に取り付けたフィンを動かす空力操舵ではなく、弾体の側面に横向きに取り付けた多数の小型ロケット(サイドスラスタ)を吹かす方法に改めた。空力的な操縦ではないから、速度・高度・大気密度に関係なく、同じ機動性を発揮できる。

最大の相違は、炸薬弾頭を持たず、直撃による破壊(Hit-to-Kill)を企図している点にある。弾頭を炸裂させても効果が怪しいのであれば、直撃して木っ端みじんにする方が良いという考え方だ。なお、日本での導入が取り沙汰されたTHAAD(Terminal High-Altitude Area Defense)もロッキード・マーティン社の製品だが、同様の直撃破壊型である。

つまり、迎撃に使用するミサイルが全くの別物だから、湾岸戦争におけるPAC-2の実績を基にしてPAC-3の有用性を論じることには、実のところ意味はないといってよい。

日本における弾道ミサイル防衛手段とPAC-3の位置付け

PAC-3は比較的小型のミサイルであり、射程距離も長くない。カバーできる範囲は半径20キロ程度の円内だとされており、これでは広い範囲をまとめて守ることはできない。

実は、弾道ミサイル防衛では「多層防御」という考え方がある。ひとつの迎撃手段だけに頼るのではなく、発射直後(ブースト段階)、その後の飛翔中途(ミッドコース段階)、着弾直前(終末段階)、と複数の段階に分けて、それぞれに最適な迎撃手段を配備する。そして、次々に迎え撃つことで迎撃の確率を高めるという考え方である。

日本における弾道ミサイル防衛の手段というと、海上自衛隊にイージス艦とSM-3ミサイルの組み合わせがある。こちらは飛翔中途の段階で迎撃する、ミッドコース防衛の手段である。ミサイルが落下に転じる前の、まだ高い高度にいるうちに迎え撃つものであり、守れる範囲も広い。日本全土をカバーするのに3~4隻のイージス艦があれば済むとされる。

対してPAC-3は着弾直前、つまり終末防衛の手段である。イージス艦のSM-3で撃ち漏らしが出て、それが重要拠点に着弾する危険性がある、という場合にPAC-3の出番となる。

飛来する弾道ミサイルを終末防衛の段階まで放っておくのは賢明ではない。ミッドコース段階で迎撃して広域を防衛するのは、イージス艦の仕事なのだ。それに対してPAC-3は、いってみれば「最後の保険」である。だから、「PAC-3のカバー範囲は広くない」とクレームをつけるのは筋違いのところがある。もともと広域防衛は企図していないからだ。

過去に、北朝鮮の弾道ミサイル発射に際して日本国内でPAC-3を展開させたのは、「ミサイルに不具合が生じて、ミサイル、あるいはその一部が日本国内に落下する事態」に備えたものだ。

PAC-3用ミサイルの改良計画

そうはいっても、カバーできる範囲が広くなるのであれば、それに越したことはない。そこでPAC-3システムで使用する迎撃ミサイルの改良計画が持ち上がった。それがPAC-3 MSE(Missile Segment Enhancement)である。

PAC-3 MSEではロケット・モーターを大型化するので、迎撃可能な高度や迎撃可能な範囲の拡大を期待できる。また、威力の向上も図ることになっている。このPAC-3 MSEは日本でも導入を決めているので、そう遠くないうちに配備が始まることになると思われる。

なお、パトリオット地対空ミサイル・システムの開発元であるレイセオン社でも別途、PAC-2を発展させる形でミサイルの改良を進めているが、PAC-3とは別系統の別物である。こちらは日本では導入していない。

現行のPAC-3にしろ、改良型のPAC-3 MSEにしろ、前述したように「イージス艦で撃ち漏らしが生じた場合の保険」という意味がある。これがないと、日本国内では多層防御が成り立たなくなってしまう。軍備というのはそもそも「万一の事態に備えた保険」という意味があるが、ミサイル防衛では多層化によって備えを強化しているわけだ。とはいうものの、防衛省に配備されているPAC-3は、都庁など新宿方面の高層ビル群が邪魔になるため発射できないのではないかという指摘もある。

決して安い買い物ではないだけに費用対効果も含め日本の総合的な防衛体制をどう整えるのか、政府は国民への説明責任もあるだろう。

(文、写真・井上孝司)

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