とさえ危惧され、即ち本課題に対する研究もまた重要と言える。
発症の原因であるが、オランダ Leiden 大学・医療センター・Alla Vein らによる 2009 年 6 月の調査報告
(医学専門誌”Cephalalgia”に掲載)によれば、当初有力視された“宇宙酔い”によるものではなく、正確な
作用機序は不明ながら宇宙フライトにおいて発症する疾患のうち、新規に独立して分類されるべきものと
論じている。依然仮説のレベルながら、体液シフトを根本原因とし、頭部における顔面浮腫(がんめんふし
ゅ)の症状(頭部の血流が増え、圧力が上昇すること)が影響を及ぼし、結果痛みに結びついた可能性を上
げている。
また、宇宙飛行士が特にグループで活動しているときにその発症がよりみられるとの相関から、即ち与
圧部内の二酸化炭素の濃度が高くなった区域(ポケット)内での活動によるものとの推定もある。ISS は微
小重力環境にあるため、当然ながら与圧部内では人為的に空気を強制循環させている。その組成に関し
詳細に見ればキャビン空気中の二酸化炭素濃度は若干ではあるが、ベースとして地上における値より高
い。その循環システムは含まれる気体を拡散混合する能力に関し、無沈降・無対流による効果を実際地上
でのレベルに追い付くほど十分にまた即座に打ち消すほどではなく、結果ある特定のキャビン内区域ある
いは飛行士らが集団でまとまり作業を行う場合など、局所的あるいは一時的に CO2 レベルの上昇した空
間が生まれ、そこで高い二酸化炭素濃度の空気を吸うことによる悪影響がこの原因とする見方である。
3.7. 筋肉の委縮、骨量・カルシウムの減少 Muscle Atrophy and Bone Loss
宇宙フライト生活の開始に伴って宇宙飛行士の骨への加重刺激が一気に減り、結果骨組織でもいわゆ
る廃用性委縮の進むことが実際判明してからすでに久しい。かつてのスカイラブミッションにおいて宇宙フ
ライト生活が進むにつれ、地上で体重負荷が大きかった下肢の骨(かかとの骨;踵骨)で 1 カ月当たり 1%
程度の骨密度の減少があり、一方上肢の骨ではほぼ変動が見られなかったとの報告があった。さらにそ
の後の多くの研究成果から、そうした体重負荷の大きい骨ばかりでなく、負荷の小さい上体の骨(手指骨な
ど)でも脱灰(だっかい)の起きることが明らかにされてきた。
地上において我々人類を含む脊椎動物では、骨に適正な強度のあることが身体を重力に抗して支えた
り、内臓や脳など重要な器官を格納保護し、また外界に対して運動する上で重要必須の役割を持つ。実際、
重力に依存した体重や運動などの衝撃、外力によって生じる圧刺激が骨形成、骨吸収に関わる一連の代
謝系の活動を促進し、その結果適正な状態に維持されている。その代謝系の中心的役割を果たしている
のが、骨を作る骨芽(こつが)細胞と骨を吸収する破骨(はこつ)細胞である。一旦、宇宙フライト生活が始
まると、地上で不断に受けていた重力刺激が消失することから、それまで保たれていたバランスが崩れ、
破骨細胞の働きはほぼ変わらぬ一方、骨芽細胞の働きが落ち、結果地上での適正状態と比較し骨形成よ
りも骨吸収の方が大きく、骨代謝のいわば負のインバランス状態へ宇宙フライト経過日数と共に悪影響の
蓄積していく。このことが宇宙医学分野で特に長期有人宇宙フライトにおける重大リスクとして捉えられて
いる。対策として、最近は骨粗しょう症の標準治療に使われるビスフォスフォネート(BP ; bisphosphonate)