内部告発者によって世界は変わってきており、一般の人が本来知るべき秘密が依然として数多く隠されていることがわかってきました。スノーデン、マニング、アサンジ各氏のような注目を集めた情報漏洩者は世界的にその名が知られるようになり、勇気と引き換えに大きな代償を払っています。しかし公に情報をリークするほどまでに勇敢な人はほんのわずかで、内部告発者のほとんどは普通の生活を送り、匿名のままでいることを望んでいます。スノーデン氏が他の内部告発者に道筋を示したことは間違いありません。すでに何人もの人が名前は明かしていませんが、同氏に続いて情報のリークを試みています。内部告発は簡単ではなく、非常に大きなリスクを負います。このことは、FBIが1人の情報漏洩者を発見したという最近のニュースを見ても明らかです。
 
それにしても、オーウェルが描いた悪夢のような監視社会をさまざまな点で超えてしまっているこの世界で、匿名で情報をリークすることが果たして可能なのでしょうか。ここで、ジャーナリストに電話で情報をリークする場合のアドバイスをいくつか紹介しましょう。このアドバイスが必要な状況に陥る読者は多くはないと思いますが、非常に興味深い内容なので、ぜひ読み進めてください。私たちを取り巻くデジタルの世界がどのように動いているのかがわかります。
 
まず、最悪のシナリオを考えてみましょう。あなたがリークしたい秘密は、米国の安全保障に不利益をもたらします。つまり告発する敵は強大で、あなたを最も厳しい監視下に置くことができます。また、あなたはその情報にアクセスする権限を持ち、ジャーナリストに電話で話をしたいと考えたとしましょう。

ここに示すのは、そうした場合に、刑務所行きを免れるための基本的なルールとヒントです。

1. 最初に対象のデータにアクセスできるのが何人いるのかを把握する必要があります。こうした人は、あなたも含めて容疑者リストに入ります。人数が少ないほど、大きなリスクに晒されることになります。

2. 携帯電話は追跡に使用されます。携帯電話のネットワークを調べれば、あなたがどの基地局に接続しているかをいつでも把握できます。その他のサービスでは、GPSによる正確な位置情報までも記録し、保存できます。こうした情報のすべてに調査員はアクセスすることができるので、情報によって、あなたの身元が明らかにならないようにする必要があります。言うまでもありませんが、普段使っている携帯電話を内部告発に使用してはなりません。

3. 誰に情報をリークすべきかを調査する必要があります。ただし、絶対に自分のコンピュータで調査をしてはいけません。検索履歴であなたの身元が明らかになる可能性があります。自分のコンピュータで調査を行うと、(自分がしている操作を自覚してプライバシーツールを正しく使っていない限り)コンピュータとGoogleのユーザププロフィールの両方に痕跡が残ってしまいます。そのため、この調査は公共のコンピュータから行い、そのコンピュータからは、自分のアカウントには決してログインしないようにしてください。

4. 情報をリークするには「使い捨て」携帯電話が必要です。使い捨てであれば、あなたの身元と結び付くことはありません。使い方についてはいくつかのルールがあります。
  1. 使わないときは必ずバッテリーを外して電源を切っておくこと。電源ボタンをオフにするだけでは、電話のすべての部分の電力が切断されたことにはなりません。
  2. 自宅、またはその近所で決して電源を入れないこと。調査員は、携帯電話が接続した基地局を簡単に特定できます。自宅の近くで電源を入れると他の人よりも疑われやすくなります。
  3. 自分の車の中または近くで決して電源を入れないこと。基地局に残された通話記録により、ナンバープレートを記録した交通監視カメラの映像と関連付けられる可能性があります。あなたの車が、自動車監視システムなどのデータ接続機能を搭載した新しい車種であれば、これは特に気をつけなければなりません。
  4. 使い捨て携帯電話を、情報をリークする相手以外に決して使わないこと。たった1回配偶者に電話するだけでも通話記録が残り、あなたと電話が結び付けられます。もちろん、内部告発に必要な情報以外は、決して電話に保存してはなりません。
  5. 使い捨て携帯電話を外で使うときには、普段使っている携帯電話は必ず自宅に置いたままにすること。そうしないと、使い捨て携帯電話を使っているときに、普段使っている携帯電話が「偶然」同じ基地局に接続しているのを調査員に気づかれる可能性があります。
  6. 使い捨て携帯電話を持って外出するときは、普段使っている携帯電話の電源を入れたまま家に置いておくこと。こうすることで、一方の電源が切れると、一方の電源が入るという規則的なパターンを避けて、気づかれないようにすることができます。
  7. その他のワイヤレス機器は家に置いたままにすること。タブレット、ワイヤレスの携帯型の支払い機器など、無線を使う装置を持って外出しないようにします。
  8. ボイスチェンジャーを必ず使うこと。特に、容疑者リストの人数が少ないときは必須です。あなたの通話は録音されて、あなたの声と照合されるのは当然であると考えておきます。
5. 使い捨て携帯電話を手に入れます。見た目が古い、または性能のよくない監視カメラ使っている業者を、自宅に近すぎない場所で探します。調査員は、あなたが使い捨て携帯電話を買った店を特定し、監視カメラの記録を入手し、容疑者リストと照合する可能性があることを常に考えておきます。さらに良いのは、あなたの代わりに、他の人に使い捨て携帯電話を買ってもらうことです。

6. スマートフォンではなく、バッテリーが着脱できる安いプリペイドの携帯電話を選びます。現金で買って、どのような形であっても販売店に身元を明かしてはなりません。領収書やその他購入関連の書類は安全な方法で破棄します。

7. あなたとリークした情報を結び付ける物的証拠を保管する場所を考えます。物的証拠には、使い捨て携帯電話、関連する書類やデータを保存したメディアなどがあります。これは、容疑者リストの人数が少ない場合には特に重要です。こうした物的証拠を自宅や職場、車などに保管しておくと、調査員の捜索によってあなたが内部告発者であることが明らかになってしまいます。あなたと結び付かない安全な別の場所を探します。

8. これで、ジャーナリストに連絡する準備が整いました。使い捨て携帯電話の使い方は、厳格に守ってください。また、この段階では次のルールにも従ってください。
  1. 監視カメラの映像で印象に残らないよう、目立たない服装をすること。
  2. 電話をかけるときは、自宅からは十分に離れること。使い捨て携帯電話の電源を入れて通話を終えたら、すぐに再び電源を切ります。
  3. 使い捨て携帯電話の電源が入っているときは、監視カメラが設置された公共の場所は避けること。
  4. 移動中はクレジットカードを使わないこと。すべて現金で支払います。
  5. 公共交通機関のペイメントカードなど、現金以外の支払い手段は絶対に使用しないこと。
9. リークされた情報を扱うジャーナリストは常に監視されていることを前提にしなければなりません。最初に連絡を取ったら、すぐに追跡が始まると想定してください。計画はできるだけ短い時間で終わらせて、使い捨て携帯電話の電源を入れる回数は最小限に抑えます。

10. 実行したら、リークした情報に関する物はすべて安全な方法で破棄します。自宅のゴミ箱に捨てるのは危険です。電話は川か、自宅から十分に離れた場所にあるゴミ収集所に捨てます。極めて猜疑心の強い内部告発者は、手袋をはめて電話を壊します。電話の筐体に指紋やDNAの痕跡が付着し、電子部品には追跡可能な電話のIDが残されている可能性があるからです。ばらばらにした破片は、必ず別々の場所に捨てます。

注意することが多くて大変です。しかも、通話時にプライバシーを守るということだけで、これだけのことが必要です。しかし、あなたが巨大権力に狙われても、自由な市民としての生活を続けたいなら、こうした注意を払う必要があるというのが現実です。あなたがそのような状況に陥らないことを望みますが、必要となった場合には適切に行動できようにしてください。

免責事項:この記事の主な目的は、今日の監視社会では、極めて執拗な監視が行われていることを示すことにあります。エフセキュアは、この記事の内容を実行すれば、有罪にならないということを保証するわけではありません。本当に内部告発を計画する場合は、この件について徹底的に調査し、他の情報源も調べるようにしてください(ただし、くれぐれもあなた自身のコンピュータで調査は行わないように)。

安全な内部告発を
 Micke