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ドクター塚本 白衣を着ない医者のひとり言
ドクター塚本  白衣を着ない医者のひとり言
No.128 高血圧の治療を考える
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 立冬を迎え木枯らし一号が吹き、冬が駆け足でやってきました。寒くなると血圧が気になる人も多いことでしょう。白衣を着ない医者の私は、高血圧の患者の治療に当ったことはありません。でも保険会社で診査の実務や疫学的な研究をしたおかげで、高血圧とのお付き合いは随分長いと思っています。もちろん個人を対象にする臨床医学ではなく、集団医学という立場ではありますが。

 さて今回は、高血圧治療について考えてみることにしたのですが、現に主治医から高血圧の治療を受けておられる方々が読まれたら、ひょっとして混乱に陥れるかも知れない、と心配もしています。

 高血圧についての常識の1つに、「高血圧の薬は一生飲みつづけなけらばならない」というのがあります。もう随分と昔のことになりますが、東北地方の住民を長期にわたって観察してきた小町らの疫学研究で、年代とともに平均血圧値は低下していること、その要因として当初は降圧剤の影響が大きかったのですが、次第に栄養をはじめとする生活習慣の改善が寄与していることが明らかになりました。現在も厚生労働省の「患者調査」(平成17年10月実施)によると、全国の医療施設を調査日1日に受診した外来患者 ― 人口の約5.6%です ― のうち、傷病分類のトップに位置する病気は高血圧性疾患(受療率人口10万対504)です(国民衛生の動向2008)。短絡していうなら、外来診療のドル箱的病気ということになります。

 高血圧に有効な治療薬はつぎつぎに開発され、少ない副作用で確実に血圧を下げることが可能になりました。高血圧患者の福音となっていることは間違いありません。私自身も以前は一生飲みつづけることが必要だと信じていました。

 しかし少数派ではありますが、降圧剤の治療に疑問を呈する「臨床医」もおられるのです。最近、①「治療をためらうあなたは案外正しい」(日経BP社 2008年10月)、②「血圧心配症ですよ!」(本の泉社 2008年9月)をそれぞれ出版された二人の内科医、名郷直樹・東京北社会保険病院研修センター長と、松本光正・おおみや診療所長です。

 まず名郷先生のお考えから紹介しましょう。彼の著書①には「EBMに学ぶ 医者にかかる決断、かからない決断」という サブタイトルがついていることからもお分かりのとおり、福井次矢・聖路加国際病院長らとともにわが国にEBM(根拠に基づく医療)を導入した先駆者のお一人です。

 高血圧を放置しておくと脳卒中の危険が高いとは、常々いやというほど聞かされています。彼は分かり易く「70歳代で収縮期血圧(上の血圧)が160mmHgの高血圧患者」を例にして次のように説明します。

1) この患者が5年間無治療のままで過すと、脳卒中(彼は脳出血と脳梗塞を区別せず合計しています)を起こすのは10%だと言います(久山町研究などの疫学調査データをエビデンスにして)。一方、血圧正常の70歳の人は5年間で3%の脳卒中発症率ですから、この患者はほぼ3倍高い危険率をもっていることになります。
2) ではこの患者が降圧剤治療を受けると、脳卒中をどれくらい減少させることができるかですが、答えは10%の脳卒中を6%に減らす治療効果があるのです。
3) ここで治療効果を評価するための指標を提示されます。
相対危険=治療群の発症率を非治療群の発症率で割った数字です。この例では、6%÷10%=0.6です。薬の効果によって発症率が0.6倍に下がったのです。
相対危険減少=1-相対危険、1-0.6=0.4。医者がよく患者に「薬の治療によって脳卒中の危険が40%減少します」と説明するときに使う指標です。

絶対危険減少=非治療群の発症率から治療群の発症率を引いた数字、10%-6%=4%。少しややこしいでしょうか。イとウは割り算と引き算の関係になっています。

必要治療数=絶対危険減少の逆数、1÷0.04=25。これは25人治療すると脳卒中が1人減少するという指標です。イメージとしてはヒットが1本出るまでの打席数と同じです。

 高血圧の薬による治療効果は、いろいろな表現ができるので混乱させたかも知れません。この例(70歳で血圧160)の場合、次のように要約されます。

 ・10%の脳卒中を6%に減らす

 ・40%脳卒中を減らす(相対危険減少でみた場合)

 ・4%脳卒中を減らす (絶対危険減少でみた場合)

 ・25人治療すると1人脳卒中を予防できる(治療必要数でみた場合)

 ・薬を飲んでも6%が脳卒中になる

 ・薬を飲まなくても90%は脳卒中にならない

 いかがですか。「高血圧を治療すると脳卒中が減るという明確なエビデンスがある」という表現は妥当なものです。でも血圧の薬を飲まなくても、脳卒中にならない人の方がずっと多いし、薬を飲んでも脳卒中になってしまう人もいるのです。話は明快どころかあいまいなものだ、とも言えます。治療をするにしてもいろんな選択があって、患者の決断が要るし、上手にその決断を手助けするのが理想的な臨床医だと言わんばかりです。データから分かるのはあくまで平均値ですから、一人ひとりの患者に何が起こるかは決して明確ではありません。主治医も患者もエビデンスを活かしてゆくには、データが示す平均像と患者個人との違いを知っておくこと、本当に高血圧以外に重要なことはないのか、副作用と医療費のことを考えているか、の3点に注意することが必要だ、と強調されています。本当に患者の立場に立って、EBMを実践しておられる名郷先生の臨床医としての姿勢には心を打たれます。

 松本先生の著書、②にもサブタイトルがついています。「まだ『薬』で血圧を下げているあなたへ」です。高血圧を放置していると脳卒中で倒れるという脅しの大合唱のなかで、「血圧心配症」になっている現状を憂い、彼の診療所を受診する60歳の患者との対話形式で持論を展開してます。名郷先生のやや理屈ぽい説明とは対照的に、単純明快に割り切って説明されます。血圧そのものが生理的に変動するもので、合目的性があるから高くも低くもなるのに、一日に何回も血圧を測ってその値に一喜一憂していると「血圧心配症」になってしまうので、家庭血圧計の普及にすら疑問を持っています。

 ご自身の臨床経験から脳卒中を脳出血と脳梗塞に分けて観察すると、後者の方は血圧を下げたために逆に脳梗塞の発症を増やしていると断じています。実際に高血圧が減っているにもかかわらず、血圧の基準を引き下げて、今まで正常だったのに、新たに「症」のつく病人をつくってしまうのは、製薬業界が国民の健康よりも業界の利潤追求に狂奔しているせいだと厳しく批判されています。

 そして薬に頼る前に、ストレス、体重、食事、運動、休養など血圧に関係する諸要因を改善することから始めるべし、と説いています。さらに、日本で初めてヨガとプラス思考を広めた中村天風に師事されていたので、「イメージ療法」や笑い、感動、感謝、感激が最高の治療法だと結んでいます。まさに患者に「薬なし」の喜びを体験させようとしておられます。これまた臨床医の理想像ではありますが、先生の診療所の経営は大丈夫だろうか、といらざる心配までしてしまいます。 

                         (2008年11月12日)
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