1815年に起こったタンボラ山の大噴火により、直径6キロ、深さ1100メートルの巨大なクレーターが生まれた。(Photograph by NASA Earth Observatory)
1815年に起こったタンボラ山の大噴火により、直径6キロ、深さ1100メートルの巨大なクレーターが生まれた。(Photograph by NASA Earth Observatory)
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 今から200年前の1815年4月10日、インドネシアのタンボラ山が大噴火を起こした。それによって村ひとつが丸ごと消滅し、地球全体の気温は数度低下し、世界中で飢饉(ききん)と疫病が蔓延した。

 これは歴史上最大規模の噴火として、今もその記録は塗り替えられていない。イタリアの古代都市ポンペイを地図上から消し去ってしまったベスビオ山の噴火と比べると、実に20倍の規模である。現在、同じ程度の噴火が起これば、当時よりもさらに大惨事を引き起こすだろうと専門家たちは口を揃える。

 交通、食料、人道的支援のインフラは今のほうがずっと整ってはいるものの、「現在地球の人口は70億人、世界の食料と貿易ネットワークははるかに複雑になっています」と、米イリノイ大学の環境歴史家ギレン・ダーシー・ウッド氏は語る。2010年にアイスランドのエイヤフィヤトラヨークトル山が噴火した後、世界的に空の便に大幅な影響が出たことを覚えているだろうか。あの噴火は、タンボラ山に比べればかなり小さなものだった。

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 タンボラ山の噴火による死者は推定7万1000人から12万1000人とされている。しかし、世界は当時よりも人口が増加し、過密になっている。もし今、タンボラ山と同規模の噴火が起これば、さらに多くの命が危険にさらされるだろうと、ピッツバーグ大学の火山学者ジェイニーン・クリップナー氏は言う。

噴火が引き起こす気温低下

「世界には、約1500の潜在的活火山が存在しています」と、クリップナー氏。そして、これらの火山から半径100キロ以内に約8億人が生活している。噴火が起これば身に危険が及ぶかもしれない地域にかなりの数の人々が住んでいることになる。

 タンボラ山の周囲で噴火直後に犠牲となった人々の多くは、強烈な熱さのガス、灰、岩石が火砕流となって押し寄せ、命を落とした。そして火砕流は、火山から25キロ離れた村を丸ごと呑みこんだ。これらの人々が存在していたことを今に伝えるわずかな証しは、地中から見つかった生活用具、激しい熱で炭化した2体の人骨、48語だけを残して消滅してしまった言語である。その後、飢饉が発生し、長雨で衛生状態が著しく低下したことで腸チフスなどの疫病が蔓延するなど、噴火の影響は世界規模に広がっていった。

タンボラ山の噴火で埋もれた街から出土した遺品。くるみ割り器(写真左上)、急須(右上)、煙草入れ(左下)、シルバーの指輪(右下)。(Photograph by Dwi Oblo, National Geographic Indonesia)
タンボラ山の噴火で埋もれた街から出土した遺品。くるみ割り器(写真左上)、急須(右上)、煙草入れ(左下)、シルバーの指輪(右下)。(Photograph by Dwi Oblo, National Geographic Indonesia)
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「過去の歴史から、この手の自然現象が地球の気温を2~3年にわたって低下させることが分かっています」と、ロードアイランド大学の元火山学者で、ナショナル ジオグラフィックの支援研究者でもあったハラルデューア・シグルドソン氏は語る。

 タンボラ山の噴火によって、地球の大気に灰や硫黄が舞い上がり、太陽の光を遮って、世界的な気温は1.7℃低下した。もっと最近の例としては、1991年にフィリピンのピナツボ山の噴火でやはり地球の気温が0.5℃低下した。それほどの規模の気候変動が起これば、農作物への被害も大きいと、シグルドソン氏は説明する。

気候変動による食料難と飢餓

 ウッド氏によると、タンボラ山の噴火によってヨーロッパは食料難に陥り、各地で暴動が発生したという。特にスイスへの影響は深刻だった。子どもに食べ物を与えられなくなった母親たちは、飢餓で苦しんで死んでいくわが子を見るに堪えず、自らの手で殺害した。彼女たちは後に裁判にかけられ、斬首刑となった。

 たとえ今日の技術を結集したとしても、あれほどの規模の気候変動危機に対応するのは難しいだろうと、ウッド氏は言う。「そうなったらもう、耐え抜くしか道はありません」

 クリップナー氏は、噴火がいつ、どこで起こるかは、未だに科学で予知することができないと語る。たまに考え出すと夜眠れなくなるというが、「まだまだ解明すべきことは山ほどあります」という。活火山のなかでも特にリスクの高い山をモニタリングすることで、研究者はより明確な予測を立てることができる。それが多くの命を救うことにつながると、彼女は語る。

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文=Jane J. Lee/訳=ルーバー荒井ハンナ