神戸製鋼所による製品の検査データ改ざんに続き、三菱マテリアルや東レのそれぞれの子会社でも不正が発覚した。日産自動車やスバルでは無資格検査が長年にわたって行われていた。一連の不正の背景や対策などについてまとめた。
1.どのような不正が起きたのか?
企業 | 不正の内容 | 対象期間 | 問題製品の供給先 |
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神戸鋼 | 本体のアルミ・銅事業や鉄鋼事業部門、国内外のグループ会社で検査のデータを顧客仕様に合わせるよう改ざんしたり、未実施の製品を供給したりした。対象製品はアルミ板や銅管などのほか、鉄鋼製品である線材など。 | 問題を確認した製品は2017年8月から過去1年間に出荷した製品。不正は10年程度前から行われていたといい、詳細については現在調査中。 | 自動車や航空、鉄道など国内外の企業525社 |
三菱マ | 三菱電線工業と三菱伸銅の両子会社で生産する一部製品でデータ改ざん。パッキンと呼ばれるシール材、車載部品向けの黄銅条、電子機器向けの銅条。子会社の三菱アルミニウムでも輸送関係、電機、建材向け製品でデータ改ざんがあった。 | 社外弁護士含めた調査委員会で調査中 | 274社 |
東レ | 子会社の東レハイブリッドコードでタイヤなどの形状を維持するための補強材などの品質データ改ざんが149件あった。さらに、東レ全体で改ざん懸念のある事案がさらに137件あることも判明。 | 08年4月-16年7月 | 13社 |
日産自 | 無資格の従業員による車両の完成検査を繰り返す | 1979年ごろから | 約120万台を対象にリコール |
スバル | 無資格の従業員による車両の完成検査の実施 | 30年以上前から | 約39万5000台を対象にリコール |
2.不正は氷山の一角か?
問題企業がさらに明るみに出る可能性はある。一般社団法人の日本CFO協会の中田清穂主任研究員は「特に現場が重大な不正だと認識できていない場合もあり、日本の従来の性善説をベースとした経営では対応できない」と話す。財界トップに君臨する経団連の榊原定征会長の出身企業である東レの子会社でも不正が発覚。経団連は約1350の会員企業に対して早急に品質管理状況の調査を行うよう呼び掛けた。法令違反などが確認された場合には速やかに公表することを要請している。
3.不正の背景は?
収益環境が厳しい中、特別採用(トクサイ)という取引慣習を悪用していたとの見方もある。トクサイとは契約上の製品規格をわずかに下回った場合でも、納入先企業の了解を得た上で引き取ってもらう契約。神戸鋼では顧客の了解を得ずにデータを改ざんし、トクサイと呼んでいた事例もあった。顧客仕様への適合よりも顧客からのクレームの有無を重要視する風土があったという。東レの会見でも「手間を省いて自ら煩雑な作業をしたくないという動機も一部あったかと思う。顧客の承認を取らずに検査データを修正して出荷したケースもある」との説明があった。日産自は、人員不足や制度への規範意識の薄さが一因としている。
4.特別採用という契約に問題は?
日本鉄鋼連盟の進藤孝生会長(新日鉄住金社長)は18日の会見で、需要家の了解を得て行うものであり、品質管理の国際規格である「ISO9001」にも規定されている制度と説明。その上で、需要家において品質に問題がなく使用できるなら、限りある資源を有効に活用していくということで経済的にも非常に意味のある制度だと思うと指摘。問題は制度の運用の仕方であり、需要家とよく話し合って適切に運用していくことの方が重要との見方を示した。
5.なぜ今、不正が次々と表面化したのか?
神戸鋼の不正発覚が契機となった。違反を起こした三菱マ子会社の三菱電線経営陣が不正を把握したのは今年3月。多岐にわたる顧客への説明と安全確認を進める必要があったとして11月まで公表しなかった。東レの不正は昨年7月に社内で発覚。今年11月にインターネット掲示板上で書き込みがあり、一部株主から問い合わせがあったことから公表に踏み切った。日覚昭広社長によると、法令違反や安全上の問題はなかったことなどから当初は公表しない方針だったという。三菱マ、東レの記者会見ではともに、記者から「神戸鋼の問題が発覚しなければ発表しなかったのではないか」との質問も出た。
6.企業の業績に与える影響は?
神戸鋼は今期(2018年3月期)業績の予想を「未定」とした。顧客への補償費用などの負担がどの程度生じるのか見積もることができないためだ。三菱マは業績への影響は不明としている。一方、東レの日覚社長は問題製品の売上高は1億5000万円程度とし業績への影響は「ほとんどないと思う」と説明。日産自やスバルは今期の連結営業利益の見通しをともに下方修正した。無資格検査による国内向け車両出荷停止の影響で、日産自には新車注文のキャンセルが相次いだ。
7.消費者への影響は?
無資格の従業員が車両の完成検査を繰り返していた日産自動車が約120万台をリコール(回収・無償修理)、スバルも約39万5000台をリコールした。神戸鋼は今月8日時点で納入先企業の95%に当たる500社において安全性を確認したと発表した。残る25社のうち海外企業は9社という。
8.顧客や株主による損害賠償の動きは?
関西電力は大飯原子力発電所3、4号機(福井県)について、神戸鋼部品の安全性に関する調査のため再稼働時期を2カ月延期すると発表。延期に伴って神戸鋼に対する損害賠償請求を検討している。また、カナダ在住の個人4人が損害賠償を求めて神戸鋼とグループ5社を提訴した。4人は神戸鋼のデータ改ざん製品が使用された自動車の購入者だといい、顧客製品仕様に適合していなかった製品が使われていたことにより、適合製品と比べて不当に高い対価を支払わされ損失を被ったと主張している。神戸鋼によると、こうした訴訟が今後も起きる可能性はあるという。
9.政府の対応は?
神戸鋼や三菱マ、東レの問題について世耕弘成経済産業相は「一義的には企業間の契約の問題であり、契約の当事者間で公表することを意思決定しなければ、政府として把握が難しい」と指摘する。また、「日本の製造業における構造的な問題というよりは、各個社の企業経営の問題と認識している」との見方も示す。その上で「日本政府が掲げる『コネクテッド・インダストリー』を推進していく中で、例えば、サプライチェーン上の企業間での生産現場のデータ共有を後押しすることにより、データ改ざんを防ぐといったような取り組みができないか、検討を行っている」という。