●川内原発 再稼働問題で浮上――原発の噴火への備え
原発の新規制基準は昨年7月に施行されたが、このなかで電力会社に対して「原子力発電所の火山影響評価ガイド(案)」に沿った火山影響評価を新たに求めることになった。現在審査中の九州電力川内(せんだい)原発(鹿児島県薩摩川内市。原子炉2基、定期検査中)の再稼働について、とくに火山噴火に対する安全性の評価が課題として浮上している。
「火山影響評価ガイド(案)」は、「活動する可能性が否定できない火山」が原発から半径160km以内にある場合、火山事象(火砕流や火山灰、火山ガスなど)の影響を評価し、必要に応じて具体的な対策などを求めている。同基準によれば、わが国の原発17カ所のすべてが再評価の対象となり、多い所では10以上の火山を圏内に擁している。
火山事象発生の可能性が「十分小さい」と評価できない場合は「立地不適」とされ、既存原発ならば廃炉を迫られる。「立地不適」と評価されない場合でも、「モニタリングによる領域内の火山監視と噴火の兆候が認められた場合の対応の明確化」、「領域内の火山による火山事象の影響評価(設計対応が不可能な火山事象の間接的影響を含む)」、「領域外の火山による降下火山灰の影響評価などを求める。
評価の対象となる火山事象は「火砕物密度流(火砕流、サージやブラスト)、溶岩流、岩屑なだれ、地すべり・斜面崩壊、新しい火道の開通、地殻変動」で、「発生可能性が十分小さいこと」の評価は、現在の火山状況調査から、対象火山が安定していて大規模噴火による影響が及ばないと評価されることとしている。
対象となる火山は、第四紀(約258万年前)以降に活動した火山で、そのうち約1万年前以降に活動している火山(気象庁定義の「活火山」で、現在わが国には110ある)と、活動履歴は古くても将来に活動する可能性がある火山を「活動可能性を否定できない火山」。
影響が及ぶ範囲は、わが国で起こった最大級とされる9万年前の阿蘇山(熊本県)の巨大噴火での火砕物密度流の最大到達距離160km圏に設定。その結果、全ての原発の同圏内に一つは火山があり、)と推計される160km、地滑りや斜面崩壊は50kmが目安となる。
わが国の原発はこれまでも活動的な火山とは距離をとって設置されてきたが、今回の評価ガイドはこれらの配慮を合理的にかつ明示的にするためのものであり、また、同評価ガイドは、今後の安全研究の成果、新たな知見と経験の蓄積に応じて、それらを適切に反映するように見直していくとしている。
川内原発は再稼動へのハードルが比較的低いとみられていたが、ここに来て、火山噴火の影響評価が特別な問題となってきた。九電は「破局的な噴火の可能性は小さい」としているが、川内原発周辺には巨大噴火の痕跡が残っており、火山学者の間では最も巨大噴火リスクが高い原発とされている。原子力規制委員会による川内原発安全審査は6月にも終わる予定で、火山影響評価をどう判断するのか注目される。
●火山専門家「評価自体がむずかしい」――「世界的に危険な原発立地」
原子力規制委員会の火山評価についての新基準を受けて、火山学者・専門家の発言が相次いだ。その代表的なものは、「数千~数十万年単位の火山活動と、数十年の原発の運転期間とでは時間軸が違いすぎ、専門家でもリスク判定は難題である」というものだ。
毎日新聞が昨年(2013年)12月23日付けで、全国の火山学者(全国134人の大学教授、准教授)を対象にアンケートを実施しているが、原発の火山リスクについて初めて定量的に火山学界の見解を示したものとして注目された。その結果「回答した50人のうち、巨大噴火の被害を受けるリスクがある原発として川内を挙げた人が29人と最多、泊((とまり/北海道)も半数の25人に達した」と伝えた。
また、同調査では、前兆現象から「巨大噴火の切迫を正しく評価できる」と答えたのは50人中5人のみで、45人が、前兆現象が巨大噴火につながるかどうかの判定は「むずかしい、現在の科学では想定不可能」としている。
いっぽう、「日本を襲った巨大噴火」の特集を組んだ岩波書店刊「科学/2014年1月号」は、国の「広域的な火山防災対策に係る検討会」座長を務めた藤井敏嗣氏(東京大名誉教授、火山噴火予知連絡会会長)の「私たちは巨大噴火を観測したことがない。どのくらいの前兆現象が起きるか誰も知らない」とする寄稿を掲載している。「これまでの火山噴火予知はあくまで経験に基づく。巨大カルデラ噴火は被害が甚大すぎ、経験してからでは間に合わない」と。
また同特集で、中田節也・東京大学地震研究所教授は、「近年の日本でVEI(火山爆発指数。噴出量の規模でVEI 0~8まで9段階ある)が4(桜島、浅間山噴火クラス)、5(富士山噴火クラス)の噴火が起こっていないほうが不思議」で、この間に、火山の影響を考えることなく日本に原発が導入されたとする。しかし今後は「VEI 6クラス(噴出量10立方km以上)は1000年みておけば起こり得る」とし、「あちこちで噴煙が空高く上がって火砕流が発生すればみんなが真剣に考えるでしょう」としている。
同特集で「噴火と原発」の直截的な見出しで悲観的な見解を述べているのは、守屋以智雄・金沢大学名誉教授。守屋氏は、原発にとって日本の立地は「世界でも1、2を争う危険な場所」とし、各地の火山の噴火特質・噴火様式を分析したうえで、「北海道・東北・九州のカルデラ火山が巨大噴火を起こせば、その被害は人命・資産とも東日本大震災とは桁違いの規模に達し、国家としての存続すら危ぶまれる」とする。
守屋氏はさらに、「避難場所の確保にも問題が起こり、九州6カルデラ火山中の1個が巨大噴火すれば伊方・玄海・川内の3原発は完全に破壊され、西南日本全体が放射能汚染で、万年単位で事実上永久に立入り禁止区域に」、また「八甲田・十和田カルデラ火山のいずれかの巨大噴火で、北海道の泊原発、下北半島の東通(ひがしどおり)原発・六ヶ所村核物質貯蔵施設、女川原発などが破壊」、「支笏・洞爺カルデラ火山の巨大噴火でも泊・東通原発と六ヶ所村貯蔵施設が危険にさらされる」。そして「日本国民全員が日本列島を退去、いずれかの受入れ国に避難という事態も……」、「避難先から永久に戻れなくなり、流浪の民に……」とした。
こうした原発への火山影響問題を受け、日本火山学会は原発の安全対策に関係する初めての組織として「原子力問題対応委員会」を創設し、去る4月29日に初会合を開催、巨大噴火に関する一定の見解を出せるかどうか検討を開始している。
>>原子力規制委員会「原子力発電所の火山影響評価ガイド (案) 」
〈2014. 05. 21. by Bosai Plus〉
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