交通事故で整骨院の過剰診療や保険金詐欺を疑われないための基礎知識

整骨院

健康保険組合連合会の調査では、整骨院では、2017年から2018年の2年で、施術回数や負傷部位を偽った治療費の不正・不当請求で不支給になった件数が、約38,500件に上ったと報告しています(※)。休業日数を水増しした休業損害証明書の偽造といった安易な保険金詐欺は、保険会社や保険会社と契約した調査会社に見抜かれます。

東京新聞2019年11月24日より

それでは、どのようなケースが保険金詐欺や過剰診療となってしまうのでしょう?

この記事では、交通事故の治療で通院を続けるにあたって、妥当な通院頻度があるのか、保険金詐欺や過剰診療、過剰請求と疑われないための基礎知識を裁判例などを交えて解説します。

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慰謝料目的で通院日数を稼ごうとする過剰診療は保険金詐欺

むち打ちの保険金詐欺の具体例・手口

そもそも「詐欺」とは、「人を欺いて財物を交付させる行為」(刑法246条1項)です。

保険金詐欺は、保険会社をだまし、保険金を支払わせる行為ですから、典型的な詐欺罪です。刑罰は10年以下の懲役刑で処罰の対象となります。

例えば、下記のような件は過剰請求・保険金詐欺にあたるのでしょうか。むちうちになって整骨院に通院しようとする被害者の例を元に確認してみましょう。

例:追突事故の被害者Aさんは、事故直後から頸椎捻挫、いわゆるむち打ち症で首や肩の痛みがひどく、会社を休んで毎日通院しましたが、2週間すると痛みが和らいで来ました。

ところが、友人から「通院期間を稼ぐほど慰謝料が高くなるので、痛みがなくなっても、疑われても通院したほうがいい」と聞かされました。

そこで「ぼったくりではないか?」と思いつつも、賠償額を増やしたいと、毎日通院を続けました。

その後3週間で痛みはなくなりましたが、担当医には「まだ痛い」と告げ、事故から3ヶ月間、2日に1回の通院を続けました。

逮捕はされない?自覚症状のみの怪我では刑事事件の立証は難しい

上記の例では、3週間で痛みがなくなった以後は、通院の必要がないのに、一種の仮病を使って治療費を支払わせたわけですので違法行為・過剰請求にあたるのではないかと疑問に思う人もいるかもしれません。

痛くないのに通院したAさんは逮捕されてしまうのでしょうか。

このケースでは法律の理屈の上では詐欺罪ですが、「だますつもりだったという内心」を裁判で証明することは困難とも言えます。

Aさんのむち打ち症のように自覚症状しかない例が多い疾病では、本当は痛みが消えていたのかどうか、だますつもりだったのかどうかは、他人からはわかりません。つまり、詐欺罪を問うことは困難なので刑事事件とはなり得ないのです。

一方で、だます意図が明白な請求があります。例えば、通院していない日に通院したと主張するような場合です。

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交通事故で過剰診療すると、治療費は支払われなくなるか

治療費の支払いは拒否される可能性があり

上記のAさんの例で刑事事件・保険金詐欺にはなりにくいことを解説致しました。

ただ、示談金(治療費、通院慰謝料、休業損害)の支払いの観点から見ると、支払いを拒否される場合はあります

Aさんの治療が「過剰診療」「過剰通院」と判断される危険があるからです。

治療費は、「必要かつ相当な実費全額」の賠償が認められるのであって、医学的に必要でも相当でもない治療費の賠償請求は否定されます(※)。

※「民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準(財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部編集発行)」

その治療が「必要かつ相当であった」という事実を立証する責任は被害者側にあります。

「怪我をしたから通院した」というだけで無条件に治療費の賠償は認められないのです。

治療費についての裁判所の判断

裁判所も、訴訟となった場合の治療費の請求については以下のように運用しています。

・「治療費は、必要かつ相当な実費全額が賠償の対象となるのであるから、単に治療を行い、治療費を支出しただけでなく、これらの治療が事故と因果関係があり、治療費として適切な支出であることを主張する必要がある」

・「治療の相当性を判断する重要な事実である治療経過、治療の内容を正確に知るために」、「診療報酬明細書が提出されることが望ましい」(※)

※「別冊判例タイムズ16 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂4版」東京地裁民事交通訴訟研究会12頁

また、過剰診療となれば休業損害にも影響しますが、裁判所では、休業損害について、次のように考えています(※)。

・「休業日数は、治療期間内の範囲内で、傷害の内容・程度、治療過程、被害者が従事している仕事の内容等を勘案して相当な休業期間を認定する」

・「無条件で休業した全期間にわたって休業損害が認められるものではない」

※ 前出「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」14頁

整骨院での過剰診療が問題となった裁判例

交通事故の過剰診療の問題では、整骨院での施術費の賠償請求をめぐってトラブルになり、争われるケースが増えています。具体的な裁判例を確認してみましょう。

福岡地裁平成26年12月19日判決

車同士の軽微な接触事故の当事者Aは、事故から4日後にB病院で「頸椎捻挫」の診断を受け5回通院した。

さらにAは事故から約20日後からC整骨院にも4ヶ月以上通院した。

C整骨院での傷病名は「頸椎捻挫、右肩関節捻挫、右背部捻挫」だった。AはC整骨院での治療費を損害として請求したというケース。

この裁判例は、Aの治療費と事故との因果関係を否定しました。

上記の判決では、整骨院での施術費用と事故との因果関係が認められる条件を次のように説明しています。

  • 施術の実施につき医師の具体的な指示があり、かつ、施術対象の負傷部位につき医師による症状管理がなされていること(つまり、施術が「医師による治療」の一環として行われていることが重要です。病院に行かず整骨院にだけ通院したという場合はこの条件を満たさないわけです。)
  • 上記の場合以外は、被害者側が次の1.~4.の各点を個別具体的に立証すること
    1. 施術の必要性
    2. 施術内容の合理性
    3. 施術の相当性(医師による治療を受けた場合と比較して、費用、期間、身体への負担などの観点で均衡を失していないかどうか)
    4. 施術の有効性(具体的な効果があったかどうか)

これらの条件は目新しいものではなく、すでに東京地裁平成14年2月22日判決(判例時報1791号81頁)が判示した考えを、そのまま踏襲しており、裁判所では、この考え方が定着していることを伺わせます(※)。

※ 東京地裁民事第27部片岡武裁判官講演録「東洋医学による施術費」(前出「民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準」2003年版、322頁)

上記裁判例では、病院から整骨院への紹介状には、レントゲン上も、神経学的にも異常が認められないこと、またAさんが整骨院での施術を希望していることが記載されているだけで、医師が医学的観点から整骨院での施術を指示したものではなかったと認定されました。

したがって、医師の指示と許可がない以上、上の基準からは4要件(必要性、相当性、合理性、有効性)をAさんが立証しなくてはなりませんが、それができていないとされました。

しかも、Aさんは事故後、整骨院に通院する前にテニス大会に出場していたことも認定されています。事故から4日経ての初受診やテニス大会への出場は、通常は因果関係を疑わせる事情と言えるでしょう。

過剰診療を疑われないための4つの注意点

では、保険金詐欺・過剰請求と疑われないように、怪我を治すために通院をする際には、どのような点に注意すればよいのでしょう。

以下にポイントをまとめましたので、簡単に確認してみてください。

①整骨院からの誘いに注意

整骨院から、むちうちの通院日数を増やしてあげるなどと誘われたら、その施術機関には関わってはいけません。

それは、あなたを水増し請求などの共犯者に引きずり込もうとしています。

②医師の指示をもらう

医療機関以外での施術は、医師の具体的な指示と許可をもらって下さい。

施術が治療上、必要かつ有効であることを紹介状、カルテ、診断書などの書面に記載してもらい、証拠を残して下さい。

医師の許可なしで、整骨院に通院することはお勧めできません。

③病院を併用して通院する

整骨院などの施術機関を利用する際には、医療機関へ通院しながら施術をしてむちうちのリハビリするほうが無難と言えるでしょう。

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④不自然な通院はやめる

痛みもないのに、慰謝料をぼったくる目的で通院回数を稼ぐことはお勧めできません。

不自然な通院は必ず目立ちますので、やめましょう。

過剰請求とされた治療費を自己負担するだけでなく、正当に受け取れたはずの賠償金まで失う危険があります

まとめ

むちうちでの保険金詐欺や過剰診療が疑われる理由は?

むちうちでの保険金詐欺や過剰診療が疑われるのは、保険会社から見て、行動の不自然さ、不合理さが目立つ場合です。

普通に病院に通院しているだけなら、通院期間が長くなったからといって、疑われることはありませんので、あまり過敏に心配する必要はありません。

保険会社に保険金詐欺や過剰診療を疑われた時はどうする?

痛くないのに通院している場合、また保険会社から疑われているような気がする場合は、交通事故に強い弁護士に相談されることをお勧めします。

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