知恵である.
<経営戦略について>
先ほど,問題の本質は「経営層」にあると述べたが,
経営層が果たすべき役割について,経営戦略の観点か
ら言及したい.
経営戦略は,大きく分けて2 つあると思う.一つは,
「社会の変化を先取る『革新』戦略」であり,二つ目
は,「時代を問わず不変の『基盤』戦略」である.革新
戦略の例が「AI などを駆使した生産革新」であり,基
盤戦略の例として「品質経営」「ESG」などが位置付
けられる.品質経営とは,「ものづくりの質」だけでな
く,「ひとづくり」「組織づくり」を含めた「マネジメ
ントの質向上」を指す.この場合の「ひとづくり」と
は,革新戦略に役立つ「ひとづくり」ではなく,品質
経営を行うための「ひとづくり」である.企業は,「革
新戦略」への関心が高くなる傾向があるため,品質経
営などの「基盤戦略」が後回しになりがちである.し
かし,基盤が弱体化すると必然的に問題が発生する.
従って,革新戦略と基盤戦略を「両輪」として推進す
ること,「偏りを無くすこと」が経営層の役割である.
また,革新戦略は,各社の「独自性」が求められるが,
基盤戦略の進め方はどの企業も概ね「共通」である.
品質経営の進め方については,棟近副会長から後述す
る.
[棟近副会長]
問題を防ぐために取り組むべきことが最大の関心事
と思われるが,「まず自分自身で考える」ことが重要で
ある.そのような観点で,私自身が考えていることを
述べたい.
<監査・ISO9000 認証について>
不正が起こらないように監視するしくみは必要であ
る.24 時間ビデオで監視することではなく,外部監査
員による監査,各種データの複数名による確認など,
少し外の目,複数の目が入るような工夫をすることが
必要.将来的には,AI による自動チェックなどができ
るようになると良い.人は弱いので,このような取り
組みをすることも重要である.しかし,問題を隠した
り,そもそも組織内の人が問題と認識していなければ,
内部監査,ISO 認証機関の審査などでの発見は困難で
ある.監査やQMS などのしくみは,「問題を解決しよ
う」,「再発防止しよう」,「未然防止しよう」という,
トップから最前線の社員までの「活動の共有」が前提
となって機能する.この点においても,経営層のリー
ダーシップが前提となる.
<品質経営における経営層の役割(例)>
・品質経営を「経営方針」に掲げ,展開し,PDCA を
まわす責務(方針管理)
・「個の力と組織力の向上」を奨励(小集団改善活動・
品質管理教育など)
・結果の前段階の「プロセスで問題・課題を発見」を
奨励(プロセス保証)
・問題が発生したら「隠さず,直ちに報告」を奨励(日
常管理)
しかし,しくみを導入しても経営層が無関心では形
骸化の恐れがある.一部の報道では「現場の自主的な
改善活動が行き過ぎた結果」との意見があるが,経営
とオペレーションの不一致は,現場の責任ではなく経
営責任である.
また,品質経営の本質は「人間性尊重」にある.人
間性尊重の経営とは,自主性,自分の意思により自発
的に行い,そして頭を使ってよく考え,人間の無限の
能力を発揮させる経営であり,それを具現化した取り
組みが「小集団改善活動」である.経営層は,改めて
この本質を深く理解することが求められる.
そして,問題を防ぐためには,トップが不正をして
はいけないという姿勢を示すことに尽きる.常に,不
正をしないという行動規範に従って決断をしている姿
勢を示すとともに,実際にそういう決断をすることが
大切である.私の経験では,トップが自らやれば社員
は従う.ゆえに,経営層のリーダーシップが最も重要
ととらえている.
[日本品質管理学会として取り組むこと]
<手法・システム>
自動化・機械化は投資を要するが,汎用化が進めば
コストダウンに結び付く.日本品質管理学会において
も,IoT などを駆使した汎用性のある品質管理の「手
法・システム」を開発すれば,社会全体への普及と発
展に貢献できると考えており,日本品質管理学会の中
で発足した「生産革新部会」などで進めたいと考えて
いる.
<支部活動を通して>
日本品質管理学会では支部活動を強化している.
全国各支部の行事において,本日の要旨に加えて,方
針管理,日常管理,プロセス保証,小集団改善活動,