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プルトニウム及びアメリシウムの LX 線を高分解能で測定(お知らせ)
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1
平成 22 年 4 月 14 日
独立行政法人 日本原子力研究開発機構
国立大学法人 九州大学
エスアイアイ・ナノテクノロジー 株式会社
プルトニウム及びアメリシウムの LX 線を高分解能で測定(お知らせ)
独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 岡﨑俊雄、以下「原子力機構」とい
う。)の東海研究開発センター核燃料サイクル工学研究所放射線管理部、国立大学法人九
州大学(総長 有川節夫、以下「九州大学」という。)、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会
社(社長 北野進、以下「SII ナノテク」という。)の共同研究グループは、超ウラン元素
(TRU)(1)測定用の超伝導相転移端温度計(TES)型マイクロカロリーメーター(2)を開発し、世
界に先駆けてプルトニウム(Pu)(3)及びアメリシウム-241(241Am)(4)から放出されるエルエック
ス線(LX 線) (5)のスペクトル(6)を従来の放射線測定器の約 1/5 の高分解能で測定しました。
核燃料物質(7)であるPuなどの超ウラン元素からはアルファ(α)線(8)とともに微量のLX線
も放出されています。現在の Pu の分析ではα線測定法や質量分析法(9)を使用しています
が、これらの方法では、Pu などを化学的に分離して測定する必要があります。一方、LX 線
の測定であれば、物質の外側から非接触で測定することができます。しかしながら、従来の
放射線測定器ではエネルギー分解能(10)が十分ではないため、Pu のそれぞれの LX 線や核
燃料物質中に Pu と同時に存在する 241Am の LX 線と識別ができず、一部の限られた用途
の測定にしか利用されていませんでした。今回、原子力機構は、九州大学との共同研究に
より、超伝導(11)を利用した高分解能の放射線測定器であるTES 型マイクロカロリーメーター
を超ウラン元素測定用に開発し、核燃料サイクル工学研究所において Pu の測定実験を行
いました。実験の結果、従来の放射線測定器よりも高分解能(半値幅(12):約 50eV)のスペク
トルを測定し、Pu と 241Am が識別できることを確認しました。
本研究成果は、超ウラン元素の LX 線の放出率(13)に関する物理学的な基礎データの整
備への適用が期待できます。また、測定装置をスケールアップすることにより、これまでの
Pu 測定では困難であった非破壊かつ非接触の測定によって、分析作業の簡便化、迅速化、
被ばく線量の低減が期待できます。
本研究は、原子力機構の先行基礎工学研究課題(14)として原子力機構と九州大学との
共同研究により実施され、その成果は、日本原子力学会誌(英文誌)2010 年 3 月号に掲載
されました。
以上
Pu 及び 241Am の LX 線を高分解能で測定
補足説明
用語説明
【本件リリース先】
4 月 14 日(水)15:00
(資料配布)
茨城県政記者クラブ、文部科学記者会、科学記者会、
経済産業記者会、九州大学記者クラブ

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【本件に関する問合わせ先】
独立行政法人日本原子力研究開発機構
(研究内容)東海研究開発センター 核燃料サイクル工学研究所 放射線管理部
線量計測課 課長 田子 格 TEL:029-282-1861
(報道対応)広報部 次長 須賀 信一 TEL:03-3592-2346
国立大学法人九州大学
(研究内容)大学院工学研究院 エネルギー量子工学部門
准教授 前畑 京介 TEL:092-802-3481
(報道対応)広報室 TEL:092-642-2106
エスアイアイ・ナノテクノロジー 株式会社
(研究内容)研究開発部 主任 田中 啓一 TEL: 0550-76-5009
(報道対応)セイコーインスツル株式会社
総合企画本部 秘書広報部 TEL:043-211-1185

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238Pu、239Pu及び241AmのLX線を高分解能で測定
-超伝導を利用した超ウラン元素の非破壊・非接触測定-
超伝導相転移端温度計( TES )型マイクロカロリー
メーターを用いてPu等から放出されるX線(10keV~
20keVのLX線)のスペクトルを高分解能で測定
TES型マイクロカロリーメーター
約150mK (-273.0℃)に冷却
◆ わずかな温度Tの上昇で電気抵抗Rが急激に変化する現象
を利用して微少なX線のエネルギーを測定
◆ 従来の半導体検出器の約1/5のエネルギー分解能
PuからのLX線
微少な温度変化を検出
本研究は、原子力機構の先行基礎工学研究として、原子力機構と九州大学との共同研究で実施しました。また、測定実験においてはエスアイアイ・ナノテクノロジー㈱が
協力しました。本研究の成果は日本原子力会誌(英文誌)2010年3月号に掲載されました。
【特許出願】2009年4月17日出願、特願2009-101363
TESによるスペクトル
従来の半導体検出器
によるスペクトル
研究成果
238Pu、239Pu及び241AmからのLX線を高分解能(半値幅:約 50 eV)で測定
し、PuとAmのLX線が分離測定できることを確認しました。LX線の高分解
能測定は世界でも例がありません。
Puの非破壊・非接触測定により分析作業の簡便化・迅速化・被ばく低減
が期待できます。
更に、Puだけでなく、超ウラン元素のNp-237などの簡易な分析への適用
も期待できます。
LX線測定用TESを設計・製作
吸収効率(20keV光子):約50%
材質:Au, Ti
エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)
前畑京介
九州大学准教授
高崎浩司
原子力機構
中村圭佑
原子力機構
5
10
15
20
25
Energy (keV)
C
ounts
Am-241
Pu-239
5
10
15
20
25
Energy(keV)
C
ounts
Am-241
Pu-239
田中啓一
SIIナノテクノロジー

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補足説明
【背景】
核燃料物質のPuなどの超ウラン元素からはα線とともに微量のLX線が放出されていま
す。現在の Pu の分析ではα線測定や質量分析法で測定していますが、α線は物質中の
透過力(15)が弱いため、試料を化学的に処理する必要があります。また質量分析法におい
ても Pu などを分離する必要があります。
一方、LX 線はα線に比べ物質を透過しやすいため、物質の外側から LX 線を測定するこ
とができます。しかしながら、半導体検出器(16)などの従来の放射線測定器ではエネルギー
分解能が十分ではないため、Pu の X 線や核燃料物質中に Pu と同時に存在する 241Am か
らの LX 線との識別ができませんでした。このため、LX 線による Pu の測定は肺モニタ(17)
どの限られた用途の測定にしか利用されていませんでした。また、Pu の LX 線に関する高
分解能の実測データがないことから、LX 測定での精度向上のために必要な LX 線放出率
のデータが不足していました。
このように、化学処理などで時間と手間のかかるα線測定や質量分析に代わって、LX 線
などの測定による非破壊・非接触の Pu の分析法が望まれていますが、そのためにはエネ
ルギー分解能の優れた放射線測定器とともに、高精度の LX 線放出率のデータ整備が必
要です。
【研究内容】
超伝導を利用した TES 型マイクロカロリーメーターは、従来の半導体検出器よりもエネル
ギー分解能に優れた放射線検出器で、X線望遠鏡(18)などへの適用のために世界で研究開
発が進められています。
TES 型マイクロカロリーメーターは、特定の温度範囲においてわずかな温度上昇で電気
抵抗が急激に変化する現象を利用し、微少な X 線などのエネルギーを測定します(図 1)。
TES 型カロリーメーターのセンサー部は約 150mK(19)(-273.0℃)の超低温に冷却され、セン
サー部に光子が入射すると温度が上昇し、電気抵抗が急激に変化します。この急激な電
気抵抗の変化のために電流の流れが変化し、この微少な電流の変化を検出することによ
って光子のエネルギーを測定することができます。
図1 TES 型マイクロカロリーメーターの原理
TES型マイクロカロリーメーター
約150mK (-273.0℃)に冷却
PuからのLX線
微少な電流変化を検出
温度 T の上昇に
より電気抵抗 R
が急激に変化

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今回、超ウラン元素から放出される LX 線測定のために、10~20 keV(20)のエネルギーの
LX 線測定に最適化した TES 型マイクロカロリーメーター(図2)を設計・試作しました。これま
での TES 型マイクロカロリーメーターの研究は 10keV 以下や 100keV 付近のエネルギーの
光子の測定についてなされており、100 keV 付近の Pu のγ線測定に係る研究(21)はありま
したが、本研究での LX 線のエネルギー(10~20 keV)の測定に着目した研究開発はなされ
ていませんでした。
図2 試作した TES 型マイクロカロリーメーター
本研究では、開発した TES 型マイクロカロリーメーターを使って Pu(238Pu、239Pu)及び
241Amの線源から放射されるLX線の測定実験を実施しました。測定実験の結果、半値幅約
50 eV のエネルギー分解能でスペクトルを測定し、それぞれの LX 線を分離測定することが
できました(図3a)。従来の半導体検出器のエネルギー分解能は最高でも約 250eV(図3b)
ですので、約 1/5 の高精細な LX 線のスペクトルを測定できたことになります。このような高
分解能での Pu の LX 線の測定は世界でも例がありません。
500μm
300μm
エネルギー吸収体
超伝導薄膜温度計
SiNx
写真提供 エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)

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図3 プルトニウム等の測定試験結果
(a) TES 型マイクロカロリーメーターによるスペクトル
(b) Ge 半導体検出器によるスペクトル
【成果の波及効果】
本研究の成果により超ウラン元素の LX 線の放出率に関する物理学的データの充実及
び精度の向上が期待できます。また、本測定システムをスケールアップすることにより、従
来の半導体検出器では困難であった LX 線の分析による非破壊かつ遠隔の測定によって、
Pu の分析作業の簡便化、迅速化、被ばく線量の低減が期待できます。更に、237Np、244Cm
(22)の測定にも対応でき、TRU の非破壊かつ非接触の分析測定への適用も可能となるもの
と期待されます。
【成果のポイント】
(1)Pu などの超ウラン元素の LX 線測定用の TES 型マイクロカロリーメーターを開発
(2)測定実験の結果、従来の測定器の約 1/5 である約 50eV の高分解能で測定
(3)従来の放射線測定器では不可能だった Pu と 241Am を識別できることを確認
(4)本研究成果により Pu の基礎物性データの充実や簡便かつ迅速な測定システムなどへ
の発展が期待できます。
5
10
15
20
25
Energy(keV)
C
o
unts
Am-241
Pu-239
(a)
TESによる
スペクトル
5
10
15
20
25
Energy(keV)
C
o
unts
Pu-239
Am-241
(b)
従来の半導体検出器
によるスペクトル

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【共同研究機関の役割】
本研究は、原子力機構の先行基礎工学研究として、原子力機構及び九州大学の 2 機関
が共同して実施しました。九州大学は TES 型マイクロカロリーメーターの設計製作及び試
験調整を、原子力機構は開発した TES 型マイクロカロリーメーターによる Pu 測定実験を担
当しました。また、Pu の測定実験においては、TES 型マイクロカロリーメーターのメーカであ
る SII ナノテクが協力しました。

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用語説明
(1) 超ウラン元素(TRU)
ウランの原子番号である 92 よりも原子番号の大きい元素。プルトニウムやアメリシ
ウム、ネプツニウム、キュリュウムなどがあります。TRU は transuranium の略。
(2) 超伝導相転移端温度計(TES)型マイクロカロリーメーター
超伝導を利用して X 線などの微少な熱量を測定する熱量計。特に微少な熱量を測
定する熱量計をマイクロカロリーメーターといいます。
TES は Superconducting Phase Transition Edge Sensor の略。
(3) プルトニウム(Pu)
原子番号 94 の元素。元素記号は Pu。核燃料物質として高速増殖炉やプルサーマ
ル発電炉に用いられます。核燃料物質中にはPu同位体として238Pu, 239Pu, 240Pu, 241Pu
及び 242Pu が主に存在します。
(4) アメリシウム-241(241Am)
アメリシウムは原子番号95の元素。元素記号は Am。241Puのβ崩壊から生成され
るため、核燃料物質中では Pu とほぼ同時に存在します。
(5) エルエックス線(LX 線)
X 線は軌道電子の遷移を起源とする電磁波。プルトニウムはα崩壊によってウラン
に変わりますが、LX 線はその崩壊に伴いウランの L 殻の軌道に電子が遷移して発生
する X 線です。
電子
K L M N 殻 ・・・
L X 線
L X 線
原子核
電子軌道

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(6) スペクトル
ここでは、γ線や X 線の放射線のエネルギーごとの強度の分布をいいます。
(7) 核燃料物質
ウランやプルトニウムなどの原子力発電所の燃料となる物質。
(8) アルファ(α)線
放射性物質のα崩壊によって放出される放射線。α線は高い運動エネルギーを持
つヘリウム 4 原子核です。物質を透過する力が弱く、紙などでも遮へいされます。
(9) 質量分析法
物質の質量の違いから物質の分析する方法。測定対象の物質をイオン化し、高電
圧をかけた真空中で飛行させて、磁場等で質量毎に分離して測定します。測定対象
物質をイオン化するための処理が必要です。
(10) エネルギー分解能
放射線検出器で X 線などの放射線のエネルギーを測定するときに、X 線のエネル
ギーを細かく識別できる能力。エネルギー分解能が良いほどスペクトル中のピークの
幅が狭く鋭いピークになります。鋭いピークであればあるほど、他のピークとの識別
が容易になります。
(11) 超伝導
特定の金属や化合物などの物質を超低温に冷却したときに、電気抵抗が急激にゼ
ロになる現象。
(12) 半値幅
山形のピークの広がりの程度を表す指標。ピーク値の半分の高さでの幅で表され
ます。放射線測定ではエネルギー分解能を表すのに使われます。
ピーク
分解能が悪い 分解能が良い

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(13) LX 線の放出率
α崩壊に伴い LX 線が放出される割合。Pu の同位体ごとに放出率が異なります。
(14) 先行基礎工学研究
原子力機構の公募型の共同研究制度。原子力機構が取り組む研究開発プロジェ
クトに先行する基礎工学研究において、原子力機構が研究協力テーマを設定し、研
究目的を達成する上で必要な研究協力課題を募集しています。
(15) 透過力
放射線の物質中を通り抜ける能力。X 線は物質を透過しやすく、人体内部の撮影
などに利用されていますが、α線は透過し難く、紙などでも遮へいされます。
(16) 半導体検出器
半導体の性質を利用した放射線測定器。従来の放射線測定器のなかでは最もエ
ネルギー分解能が高く、γ線や X 線の分析測定に用いられています。
(17) 肺モニタ
人体の肺中のプルトニウム量を測定する装置。人体の外側から測定するためにPu
から放出される LX 線を測定しています。主に身体汚染トラブルなどの緊急時に使用
されます。
(18) X 線望遠鏡
宇宙からの X 線を観測する望遠鏡。現在、天文学では様々な波長での観測が行わ
れ、電波望遠鏡、赤外線望遠鏡、可視光望遠鏡、紫外線望遠鏡、X 線望遠鏡などが用
いられています。
(19) mK(ミリケルビン)
温度を表す単位。国際単位系の基本単位の一つです。ケルビンはすべての分子
の運動が停止する絶対零度を 0 ケルビン(K)とした温度で、0 ケルビンは-273.15℃。
1 ミリケルビンは 1 ケルビンの 1/1000 です。
(20) keV(キロエレクトンボルト)
エネルギーを表す単位。電子 1 つが 1 ボルトの電位差で受けるエネルギー。1キロ
エレクトンボルトは 1 エレクトンボルトの1000 倍です。
(21) Pu のγ線測定に係る研究
米国の国立標準研究所(NIST)などで核物質の探知を目的とした研究が行われて
います。(Scientific American 2006 年 11 月号 参照)

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Pu から放出されるγ線や K 殻の X 線はエネルギーが高く、LX 線よりも透過力は強
いのですが、放出割合は LX 線の 1/100 以下と低いために少ない量の分析には LX
線測定が有利です。一方、LX 線はエネルギーが低いために物質内での減衰があり、
厚い物質を通しての測定ではγ線などの測定が有利です。
239Pu から放出される X 線及びγ線の割合
エネルギー(keV)
放出割合(%)
LX 線
KαX 線
KβX 線
γ線
11.6~20.7
94.7~98.4
110~115
38.7~129
4.66
0.0108
0.0182
0.0331
注)KαX 線や KβX 線は K 軌道の遷移を起源とした X 線
(22) 237Np、244Cm
237Np、244Cm は超ウラン元素の核種。使用済燃料再処理後の放射性廃棄物となる
ので、MOX 燃料に混ぜ合わせて燃焼させることが研究されています。