女子優勝の東龍、取り戻した女王の座=春の高校バレー・女子決勝

田中夕子

東九州龍谷、苦しんだ1年の最後に女王の座を取り戻した 【坂本清】

 バレーボールの全日本高校選手権(通称:春の高校バレー)最終日は9日、男女の決勝を行った。男子は、東京代表の東亜学園が鎮西(熊本)をフルセットで破り優勝。女子は、東九州龍谷(大分)が古川学園(宮城)に3−1で勝利し、大会を制した。

“最強”という、東龍の伝統

 女王のプライドは、ズタズタだった。
 昨年の春高で三連覇を達成し、前年のインターハイ、国体と合わせての三冠タイトルも獲得。最強ロードを歩み続けていくかと思われた東九州龍谷(以下、東龍)だが、昨夏のインターハイでは準決勝で鹿児島女子に、昨秋の国体は決勝で古川学園に敗退。1年時からレギュラーリベロとして数々のタイトルを手にしてきた筒井さやかが、当時の選手たちの心情を代弁した。
「先輩が築き上げてきた伝統を崩してしまった。みんなが自分を責めていたし、申し訳ない気持ちでいっぱいでした」
 東龍=スピードと言っても過言ではないほど、独自の高速コンビバレースタイルは高校女子バレー界に強く刻まれてきた。「打倒東龍」を掲げ続けた古川学園も、高さとパワーが圧倒的に勝っているにもかかわらず、その利点を捨ててでも「スピード」を封じるための策を打ち出した。課題として取り組み続け、古川学園がようやくその東龍の壁を破ったのが昨秋の国体だった。

新しい東龍へ―― 挑戦した“立体化”

決勝戦、古川の高さとパワーに苦しむも、徐々に自分たちのペースをつかんだ 【坂本清】

 「スピード」というその最大の強みに、東龍の相原昇監督は変化を命じた。
「今まではただの高速バレー。さらに進化するために、立体化を加えました」
 ヒントになったのは、昨秋の世界選手権で3位になった全日本女子の戦い方だった。両サイドからのスピードを生かした攻撃に、鍋谷友理枝のバックアタックを加える。これまでは村田しおり、鍋谷を両エースとして打ち出してきたが、鍋谷が打ち、村田が守ると2人の役割を区分。他の選手に対しても中馬愛理香、宇田沙織、甲斐百絵といったアタッカー陣はスパイク決定率を高めるよう無理な勝負はせず、決めるべき時に必ず決めることが課題とされ、セッターの比金桃子には状況判断と、正確なトスの提供が命じられた。
 もともと身体能力やバレー技術に優れた選手たちとはいえ、その課題克服はたやすいことではない。特に困難を擁したのが、セッターの比金だった。
「今まではバックトスが得意でしたが、(ライトが)左利きの宇田になり求められるトスの高さも質も変わり、訳が分からなくなってしまったこともありました」
 何度も自信を失いそうになる中、「つらい時は(自分に)上げてくれればいいから」と言う村田の言葉に励まされ、「三連覇を達成したセッターなんだ」と自らを奮い立たせ、覚悟を決めて臨んだ最後の春高。因縁の古川学園との決勝戦、2−1と東龍が1セットのリードを得て迎えた第4セットで、会心の攻撃が生まれた。

2年生の鍋谷友理枝を胴上げする、東龍の選手たち 【坂本清】

 11−5と東九州龍谷が6点をリードしていたが、古川学園も「打倒東龍」に3年間をささげた選手たちを中心に粘りを発揮し、ラリーの応酬が続く。古川学園のライト・大野果歩の村田への徹底マークに気付いた比金はネットと正対した状況から、後衛の鍋谷にバックトスを上げた。ここまで決定力に波のあった鍋谷だが、ノーマークの中、鮮やかなバックアタックを古川学園のコートにたたきつける。
「レシーブでつないでくれたから、迷いなく(トスを)上げることができたし、そこに鍋谷が思い切って入ってくれた。東龍の一番いい形で決めることができました」
 勝つことに加えて自分たちの形を貫くことにこだわり、今できる最高の試合で勝利した。挫折と苦節を乗り越えた最強東龍が、再び女王のプライドを取り戻した。

<了>
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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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