や視神経など体の内部にも異常がでることが知られてきました。
2011 年、眼球後部平坦化や視神経鞘径拡大などの宇宙飛行士の眼に関する所見が公表されて以来、世界中
の数多くの研究者たちが、その起源の解明を試みてきました。地上で模擬微小重力環境を作るため 『ヘッドダ
ウンティルト』と呼ばれる、水平からさらに 10 度前後頭を下げた状態を保持して、眼に関する実験を行って
きました。2017 年には、宇宙飛行が長期滞在になればなるほど、脳が上に移動したままで、帰還後も元には
戻らないことがあるということが報告されました。
宇宙飛行士は、定期的に眼科に関する検査だけでなく、さまざまな医学的検査を宇宙飛行前 ・飛行中 ・飛行
後に行っています。しかしながら、宇宙飛行中 ・飛行後に見られる眼球後部平坦化や視神経鞘拡大については
誰も説明することが出来ずにいました。地上では、視神経鞘拡大は頭蓋骨内部の髄液の圧力が上昇しているこ
とを示唆します。臨床の現場では、どれくらい髄液圧が上がっているかについて、腰の安全な部位に太い針を
刺して髄液の圧を測定します。しかしそのような身体を傷つける検査を、重力がほとんど無い国際宇宙ステー
ション内で行うことは現実的ではありません。一方で視神経鞘の形状は、身体を傷つけない超音波検査によっ
て観察可能であり、国際宇宙ステーション内でも行われています。宇宙飛行中に視神経鞘拡大を含む眼球形態
異常が認められた宇宙飛行士は、帰還後に髄液の圧を測定することがありますが、実際に、地球に帰還後も髄
液の圧が上昇したままである宇宙飛行士がいることが報告されています。
本研究は、既に論文などに報告されている事実を基に、宇宙飛行中の髄液の最大圧力を推定しました。その
結果、眼球後部平坦化や視神経鞘拡大の主たる要因は、髄液の圧力が上がっていることでは無く、宇宙飛行中
の大脳の上方移動であることを指摘しました。そして眼球後部を含めた眼を観察することで、脳の動きが推定
できるのではないかということを提案しました。
2.研究手法・成果
今回の研究では、髄液圧を眼球後部に存在する視神経鞘
直径から推測するために、解剖して取り出した人間の視神
経鞘の内部に圧力を加えた場合の直径変化に関する既存の
研究成果を用いて、図2のような視神経鞘の薄肉管モデル
を作成しました。次に、飛行中に超音波測定された視神経
鞘直径から、髄液圧を推測した結果、飛行中の髄液圧は
210mmHg にも上ることがわかりました(※側臥位でのお
およその正常脳脊髄圧 :10~18 cmH2O [7~13 mmHg])。
地上での臨床研究からの知見では、そのような髄液圧があ
る場合、被験者は会話もままならない状態となるはずです
が、NASA TV など一般向けのインターネット配信でもわか
るように、宇宙飛行士たちは元気な姿をしばしば地上に報
告してくれています。したがって、宇宙での視神経鞘拡大
の真の原因は別のところにあるに違いありません。
そこで本研究は、米国の研究グループによって 2017 年 11 月に報告された、ISS に長期滞在後の宇宙飛行士
に見られる大脳の上方への移動に注目しました。大脳の上方移動が起きた時、視神経は眼の後ろにある骨 (眼
窩)の隙間を通って後ろに引っ張られるのに対し、視神経を取り囲む硬膜 (図2 ・黄色 ・灰色の円筒部分)は
眼窩の骨膜とつながっているために、眼球を押し戻すように力が働くことが考えられます。それにより視神経