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教材 3:
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教材 3:
宇宙フライトによる健康へのリスクと生体に起きる変化

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3.宇宙フライトによる健康へのリスクと生体に起きる変化
From the Physiology Slide Set of the American Society of Gravitational and Space Biology
https://www.asgsr.org/index.php?option=com_content&view=article&id=1536:asgsb-slide-sets&catid=65:news
宇宙飛行士がロケットに乗って低地球軌道上の施設(ISS 等)へ向けて打ち上げられてから数か月程の
一定期間その与圧部に滞在し、さらに地上へ帰還するまで実際どのような環境の変化を経験し、その結果
どのような影響が生体に及ぼされ、またそれに対する適応等の変化が見られるのか、時系列的にこの章
で追っていくこととしましょう。
現在、ISS へ向かう宇宙飛行士は専らロシアのソユーズロケットに搭乗して打ち上げられている。かって
の宇宙開発黎明期のマーキュリー、ジェミニ、アポロ計画等での打ち上げにおいては 8g もの重力加速度を
宇宙飛行士は経験したが、退役してまだ間もないスペースシャトルやロシアの現在運用されているソユー
ズロケットでは打ち上げ時に経験する加速度は通常 3~4g に抑えられている。ロケットが発射されてから、
その加速によって得られる速度は甚だ大きく、結果 10 分たたないうちに約 8km/s の速度に達し、軌道船搭
乗の宇宙飛行士は周りがすでに、いわゆるヒトにとっての“無重力”状態になっている(地球周回軌道に投
入された)ことを知るという。
その後数日内にロケットにより打ち上げられた軌道船は ISS に無事ドッキングし、以降宇宙飛行士らは
ISS 内与圧部での日常生活が始まる。
3.1. 宇宙酔い Space Motion Sickness
宇宙フライトの生活開始(ヒトにとって無重力環境に曝されて)から数時間ほどして突然前触れもなく、吐

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き気、めまいや方向感覚の喪失(宇宙酔いの初期的兆候)の症状がしばしば、ほぼ半数程度の飛行士に
起きる。特に船内を宇宙飛行士が活動的に動き回ったり、あるいは他の宇宙飛行士が逆さまに宙に浮い
ている様を見たりするとその宇宙酔い症状はより現れやすくなるとした報告がある。実際、その状態では最
初、宇宙飛行士は最悪食べ物を飲み込んだり、水のような液体さえまともに飲み下せず、結果急速に脱水
症状を呈してしまう例もみられる。これが数日続いて後普通収まっていくが、実際軌道上で起きた症状が重
症となれば、船内に常備されている薬(プロメタジン類; 抗ヒスタミン、中枢神経抑制、鎮静、嘔吐抑制作
用等が期待される)の力を借りることを余儀なくされることとなる。
この症状はその発生機序が十分解明されるに至ってないが、地上での“乗り物酔い(動揺酔い)”とはそ
の発症メカニズムが基本的に異なるとされる。
地上でヒトは自分の位置や身体状況を主に目からの視覚、並びに前庭系(ぜんていけい;回転運動を知
覚する三半規管(さんはんきかん)、及び重力や直線運動を知覚する内耳(ないじ)の耳石(じせき)からの
情報を統合)にもたらされる感覚、さらに筋肉や腱からの体性感覚をも加え統合することにより常時把握し
ている。そうした履歴から宇宙フライト生活に唐突として入ると目からの視覚情報は地上と変わらない。に
も拘らず、一方前庭系からの重力・回転加速に関する知覚情報が突如として絶えることから、それまで経
験したことのない主要両システム不整合の状態におかれ、結果脳中枢のそれら情報処理の過程が混乱し、
これが原因となって“酔い”の症状として表れるとした考えが多くの研究者の同意するところである(感覚混
乱説)。
但し、宇宙飛行士のその症状も 1 週間も立つと大体全て収まり、また宇宙フライト経験が 2 回目、3 回目
となった宇宙飛行士ではその発症頻度はより小さくなるようである。
3.2. 体液シフト (体液の頭方移動) Fluid shifts (Puffy Face/Chicken Leg Syndrome)
地上でヒトが活動するとき、その姿勢は起立状態が基本形である。当然、地上では 1g の重力下にあるた
め、心臓からポンプの作用で全身に送り出される血液のうち、足の方へ向かう流れについては下向きに引
っ張る重力の作用も加わり、次に下肢の末端に達した血液を上半身へ押し戻すためには主に下肢部の筋
肉や血管の収縮する力を動員し、重力により下へ下る自然の勢いに打ち勝っている。そうした血液の行き
帰りにおけるバランスが保たれていたのが地上での生活であったものの、“無重力”に突然曝され続ける宇
宙フライト生活が一旦始まると、この平衡システムが一気に崩れることとなる。結果、地上では下半身の方
に引っ張られ、そこに一旦より集まっていた血液等体液のプール部分が今度は頭部など上半身の方に途
端に回ってくる状況が起きる。これを「体液シフト」と呼ぶ。
身体の各部において、たとえば頭部では血液やリンパ液が急速に増加した状態となり、即ち顔はその見
た目がむくんだ有様となり(Puffy Face)、実際宇宙飛行士は頭部の充血感や鼻づまりの症状を覚えること
となる。また下半身の方、下肢でも 1 日も立たないうちにみるみる細くなって行く(Chicken Leg)。このように
してシフトした体液の量は 2l(リットル)にも及ぶとされる。

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血圧や血液の容量と測る体内センサーはそのほとんどが身体の上体部に存在することなどのため、体
液の頭方移動は体液量の急激な増加としてモニターされることとなり、その結果、腎臓から過剰とみられた
水分を尿として排泄させる反応(利尿)が起きる。そのようにして全身を循環する血液量が減らされていくこ
ととなり、この反応は数十分ですでに急速に進み、数日後には安定状態に移行するとされる。こうした血液
(血漿)量の減少は宇宙フライト開始数時間後には始まり、数週間後には地上における正常値より十数%
下がったレベルで安定して行く。
宇宙フライト生活適応後、地上と比べ低下した状態で安定化した心循環機能ではあるが、地上へ帰還し
例えば無理にでも立ち上がった姿勢を取らされようとなどすると、動悸や立ちくらみ、ひどいケースでは失
神状態となる(起立耐性の低下)。このため、地上への帰還に際しては、宇宙飛行士は特に 1 週間ほど前
から下半身陰圧負荷(Lower Body Negative Pressure; LBNP)装置を使って、上体の体液を下半身側
へより移そうとする前処理をとられるのが通常となっている。また、帰還前に 1 リットルほど生理食塩水を飲
むといった対策も滞在期間が短期(1~2 週間程度)的だったスペースシャトルの運用時には帰還後の起立
性失調を軽減する目的で行われていたが、宇宙フライト滞在期間が6ヵ月程が通常となった昨今では十分
な効果が認められなくなってきたという。
(クレジット;NASA)
3.3. 身長(背骨)が伸びる Spine Growth
脊椎(せきつい; 一般的に背骨といわれる)はヒトの場合、約 30 個の椎骨(ついこつ)とよばれる骨が連
なって構成されている。さらにそれぞれの椎骨の間には円形の線維軟骨である椎間板(ついかんばん)が
あり、それは衝撃からまもるクッションの役割や、脊椎の一連の動きを支えたり、それらを全体として保持す
る機能もまた担う関節である。また、下肢の骨にもその継ぎ目に関節軟骨が同じく存在するが、それら地上
で体重負荷の大きかった骨の間の関節軟骨は重力により同様に圧縮されているのが常態になっている。
それら地上で特に体重負荷を大きく受けていた関節軟骨において、宇宙フライト生活の始まりと共にそれ

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まで掛かっていた重力負荷が一気に解放され、結果有意に伸びを生じることが知られている。実際、例え
ば椎間板一つ当たり数 mm の伸びが生じるとされ、それら脊椎、下肢の部分すべてが加算される。さらに
背骨のS字湾曲がより緩やかになる効果も加わる。こうした結果、宇宙フライト生活開始以降、身長が7cm
以上も伸び、そのため予定されていた船外宇宙服をの着用が困難になったという報告もある一方、母数の
大きい米国宇宙飛行士で大体 3~5cm ほどの身長の伸びが一般的のようである。
また、その変化に恐らく由来すると考えらえる背中や腰の痛み、これを訴える宇宙飛行士が半数以上に
も上ると見られる。結果、例えばその痛みのせいで睡眠時に深い睡眠が取れずに健康にマイナスとなり、
また宇宙飛行士の重要な業務となる各種作業の遂行を妨げるといった悪影響を誘発する懸念がある。
また最近、宇宙飛行士の脊髄周辺の筋肉の状態を調べた結果、実際“脊髄筋”に衰えが宇宙フライト生
活に伴ってみられ、さらに残念なことに地球帰還後もその症状は簡単にはまた完全には回復しないとした
データがある。それらが原因の恐らく一端か宇宙フライト生活で発症した腰痛、背中の痛みを訴える宇宙
飛行士の人数は地球帰還後、若干減るものの、依然として 4 割ほどの宇宙飛行士が長く苦しむとした報告
がある。
3.4. 宇宙(フライト)貧血 Astronaut Anemia, SpaceFlight-related Anemia
宇宙フライト生活に伴って、宇宙飛行士の上記血漿量の減少とは別途、赤血球の量が減少することは有
人宇宙開発黎明期以来、古くから報告されてきた症例で、それは“宇宙(フライト)貧血”と呼称されてきたも
のである。
しかしながら、2017 年 9 月に科学雑誌「BMC Hematolgy」に掲載された NASA ジョンソン宇宙センター、
Brian Crucian 博士らの研究発表によれば、結論としてこの症状は実際、長期有人宇宙ミッションの重要な
懸念事項には該当しないであろう可能性が示唆された。
即ち、これまでの報告は宇宙飛行士の地上帰還後に採取した血液サンプルを分析した結果によるもので
あり、そこには宇宙フライト以外の他の様々な要因、例えば着陸によるストレスや地球帰還後の再適応の
過程での生理現象による寄与も含まれた可能性を排除できず、博士らの最新の研究ではフライト中の血
液を軌道上で採取保存した血液サンプルの解析に基づく成果である点を強調している。その結果として、
宇宙フライト生活開始以降、赤血球、血小板や酸素運搬タンパク質ヘモグロビンの濃度がフライト前のレベ
ルと比較してより高く、またヘマトクリット値(血液中に占める血球の体積の割合)もその期間中、増加する
ことを認めた。従来の研究ではそうした上昇はフライトの初期段階に限定された一過性のものとされ、その
後は逆に正常レベルよりも貧血傾向に傾いていくとされてきた。一方彼らの測定によれば、長期ミッション
において十分その微小重力環境に適応した後もその上昇傾向が続くことを示すデータが得られたとしてい
る。さらに博士らによれば、地球へ帰還後の宇宙飛行士の血液の測定パラメーターいずれの値も帰還後
30 日以内にはフライト以前の正常値に戻ったということである。
実際、精密な作用効果の解明は長期有人ミッションにおける血漿の容量変動に関する研究が必要であ

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り、さらにいくつかの研究の成果が待たれるところである。
3.5. 視力・眼球への影響 (視覚障害頭蓋内圧症候群) Vision Changes (VIIP; Visual Impairment
Intracranial Pressure Syndrome)
ヒトが軌道上宇宙船に滞在する有人宇宙フライトはかのガガーリン以来古い歴史を持つが、比較的最近、
多数の宇宙飛行士による 6 カ月程度の長期有人ミッションが通例となって以降明らかになり、急速に問題
視されるようになってきた症状がある。従来、宇宙フライトによる視力・眼球へのネガティブな影響はそれま
で単発的な報告が散見されていたものの、宇宙医学の分野で重篤なリスクとは認識されてこなかった。有
人火星ミッションは現代のロケットテクノロジーでは往復 2 年半から 3 年ほど要するが、それが現実的に計
画実行される前に予め十分解明されておかなければならない重要課題がいくつかある。従来、①宇宙放射
線被曝に係るヒトへの影響(発ガンリスクの増大と中枢神経系機能に蓄積するダメージ)研究と防御対策、
並びに②微小重力環境への曝露による骨・筋肉が受ける廃用性マイナス影響の研究と対策、この 2 つが
二大巨頭として正に大きな障壁として捉えられてきた。そうした身体的な課題に加え、さらにその先に正に
次元を異にする最後のそしておそらく最大の克服されるべき重要課題として、地球-月系(Earth-Moon
System)から離脱して、火星以遠 3 年以上にも及ぶ長々期ミッションで宇宙飛行士が直面するであろう心
理学的ストレスに関する研究と対策が想定されてきた。
そして本症状によるリスク(長期ミッションでなんと半数に近い宇宙飛行士に視力・眼球へのネガティブな
影響の認められたこと)が 2011 年 10 月、医学雑誌”Ophthalmology”上で公開されたことを契機に宇宙医
学分野の多くの研究者に衝撃を持って新たにクローズアップされるところとなり、現在では上記①、②に加
えて言わば 3 大障壁の一つとしてまで認識される状況となってきた。実際、本症の課題は火星有人ミッショ
ンを想定した場合に骨・筋肉の課題よりも重要重篤である可能性を、また ISS で 6 カ月の長期滞在時には
一番の医学的リスクになるのではと判定する研究者も出てきている。
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クレジット;NASA (2014 年、軌道上で眼底検査機(fundoscope)を使い、目の映像データを取得する
Karen Nyberg 宇宙飛行士)

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実際、ISS 宇宙飛行士の約 1/3 で、本来球形であった眼球の後ろの部分がより扁平になり、脈絡膜(みゃ
くらくまく; 目の網膜の外側にある膜構造)がより厚く、また視神経鞘のうっ滞が観察されている。
そうした結果、網膜がより前に押し出され、そのため目の焦点の合う距離が変化し、今までよりもより遠くが
見えやすく、また逆に近くが見えにくくなる。即ち、視覚がぼんやりする症状となるという。
2017 年 2 月号の雑誌 “Journal of Physiology”に掲載された Texas 大学・南西校の Benjamin Levine
博士らグループによる報告では、微小重力環境でのヒトの頭蓋内圧は、地上で立ったり座ったりしている時
と比べればよりも高いが、地上で横になり睡眠をとっている時よりは低いという。実のところ、地上では立っ
たり横になったりといった姿勢の変化に脳脊髄液は柔軟に対応しており、一方微小重力環境下では姿勢を
変えても体内の検知システムにはこうした姿勢の変化が生じたとは認識されず、また体液シフトの影響もあ
って結果脳脊髄液がよりたまった状態で、それら知見を統合して宇宙フライト中、飛行士の目の後ろに掛
かる圧は実際一定と著者らは想定する。よって本症状の対処策として、宇宙飛行士の睡眠中、下半身に
陰圧負荷装置を装着して働かせ、それにより間欠的にも宇宙飛行士の頭蓋内圧を下げることにつながれ
ば、結果改善可能ではないかと期待しさらなる研究を進めている。
NASA の Scott Kelley 宇宙飛行士による 1 年滞在ミッションの本分野関連の検索結果が 2017 年、発表
された。1 年滞在ミッションからの知見は、実際 6 カ月滞在で見られた効果がさらに時間経過と共により増
大するのか、また 6 カ月で発症しなかった宇宙飛行士にも遅ればせながら本症状がでてくるのか否かなど、
一例であるといった予備的な内容ながら、重要な情報をもたらすものと関係者らに期待されたところである。
NASA ジョンソン宇宙センターの Scott Smith 博士らグル-プによる解析では、視覚障害を発症した宇宙飛
行士は、それを発症しなかった宇宙飛行士と比べて、地球を旅立つ前にすでにその生化学上の違いが認
められ、即ち遺伝的素因がそこにはあることを示している。
いずれにせよ本課題に対する研究もその他多方面からのアプローチによる迅速な進歩を遂げているが、
益々今後の検証・発展が待たれるところであり、今後積み上げられるべき知見の総体から見れば依然とし
てその表面を削った程度に過ぎず、すべての決着にはスペシャリストらの先の長い地道な努力、働きが必
要とされる。
3.6. 宇宙頭痛 Space Headaches
宇宙フライト生活を過ごすなかで、実は多くの宇宙飛行士が強い頭痛、時に何も手につかないほどの激
しい頭痛に悩まされることが比較的最近分かってきた。これまで宇宙滞在時における自身の身体の不調に
ついて、宇宙飛行士は自ら進んで積極的に報告しなかったことが理由の一つである。と言うのも、将来の
宇宙ミッションのクルー候補から健康上の見地により外されることを恐れるためで、近年の調査では匿名
の保証されたことがそうした症例特定確認の契機となった。
宇宙フライト生活において頭痛の発症は、心理的にも身体的生理学的にもネガティブな影響を及ぼし、
結果宇宙飛行士の期待された業務上のパフォーマンスを低下させ、最終的にミッションの成否に係わるこ

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とさえ危惧され、即ち本課題に対する研究もまた重要と言える。
発症の原因であるが、オランダ Leiden 大学・医療センター・Alla Vein らによる 2009 年 6 月の調査報告
(医学専門誌”Cephalalgia”に掲載)によれば、当初有力視された“宇宙酔い”によるものではなく、正確な
作用機序は不明ながら宇宙フライトにおいて発症する疾患のうち、新規に独立して分類されるべきものと
論じている。依然仮説のレベルながら、体液シフトを根本原因とし、頭部における顔面浮腫(がんめんふし
ゅ)の症状(頭部の血流が増え、圧力が上昇すること)が影響を及ぼし、結果痛みに結びついた可能性を上
げている。
また、宇宙飛行士が特にグループで活動しているときにその発症がよりみられるとの相関から、即ち与
圧部内の二酸化炭素の濃度が高くなった区域(ポケット)内での活動によるものとの推定もある。ISS は微
小重力環境にあるため、当然ながら与圧部内では人為的に空気を強制循環させている。その組成に関し
詳細に見ればキャビン空気中の二酸化炭素濃度は若干ではあるが、ベースとして地上における値より高
い。その循環システムは含まれる気体を拡散混合する能力に関し、無沈降・無対流による効果を実際地上
でのレベルに追い付くほど十分にまた即座に打ち消すほどではなく、結果ある特定のキャビン内区域ある
いは飛行士らが集団でまとまり作業を行う場合など、局所的あるいは一時的に CO2 レベルの上昇した空
間が生まれ、そこで高い二酸化炭素濃度の空気を吸うことによる悪影響がこの原因とする見方である。
3.7. 筋肉の委縮、骨量・カルシウムの減少 Muscle Atrophy and Bone Loss
宇宙フライト生活の開始に伴って宇宙飛行士の骨への加重刺激が一気に減り、結果骨組織でもいわゆ
る廃用性委縮の進むことが実際判明してからすでに久しい。かつてのスカイラブミッションにおいて宇宙フ
ライト生活が進むにつれ、地上で体重負荷が大きかった下肢の骨(かかとの骨;踵骨)で 1 カ月当たり 1%
程度の骨密度の減少があり、一方上肢の骨ではほぼ変動が見られなかったとの報告があった。さらにそ
の後の多くの研究成果から、そうした体重負荷の大きい骨ばかりでなく、負荷の小さい上体の骨(手指骨な
ど)でも脱灰(だっかい)の起きることが明らかにされてきた。
地上において我々人類を含む脊椎動物では、骨に適正な強度のあることが身体を重力に抗して支えた
り、内臓や脳など重要な器官を格納保護し、また外界に対して運動する上で重要必須の役割を持つ。実際、
重力に依存した体重や運動などの衝撃、外力によって生じる圧刺激が骨形成、骨吸収に関わる一連の代
謝系の活動を促進し、その結果適正な状態に維持されている。その代謝系の中心的役割を果たしている
のが、骨を作る骨芽(こつが)細胞と骨を吸収する破骨(はこつ)細胞である。一旦、宇宙フライト生活が始
まると、地上で不断に受けていた重力刺激が消失することから、それまで保たれていたバランスが崩れ、
破骨細胞の働きはほぼ変わらぬ一方、骨芽細胞の働きが落ち、結果地上での適正状態と比較し骨形成よ
りも骨吸収の方が大きく、骨代謝のいわば負のインバランス状態へ宇宙フライト経過日数と共に悪影響の
蓄積していく。このことが宇宙医学分野で特に長期有人宇宙フライトにおける重大リスクとして捉えられて
いる。対策として、最近は骨粗しょう症の標準治療に使われるビスフォスフォネート(BP ; bisphosphonate)

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という薬の投与、並びに宇宙食にビタミン D と Ca を補うといった試みも行われている。
同じように宇宙フライト中に筋肉も負荷が減った足のほうからやせていく。ふくらはぎの筋肉などは 1 日
に約 1 パーセントずつやせ細り、毎日 2 時間の運動をしても 6 カ月間で平均 10~20 パーセント、最大では
30 パーセントも減ったとの研究報告さえある。一方、腕や肩など上半身の筋肉は船内作業で頻繁に動か
すため、比較的減りにくい。それでも地上で普通の生活を送る 60~80 歳の高齢者が、20 年間で平均 40
パーセント筋肉が減少するのに比べると、微小重力がいかに体に影響をおよぼすかがわかる。当然、対策
として宇宙フライト生活に入った宇宙飛行士は、一日当たり 2 時間もの運動を週 6 日行っているが、6 か月
間の宇宙フライト生活で 10-20%(1%/日)も委縮する。この 1 日分の変化は、寝たきりの 2 日分、高齢者
の半年分に相当する。
3.8. 宇宙放射線 Cosmic Radiation
宇宙放射線によるヒト等高等動物への影響に関する概要は、例えば各種成書や以下のサイト等ご参照
下さい。
http://edu.jaxa.jp/seeds/pdf/2_radiation.pdf
3.9. 心理学上のリスク Serious Psychological Problems
将来、地球/月系から離れた天体に向けた宇宙ミッションに選ばれた宇宙飛行士はそのフライト中、地球
の家族、友人の誰とも電話を通してのような実際の会話をすることが両者を隔てるとてつもない距離によっ
て不可能となる。ビデオ・レターを介しての一方通行を往復させるといったコミュニケーションは可能でも、も
うバーチャルの相手ならともかく地球の現実の誰とも会話することが困難となる。また、テクノロジーの観点
から見て、現代のロケット技術では火星ミッションは短くとも往復 2 年半から 3 年を要する。その間、文字通
り触れ合うことが全く叶わないレベルに物理的に隔てられるのは言うまでもなく、会話を介したコミュニケー
ションさえそのような困難さ、制限を受けることとなる。
数名のクルーが数年に及び長期間一緒に暮らすこととなるが、船内のスペースには限りがあり、十分に
広々とした空間、パーソナル・スペースをそれぞれのクルーに用意することはとても難しいと言わざるを得
ないでしょう。一方、宇宙放射線被ばくレベルが船内と船外活動時では大よそ 1 桁違ってくる観点から、狭
い宇宙船内からクルーが気の向いた時に、一種の気分転換、解放感を求めて船外を散歩することも容易
に認められるものではないはずである。目的地が月以遠となると格段に精神へ及ぼす負荷が大きくなって
しまうのである。実際、クルー一人一人の人間足らしめている肝心の精神を最悪病んでしまっては、とても
ミッションの成功は覚束ない。
このような事情から、よしんばいつの日か長期宇宙フライトにかかる身体的健康上の諸課題がすべて完
璧に解決された時が訪れたとしても、このクルーの心理学的課題が最後まで、そして最大のハードルとして

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残り、我々人類の地球/月系から旅立つ、太陽系深宇宙への生活圏拡大の事業の前に依然として大きく
立ちはだかり続けると考えられる。本課題に関する研究、対策の検討など古くからまた数多く報告されてお
り、その一端を下記に記す。
Adv Space Res. 1992;12(1):301-14.
An attempt to determine the ideal psychological profiles for crews of long term space
missions.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11536972
5/28/02
The Psychological Dangers of Long-Duration Spaceflight
And the Importance of Crew Selection
http://www.dartmouth.edu/~humbio01/s_papers/2002/Corwin.pdf
November 2004
Psychological Factors for Mars Settlement
http://www.marshome.org/files2/Psychological%20Factors%20for%20Mars%20Settlement.ppt
4/14/2005
Mars Crew Selection Fact And Fiction
http://www.technovelgy.com/ct/Science-Fiction-News.asp?NewsNum=372
November 30, 2005
Scientists embrace 'cyberhugs'
http://edition.cnn.com/2005/TECH/space/11/30/cyber.hugs/index.html
10 November 2008
Step closer to crew selection for simulated Mars mission
http://www.esa.int/Our_Activities/Human_Spaceflight/Mars500/Step_closer_to_crew_selection_for_
simulated_Mars_mission
Journal of Cosmology, 2010, Vol 12, 3711-3722.
Moving to Mars: There and Back Again.
Stress and the Psychology and Culture of Crew and Astronaut

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http://journalofcosmology.com/Mars106.html
2011
Psychology of Space Exploration
Contemporary Research in Historical Perspective
http://history.nasa.gov/SP-4411.pdf
FEBRUARY 27, 2013
Psychological Challenges of a Manned Mission to Mars
https://news.nationalgeographic.com/news/2013/02/130227-manned-mission-mars-psychology-spa
ce-science/
Physiological & Psychological Aspects of Sending Humans to Mars
http://planetary-science.org/planetary-science-3/exploration-2/the-physiological-and-psychological-a
spects-of-sending-humans-to-mars/