一月の寒い朝、漁船が陸揚げされた漁港の港内に蓮の葉状の氷が張詰めていました。誕生したばかりの蓮葉氷です。
頬を刺すような冷気のなかで透通るようなエネラルドグリーンの氷が、朝の光をあびて眩く映えています。
物音ひとつしない風景の中で耳を澄ますと氷と氷、結晶と結晶の触れ合う小さな小さな音が、静かに低くメロディーを奏でているように聞こえます。
蓮葉氷は水面が寒気によって冷やされ、結氷温度に達した海水が凍ってできます。真水は零度でこおりますが、海水は-1.8度(塩分濃度によって違う)といわれています。
結氷温度になると海中に小さな結晶が無数にできます。目を凝らしてみると雪の結晶と同じような針状の結晶がガラス細工のようにみえます。
この小さな氷の結晶が互いに絡み合い、次第に大きな塊となって板状の氷へと成長していくのです。
出来たばかりの氷はまだ柔らかく風や波に揺られて、互いにぶつかりあうと氷の周辺部がめくれた様に盛上がり、蓮の葉状の形をつくる。
これが蓮葉氷と呼ばれる所以です。
沿岸で出来る蓮葉氷は条件が揃わないと自然の状態ではなかなか見受けられるませんが、海は結氷温度になっているので何時でも凍り始めることが出来る準備が整っているということを意味します。
蓮葉氷はオホーツク海を白一色に覆い尽くす流氷期の序章なのです。
ー参考文献ー
北海道立オホーツク流氷科学センター“流氷を科学する(流氷豆知識)”
北海道新聞社紙上企画「凍る海」