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わが国における原発のあり方
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わが国における原発のあり方
——豊かな国民生活を支えるベースロード電源として社会に受容されるために——
2015 3 24
公益社団法人 経済同友会

Page 2
2
目 次
本提言のポイント ·················································· 3
はじめに ·························································· 4
1.福島第一原子力発電所事故がもたらした影響 ······················ 5
2.ベースロード電源としての原発の必要性 ·························· 6
3.提言――今後の原発のあり方 ···································· 7
(1)原発が社会から受容されるための必要条件 ····················· 8
提言1:安全神話と決別し、実効性ある避難計画も含めた多重防護
の徹底と不断の安全性向上を ···························· 8
提言2:リスク評価等の正確な情報開示とコミュニケーションを
徹底し、原発に対する国民理解の醸成を ·················· 9
(2)原子力事業を持続可能なものとするための必要条件 ············ 10
提言3:国の関与による安定した原子力事業体制の構築を ········· 10
提言4:放射性廃棄物処分問題の解決、核燃料サイクル確立には
より積極的な国の関与を ······························· 11
(3)原発依存度について ········································ 12
提言5:原発依存度は可能な限り低減させるが、2030 年時点では
20%程度を下限とすることが現実的である ··············· 12
提言6:2030 年以降はより安全性の高い技術に基づくリプレース等
も含めた柔軟な検討を ································· 13
おわりに ························································· 15

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3
本提言のポイント
「縮・原発」(2011年7月)
●安全性の確認された原発は、国の責任において順次再稼働させる。
第一の影響 ⇒ エネルギー自給率の低下
第二の影響 ⇒ エネルギー・コストの上昇
第三の影響 ⇒ 温室効果ガス排出量の増加
◎ 豊かな国民生活の維持
(1)原発が社会から受容されるために
 ・安全神話と決別し、実効性ある避難計画も含めた多重防護の徹底と不断の安全性
  向上を図る
 ・リスク評価等の正確な情報開示とコミュニケーションを徹底し、原発に対する
  国民理解を醸成する
(2)原子力事業を持続可能なものとするために
 ・国の関与による安定した原子力事業体制を構築する
 ・放射性廃棄物処分問題解決、核燃料サイクル確立にはより積極的に国が関与する
(3)原発依存度について
 ・できるだけ低減させながら、2030年時点での原発依存度は20%程度を下限と
  することが現実的である
 ・2030年以降はより安全性の高い原発へのリプレース等も含めて柔軟に検討する
●中長期的には、老朽化した原発を順次廃炉にし、再生可能エネルギーや
 省エネルギーの推進で代替し、原発依存度を一定水準まで低減させる。
●地球規模での人口増加に直面する人類の未来において、原発は世界の
 エネルギー安定供給に不可欠であり、技術・人材を維持し、国際協力の下、
 事故原因の検証と安全性の高い原発の実用化を行い、世界に貢献する。
「S+3E」を担いうる
ベースロード電源の確保
世界の原子力安全への貢献
◎ 地球温暖化防止および
  世界のエネルギー需要増への対応
必要
条件
「縮・原発」
レベル
3.豊かな国民生活や経済活動を支えるため、相当な期間、ベースロード電源として原発活用が必要。
また、地球温暖化防止や世界のエネルギー需要を満たすためにも、再生可能エネルギーなど革新
的技術開発の実用化・普及の加速とともに、原発事故の反省と教訓を真摯に受け止め、国際協力
の下、人類が必要とする原子力の安全性向上にも全力を尽くすべきである。
これを深掘りし、今後の原発のあり方を具体的に検討
2.福島第一原子力発電所事故については、原子力災害からの復興と、事故の反省を踏まえた原子力
安全の徹底が最優先課題。同時に、原発全基停止に伴うわが国の国民生活や経済活動への深刻な
影響も忘れてはならない。
4.できるだけ低減しつつも一定規模の原発は必要だが、そのためには原発が社会から受容され、
原子力事業が持続可能なものとなるための必要条件を満たす必要がある。
1.本会が提唱した「縮・原発」の考え方
同時
追求

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4
はじめに
経済同友会は、東日本大震災直後の 2011 年 7 月に「縮・原発」という考え方
を打ち出した(注1)。その趣旨は、
● 安全性の確認された原発は、国の責任において順次再稼働させる。
● 中長期的には、老朽化した原発を順次廃炉にし、再生可能エネルギーや
省エネルギーの推進で代替し、原発依存度を一定水準まで低減させる。
● 地球規模での人口増加に直面する人類の未来において、原発は世界のエ
ネルギー安定供給に不可欠であり、技術・人材を維持し、国際協力の下、
事故原因の検証と安全性の高い原発の実用化を行い、世界に貢献する。
であり、後に政府が策定した新たな「エネルギー基本計画」(2014 年 4 月閣議決
定)とも方向性は一致している。
それから 3 年半以上が経過したが、この間、原発再稼働については、一部の
原発が原子力規制委員会から新規制基準への適合を認められた段階に過ぎず
(注2)、わが国におけるエネルギーミックス(電源構成比率)の目標は不明確な
ままとなってきた。また、国民の理解を十分得ながら、今後も原発をベースロ
ード電源(注3)として利用していくためには、実効性ある避難計画の策定、放
射性廃棄物処理・処分問題、核燃料サイクルの確立など、解決すべき課題も多
い。
こうした状況の中、本会では環境・エネルギー委員会の下に「原発のあり方
検討分科会」を設置し、あらためて今後の原発のあり方について議論を深める
こととした。本提言は、その検討結果に基づき、本会の考え方を整理し、提示
したものである。
1
「東北アピール 2011――この国の危機を克服し、復興と成長を確かなものとする――」(2011 年 7 月 15
日)。その後、「『エネルギー・環境に関する選択肢』に対する意見(パブリック・コメント)」(2012 年
8 月 8 日)、「エネルギー自立社会と低炭素社会の構築――課題の整理と提言――」(2014 年 4 月 10 日)
においても、この考え方を整理してきた。
2
2015 年 2 月現在、九州電力川内原発 1,2 号機および関西電力高浜原発 3,4 号機について、原子力規制委
員会が「新規制基準に適合している」とした審査書を決定済。
3
発電コストが低廉で、昼夜を問わず安定的に稼働できる電源。地熱、一般水力、石炭火力、原子力が分
類される。

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5
1.福島第一原子力発電所事故がもたらした影響
東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所事故は、わが国に大きな
爪痕を残し、現在も多くの人々が避難生活を余儀なくされている。こうした状
況の下、原子力災害からの復興と、事故の反省を踏まえた原子力安全の徹底が
わが国の最優先課題であることは言うまでもない。同時に、国内の原発が全基
停止し、その再稼働の目途がほとんど立っていない中で、国民生活や経済活動
にも深刻な影響が生じていることを忘れてはならない。
第一の影響は、エネルギー自給率の低下である。震災前の 2010 年に 19.9%で
あった一次エネルギー自給率は、2013 年に 6.0%まで低下した。これは OECD34
カ国中 33 位と極めて低い水準である(注4)。また、電源構成における海外から
の化石燃料依存度は 88%と、第一次石油危機時(76%)よりも高い水準 となり、
原油の 83%、天然ガスの 30%を中東からの輸入に依存していることと相まって、
わが国のエネルギー供給構造の脆弱性は増大している(注5)。
第二は、エネルギー・コストの上昇である。原発の稼働停止に伴う火力発電
の炊き増しや燃料費の増加等により、震災後の電気料金は一般家庭用で約2割、
産業用で約3割上昇した(注6)。震災前より、わが国の電気料金は主要先進国と
比較して、家庭用、産業用ともに高い水準にあったが、さらなる電気料金の高
騰は国民生活を直撃するだけでなく、産業の国際競争力を失わせ、産業の空洞
化を招き、人々の雇用にも影響していく。また、火力発電の焚き増しにより、
2010 年度に比べ、2014 年度は燃料費が 3.7 兆円増加するという試算もあり(注
7)、
焚き増し分の多くは輸入燃料に依存している中で、海外へ国富が流出する状況
にもなっている。
第三は、温室効果ガス排出量の増加である。原発の代替として火力発電を焚
き増しし、化石燃料依存度が 88%まで上昇したことによって、2013 年度のエネ
ルギー起源 CO2 排出量は 2010 年度比で約 1.1 億トン(9%)増となり、過去最
高の 12.2 億トンを記録した(注8)。地球温暖化問題は国際社会が解決すべき重
要課題の一つであり、「温室効果ガスを 1990 年比で 2050 年までに世界で半減、
先進国全体で 80%減」という目標達成が求められている。今年 12 月に開催予定
4
International Energy Agency (IEA), “Energy Balance of OECD Countries 2014.”
5
経済産業省「エネルギー白書 2014」
6
総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会(第 16 回会合)・長期エネルギー需給見通し小委員会(第
1 回会合)合同会合「エネルギー基本計画の要点とエネルギーを巡る情勢について」(2015 年 1 月)
7
総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会 電力需給検証小委員会「報告書」(2014 年 10 月)
8
環境省「日本の温室効果ガス排出量の算定結果」(2014 年 11 月)

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の国連気候変動枠組条約第 21 回締結国会議(COP21)に向け、各国が意欲的な
削減目標を提示し始めている中(注9)、わが国がその流れに逆行することは許さ
れない。
その時々において「S+3E」(注10)を満たす最適なエネルギーミックスを
実現していくことがエネルギー政策の要諦である。したがって、他の先進国と
比較して高水準にある電力料金の是正によって、国民生活をより豊かなものに
するとともに、グローバルに競争力ある経済活動をサポートし、また、国際社
会の課題解決に積極的に貢献する先進国として存在感を示すためにも、こうし
た問題を放置することはできない。
2.ベースロード電源としての原発の必要性
「S+3E」を満たすエネルギーミックスを考えるにあたっては、多様な電
源をバランスよく組み合わせることが必要である。その中で、コストが低廉で、
昼夜・季節を問わず安定的に供給できるベースロード電源をある程度確保して
いくことが、わが国の国民生活ならびに産業の維持・発展にとって必須である。
ベースロード電源としては、地熱、一般水力、石炭火力、原子力などのエネ
ルギー源があるが、原子力は「燃料投入量に対するエネルギー出力が圧倒的に
大きく、数年にわたって国内保有燃料だけで生産が維持できる低炭素の準国産
エネルギー源として、優れた安定供給性と効率性を有しており、運転コストが
低廉で変動も少なく、運転時には温室効果ガスの排出もない」(注11)という特
性を持っている。一方、「S+3E」を満たしてこれを代替するエネルギーを十
分確保することは現時点では困難であると考えられ、相当な期間、原子力をベ
ースロード電源として活用していく必要がある。
海外を見ても、特に地球温暖化防止という世界共通の課題解決に対して、CO2
を排出しない電源、いわゆるゼロ・エミッション電源(原子力+再生可能エネ
ルギー)である原子力に対する期待は大きい。前述した世界全体の温室効果ガ
ス削減目標の達成に向け、意欲的な目標を掲げる国の中には、原発の利用を前
9
COP21 に先立ち、各国は自主的に決定する 2020 年以降の約束草案を提出することが招請されている。
EU は、「2030 年までに 1990 年比 40%削減」という中期目標を設定するとともに、「2050 年までに 2010
年比で 60%削減」という長期目標も示した。また、京都議定書を離脱した米国も「2025 年までに 2005
年比で 26∼28%削減」、を明言している。
10
S+3E: 安全性(Safety)、安定供給性(Energy Security)、環境適合性(Environment)、経済効率性
(Economic Efficiency)
11
「エネルギー基本計画」(2014 年 4 月 閣議決定)

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7
提としている国もある。例えば、他国との電力融通が難しい島国というわが国
と同じ地理的環境にある英国は、原発を重要なゼロ・エミッション電源の一つ
として明確に位置付けた上で、「2050 年までに 1990 年比で温室効果ガスを 80%
削減する」という目標を法定している(注12)。
また、発展途上国や新興国の経済成長とともに、世界のエネルギー需要が急
増することが予測されており、その需要を満たすために 2040 年にかけて世界全
体の原子力発電量は現在より約 60%増加することが見込まれている(注13)。
こうした国内外の状況を考えると、わが国としては「S+3E」を満たす形
で再生可能エネルギー、省エネ、蓄エネなど革新的技術開発の実用化・普及を
加速させていくとともに、福島第一原発事故の反省と教訓を真摯に受け止め、
国際協力の下、人類が当面必要とする原子力の安全性向上にも全力を尽くし、
貢献していくべきである。それこそが、重大な事故を起こした国としての責任
であり、優れた技術と人材を持つ先進国としての責務である。
3.提言——今後の原発のあり方
このように、ベースロード電源として相当な期間、原発を使用し続けなけれ
ばならないという現実に向き合うと、「原発がなくてもエネルギーは問題ない」
「原発を停止すれば安全である」という考え方は、事故前の「原発事故はあり
得ない」という考えと同様、別の意味で国民生活を危機に陥れかねない。
もちろん、福島第一原発事故が国民生活や経済活動に与えた影響を考えると、
事故前と同様な姿勢で原発を活用することは許されず、そのあり方を真正面か
ら謙虚に問い直す必要もある。
そこで、我々としてはまず、(1)原発が社会に受容されるには何が必要か、
(2)原子力事業を持続可能にするためにはどのような環境が必要か、といっ
た必要条件を示した上で、それらの条件を満たすことを前提に、(3)どの程度
まで原発を減らすことができるのか(どの程度の原発を必要とするのか)、とい
う「縮・原発」のレベルを検討することとした。
12
「2008 年気候変動法(Climate Change Act 2008)」
13
International Energy Agency, “World Energy Outlook 2014” における中心シナリオでは、2013 年時
点で 3 億 9,200 万 kW、2040 年時点で 6 億 2,000 万 kW 超と予測されている。

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(1)原発が社会から受容されるための必要条件
原発をベースロード電源として確実に利用していくためには、何よりもまず、
国民の十分な理解が不可欠であり、社会から受容されるために以下の必要条件
を満たす必要がある。
提言1:安全神話と決別し、実効性ある避難計画も含めた多重防護の徹底と
不断の安全性向上を
原発の安全性については、福島第一原発事故を教訓とし、「止める、冷やす、
閉じ込める」で放射性物質の放出は起きないとする、いわゆる「安全神話」と
決別することが必要である。リスクと正面から向き合って「放出事故は起きう
る」ことを前提とし、事故の進展防止およびシビアアクシデントの影響を緩和
したり、オフサイトの緊急時対応によって公衆の線量レベルを許容値以内に抑
えたりするという、国際原子力機関(IAEA)の求める多重の安全対策を取るこ
とが肝要である。
安全性の審査は原子力規制委員会の専門的な判断に委ねられるべきであるが、
設備が規制基準をクリアしたとしてもリスクは残る。安全対策は日々向上され
るべきものであり、事業者による不断の自主的安全性向上が求められる。その
ためには、より高い自主的安全目標を達成した場合に保険料を減額するなどの
インセンティブ付与、海外事業者を含めた業界内でのピアレビューなど、海外
の事例も参考にした制度を検討すべきである。
また、オフサイトにおける安全対策の充実が必要なことは、福島での事故を
見ても明白であり、かつ、再稼働の有無を問わず早急に取り組むべき課題であ
る。避難計画の策定は、立地地域の状況を熟知する地元自治体が主体となって
行うべきであるが、複数の自治体を跨ぐ計画となること、他の原発における避
難計画策定のノウハウを共有できること、さらに大規模な災害発生時には通
信・交通インフラが機能不全となり自衛隊や海外からの支援が必要となること
などを考慮すると、国がより前面に立った支援を行うべきである。計画の策定
が遅れている地域については積極的に支援し、その計画策定を急がせ、避難訓
練においては放射性物質が放出される重大事故をあらかじめ想定し、自衛隊も
参加する実働訓練を広い地域にわたって実施すべきである。
加えて、自然災害のみならず、原発を対象にしたテロなど有事に対する備え
についても国が主導し、自衛隊による原発関連施設の警備や、警察・海上保安
庁・自衛隊などによる訓練も含めて、万全を期すべきである。

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提言2:リスク評価等の正確な情報開示とコミュニケーションを徹底し、原発
に対する国民理解の醸成を
福島第一原発事故以降、国民の原発に対する不信感は極めて大きなものとな
り、現在も「反原発」の世論を高める一因となっている。今後も原発を利用し
ていくためには、正しい事実に基づいた国民の理解醸成が必要不可欠であり、
そのためには正確かつ徹底した情報開示が重要である。
その際、国や事業者は国民に対し、原発のメリットや安全性の向上だけでは
なく、そのリスク情報やコストも併せ、わかりやすく説明すべきである。特に
リスク情報については、IAEA もその活用を強く勧告している定量的なリスク評
価手法(注14)の活用や、原発事故のリスクと他の事故リスクとの比較、あるい
は原発ごとに地震や津波などの過去の災害状況を一覧にまとめて公開するなど、
具体的かつ明快なものであることが重要である。
また、事故発生時における適切かつ迅速な情報開示の重要性は、福島第一原
発事故から得られた大きな教訓である。原子力に対する国民の不安は大きく、
また国際社会からも大きな注目を集めている。事実を隠すことなく、正確かつ
速やかな情報公開を行えるよう、官民一体となって平時から必要な体制を整え
ておくことが必要である。
加えて、原発の影響力の大きさを考慮すれば、原子力政策の意思決定過程は、
より透明性を高めたものとすべきであり、国や事業者などの関係者主導の情報
公開だけでは不十分である。原発立地地域のステークホルダーを交えた議論の
場を設け、政策の意思決定に関与できるようにするなど、建設的なコミュニケ
ーションが図れるような会議体を設けるべきである(注15)。同時に、こうした
プロセスを海外にも発信し、国際社会の共有知としていくべきである。
14
PRA(Probabilistic Risk Assessment/確率論的リスク評価 ):リスクを最小化する目的で用いられる手
法で、原子力発電所や飛行機、宇宙ロケットなど、大規模で複雑なシステムの安全性や信頼性に関し、
発生し得るあらゆる事故シーケンスを対象として、その発生頻度と発生時の影響規模を確率論を使って
定量的に評価し、その積である「リスク」がどれほど小さいかで安全性の度合いを検討する手法。地震
や津波等の外的事象を中心とした結果の不確実性を踏まえた上で、異なる安全対策の効果比較や施設の
安全性の総合的評価ができるとされている。
15
英国の NDA(原子力廃止措置機関)は、所有施設周辺に SSG(Site Stakeholder Group)という会議体
を設置し、立地地域が意思決定に参加できる会合を定期的に開催している。

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10
(2)原子力事業を持続可能なものとするための必要条件
社会に受容されるためのこうした努力に加え、電力システム改革が進展して
いく中では、原子力事業を持続可能なものにしていくために、以下の環境整備
が必要である。
提言3:国の関与による安定した原子力事業体制の構築を
原子力は他の発電方法に比べ、巨額の初期投資が必要であり、かつ非常に事
業期間が長いという特徴がある。2016 年に予定されている電力の小売全面自由
化に伴い、地域独占と総括原価方式が廃止されるが、これら原子力の特徴ゆえ
に、新規に建設される原発については、民間金融機関からの融資がどうなるか、
あるいは金利はどうなるのかといった点が不透明なものになると予想される。
原子力をベースロード電源と位置付け、他のエネルギーとのバランスを取り
ながら今後も維持していくためには、安定した運営体制が構築されるよう、そ
の特徴に合わせた適切な政策的措置を講じるべきである。具体的には、英国で
新規原発に対して導入された CfD(Contract for Difference/差額決済契約)(注16
や、政府による債務保証などの制度が参考になる。
また、電力システム改革によって 2020 年度に計画されている発送配電の法的
分離などが進展すれば、新規参入も含めた発電会社間の競争や事業再編などが
進むことも想定される。その場合、仮に投資を含めた原子力事業のリスクがネ
ックとなり、民間企業による原発の保有が困難になった場合には、前述の支援
に加え、政府や自治体による出資、国有民営方式など、原発運営主体のあり方
についても柔軟な発想で考えていく必要がある。
なお、原発依存度を低減させていく中で、老朽化や規制基準に達しなくなる
などした原発については速やかに廃炉に着手すべきであるが、財務的、会計的
な理由から、事業者が適切な廃炉の判断を躊躇することがあってはならない。
当初の計画外の廃炉が必要となる場合にも、その会計処理について、一度に当
該費用を発生させるのではなく、一定期間をかけての償却・費用化を認めるな
ど、適切な政策的措置を講じるべきである。
16
電力市場におけるマーケット価格を元に算定される市場価格(Reference Price)と、廃炉費用や使用済
燃料の処分費用も含めた原発のコスト回収のための基準価格(Strike Price)の差額について、全需要家
から回収し、原発事業者に対して補填することにより、一般的に事業者の損益の平準化を目指す制度(逆
に、市場価格が基準価格を上回った場合は、原発事業者が支払いを行う)。

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11
さらに、廃炉への着実な取り組みと同時に、立地地域の経済が原発に頼らず
に自立できるための地域活性化策が必要である。交付金制度の見直しなどの単
なる金銭的支援政策よりも、例えば、再生可能エネルギー関連事業や、廃炉・
除染ロボットの技術開発の拠点とするなど、成長性のある新たな産業の誘致・
振興などの検討を早期に進めるべきである。
提言4:放射性廃棄物処分問題の解決、核燃料サイクル確立にはより積極的な
国の関与を
高レベル放射性廃棄物の処理・処分や核燃料サイクルといった、いわゆる原
子力のバックエンド問題は、原発の維持・縮小の方向性を問わず、抜本的解決
が迫られる問題であり、決して将来へ先送りせず、真に実効性のある解決策を
政治の責任で示すべきである。
高レベル放射性廃棄物の最終処分問題については、最終処分場を決定したフ
ィンランドがその決定に 30 年を要したことを考えると、粘り強い取り組みが必
要である。「エネルギー基本計画」にも示されたように、国が科学的な視点を中
心に適切な地層処分地を検討した上で、その情報の徹底的な開示と地元への丁
寧な説明を行い、理解を求めていくべきである。これはわが国全体の問題とし
て、国が前面に立ち、責任を持って進めるべきものである。
わが国は、利用目的のない余剰のプルトニウムは持たないということを国際
的に約束している。一方で、わが国は国内外に 40 トンを超えるプルトニウムを
すでに保有しており、その計画的な消費を行わないことは、国際的信頼を失う
ことになりかねない。原子力の平和利用を掲げる国として、プルサーマルを含
めた核燃料サイクルを推進することは国際的な責務である。
また、高レベル放射性廃棄物を直接処分した場合、その有害度が低減される
までの期間が約10万年とも言われ、超長期間における管理が要求される(注17)。
一方、高速炉を用いた再処理が実用化されれば、期間を約 300 年に、同時に体
積も 15%程度に抑えることが可能になると見込まれている。廃棄物の有害度の
低減および減容は世界共通の大きな課題であり、その研究開発体制を強化し、
引き続き推進していくべきである。
17
天然ウラン並の有害度になるまでの期間。

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12
(3)原発依存度について
以上の必要条件を前提として、原発依存度を低減(「縮・原発」)させつつも、
どの程度の原発が必要と考えるべきか。現在、政府はエネルギーミックスに関
する検討を行っているが、原発依存度については、電力需要の見込み、省エネ
ルギーや再生可能エネルギーの技術開発の動向、温室効果ガス排出量の許容範
囲など様々な変数を考えなければならず、我々として精緻な計算は困難である
ため、政府が責任をもって提示することを待ちたい。ただし、豊かな国民生活
を支えるベースロード電源として必要なレベル感について、我々が議論した際
の視点を示すため、短中期(∼2030 年)と長期(2030 年以降)に分けて、原発
依存度に対する基本的考え方を以下に述べる。
提言5:原発依存度は可能な限り低減させるが、2030 年時点では 20%程度を
下限とすることが現実的である
震災前の状況や想定(2010 年の原発依存度は 28.6%であり、震災前に策定さ
れたエネルギー基本計画における 2030 年時点の目標は5割以上)と比較し、原
発依存度は可能な限り低減するべきではあるが、2030 年時点での比率は 20%程
度を下限とすることが現実的であると考える。
すでに廃炉が決まったものに加え、40 年廃炉を厳格に適用した場合、2010 年
時点で存在した 54 基(設備容量約 4,900 万 kW)については、2030 年時点では
20 基(設備容量約 2,100 万 kW)となり、原発依存度は 15%程度になると考え
られる(注18)。そのため、前述の規模を維持するためには、必要で安全が確認
された原発の運転年限を延長して使用し続けることなども想定するイメージで
ある。
その理由として、第一に、ゼロ・エミッション電源としての必要性である。
震災前の 2009 年 8 月に作成された「長期エネルギー需給見通し(再計算)」で
は、2030 年時点の発電電力量におけるゼロ・エミッション電源の比率を、「努力
継続ケース」で 51%と見込んでいたが、温室効果ガス削減について先進国とし
ての責務を果たすためには、少なくともこれと同等水準の 50%程度は確保する
18
建設中の 2 基は含まず、総発電量を 2010 年と同じ約 1 兆 kWh とし、設備利用率は過去の実績で比較
的高い水準であった 1990 年代後半レベルの 80%と仮定した。
なお、省エネルギー対策を実施し、2030 年時点の総発電量が 9,373 億 kWh(総合資源エネルギー調査
会基本政策分科会長期エネルギー需給見通し小委員会第 3 回会合<2015 年 2 月 27 日開催>において、
資源エネルギー庁が試算として報告)になったとしても、原発依存度は約 16%となる。

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13
ことが望ましい(注19)。その場合、再生可能エネルギーの導入加速を最大限図
ったとしても、国民負担、送電設備等の整備、出力変動への対応などを考える
と、2030 年時点で 30%を超える数値は現時点では想定しにくい(注20)。その結
果、少なくとも残り 20%以上は原発で賄う必要があると考える。
第二に、国際エネルギー機関(IEA)の予測を傍証とした場合の規模感の妥当
性である。日本政府による長期需給見通しの正式な試算はこれからであるが、
IEA の予測では、エネルギー安全保障、気候変動への対応、経済成長の実現に向
けて、バランスの取れたエネルギーミックスの追求が必要とした上で、2040 年
におけるわが国の再生可能エネルギー比率は 32%となる一方で、原発の比率は
21%になるとしている(注
21)。前提条件など議論はあるが、こうした数字を見
ても、前述程度の規模は国際的にも妥当と想定されていると言えよう。
第三に、国際社会からの安全保障上の懸念払拭の観点である。わが国は核兵
器不拡散条約(NPT)を批准しており、余剰なプルトニウムを持たず、平和利用
に貢献することを国際的な公約としている。この公約を守るためには、計画的
なプルトニウムの消費が必要となるが、震災前は 2015 年度までに 16∼18 基で
MOX 燃料(ウラン・プルトニウム混合酸化物)を軽水炉で利用するプルサーマ
ルの実施が計画されていた。今後発生する使用済燃料の量は原発の稼働レベル
次第ではあるが、これまで保管中の使用済燃料も含めたプルトニウムバランス
維持のためには相当程度の基数が必要なことからも、少なくとも前述の規模が
必要と考えられる。
提言6:2030 年以降は安全性の高い技術に基づくリプレース等も含めた柔軟な
検討を
次に、2030 年以降については、エネルギー・環境に関する様々な革新的技術
開発の実用化・普及が視野に入ってくる時期であり(注22)、その動向なども視
野に入れつつ、原発依存度は現時点では柔軟に考えておくべきである。
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「長期エネルギー需給見通し(再計算)」では、当時約 40%であったゼロ・エミッション電源の比率を、
2030 年に「最大導入ケース」で 68%、「努力継続ケース」で 51%と見込んでいた。原発依存度を可能な
限り低減させることを目指す中、原発依存度 49%を前提とした「最大導入ケース」の水準を目指すこと
は非現実的である。
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2013 年度時点の再生可能エネルギーの発電比率は 10.7%(水力 8.5%を含む)。現行のエネルギー基本
計画では、「これまでのエネルギー基本計画が示した水準(約 20%)を更に上回る水準の導入を目指す」
とされている。
21
International Energy Agency, “World Energy Outlook 2014.” 本データについては、総合資源エネ
ルギー調査会基本政策分科会第 15 回会合(2014 年 11 月 19 日)においても、IEA のマリア・ファンデ
ルフーフェン事務局長によって報告されている。
22
「環境エネルギー技術革新計画」(内閣府 総合科学技術会議にて 2008 年 5 月決定、2013 年 9 月改訂)

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その際、稼働から 40 年を運転年限とすると、原発の設備容量は震災前に対し、
2028 年には約半分、2049 年にはゼロとなる。省エネルギーや「S+3E」を十
分満たす再生可能エネルギーの開発リスクなどを考えると、一定規模の原発を
引き続き維持することも視野に入れておく必要がある。そのためには運転年限
の延長だけでなく、より高い安全性や経済性が見込まれる場合などは、最新技
術に基づくリプレース(建て替え)や新増設の可能性も排除すべきではない。
リプレース・新増設の可能性に向けて、より安全性の高い原子炉の技術開発
として、次世代(第4世代)原子炉の研究・開発を着実に推進すべきである。
次世代原子炉の特徴の一つとして、シビアアクシデント発生時でも、電源を必
要とせずに炉心の自然冷却が可能という優れた安全性が挙げられる。現在、ナ
トリウム冷却高速炉を中心とした次世代原子炉の研究開発が世界で進められて
いるが、わが国も積極的に国際協力を図るとともに、リーダーシップを発揮し
ていくべきである。
また、リプレースなどにより国内で原子炉を建設することは、サプライチェ
ーンを含めた原子力技術の発展や人材の育成に貢献し、経済効果の創出も期待
できる。米国ではスリーマイル島原発事故以降、国内における新原発建設を 30
年間行わなかったことにより、自国の技術・人材を失っている。原子力事業は
廃炉を含めて数十年の長期にわたる事業であるため、その技術継承・人材確保
は特に重要な課題である。したがって、政府の「国際原子力人材育成イニシア
ティブ事業」(注23)等の施策の充実や、(大学・研究機関及び規制機関それぞれ
のレベルでの)海外との積極的な人材交流を通じて、原子力安全の研究開発・
発電所運営・規制・廃炉等に関する次世代専門人材の育成を強化すべきである。
わが国が持つ高い原子力技術・人材を今後も維持し、今後増加が予想される世
界の原発の安全に貢献していくことは、国際社会における責務でもある。
23
文部科学省が実施している原子力に関する人材育成事業に対する補助金交付制度。産学官の関係機関
の連携により、わが国の原子力機関等が有する人材育成資源の活用を図り、社会のニーズにあった人材
を、効果的・効率的・戦略的に育成することを目的とする。

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おわりに
オイルショック以降、原子力は火力、水力と並ぶ主要なエネルギー源の一つ
とされ、経済が安定成長に入り、国民生活が豊かになるにつれ、右肩上がりに
増え続けた電力需要を支えてきたことは紛れもない事実である。
一方、原子力は大きなメリットを持つ反面、事故発生時の影響などにおいて、
他の電源にはない特殊性やリスクを持ち、課題も多い。実際に、福島第一原発
の事故は我々に大きなショックを与え、現在においても大きな問題を残してい
る。
したがって、震災前と同じように安全神話を盲信し、原子力を活用しようと
することは許されない。事故の反省を踏まえ、国や電力事業者は、設備面で常
に安全基準を満たすことに加えて、操業ノウハウの点でも安全性の不断の向上
を図ることはもちろん、意思決定や情報開示の透明性を高め、原発を社会に受
容されるものとすることが必要不可欠である。また一方で、これまで原発の恩
恵を受けてきた我々国民も、豊かな国民生活を求めるならば何が必要なのか、
冷静に事実を見つめ、今後の原発のあり方を真剣に考えるべきである。
国の発展にエネルギーは欠かせないものであり、安全かつ安価にエネルギー
を使えるということは、豊かな国民生活を支える根幹である。特に資源の少な
いわが国にとっては、エネルギー政策は誤ることが許されない極めて重要なも
のであり、現実とはかけ離れた理想論や、主観的な意見によって議論されるこ
とがあってはならない。
今後、新たなエネルギーミックスや、2020 年以降の温室効果ガス削減目標な
ど、エネルギー政策と密に関わる様々な目標が策定されていく予定である。わ
が国の将来を考えた冷静で現実的な議論がなされ、とるべき施策が先送りされ
ることなく実施されていくことを強く期待する。