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人と動物の共通感染症に関するガイドライン
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人と動物の共通感染症に関するガイドライン
平成19年3月

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人と動物の共通感染症に関するガイドライン
目次
はじめに ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥1
<総論>
1 人と動物の共通感染症とは ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥4
1.1 人と動物の共通感染症とは ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥4
1.2 世界と日本の現状 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥4
2 人と動物の共通感染症 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥7
2.1 人と動物の共通感染症の現状 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥7
2.2 人と動物の共通感染症の種類と感染経路 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥7
3 人と動物の共通感染症の症状 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥12
3.1 イヌ・ネコ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥12
3.2 その他の哺乳類 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥14
3.3 鳥類 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥14
3.4 爬虫類 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥14
4 人と動物の共通感染症の予防 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥15
4.1 動物への感染予防 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥15
4.2 人への感染予防 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥17
5 手指、器具、ケージ、環境等の消毒方法 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥20
<各論>
6 人と動物の共通感染症 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥27
<国内で発生がみられる人と動物の共通感染症>
6.1 オウム病 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥28
6.2 Q熱 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥30
6.3 イヌブルセラ症 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥32
6.4 エルシニア症・カンピロバクター症 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥34
6.5 サルモネラ症 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥36
6.6 猫ひっかき病 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥38
6.7 パスツレラ症 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥40
6.8 レプトスピラ症 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥42
6.9 クリプトコッカス症 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥44
6.10 皮膚糸状菌症 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥46
6.11 トキソプラズマ症 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥48
6.12 犬糸状虫症 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥50
6.13 イヌ・ネコ回虫症 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥52
6.14 エキノコックス症 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥54
6.15 ウリザネ条虫症 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥56
6.16 疥癬 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥58
<海外からの侵入を警戒すべき人と動物の共通感染症>
6.17 狂犬病 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥62
6.18 高病原性鳥インフルエンザ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥64
6.19 その他 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥66
7 関係法令 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥70
8 参考資料 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥76

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人と動物の共通感染症に関するガイドライン
はじめに
平成 17 年6月に改正された「動物の愛護及び管理に関する法律(昭和 48 年法律第 105
号)」(以下、「動物愛護管理法」という)において、動物の所有者等の責務として、「動
物に起因する感染性の疾病について正しい知識を持ち、その予防のために必要な注意を
払うよう努めること」が追加されました。これは、動物が飼養保管されるあらゆる局面で、
人と動物の共通感染症の予防措置が積極的に取組まれる必要があることから、新たに追
加されたものです。また、これに先だって平成 15 年には、「感染症の予防及び感染症の
患者に対する医療に関する法律(平成 10 年法律第 114 号)」や、「狂犬病予防法(昭和
25 年法律第 247 号)」に基づく「犬等の輸出入検疫規則(平成 11 年 10 月農林水産省令
第 68 号)」等が改正され、人と動物の共通感染症に関する対策が充実強化されています。
このような動きの背景には、エボラ出血熱や重症急性呼吸器症候群(SARS)などの新興
感染症の出現や、海外での人と動物における狂犬病の多発、人と動物の共通感染症に感
染したペット動物の日本への輸入事例、国内の動物展示施設における人と動物の共通感
染症の集団発生の事例など、人と動物を含む物資の国際的な移動の活発化や、集合住宅
など住環境の変化、ペットの室内飼いなど飼養方法の変化等により、国民の健康に対す
る関心の高まり等とともに、人と動物の共通感染症の予防対策がより重要となってきた
ことがあります。
動物愛護管理法では、人と動物の共通感染症の予防を含む、動物の適正飼養等に関す
る所有者の責務規定を実効あるものとするため、国及び地方公共団体は動物の愛護と適
正な飼養に関し、普及啓発に努めなければならないとされています。また、新たに動物
取扱業者に対しては、販売前に購入者に対して、適正飼養に関する事項の一つとして、
人と販売動物の共通感染症の種類と予防方法について説明することを義務付けています。
さらに、事業所ごとに動物取扱責任者を設置するとともに、関係自治体の開催する動物
や飼養施設の適正な管理方法などに関する研修(動物取扱責任者研修)の受講が義務付
けられています。
これらの施策等を推進するため、環境省では、動物の適正な飼養等に関して、地域に
おける指導者である都道府県等の関係自治体職員を対象とした講習会を開催するなど、
自治体等と連携しながらこれらの普及啓発に努めているところです。
本ガイドラインは、このような講習会や動物取扱責任者研修等の機会において、人と
動物の共通感染症に関する知識を総合的に、わかりやすく伝えるための参考書として作
成しました。関係自治体職員や動物取扱業者を通じて、動物の所有者等が人と動物の共
通感染症についての理解を深め、動物とのより良い関係を築くための一助となることを
期待するものです。
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<総 論>
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1 人と動物の共通感染症とは
1.1 人と動物の共通感染症とは
◇感染症とは
ある生物の生体内にウイルス、細菌、真菌、原生生物などの病原体が侵入し、
そこに住み着いて安定した増殖を行うことを「感染」といいます。「感染症」と
は、体内に侵入した病原体の増殖によって引き起こされる病気のことで、感染症
は、感染源、感染経路、感受性動物の三つの条件がそろった時に成立します。風
邪を例にとると、患者又は病原体保有者が感染源であり、風邪の原因となるウイ
ルスなどが咳などの飛沫によって、他者の体に侵入して感染する道のりが感染経
路です。人や動物がウイルスに対して感受性があり、病原体の毒性が強い場合や、
人や動物の抵抗力が弱い場合には発症します。逆に病原体の毒性が低く人に充分
な抵抗力がある場合には感染しても発症しません。
◇人と動物の共通感染症とは
「人と動物の共通感染症」には、同義語として「人畜共通感染症」や、「人獣
共通感染症」、「ズーノーシス」などの名称があります。1958 年に開催された WHO
(世界保健機関)と FAO(国連食糧農業機関)の合同専門家会議で、ズーノーシ
スは「人と人以外の脊椎動物の間で自然に移行する病気又は感染」と定義されて
います。公衆衛生の立場からは、「動物由来感染症」と呼ばれていますが、動物
愛護管理法では、動物から人への感染と同様、人から動物へ感染する疾病にも注
意を払い、動物の健康と安全を確保すべきとの観点から、「人と動物の共通感染
症」と表記することとしています。
◇本ガイドラインでの扱い
本ガイドラインでは、人と動物の共通感染症(以下、「共通感染症」という)の
なかでも国内の代表的な家庭動物と人が共に感染する病気を取り上げ、動物の適
正飼養の視点から、共通感染症の感染経路、予防方法等について整理したもので
す。
1.2 世界と日本の現状
世界には約 800 種の共通感染症があるといわれ、そのうち WHO が重要と考えて
いる共通感染症は約 200 種あり、年々増える傾向にあります。日本ではそのうち
数十種類が問題となっており、交通網の発達による人や物資等の移動量の増加、
移動の高速化等によって、今まで日本になかった共通感染症も注目すべき存在と
なってきています。
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◇世界の現状
1998 年に輸出用のプレーリードッグがペストにより大量死する事故がアメリ
カで発生し、続いて 2002 年にも野兎病によるプレーリードッグの死亡事故が発
生しました。このため日本では「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に
関する法律(平成 10 年法律第 114 号)」(以下、「感染症法」という)により、2003
年にプレーリードッグの輸入禁止措置がとられました。同様に輸入禁止措置とさ
れた動物は、ニパウイルス感染症、リッサウイルス感染症及び狂犬病の侵入防止
のためのコウモリ、ラッサ熱対策としてのヤワゲネズミ、SARS 対策としてのハク
ビシン、タヌキ、イタチアナグマがあげられます。
イヌなどの哺乳類の動物に広く感受性がある狂犬病は、現在日本では発生して
いませんが(輸入感染症例を除く)、アジア・アフリカを中心に未だに世界各国
で年間約 5 万 5 千人もの死者を出しており(WHO 2004 年)、最近ではイヌやネコ
以外にも、アライグマ、スカンク、マングース、コウモリなどの哺乳類が狂犬病
ウイルスの重要な媒介動物であることが報告されています。
また、従来人には感染しないと考えられていた高病原性鳥インフルエンザ
(H5N1 亜型)が、2003 年以降アジア、アフリカ、中東、ヨーロッパの家禽、野
鳥に広く蔓延しており、これまで(2003∼2006 年)鳥における発生が 53 カ国、
そのうち 9 ケ国において 158 人の死者を出しています。
◇日本の現状
国内では、2002 年と 2006 年に島根県と兵庫県の鳥類展示施設でオウム病が発
生し、従業員や一般来園者に感染する事例となりました。一時期日本には存在し
ないと考えられていたQ熱は、ネコからの感染など、毎年 10 例前後の患者数が
報告されるようになっています。また北海道の風土病ともいわれたエキノコック
ス症は、毎年 20 例前後の患者が報告されています。
狂犬病については、1957 年以降、日本においてイヌ・人とも発生していません
が(海外渡航者による輸入感染症例は 3 例発生)、海外における発生状況等を踏
まえ、引き続き狂犬病予防法に基づき犬の登録による全数把握と、毎年の予防接
種が確実に行われる必要があります。しかし、国内のイヌの狂犬病予防接種率は
40%台まで低下していると見られており、動物取扱業者、一般飼養者等の危機意
識の低下が懸念されています。(WHO の報告書によると、狂犬病の流行を抑制する
には 70%の接種率が必要とされています。)
人と愛玩動物の距離が近くなっている現状では、動物愛護管理法に基づく動物
の所有者等の責務に関する普及啓発及び動物取扱業者に義務付けられている事
前説明等において、共通感染症の正確な知識等の普及の必要性が更に高まってい
5

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るといえます。
また、水際対策の観点では、日本には年間約 83 万頭の哺乳類、鳥類、爬虫類
が海外から輸入されていますが(2006 年 財務省貿易統計)、海外で発生している
共通感染症の侵入を防止するため、輸入届出制度が導入され、哺乳類、鳥類等に
ついては輸入時の届出と、輸出国政府による輸出国衛生証明書の提出が義務付け
られました。また、狂犬病の感染の恐れがあるイヌ、ネコ、アライグマ、キツネ、
スカンクについては、狂犬病予防法に基づく輸入検疫が行われています。
アジアであったこんな話
ヨーロッパであった
こんな話
アフリカであったこんな話
中近東であったこんな話
オーストラリアであったこんな話
北アメリカであったこんな話
●狂犬病
●ペスト
●ウエストナイル熱
●ハンタウイルス肺症候群
●Bウイルス病
●サル痘
コウモリが原因で感染発症し、死亡
野生リス、プレーリードッグが感染源
死亡者もいる
蚊が媒介する病気、カラスの不明死に
次いで人での発生
致死率の高い呼吸器感染症、
野生ネズミが感染源
一部のアジア産のサルの唾液に
致死性ウイルスが潜んでいる
アフリカから輸入したげっ歯類から
プレーリードッグに感染し、更に人へ
●リッサウイルス感染症、ヘンドラウイルス感染症
コウモリ由来のウイルスで、新たな病気で、
死亡者発生
日本であったこんな話
●狂犬病
●オウム病
●エキノコックス症
●腸管出血性大腸菌感染症
●Q熱、パスツレラ症、猫ひっかき病
●レプトスピラ症
●サルモネラ症
海外で犬に咬まれ感染した人が
日本帰国後に発症し、死亡
展示施設の従業員で集団発生
キタキツネの糞で感染して
20年後に発症
ふれあい動物施設に来場した人で集団感染
イヌ・ネコがふつうに持っている病原体で、
過度の接触で感染することあり
感染ネズミの尿で池や河が汚染された場合、
水遊びで感染することあり
ペットのミドリガメから子供が感染し重症に
●レプトスピラ症
●ニパウイルス感染症
●鳥インフルエンザ(H5N1)
●狂犬病
洪水後、河で泳いで不明熱、
感染源はネズミの細菌
オオコウモリのウイルスが
ブタに感染した後に、
人がブタから感染して
脳炎で死亡
ニワトリでの感染がアジア、
ヨーロッパ、アフリカなど
に拡大しており、まれに
人にも感染し重症となる
犬に咬まれて感染発症し、死亡
●サルモネラ症
爬虫類のペットから、
乳児が感染して死亡
●ネズミチフス菌症
かかった原因を調べた
ところ、ハリネズミ
との接触
●ダニ媒介性脳炎
中欧で森林散策した後に、
高熱を出して死亡
●野兎病
汚染地帯で、野ウサギや
ダニから感染して発熱
●エボラ出血熱、マールブルグ病
サルから感染した後に、
人から人へ体液で感染
●サル痘
人がサルやリスなどの野生動物から
感染すると、天然痘に似た症状
●クリミア・コンゴ出血熱
動物から人が感染した後に、
人から人へ院内感染
●ラッサ熱
西アフリカでネズミが媒介する病気
患者は毎年30万人
●ブルセラ症
ウシなどの家畜にふれたり、
未殺菌乳を飲んで慢性感染
●炭疽
もともと土壌に長期生存し、
かかった動物から人が感染
(出典:動物由来感染症ハンドブック 2007 厚生労働省結核感染症課)
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2 人と動物の共通感染症
2.1 人と動物の共通感染症の現状
◇日本の代表的なペット
国内で飼われているイヌは約 1,210 万頭、ネコは約 1,250 万頭と推定されてい
ます(2006 年 ペットフード工業会)。イヌ・ネコ以外の哺乳類では、ハムスター、
リス、ウサギ、フェレットの順に多く、鳥類ではインコ、ブンチョウ、ニワトリ・
ウズラが多く飼育されています。爬虫類ではカメが最も多く飼育されています。
◇人とペット動物の共通感染症の現状とその社会的背景
近年のペットブームに伴い、ペットからうつる病気(共通感染症)についての
関心が高まっています。一部の共通感染症については、人の患者数が増加傾向に
あると報告されており(各論−パスツレラ症の項参照)、その他の共通感染症に
ついても注意が必要です。人とペット動物の共通感染症についての関心の高まり
には、以下のような社会的背景があると考えられます。
ペットとして飼育される動物の数と種類の増加
室内飼育の増加
濃厚接触の増加
交通機関の発達によるペット動物の移動
今や日本の世帯の約 60%が核家族世帯であり、約 30%が単独世帯(一人暮ら
し世帯)となっており(平成 17 年度国勢調査)、コンパニオンアニマル、家庭動
物としてのペットの需要が大きくなっています。これらのペットの多くが室内で
飼育され、気密化された室内で人と密接に接触する機会が増えています。また、
飼養する動物の種類が増え、爬虫類などの野生由来の動物(エキゾチックアニマ
ル)を飼養する人も増えています。さらに交通の発達により世界中から動物が短
時間で日本に輸入され、インターネットの普及も相まって、一般飼養者が様々な
種類の動物を簡単に飼養できる状況になっています。
2.2 人と動物の共通感染症の種類と感染経路
◇人と動物の共通感染症の種類
日本のペット等家庭動物に関わりのある共通感染症は、約 60 種程度あると考
えられています。このうち国内で発生のみられる主な共通感染症 17 種と、国内
の動物で発生がみられるものの、人への感染例のない共通感染症 1 種(高病原
性鳥インフルエンザ)、国内での発生を警戒すべき共通感染症 1 種(狂犬病)の
計 19 種の共通感染症を表1に整理しました。
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このうちエキノコックス症、狂犬病、Q熱、レプトスピラ症、オウム病、高
病原性鳥インフルエンザは、人に対して「危険性が高い」共通感染症です。そ
の他の大半は、人とペット等家庭動物の間に一般に存在する共通感染症ですが、
国内の患者数が人も動物もともに把握されていない「要注意」の共通感染症で
す。
動物にとって「危険性が高い」共通感染症は、狂犬病、レプトスピラ症、イ
ヌブルセラ症、犬糸状虫症、高病原性鳥インフルエンザです。
表1 動物群別にみた共通感染症の人に対する危険性
共通感染症の人に対する危険性
動物群
危険性が高い
要注意
イヌ
エキノコックス症
イヌブルセラ症
犬糸状虫症
ネコ
トキソプラズマ症
イヌ・ネコ
狂犬病※1
Q熱
レプトスピラ症
エルシニア症
カンピロバクター症
サルモネラ症
猫ひっかき病
パスツレラ症
皮膚糸状菌症
イヌ・ネコ回虫症
ウリザネ条虫症
疥癬
その他の哺乳類(ハ
ムスター・リス・ウサギ・フェレ
ット)
エルシニア症
サルモネラ症
皮膚糸状菌症
鳥類(インコ、ブンチョウ・
ニワトリ・ウズラ)
高病原性鳥インフルエ
ンザ
オウム病
カンピロバクター症
クリプトコックス症
サルモネラ症
爬虫類(カメ)
サルモネラ症
6種
13種
※1:太字;動物にとって「危険性が高い」感染症
表1に示した共通感染症の他、近年海外で発生している共通感染症について、
特に危険性の高いものを表2に参考として示します。
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表2 表1以外の危険性が高い共通感染症
病原体
病名
感染動物
エボラ出血熱
サル他
ウエストナイル熱
鳥類・ウマ
黄熱
サル
マールブルグ熱
サル他
SARS
(重症急性呼吸器症候群)
ハクビシン、タヌキ
イタチアナグマ
ウイルス
ラッサ熱
ヤワゲネズミ
ペスト
プレーリードッグ、ネズミ
細菌
野兎病
ウサギ、ネズミ、リス、プ
レーリードッグ
◇人と動物の共通感染症の感染経路
感染症がうつることを伝播といい、伝播の経路は大きく直接伝播と間接伝播
に分けられます(表 3、図1)。
直接伝播は動物の体表や粘膜から、接触や咬傷、ひっかき傷によって病原体
が人または動物に直接侵入する経路です。
接触により感染する共通感染症には皮膚糸状菌症などがあります。人と動物
ともに、感染した他の動物との直接接触により感染します。
咬傷で感染する共通感染症にはパスツレラ症などがあります。動物はどんな
に慣れていても、咬むことで自己防衛をしたり、縄張りを主張したりします。
咬み傷自体は感染症ではありませんが、傷口から病原体が侵入すると、感染が
成立することがあります
ひっかき傷からうつる共通感染症に猫ひっかき病があります。動物と遊んで
いるときにはひっかかれることがよくあり、傷口から病原体が侵入すると、感
染が成立し発症することがあります。
直接伝播には上記の他に、糞口感染という感染経路があります。動物を触っ
たとき、病原体を含む動物の排泄物などが手に付着し、無意識にその手や指を
口に持っていって感染する経路です。人が共通感染症に感染するケースとして
最も多く、この経路によって感染する共通感染症が数多くあります。
間接伝播は動物の体を離れた病原体が、人または動物の体に侵入するまでの
過程でベクターを媒介する経路と、食品を媒介する経路、環境を媒介して感染
する経路の3つに大別できます。
「ベクター」とは、ノミや蚊、ダニ、シラミなど、吸血などによって動物か
9

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ら動物、動物から人へ病原体を運ぶ節足動物などをいい、ベクターが媒介する
共通感染症には猫ひっかき病や犬糸状虫症などがあります。
食品が媒介する共通感染症にはエルシニア症やサルモネラ症などがあり、病
原菌の多くが食中毒菌に指定されています。病原体によって汚染された肉類を
よく加熱しないで食べたり(餌として与えたり)、動物を触った後、手洗いをし
ないで調理したときに食品を汚染して感染する経路です。
環境が媒介する共通感染症にはレプトスピラ症やオウム病などがあります。
動物が尿や糞便として排出する病原体が環境(土壌、水)を汚染し、汚染した
土壌や水に接触して病原体が経皮感染したり、病原体を含む糞便などが粉塵と
なって空気感染する経路です。
このほか動物の場合には、中間宿主(ネズミなど)を捕食することにより感
染する経路があり、エキノコックス症がその代表的なものです。
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表3 人と動物の共通感染症の伝播経路
伝播経路
具体例
共通感染症の例
咬傷・なめられる
狂犬病、パスツレラ症
創傷・ひっかき傷
猫ひっかき病
接触
レプトスピラ症、皮膚糸状菌症
直接伝播
体液・排泄物等(糞口感染)
高病原性鳥インフルエンザ、オウム病、Q熱、
イヌブルセラ症、エルシニア症、サルモネラ
症、カンピロバクター症、トキソプラズマ症、
イヌ・ネコ回虫症、エキノコックス症
ノミ
猫ひっかき病、ウリザネ条虫症
ベクター媒介
イヌ糸状虫症、ウエストナイル熱
肉・肉製品、乳・乳製品
Q熱、エルシニア症、サルモネラ症、カンピ
ロバクター症
食品媒介
サルモネラ症
水系汚染
レプトスピラ症、クリプトスポリジウム症
間接伝播
環境媒介
土壌汚染・空気
炭疽
図 1 人と動物の共通感染症の伝播経路
(出典:子どもにうつる動物の病気 神山恒夫・高山直秀編著 真興交易(株)医書出版部)
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3 人と動物の共通感染症の症状
3.1 イヌ・ネコ
図 2、表 4 に、人とイヌ・ネコの共通感染症とその症状を示します。
トキソプラズマ症
猫ひっかき病
エキノコックス症
主として無症状
無症状
異常行動など
消化器疾患
イヌブルセラ症
Q熱
レプトスピラ症
エルシニア症
カンピロバクター症
パスツレラ症
皮膚糸状菌症
イヌ・ネコ回虫症
犬糸状虫症
ウリザネ条虫症
疥癬
サルモネラ症
狂犬病
呼吸器疾患
皮膚疾患
元気消失
食欲不振
下痢・嘔吐・血便など
消化器疾患
元気消失・食欲不振・下痢・嘔吐・血便など
元気消失
食欲不振
咳・呼吸困難など
呼吸器疾患
元気消失・食欲不振・咳・呼吸困難など
かゆみ・発赤・脱毛・びらんなど
その他寄生虫など
糞便・肛門周囲に寄生虫(切片等)
死・流産
(ときに)
(ときに)
(ときに)
イヌ・ネコの症状(様子)
人とイヌ・ネコの共通感染症
(イヌ・ネコ)
(イヌ・ネコ)
(ネコ)
(イヌ)
(イヌ・ネコ)
(イヌ・ネコ)
(イヌ・ネコ)
(イヌ・ネコ)
(イヌ・ネコ)
(イヌ)
(イヌ・ネコ)
(イヌ・ネコ)
(イヌ)
(イヌ・ネコ)
(イヌ・ネコ)
(イヌ・ネコ)
図 2 症状別にみる人とイヌ・ネコの共通感染症
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表 4 人とイヌ・ネコの共通感染症とその症状
感染する
動物
病名
動物の症状
人の症状
狂犬病
● ●
1ヶ月程度の潜伏期の後、
性格変化、異常行動、異嗜
症、咽頭部けいれん、けい
れん発作、死亡
1∼3 ヶ月の潜伏期の後、風
邪様症状、傷口の知覚異常、
恐水発作、恐風症、異常行
動、錯乱状態、けいれん、
呼吸困難、死亡
Q熱
● ●
多くは無症状
時に死・流産
多くは無症状
風邪様症状(発熱、頭痛、
悪寒、筋肉痛)
不定愁訴
イヌブルセラ症
多くは無症状
メス:胎盤炎、死・流産
オス:精巣炎・精巣上体炎
多くは無症状
風邪様症状(発熱、発汗、
悪寒、倦怠感、頭痛)
エルシニア症
● ●
多くは無症状
胃腸炎(発熱、下痢、腹痛)
カンピロバクター症
● ●
多くは無症状
子イヌ:下痢、発熱
胃腸炎(発熱、下痢、腹痛)、
粘血便
サルモネラ症
● ●
多くは無症状
胃腸炎(発熱、食欲不振、
王と、腹痛、下痢)、敗血症
胃腸炎(腹痛、嘔吐、下痢、
粘血便)、まれに頭痛、高熱、
意識低下、けいれん、菌血
猫ひっかき病
● ●
無症状
丘疹、膿疱
リンパ節腫大、発熱、頭痛、
倦怠感
パスツレラ症
● ●
無症状
空気感染:風邪様症状、肺
咬傷:疼痛、発赤、腫脹、
蜂窩織炎
レプトスピラ症
● ●
発熱、元気消失、食欲不振、
血色素尿、粘膜出血、貧血、
黄疸、筋肉弛緩、流産
発熱、結膜充血、筋肉圧痛、
腹部圧痛、ショック、肝腫、
黄疸、リンパ節腫脹、出血
皮膚糸状菌症
● ●
無症状
フケ、脱毛、発赤、発疹、
かゆみ、びらん
毛髪の脱毛、かゆみ、皮疹、
膿疱
トキソプラズマ症
無症状
後天性感染:無症状
先天性感染:流産、網脈絡
膜炎、精神・運動障害、脳
内石灰化、水頭症
犬糸状虫症
● ○
咳、貧血、栄養低下、呼吸
困難、失神、腹水貯留、心
肥大、栓塞、皮下浮腫、臓
器鬱血、死亡
無症状
肺梗塞、肉芽腫、栓塞性血
管炎
イヌ・ネコ回虫症
● ●
多くは無症状
子イヌ:下痢、腸閉塞、肺
炎、気管支炎
眼移行型:網脈絡膜炎、視
力障害
内臓移行型:無症状、発熱、
肝腫大
エキノコックス症
● ○
多くは無症状
下痢(多数寄生の場合)
肝腫大、右上腹部の腫脹、
黄疸(発症までに平均 20 年
かかる)
ウリザネ条虫症
● ●
無症状
無症状
食欲不振、腹痛、軟便、下
痢、じんましん、肛門のか
ゆみ
疥癬
● ●
かゆみ、痂皮、皮膚の肥厚、
脱毛
激しいかゆみ、丘疹、小水
○:まれに感染する。
13

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3.2 その他の哺乳類(ハムスター・リス・ウサギ・フェレット)
人とその他の哺乳類の共通感染症とその症状を表 5 に示します。
表 5 人とその他の哺乳類の共通感染症とその症状
病名
動物の症状
人の症状
エルシニア症
多くは無症状
胃腸炎(発熱、下痢、腹痛)
サルモネラ症
多くは無症状
胃腸炎(腹痛、嘔吐、下痢、
粘血便)、まれに頭痛、高熱、
意識低下、けいれん、菌血
皮膚糸状菌症
無症状
フケ、脱毛、発赤、発疹、
かゆみ、びらん
毛髪の脱毛、かゆみ、皮疹、
膿疱
3.3 鳥類(インコ・ブンチョウ・ニワトリ・ウズラ)
人と鳥類の共通感染症とその症状を表 6 に示します。
表 6 人と鳥類の共通感染症とその症状
病名
動物の症状
人の症状
高病原性鳥インフル
エンザ(H5N1)
食欲不振、衰弱、咳、羽毛
逆立、神経症状、下痢、急
高熱、咳、全身倦怠感、筋
肉痛、肺炎、急性呼吸窮迫
症候群、多臓器不全、急死
オウム病
多くは無症状
元気消失、食欲不振、水様
便、血便、麻痺、衰弱死
頭痛、筋肉痛、倦怠感、食
欲不振、肺炎
カンピロバクター症
多くは無症状
まれに粘血便など
胃腸炎(発熱、下痢、腹痛)、
粘血便
サルモネラ症
多くは無症状
元気消失、食欲不振(若鶏)
胃腸炎(腹痛、嘔吐、下痢、
粘血便)、まれに頭痛、高熱、
意識低下、けいれん、菌血
クリプトコックス症
多くは無症状
皮膚炎
多くは無症状
免疫不全等:脳炎、髄膜炎、
肺炎など
3.4 爬虫類(カメ)
人と爬虫類の共通感染症とその症状を表 7 に示します。
表 7 人と爬虫類の共通感染症とその症状
病名
動物の症状
人の症状
サルモネラ症
無症状
胃腸炎(腹痛、嘔吐、下痢、
粘血便)、まれに頭痛、高熱、
意識低下、けいれん、菌血
14

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4 人と動物の共通感染症の予防
4.1 動物への感染予防
動物への感染を予防するためには、「感染源対策」と、「感染経路対策」、「病気
をうつされる側にある動物に対する対策」の3つがあげられます。
◇感染源対策
動物の感染源として以下のようなものがあげられます。
① 病原体に汚染された飼養施設
② 感染動物の糞便
③ 病原体に汚染された餌・水
④ 共通感染症に感染した他の動物(人も含む)
飼養施設の不衛生は、ノミ、ダニ、ネズミなど、共通感染症を媒介する動物
(ベクター)の発生を促し、ペット動物の健康を脅かし、飼養者本人の他、従
業員や店を訪れる客、周辺住民、家族の健康にも悪影響を及ぼしかねません。
日々適切な清掃を行って動物の飼養環境を清潔に保つとともに、病原体による
汚染が疑われるときは、獣医師と相談し、適切な消毒を行わなければなりませ
ん(5 手指、器具、ケージ、環境等の消毒方法参照)。
感染動物の糞便は飼養施設の不衛生化の他、糞食による直接感染や、粉塵の
飛散(エアロゾル化)による飼養施設全体の汚染につながります。掃除を頻繁
にし、排泄物はすみやかに適切に処理しなければなりません。
病原体に汚染された水と餌による感染を防ぐためには、新鮮なものを与え、
肉類は充分加熱する必要があります。
感染の疑いのある動物については、他の動物の感染源とならないよう、獣医
師の診断のもと、適切に隔離し、治療しなければなりません。動物が感染源と
ならないよう清潔な飼養管理を心掛けることが必要です。
◇感染経路対策
動物への直接伝播(図1参照)としては、感染動物との接触、けんか(咬傷)
などが考えられます。放し飼いにせず、出来る限り他の動物との接触を控えさ
せることが重要です。特に野生動物との接触は断たなければなりません。野生
動物の感染症や保有している微生物に関しては、不明な点が多く、どのような
感染症の原因となる可能性があるのかも明らかでないからです。
動物への間接伝播としては、ネズミなどの中間宿主の捕食、病源体等に汚染
した餌・水の摂取、ノミや蚊などのベクターによる媒介が考えられます。これ
15

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らの感染経路対策の多くが、動物の飼養者による「飼い方・しつけ」に依存す
ると考えられます。飼養者は、日頃から動物に対して以下のような基本的な「飼
い方・しつけ」を行うなどの注意が必要です。
① ネズミなど(中間宿主)を捕食させない。
② 常に新鮮な水を与える。野外の生水を飲ませない。排泄物は速やかに
処理する。
③ 生ゴミ置き場に動物を入れさせない。なま物(非加熱の肉など)を与
えない。
④ 衛生昆虫の侵入を防ぐ。衛生昆虫等を駆除する。
⑤ 他の動物との咬傷事故を防止する。
飼養施設にノミなどのベクターの生息が確認されるようであれば、殺虫等の
処理を適切に行う必要があります。
◇動物に対する対策
動物に対する対策としては、動物の健康を維持することと、ワクチン等によ
り、疾病予防を行うことです。
動物の健康を維持するためには、清潔な飼養環境、適度な食事と運動など、
飼養者が適正な飼育を心がけ、病原体による感染を防ぐための体力を養ってあ
げなければなりません。体力(免疫力)が低下した不健康な状態では、通常無
害な微生物による疾病を引き起こしたり(日和見感染といいます)、共通感染症
の感染の確率も高まります。また、異常の早期発見による診療、治療、隔離等
も必要です。
イヌについては狂犬病とレプトスピラ症のワクチンがあり、これらの共通感
染症の予防に効果的です。その他のイヌ・ネコ用のワクチンは共通感染症との
関わりはありませんが、ワクチンによって発病を抑え、健康状態を維持するこ
とにより、共通感染症の感染リスクを軽減することにつながります。
16

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表 8
イヌのワクチン
病原体
病名
共通感染症
イヌパルボウイルス
イヌパルボウイルス病
ジステンバーウイルス
ジステンバー
アデノウイルス1型
イヌ伝染性肝炎
アデノウイルス2型
イヌ伝染性喉頭気管支炎
パラインフルエンザウイルス
イヌ伝染性気管気管支炎
レプトスピラ菌
レプトスピラ症
コロナウイルス
イヌコロナウイルス病
狂犬病ウイルス
狂犬病
表 9
ネコのワクチン
病原体
病名
共通感染症
ネコカリシウイルス
ネコカリシウイルス病
ネコヘルペスウイルス1型
ネコウイルス性鼻気管炎
パルボウイルス
ネコ汎白血球減少症
クラミドフィラ・フェリス
クラミジア症
ネコ白血病ウイルス
ネコ白血病
4.2 人への感染予防
人への感染を予防するためには、「感染源となる動物対策」と、「感染経路対策」、
「病気をうつされる側にある人に対する対策」の3つがあげられます。
◇感染源対策
衛生的な飼養管理が最も有効な感染源対策となります。動物の感染源対策に
準じます。
異常がみられる動物については、獣医師の診断のもと、適切な隔離と治療を
行わなければなりません。病気は早期発見と早期治療を心がけることが重要で、
必要により隔離等が行われます。動物が保有している共通感染症の病原体を、
人に感染する前に排除し、動物を健康な状態に戻すことが必要です。
◇感染経路対策
直接伝播に対する対策として、ペットとの過剰なふれあいを控えることが感
染リスクを減らすのに最も有効な手段となります。イヌ、ネコは、パスツレラ
菌、サルモネラ菌などを保菌しています。そのため以下のような対策が重要と
なります。
① ペットとキスをしない。
② 口移しでエサを与えない。箸わたしで物を与えない。
17

Page 22
③ 一緒に寝ない。
④ ペットの爪を切っておく。
⑤ ペットと触れ合ったあとはすぐに手を洗う。
間接伝播のうち、糞便などの排泄物は感染源となりやすく、掃除を頻繁に行
い、排泄物はすみやかに適切に処理します。動物を飼育している施設や部屋で
は、動物の排泄物や皮膚片(フケ)や羽が埃となって室内に浮遊している可能
性があり、丁寧な掃除と十分な換気を行うことが必要です。また状況により消
毒も必要となります。カメなどの飼育水を台所に廃棄したり、容器の掃除を行
うことは食品を汚染する可能性が高いため避けなければなりません。
動物を取り扱い、飼育施設等を掃除する際に、必要に応じてマスク、ゴム手
袋等を着用します。
◇人に対する対策
動物種ごとの生理、生態、習性等をよく理解し、咬傷事故等を未然に防ぐこ
とが重要です。咬まれたり、ひっかかれた場合には、その部分を十分洗浄し、
消毒することが必要です。
健康な人でも風邪などで体調を崩したり、疲労によって免疫力が低下すると、
共通感染症に感染する可能性が高くなります。通常感染しない微生物による日
和見感染が起こることもあり、体調がすぐれない時などは、動物との接触を避
けることが重要です。
疥癬、皮膚糸状菌症、結核などは人とイヌ・ネコ間の再帰性感染症(人から
動物に感染したものが人へ戻ってくる病気)となる可能性があります。室内飼
育のように、人とペット動物が密閉された空間を共有している場合には、動物
からうつる感染症のみならず、人から動物へうつる感染症の存在についても認
識しなければなりません。
ペットとの過剰な接触が共通感染症増加の要因の一つと考えられています。
動物との距離が近いほど感染のリスクは大きくなります。感染を予防するとい
う観点から、以下のようなペットとの節度ある関係を保つことが重要です。
① ペットと食器を共有しない。
② 食物の口移しなど過剰なふれあいをひかえる。
③ ペットを寝床に入れない。
④ 排泄部を処理したときは手をよく洗い、必要に応じて消毒すること。
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人と動物の双方において、共通感染症を予防するには、飼養者が共通感染症
について的確な情報を習得することが重要です。人と動物の共通感染症に感染
する原因がどこにあるのか、どのように予防できるのかを知り、確実に実行す
ることが必要です。
動物愛護管理法(7 関係法令参照)においても、動物取扱業に携わる者は、
人と動物の共通感染症についての正確な知識を身に付け、一般飼養者へ的確に
共通感染症についての情報を伝えることが求められています。一方、一般飼養
者に対しても、同様に正確な知識を身に付け、自らの感染のみならず、家族や
近隣住民への感染を予防するための努力が求められています。
19

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5 手指、器具、ケージ、環境等の消毒方法
◇消毒とは
病原体を除去するための基本は、「滅菌」、「消毒」、「洗浄」という言葉の意味を正
しく理解することが重要です。
「滅菌」とは、全ての微生物を物理的、化学的方法を用いて殺滅するか、完全に除
去し無菌状態にすることです。「消毒」とは、有害な微生物の感染性を物理的、化学
的方法を用いて無くすか、病原体量を少なくすることで、微生物をゼロにすることで
はありません。また、「洗浄」とは対象物から目に見える範囲で異物(汚物、有機物
など)を除去することです。十分な洗浄と、十分な乾燥は消毒効果を更に高めます。
なお、それぞれの消毒薬の特徴等をよく理解し、使用方法に従い、使用することが必
要です。
◇飼養施設の一般的な消毒方法
物理的な消毒方法には焼却と煮沸があります。焼却は最も確実で、全ての病原体を
死滅させることができます。焼却についで効果が高いのが煮沸で、抵抗力の弱い病原
体であれば、日光消毒や乾燥消毒も有効です。
以下に代表的な化学的消毒方法 9 種について、その効果と適切な使用濃度、注意点
等について整理しました。
●界面活性剤系
界面活性剤のなかには、家庭で使用する石けんのように「陰イオン界面活性剤」
に分類されるものがあり、殺菌力は弱いが優れた洗浄力を持っています。同じ界面
活性剤でも消毒薬として使用される「陽イオン界面活性剤」や「両性界面活性剤」
は刺激が少なく、生体に対する毒性も低いので、手指消毒や簡単な器具の消毒に使
用されています。
代表的な薬剤名 塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム
商品名
例えばオスバン液、ヂアミトール 10%、塩化ベンザルコニウム液、ハイアミ
ン液、塩化ベンゼトニウム液など
作用
電離した陽イオンが細菌の表面の陰イオンに吸着-侵入し、細菌の蛋白質を
変性させ殺菌作用を示す。
効果
一般細菌にのみ有効で、緑膿菌、結核菌、芽胞菌、ウイルスには効果なし。
耐性菌の報告がある。
使用方法
生体から環境まで使用範囲は広いが、殺菌力はそれほど強くない。使用目的
により濃度を調整する。手指や皮膚の消毒を行う時には、普通の石けんで洗
浄後、その成分をしっかり洗い落としてから 30 秒以上浸ける。
希釈濃度
手指・皮膚:0.05∼0.02%
器具・ケージ・環境:0.05∼0.2%
注意点
水道水を使用すると、水道水中の金属イオンと反応して、効力が低下する。
また陰イオンを含む普通の石けんやほかの消毒剤(クレゾール石けん、過酸
化水素、ポピドンヨードなど)を一緒に使うと化学反応が起こって沈殿を生
じ、効果が低下する。
20

Page 25
●両性界面活性剤
代表的な薬剤名 塩酸アルキルジアミノエチルグリシン
商品名
例えばハイジール液 10%、エルエイジー10 液、コンクノール液 10%など
作用
電離した陽イオンが細菌の表面の陰イオンに吸着―侵入し、細菌の蛋白質を
変性させ殺菌作用を示す。
効果
一般細菌にのみ有効で、緑膿菌、結核菌、芽胞菌、ウイルスには効果なし。
耐性菌の報告がある。
使用方法
洗浄作用を兼ね備え、腐食性も少ないので、金属製品やリネン類などや環境
に使用することが多い。
希釈濃度
手指・皮膚:0.05∼0.02%
器具・ケージ・環境:0.05∼0.2%
注意点
殺菌力は pH8∼9 付近が最大で、酸性や強アルカリ域では効果が低下する。
強い脱脂作用があることから、長期連用の手指消毒や濃い濃度での使用は注
意。アルデヒド系消毒薬と混合すると茶褐色に着色する。
●ビグアナイド系
強力な殺菌力はないが、皮膚への刺激が少なく、手指や傷、器具の消毒などで多
用されています。
代表的な薬剤名 グルコン酸クロルヘキシジン
商品名
例えばマスキン、ヒビデン(∼液、∼クリーム、∼スクラブ)など
作用
細菌が分裂する際に必要な酵素の作用を阻害したり、細胞壁に障害を与え、
細菌の分裂・増殖を抑える。
効果
グラム陽性菌に有効。結核菌、芽胞菌、ウイルスには効果なし。耐性菌の報
告が多数ある。
使用方法
水で希釈する「水溶液」のほか、70%エタノールで希釈する「エタノール溶
液」もある。
希釈濃度
手指・皮膚:0.1∼0.5%
器具:0.1∼0.5%
ケージ・環境:0.05%
注意点
エタノール溶液は傷や粘膜には使用不可。水溶液も眼の結膜嚢以外の粘膜に
は使用不可。水道水を使用すると、水道水中の陰イオン(塩素など)と反応
して、効力が低下する。また、陰イオンを含む普通の石鹸やほかの消毒薬(ク
レゾール石鹸、過酸化水素、ポピドンヨードなど)を一緒に使うと化学反応
が起こって沈殿を生じ、効果が低下する。次亜塩素酸ナトリウムと反応する
と赤茶色に変色するので、白衣やリネン類に付着した時は、酸素系漂白剤で
処理する。界面活性剤の入った赤色タイプと入っていない無色タイプがあ
る。
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Page 26
●アルコール系
強力な消毒薬で、スペクトルも広く耐性菌ができません。蒸発しやすいので薬剤
の残留もありません。
代表的な薬剤名 エタノール
商品名
消毒用エタノール、エタノール
作用
蛋白質を凝固させ、菌体を変性させる。浸透力が強いので殺菌速度が速く、
効果も確実。毒性も低いので使用範囲は広い。ほかの消毒剤と混合すると相
乗作用が期待できるので混合して使用することもある。
効果
速乾性から手指・皮膚の消毒をはじめ、点滴の接続部、各種チューブなどの
消毒に使用。クロルヘキシジンやポピドンヨードなどと混合すると相乗作用
がある。
使用方法
速乾性から手指・皮膚の消毒に使用される。クロルヘキシジンやポピドンヨ
ードなどと混合すると相乗作用がある。
希釈濃度
実用的殺菌濃度:70∼80%
注意点
傷や粘膜に使用不可。ゴム製品や合成樹脂、鏡など変性する材質がある。ア
ルコール綿をとる時は、できる限りピンセットを用い、汚染を防ぐ。火気厳
●塩素系
金属腐食や皮膚への刺激がありますが、最大の特徴は低残留性であることです。
殺菌効果を示した後は、食塩(NaCl)になったり、塩素ガスとなって蒸発します。
このため水道水の消毒として使用されています。同時に漂白作用や脱臭作用もあり、
耐性菌もできません。
代表的な薬剤名 次亜塩素酸ナトリウム
商品名
例えばピューラックス、ハイポライト、キッチンハイターなど
作用
塩素イオンが細菌やウイルスの蛋白質の SH 基を酸化・破壊し、殺滅する。
効果
塩素イオンが細菌やウイルスに効果ある。一部の結核菌と芽胞菌には効果な
し。殺菌力の強さは濃度に比例する。
使用方法
皮膚、環境などに広く使用される。金属に対して強い腐食性がある。
希釈濃度
手指・皮膚:0.01∼0.05%
器具:0.02∼0.05%
ケージ・環境:0.02∼0.05%
注意点
pH7∼9 のアルカリ領域では安定だが、pH5 以下になると塩素ガスが発生して
危険。酸性の消毒薬や酸性の尿などと混合しないように注意。有機物による
効果の低下が著しいので、消毒時には先に汚れ(有機物)を落としてから処
理する。
色落ちや塩素臭がある。刺激があるので手指などの消毒には濃度や連用に注
意する。金属腐食が強い。消毒効果の減弱が早いので用時調剤とする(使用
は 24 時間以内)。
22

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●ヨウ素系
皮膚の消毒から手洗いまで広く使用されています。
代表的な薬剤名 ヨウ素
商品名
例えばイソジン、ポピドンヨード(∼液、∼クリーム、∼アルコール、∼ゲ
ル、∼フィールド)など
作用
ヨウ素の酸化作用で、細胞内の蛋白質を変性させて殺菌する。
効果
グラム陽性菌、グラム陰性菌、結核菌、真菌、ウイルスに効果がある。一部
の芽胞菌に効果なし。
使用方法
皮膚刺激が少なく、持続した殺菌力で粘膜、皮膚、医療器具まで幅広く使用
可能。
希釈濃度
手指・皮膚:10%
注意点
ヨード過敏症(ヨウ素疹)が現われたら使用中止。大量使用に関して、幼弱
動物や甲状腺機能不全の動物では中毒に注意。石鹸で効果が低下。リネン類、
環境には不適。開放容器ではヨウ素が揮散し、消毒効果が減弱するので、気
密容器で保存する。
●フェノール系
使用頻度は少なくなってきています。
代表的な薬剤名 クレゾール
商品名
例えばクレゾール石鹸液など
作用
細胞内の蛋白質を凝固させたり、細胞壁に作用して溶菌させて効果を発現
効果
一般細菌や結核菌に対して有効。芽胞菌やウイルスには効果なし。
使用方法
生体以外の医療器具や環境。有機物がある時に使用可能。
希釈濃度
器具:1%
環境:1∼2%
排泄物:3%
注意点
皮膚に対する刺激が強い。ゴム、プラスチック、布などに吸着すると水洗い
では取れないので、これらでできている器具で生体に直接接触する可能性の
あるものの消毒には不可。沈殿が生じても上澄み液の消毒効果には影響な
い。廃液の廃棄に法的制限(下水道法、水質汚濁防止法)を受けることもあ
るので、十分に希釈(5mg/L以下)して廃棄。ほかの消毒薬と混ぜると効
果減弱。猫は分解できないので禁忌。
●アルデヒド系
強力な消毒薬ですが、生体への作用も大きいので注意して使用する必要がありま
す。
代表的な薬剤名 グルタルアルデヒド
商品名
例えばステリハイド、ステリハイドL、サイデックス、グルトハイドなど
作用
アルデヒド基(CHO)が細菌やウイルスの蛋白質と結合し、凝固・変性さ
せ、失活させる。
効果
すべての細菌、ウイルスに作用する。芽胞菌にも作用するが、作用時間を考
慮する必要がある。また、他の薬剤に耐性を示した微生物(プリオンを除く)
にも作用する。
使用方法
器具の消毒にのみ使用し、生体へは使用しない。アルカリ域で効果を発揮す
るので、添付の緩衝剤を忘れないようにすること。
希釈濃度
器具(内視鏡など):2%
注意点
蛋白質を凝固させるので、消毒前に血液などの有機物を洗浄してから使用す
ると効果が高い。液は繰り返し使用できるが、濃度は試験紙を使い確認する。
刺激が強いのでマスク。ゴーグル、手袋などで身を守ることも忘れずに。
23

Page 28
●過酸化物系
新しい消毒薬の 1 つであり、過酢酸の酸化作用などによって微生物を破壊します。
化学的な滅菌までを期待できる薬剤です。
代表的な薬剤名 過酢酸
商品名
例えばアセサイドなど
作用
過酢酸から生成されるフリーラジカルは芽胞状態の細菌の膜も破壊する。
効果
すべての細菌、ウイルスに作用する。芽胞菌にも作用し、短時間で効果があ
る。
使用方法
0.2%の濃度を切るまで繰り返し使用可能。
希釈濃度
専用容器のなかで 1 液と 2 液を混合し、精製水で 100 倍に希釈し 0.3%にし
て使用する。
注意点
刺激が強いのでマスク、ゴーグル、手袋などで身を守ることも忘れずに。鉄、
銅、亜鉛、真鍮製の器具やゴム製品には使用不可。次亜塩素酸ナトリウムに
混ぜると塩素ガスを発生。
24

Page 29
◇動物取扱業施設で使いやすい薬品とその使い方
●塩化ベンザルコニウム
(逆性石けん)
多くの細菌、真菌に有効。結核菌及び大部分のウイルスには無効
手指
(希釈濃度:0.05∼0.1%)
①石けんで手洗いし十分にすすぐ。
②逆性石けんを使う。
※一般の石けんと同時に使うと効果があがらない。
用具、器具など
(希釈濃度:0.05∼0.2%)
逆性石けんに浸した布でふき取る。
※ゴム製品、合成樹脂などへの使用は控える。(劣化す
るため)
●消毒用エタノール
(アルコール類)
多くの細菌、真菌、ウイルスに有効
手指
(希釈濃度:70%)
①手をよく洗う。
②布や脱脂綿等に十分にアルコールを含ませてふく。
③自然乾燥させる。
※手が荒れやすい。
用具、器具など
(希釈濃度:70%)
①布や脱脂綿等に十分にアルコールを含ませてふく。
②自然乾燥させる。
※表面が十分にぬれる程度にアルコールを噴霧する。
※ゴム製品、合成樹脂などへの使用は控える。
●塩化ベンザルコニウムアルコール
(逆性石けん)
グルコン酸クロルヘキシジンアルコール
(グルコン酸クロルヘキシジン)
多くの細菌、真菌、一部のウイルスに有効
手指
(希釈濃度:0.05∼0.1%)
①手をよく洗う。
②薬液を5mlほど手に取り、すり込む。又は、薬液を十
分に含ませたティッシュ等で手をふく。
※一般の石けんと同時に使うと効果があがらない。
用具、器具など
(希釈濃度:0.05∼0.2%)
薬液を十分に含ませた布でふき取る。
●次亜塩素酸ナトリウム(0.02%∼0.05%)
(塩素剤)
多くの細菌、ウイルスに有効。結核菌や一部の真菌には無効
布類、シーツなど
布類の汚れを落とし、薬液につけたのち(30 分∼60 分)、
洗濯する。
※漂白作用がある。
※金属への使用は注意すること。
25

Page 30
消毒のポイント
・ 消毒薬は汚れを落としてから。
・ 消毒薬の使用温度は「室温」が効果的
・ 消毒薬は適正な濃度と消毒時間を守る。
・ 消毒薬の有効期限を確認する。
・ 消毒薬の保管場所に注意
(東京都「動物取扱責任者研修資料」より引用)
26

Page 31
<各 論>
6 人と動物の共通感染症
◇国内で発生がみられる人と動物の共通感染症
27

Page 32
クラミジア感染症
6.1 オウム病
① 病原体
オウム病はオウム病クラミジア(Chlamydophila
psittaci)による感染症です。
② 関係する動物
主としてオウム、インコ類に感染し、その他のハト、
ニワトリ、ブンチョウなどの鳥類に感染します。人やネコ、イヌにも感染します。
③ 感染経路
鳥類は他の保菌鳥との接触、その排泄物に汚染された粉塵の吸入によって感染し
ます。人は、保菌鳥との接触、保菌鳥の排泄物の乾燥塵埃を吸入することによって
感染します。また汚染された給餌器や飼料・水などに触った後に手を洗わずに飲食
したときにも感染します。
④ 動物の症状
鳥類の場合、不顕性感染がほとんどですが、症状として
は元気消失、食欲低下、羽毛が逆立つ、鼻水、削痩(ひど
くやせる)、緑白色下痢便などがあります。
※不顕性感染(ふけんせいかんせん)とは、感染した病原体の毒性が低く、
宿主に充分な抵抗力があり、症状が表に現れない状態を指します。
オウム病を罹患したワカケホンセイインコ.沈欝、食欲不振、
毛づやの消失などが見られる.
(岐阜大学応用生物科学部 福士 秀人先生 提供)
インコ
空気
経口
糞便
環境
空気
接触
接触
経口
接触
オウム病クラミジアの電子顕微鏡像(出
典:国立感染症研究所感染症情報センタ
ー 感染症発生動向調査週報)
28

Page 33
⑤ 人の症状
熱(38℃以上)で発症、せきが必ず出て、たんを伴います。全身けん怠
⑥ 発生状況
2005年の間に225人の患者数が報告されています。鳥類のクラミジア保
⑦ 予防のための注意
意します。乾燥糞のほこりを吸わないようにし、口移しの給餌
⑧ 関係法令
で4類感染症に指定されています。
突然の発
・食欲不振・筋肉痛・関節痛・頭痛などのインフルエンザのような症状です。重
症になると呼吸困難・意識障害などを起こし、診断が遅れるとまれに死亡すること
もあります。
2000年∼
状況の全国的な調査は行われていませんが、オウム病の感染源となった鳥類の追
跡調査では、60%がオウム・インコ類であり、そのうち約3分の1はセキセイインコ
でした。5∼6月の鳥類の繁殖期に患者数が多い傾向がみられ、子供よりも成人、特
に40∼70歳が多く、女性に多くみられます。
鳥の健康管理に注
ど過度の接触を避けます。鳥が弱ったときや、クラミジアの排菌が疑われるとき
は、獣医師の診察を受け治療を行います。死亡した鳥を扱うときは、マスクやゴム
手袋を着用しましょう。
感染症法
コラム
2002 年 1 月、島根県の鳥類展示施設(トリと気軽に触れ合うことができる鳥の展示・
飼育施設)においてオウム病が発生し、施設従業員 5 名、一般来園者 11 名が感染する
事故となりました。オウム病は感染症法において4類感染症に指定されており、毎年 20
∼30 名の患者数が報告されています。しかし国内の展示施設においてオウム病が発生
し、このような集団感染が発生した事例は初めてでした。この施設は半年に 30 万人も
の観客が訪れる人気の高い施設であったため、一連の事故はニュースとして報道され、
来園者に不安をまねき、施設の一時閉鎖に至りました。その後この施設は再発防止策を
整備し、無事再開の運びとなりました。ところが、3年後の 2005 年 12 月、兵庫県の
同趣向の鳥類展示施設において、施設従業員 3 名がオウム病に感染する事故が発生して
しまいました。当施設の開園にあたっては、管轄の衛生監視事務所が「動物の愛護およ
び管理に関する法律」に基づく基準、ならびに「動物展示施設における人と動物の共通
感染症対策ガイドライン 2003」に基づき指導を行っていましたが、施設には共通感染
症による事故を防止するための必要な設備が整備されていませんでした。従業員の多く
が共通感染症を予防するための教育を受けておらず、飼育鳥のみならず、従業員の健康
管理も不十分だったようです。現在この施設は島根県の施設と同様再発防止策を整備し、
開園の運びとなりましたが、動物を取り扱う業者の共通感染症に対する認識がいかに重
要で、その社会的責務がいかに大きいかを改めて痛感させられました。
29

Page 34
リケッチア感染症
6.2 Q熱
① 病原体
Q熱はコクシエラ・バーネティ(Coxiella
burnetii)というリケッチアによる感染症です。
マウス脾臓中の Coxiella burnetii(出典:国立感
染症研究所感染症情報センター 感染症発生動
向調査週報)
② 関係する動物
家畜・野生動物で抗体の保有率が高く、イヌと
ネコから人に感染します。
③ 感染経路
動物は他の感染動物との接触、その排泄物に汚染された粉塵の吸入によって感染
します。人は感染したネコやイヌの排出する尿、糞便、乳汁、羊水から直接、また
は粉塵を介して空気感染します。
ネコ
空気
糞便・尿・羊水
接触
④ 動物の症状
イヌやネコがコクシエラ・バーネティに感染しても無症状、または微熱を出す程
度の不顕性感染が多いのですが、尿中には70日間もリケッチアを排出するとされま
す。ネコの場合、リケッチア血症が長期間続いたり、死・流産を起こすことがあり
ます。
⑤ 人の症状
感染者の約半数は症状が現れません。軽度の呼吸器症状で治ることも多いですが、
急性型では、インフルエンザに似た症状で、悪寒を伴う急激な発熱(38∼40度)、
頭痛、眼球後部痛、筋肉痛、食欲不振、全身けん怠感などです。肺炎症状、肝機能
障害なども見られ、心内膜炎に移行する等の重症例もあります。多くは2週間程度
30

Page 35
で自然治癒し、死亡例はまれです。
⑥ 発生状況
日本では2000年から2005年の間に137例の患者数が報告されています。諸外国で
は熱性呼吸器疾患の起因菌の1つとして広く認識されており、オーストラリア、イ
ギリス、ドイツ、アメリカ等で年間数十から数百例報告されています。実際には報
告されていない症例が相当数あるともいわれています。
⑦ 予防のための注意
感染ネコの流産時の汚物、尿などへの接触を極力避け、流産したネコの世話をす
るときは、ゴム手袋、マスクを装着します。また感染動物の尿で汚染された環境を
適切に消毒する必要があります。人、動物ともにワクチンはありません。
⑧ 関係法令
感染症法で4類感染症に指定されています。
コラム
Q熱は4類感染症に指定されており、毎年 10∼50 名の患者数が報告されています。一
般の健康者と獣医師および食鶏処理従業員と呼吸器症状発症者間のQ熱の抗体陽性者を
比較すると、獣医師(健康者)の抗体陽性率(22.5%)が、一般の健康者の抗体陽性率
(3.3%)よりも高く、獣医師がハイリスクグループ(感染の確率が高い集団)に属する
ことがわかります。症状の出にくい動物のQ熱を見極めることは困難であるため、動物
取扱い業の従事者は、健康管理に十分注意し、定期的に健康診断を受ける必要があるで
しょう。
由来
検査数
陽性数
陽性率(%)
検査年
報告者(報告年)
一般の健康者(成人)
60
2
3.3
1990
獣医師(健康者)
275
62
22.5
1979-1991
食鶏処理従業員(成人)
107
12
11.2
1985
呼吸器疾患(成人)
184
28
15.2
1982-1990
Htwe ら(1994)
(出典)平井克哉 「Q熱(コクシエラ症)の現況」(1997) 獣医畜産新報 Vol.50 No.8 p668 表2を一部改変
31

Page 36
細菌感染症
6.3 イヌブルセラ症
① 病原体
イヌブルセラ症はブルセラ・カニス(Brucella canis
イヌ流産菌)という細菌によるイヌと人との共通感染症で
す。
Brucella canis のグラム染色像(国立
感染症研究所獣医科学部 今岡 浩一先
生 提供)
② 関係する動物
ブルセラ・カニスのおもな宿主はイヌで、まれに人に感染します。
③ 感染経路
人が感染イヌの死体や流産時の汚物などに接触して感染することがあります。イ
ヌは流産時の汚物等によって汚染された餌や、感染イヌの尿、乳汁などを介して感
染します。
交尾
乳汁
死・流産胎児
尿・汚物
接触
.
.
④ 動物の症状
感染したオスのイヌは精巣炎や精巣上体炎を起こし、メスは胎盤での菌の増殖に
よる胎盤炎や、妊娠45∼55日目(正常妊娠期間は約63日)に死・流産を起こすこと
があります。その後も菌血症が数年続くといわれています。ブルセラ菌に感染して
も一般症状が現れないことが多く、メスイヌの死・流産によって感染に気づくこと
が多いようです。
⑤ 人の症状
人の場合、感染しても発症しないことが多く(不顕性感染)、時に発熱、悪寒、
倦怠感など、風邪に似た症状を発します。
32

Page 37
⑥ 発生状況
日本では1971年に初めてイヌブルセラ症が確認されて以来、現在では抗体調査に
よって数%のイヌが感染歴を持つと考えられています。近年では2003年に静岡県に
おいて、2007年には大阪府で、100頭以上のイヌを飼育する繁殖施設で流産が発生
し、検査の結果半数以上のイヌにブルセラ・カニスの感染が確認されるという事例
があります。
⑦ 予防のための注意
人の場合感染しても発症しないことが多いのですが、感染イヌの死体、流産時の
汚物、尿などへの接触は極力避け、流産したイヌの世話をするときは、ゴム手袋、
マスクを装着し、感染を予防する必要があります。また、感染イヌと健常イヌとを
隔離する必要があります。人・イヌともにワクチンはありません。
⑧ 関係法令
感染症法で4類感染症に指定されています。
コラム
ブルセラ症は感染症法で4類感染症に指定されています。ブルセラ菌には数種あり、
それぞれ主な宿主が決まっています(下表)。食糧として、また社会・経済面で家畜
への依存度が高い国(地中海沿岸地域、中近東、中南米など)では、いまだに多くの
家畜ブルセラ菌感染者や感染動物が発生し、大きな問題となっています。日本では家
畜伝染病予防法にもとづき感染家畜(イヌは対象外)は殺処分という徹底した対策を
行ってきたため、近年はほとんど発生をみません。これらの家畜ブルセラ菌は人への
病原性が比較的強いのですが、人への病原性が比較的弱いブルセラ・カニスとは細菌
の性状が異なります。
ブルセラ菌
主な宿主
人への感染
人の症状
ブルセラ・カニス
イヌ
あり(まれ) 本文参照
ブルセラ・メリテンシス ヤギ・ヒツジ
急性型: カゼ様(発熱、悪寒、倦怠感、関節
痛)。通常 2∼3 週間で自然治癒。
ブルセラ・アボルタス
ウシ他
限局型: 致死率 2%以下。心内膜炎(死亡原
因の大半)、肺炎、骨髄炎、膵炎、
男性では精巣炎も。
ブルセラ・スイス
ブタ他
あり
慢性型: 1年以上にわたる発熱の繰り返し
(波状熱)。脱力感や疲労感が続
き、慢性疲労性症候群様。
(出典)神山恒夫・高山直秀「こどもにうつる動物の病気」イヌブルセラ症 p154 表 2005 年(真興交易(株)医書出版部)を一部改変
33

Page 38
細菌感染症
Yersinia enterocolitica の電子顕微
鏡像(出典:国立感染症研究所感染症
情報センター 感染症発生動向調査
週報)
6.4 エルシニア症・カンピロバクター症
① 病原体
エルシニア症はエルシニア・エンテロコリティカ
Yersinia enterocolitica)およびエルシニア・シュ
ードツベルクローシス(Y. pseudotuberculosis)とい
う細菌による感染症です。
カンピロバクター症はカンピロバクター・ジェジュニ
Campylobacter jejuni)とカンピロバクター・コリ(C.
coli)という細菌による感染症です。
Campylobacter jejuniの電子顕微鏡像
(出典:国立感染症研究所感染症情報
センター 感染症発生動向調査週報)
② 関係する動物
エルシニア菌の代表的な保菌動物は豚ですが、イヌ・
ネコも高率に腸内に保菌しており、人に感染します。
カンピロバクター菌はニワトリやウシ・ブタなどの家畜や、イヌ・ネコの腸管内
に分布し、人に感染します。特に子イヌは高率にカンピロバクターを保菌していま
す。
③ 感染経路
動物は、他の保菌動物の糞便に汚染された水・餌などから経口感染します。人へ
の感染は、本菌に汚染された沢水や井戸水、食品(特に豚肉)などからの経口感染
や、保菌したイヌ・ネコとの接触によって感染します。
動物の症状
もに不顕性感染ですが、幼若の個体が下痢を起こすことがあります。
糞便
経口
接触
汚染された
水・餌・食品
イヌ・ネコ・哺乳類・鳥類
経口
.
.
イヌ・ネコと
性感染に移行すると、間欠的に下痢がみられ、体重が減少します。
34

Page 39
発熱、下痢、腹痛などを主症状とする胃腸炎です。ときに結節
の細菌性下痢症と比べやや長く、全身の倦怠感とともに
⑥ 発生状況
テロコリティカによる食中毒が1971年に報告されて以来、これ
ーシスによる敗血症が1913年に報告されて以来、
よる感染事例が報告されていま
らカンピロバクターが検出されていますが、原因食品が
⑦ 予防のための注意
した後は、手洗いをすることが重要です。また生に近い肉(特
汚染された草などを食べさせないよ
潔を
人の症状
<エルシニア症>
一般的な症状は、
紅班、関節炎、咽頭炎、心筋炎、髄膜炎、敗血症など多彩な症状を示すことがあ
ります。乳幼児では下痢が多く、年齢が高くなるにつれて、回腸末端炎や腸管膜リ
ンパ節炎、虫垂炎といった症状を示すようになります。
カンピロバクター症>
潜伏期は2∼6日で、他
痛、腰痛、発熱があり、2∼3日遅れて腹痛、嘔吐、下痢がみられます。抗生物
質の投与を行わなくても通常、数日間で症状の改善がみられます。腸炎に引き続き、
急性の関節炎になることがあります。
<エルシニア症>
エルシニア・エン
でに本菌による患者数は、100名を超える大きなものを含め14件報告されていま
す。本菌に汚染された食品を摂取したものの他、野生動物の糞便などにより本菌に
汚染された沢水、またこれらの沢水から二次的に汚染された食品を介して水系感染
したものと考えられています。
エルシニア・シュードツベルクロ
れまでに15件の集団感染が確認されています。本菌の場合は多くが本菌に汚染さ
れた沢水や井戸水の摂取による水系感染です。
両菌ともイヌやネコなどの保菌動物との接触に
。イヌとネコの1∼5%が両菌を保菌しています。
カンピロバクター症>
下痢症患者の20∼40%か
定しにくいとされています。下痢をしているイヌとの接触や、子イヌ飼育者の感
染も多いようです。汚染された牛乳からもカンピロバクター感染が発生しています。
イヌやネコに接触
豚肉)の摂取を避けることも重要です。
イヌを散歩させるときは、他の動物の糞便で
にしましょう。また他のペットとの接触も避けたほうがよいでしょう。
下痢をしている子イヌや子ネコを早期に治療し、糞便等は適切に処理し、清
つことが重要です。人、動物ともにワクチンはありません。
35

Page 40
36
6.5
① 病原体
サルモネラ症は主にサルモネラ・エンテリティディ
ス(Salmonella enteritidis)という細菌による感染
症です。
② 関係する動物
ペット動物ではカメ(ミドリガメなど)が高率にサルモネラ菌を保菌している他、
ニワトリ、イヌ、ネコ、ハムスターなども保菌しています。人に感染し、腸炎症状
を起こします。
③ 感染経路
動物は保菌動物の糞便、汚染餌料、水などの摂取によって感染します。人は本菌
に汚染された食品、とくに卵、肉、乳製品、生野菜などを摂取することで感染しま
す。
④ 動物の症状
カメの場合は不顕性感染です。イヌやネコも多くは不顕性感染ですが、胃腸炎や
敗血症を起すことがあります。この場合、発熱、食欲不振、嘔吐、腹痛、下痢の症
状が現れます。
⑤ 人の症状
最も多いのは胃腸炎で、6∼72時間の潜伏期の後、突然腹痛、嘔気・嘔吐で発症
します。下痢は水様便となることが多く、血液や粘液が混じることもあります。約
サルモネラ症
Salmonella enteritidis の電子顕微鏡像
(出典:国立感染症研究所感染症情報セ
ンター 感染症発生動向調査週報)
細菌感染症
糞便
経口
爬虫類(カメなど)
経口
汚染された
水・食品
36

Page 41
7割の症例で38.5∼39℃の発熱があり、まれに高熱、頭痛、意識低下、混迷、けい
れんなどの重篤な症状が現れることがあります。
⑥ 発
・エンテリティディスに汚
品による食中毒で、2003年∼2005年の間で年間
報告されています。
県の同一医療機関でサルモネラに起因する小児重症感染症が2症
グアナが強く疑われた症例も報告されています。
の注意
卵など汚染の恐れのあるものは十分加熱することが重要です。
⑧ 関係法令
家畜伝染病予防法の監視伝染病・届出伝染病に指定されています(対象動物:ニ
ワトリ、ウズラ、アヒル)。
生状況
日本におけるサルモネラ感染症の多くは、サルモネラ
染された食
4∼6千人前後の患者数が
2005年に千葉
報告され、1症例はミドリガメ(ミシシッピーアカミミガメ)との因果関係が強
く疑われ、また他症例ではミドリガメが感染源であることが確認されています。ま
た、2004年にはイ
⑦ 予防のため
カメなどの動物に触れたあとは念入りに手洗いをすること、カメや金魚の水槽の
水換えを台所などで行わないこと、また、サルモネラ菌は凍結や乾燥に強いので、
食肉や
コラム
アメリカではペットとして飼われていた小型カメに関連するサルモネラ症が公衆衛生の
見地から懸念されたため、1975年以降甲羅長4インチ(約10cm)未満のカメの商業目
的での販売が禁止されています。この販売禁止令によって、小児におけるサルモネラ症は
万例が予防されたと推定されています。一方、日本ではこのような爬虫類
の販売につい
に広く分布し、健康な動物の腸内に存在することもあり、サル
取り除くことは出来ません。このため動物を飼育するときは衛生面に
特に注意を払い、動物と上手に付き合うことが必要です。特に小児やお年寄り(易感染者)
保育施設、幼稚園、小学校の教室内でカメなどの動物を飼育するときは、飼
(担当者)が「カメに触った後の手洗いの励行」など、周囲の共同生活者に対
毎年およそ10
ての規制は無く、国外からの輸入についても、検疫、輸入届出制度の対象外
なっており、2006年だけで約50万匹も輸入されています。過去の国内の調査では、
ペット用の水棲カメから約50%の頻度でサルモネラ菌が分離されている事実がありま
す。サルモネラ菌は自然界
モネラ菌を動物から
のいる家庭、
育の責任者
感染を予防するための啓発を行うことが必要です。
37

Page 42
6.6
① 病原体
き病はバルトネラ・ヘンセレ(Bartonella
hen
② 関係する動物
バルトネラ・ヘンセレはネコの血液に感染しています。通常、人はバルトネラ・
ヘンセレを保菌したネコから感染しますが、ごくまれにイヌから感染したと思われ
る例も報告されています。
③ 感染経路
口や爪にバルトネラ・ヘンセレを保有したネコが、人にかみついたり、ひっかい
たりすることにより、皮膚から直接感染します。ネコ同士では、ケンカによる直接
感染や、
コを吸血し
④ 動
⑤ 人
ネコからの受傷後、数日から2週間後に受傷部位に赤い丘疹(おでき)や膿庖(小
さい化膿巣)ができます。さらに数日∼数週間後に受傷部位の所属リンパ節が腫れ
猫ひっかき病
猫ひっか
selae)という細菌による人とネコとの共通感染症で
す。
ネコノミの吸血による媒介によって伝播します。まれに保菌ネ
たネコノミから感染することがあります。
細菌感染症
咬傷
Bartonella henselae のグラム染色像
(日本大学生物資源科学部 丸山 総一
先生 提供)
物の症状
ネコやイヌの場合、この菌に感染しても無症状です。
の症状
ひっかき傷
ネコ・イヌ
ノミ
ノミ
咬刺
ネコ・イヌ
咬刺
38

Page 43
て、痛みを伴います。発熱、頭痛、倦怠感、
肝臓の腫れがみられることもあります。ま
て、脳症、髄膜炎、肝脾膿
瘍が起きることがあります。
⑥ 発生状況
猫ひっかき病は世界的に発生しており、
て以
が、特に若年齢層に多
くみられます。また西日本と都市部の比較的温暖な地域での発生率が高い傾向があ
⑦ 予防のための注意
ネコにひっかかれたり、かみつかれたりしないことが重要です。ネコの特性や性
格をよく理解して、過度な接触をしないことです。ネコの爪きりと、ネコノミの駆
除を定期的に行うことも予防策となります。人用ワクチンはありません。
れな合併症とし
日本では1953年に初めて発生報告がされ
来、全国的な発生がみとめられていま
す。しかし患者数の全国的な統計調査は行
われていません。猫ひっかき病は全ての年齢層に発生します
猫ひっかき病 腕の丘
一先生 提供)
疹(日本大学生物資源科学部 丸山総
ります。
日本の飼育ネコでは、8.8%のネコがバルトネラ・ヘンセレに対し抗体陽性であ
り(1994∼1999年調査)、7.2%のネコが菌を保有しているという報告があります
(1995∼1998年調査)。若齢のネコ、ノミが寄生しているネコ、屋外飼育のネコ、
比較的温暖な地域のネコで陽性率が高くなっています。
コラム
バルトネラ菌は猫によるひっかき傷による感染の他、ネコノミの媒介によって感染するこ
とがまれにあります。ネコノミはイヌにも寄生することがあり、その他にも多くの動物へ
の寄生がみられ、近年人から検出されるノミのほとんどがネコノミとなっています。ノミ
類は主に春から秋にかけて発生しますが、冷暖房などの普及による住環境の変化に伴い、
最近では冬でもイヌやネコに寄生がみられるようになりました。ノミが人へ感染する経路
はペットを抱き上げたときに人に飛び移って感染する場合と、カーペットやソファなどに
が人の接近を感知して脱皮し、成虫となって人に飛び移って感
る刺激と、
その後の痛み・痒みがあります(ノミ刺咬症といいます)。二次疾患として、本文で紹介
したバルトネラ菌の媒介や、ウリザネ条虫の幼虫の媒介(ウリザネ条虫の項参照)がある
(日本では発生していません)を媒介して、人に重篤な被害を与えることもあ
ります。
潜伏しているノミの成熟蛹
する場合とがあります。ノミの感染による一次疾患としては、吸血時に刺され
他、ペスト
39

Page 44
6.7
シダ(Pasteurella
multocida)、パスツレラ・カニス(P. canis)、パス
グマティス(P. dagmatis)、パスツレラ・
がイヌ・
れており、このうちパスツレラ・ムルト
ヌ約75%、ネコほぼ100%)、人にも感染します。
る創傷感染、②動物か
らの非外傷性感染(多くは呼吸器感染)、③動物との接触歴が不明な感染の3つに
は①が30%、②が50%、③が20%となり、動物の関与が大きい
④ 動
ります。
パスツレラ症
病原体
日本ではパスツレラ・ムルト
ツレラ・ダ
トマティス(P. stomatis)の4種の細菌
ネコのパスツレラ症の原因菌として確認さ
シダが原因となることが最も多くなってい
関係する動物
パスツレラ菌は哺乳類の上気道や消化管に常在しています。イヌやネコの保菌率
は高く(イ
す。
感染経路
パスツレラ菌はイヌやネコなどの口腔内常在細菌です。
本菌の人への感染経路は、大きく①動物の咬傷や掻傷によ
分かれます。日本で
とがわかります。
.
咬傷
ネコ
ひっかき傷
イヌ
接触
細菌感染症
Pasturella multocida のグラム染色像(日
本大学医学部 荒島 康友先生 提供)
物の症状
保菌するイヌやネコは通常無症状で不顕性感染ですが、まれにネコが肺炎を起
すことがあ
40

Page 45
⑤ 人の症状
パスツレラ症は受傷後、短時間で症状が出
徴です。早いときは受傷後、数時間
い人では重症化し、敗血症や骨
髄炎となり、死亡することもあります。また気管支拡張症などの呼吸器の病気を持
炎を起こしたり、健康な人でも気管支炎や副鼻腔炎、外耳炎などに
⑥ 発生状況
けるパスツレラ菌の人からの分離動向は、1999年∼2001年の2年間の年
また死亡例も6件と少
イヌやネコとの接触にけじめをつけることが最も重要です。寝室にペットを
入れないこと、一緒に寝ないこと、餌を口移しで与えたり、キスしたりしない
ことです。また動物と接触したら手洗い、うがいを励行しましょう。
また、イヌヤネコに咬まれたり、ひっかかれたりしないように注意し、傷を
受けた場合は石鹸でよく洗いましょう。
るのが特
受傷部位が赤く腫れ、痛みや発熱を伴い、
近くのリンパ節が腫れることもあります。パ
スツレラ症の受傷部位の炎症は皮下組織の
中を広がる炎症で、蜂窩織炎と呼ばれます。
受傷部位が関節に近いと、関節炎を起こし、
傷が骨に達すると骨髄炎を起こします。抵抗力の弱
人の症
提供)
状(蜂窩織炎)(日本大学医学部 原 弘之先生
っている人に肺
ることがあります。
日本にお
均増加率が45%以上で、10年前の約10倍増加しています。
ですが3倍に増加しています。パスツレラ症は増加傾向にある感染症の一つであ
り、ペットからうつる感染症として、最も患者数が多い病気といわれています。
予防のための注意
コラム
パスツレラ症は動物から人にうつる感染症として、最も患者の数が多い病気と考えられ
ており、発生数が年々増加傾向にあります(下表)。また人の日和見感染の原因菌とし
ても注目されており、WHO や厚生労働省から重要な共通感染症の1つとして警告され
ています。
検体
1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001
膿(イヌ・ネコによる掻咬傷)
10 102 17
19
29
23
60 61 94 144
呼吸器系(喀痰、気道分泌液、気管支洗浄液、
胸水)
7
26
15
39
34
49
48 60 88 110
その他
6
6
8
13
13
17
30 27 41 71
23
42
40
71
79
89 138 150 224 325
国内の臨床研修指
定病院478病院の検査室を対象に行った、パスツレラ属菌の分離状況のアンケート調査結果。回答のあった病院数
291病院(回収率60.9%)で、そのうち206病院(70.8%)でパスツレラ属菌が分離された。(出典)荒島康友他 「1992∼2001
の10年間の本邦における Pasteurella spp.の分離状況」(2004)獣医畜産新報 Vol.57 No.8 P.668 表1を一部改変
41

Page 46
6.8 レプトスピラ症
① 病
ガンス
感染症です。
③ 感染経路
循環伝染しています。
④ 動物の症状
イヌは全身感染を起こし、発熱、筋肉
尿、
黄疸
高 です。妊娠中
産を
ことがあります。ネコでの発 例は と ど
ま ん
原体
レプトスピラ症はレプトスピラ・インテロ
Leptospira interrogans)という細菌による
関係する動物
レプトスピラ菌には多数の血清型があり、日本 分離
れる血清型と宿主となる動物の間には、イエネ
血清型 Icterohaemorrahagiae(ワイル病)、イヌと血清型 Canicola(犬疫)という
関係があります。日本に分布するその他の血清型で、人に病原性を示すものは、
Hebdomadis、Autumanalis、Australis、Pyrogenes です。
ミと
動物間で
人にはレプトスピラ菌に感染したイヌやネズミなどの尿、尿に汚染された水、土
壌から経皮的に皮膚、粘膜表面の創傷、擦傷、または結膜を通過して体内に感染し
ます。また本菌に汚染した食物からも経口的に感染します。
痛、口腔粘膜の出血、血便、腎炎、蛋白
などを示し、重症例が多く、死亡率が い
の動物が感染すると流
起こす
ほ ん あり せ 。
Leptospira interrogans の電子顕微鏡
像(出典:国立感染症研究所感染症情
報センター 感染症発生動向調査週
報)
外界
環境水・土壌
尿
尿
尿
ネズミ
イヌ・哺乳類
経口・経皮
経口
.
経口・経皮
経口・経皮
尿
細菌感染症
42

Page 47
⑤ 人の症状
5∼14日の潜伏期の後に、38∼40℃の発熱、悪寒、頭痛、筋肉痛、結膜充血など
状で発病します。重症の場合は、発病後5∼8日目に黄疸、出血、腎機能障
⑥ 発生状況
は、2003年に1人、2004年に18人、2005年に17人の患者数が報告さ
れ、全
の患者数が
告されています。
の注意
場合にはワクチンの接種が予防に有効です。イ
⑧ 関係法令
感染症法で4類感染症に指定されています。
家畜伝染病予防法の監視伝染病に指定されています(対象動物:イヌ他)。
の初期症
などの症状が認められます。
近年の日本で
ています(2003年の法改正により4類感染症に指定さ
ました。)。過去には昭和12、13、14年の3年間で9千人
以上が死亡した事例があります。
家畜伝染病予防法ではイヌのレプトスピラ症は届出伝染病に指定されており、
2003、2004年に各150頭前後、2005年には約70頭の感染が報
数把握の対象となり
あり、2千人
⑦ 予防のため
人・イヌともに感染の恐れがある
用ワクチンは混合ワクチンの形で、広く接種されています。
人の場合、野外での経皮感染を避けるため、肌を露出しないことが重要です。
コラム
2005年3月、米国からアメリカモモンガ129頭が静岡県の動物輸入業者によって日本に
輸入されました。その後4月に当業者の従業員1名がレプトスピラ症に感染し、さらに6
月にも別の従業員1名が本症に感染し、それぞれ静岡市内の病院に入院しました。輸入さ
れた129頭のうち、一部はすでに販売済みでしたが、全ての個体が回収され、殺処分とな
りました。この種のような輸入げっ歯類(エキゾチックアニマル)25種522匹のレプトス
ピラ属菌の保菌状況調査では、12種32匹で保菌が確認されており、アメリカモモンガの
ような樹上性のげっ歯類では5種に保菌が確認されています。これら樹上性げっ歯類は高い
する習性があるため、その衛生管理には特に注意が必要です。現在では輸入
05年9月)により、レプトスピラ症に感染したげっ歯類を輸入することはで
ところで放尿
届出制度(20
なくなっています。
43

Page 48
6
ックス症
オフォルマンス
Cryptococcus neoformans)と呼ばれる酵母菌です。
存在する真菌で、世界中に分布しています。
病原体は自然界に広く分布しており、動物には経気道および経皮的に感染します。
④ 動
に感染すると、鼻か
ら肺炎、顔面の皮膚炎、歩行困難、脳炎症
状、さらには全身感染にまで進むことがあ
ります。
.9 クリプトコ
病原体
原因菌はクリプトコックス・ネ
本来土壌に
Cryptococcus neoformans の墨汁標本(日
本大学生物資源科学部 長谷川 篤彦先
生 提供)
然界からは鳥類、特にハトの糞から分離されます。
関係する動物
各種動物と人が感染します。
感染経路
人も同様に経気道および経皮的に感染します。
(日和見感染)
ハト
空気
経皮
(糞中で増殖)
物の症状
日和見感染が多いと考えられています。
種哺乳類、鳥類、爬虫類などに、風邪様
状、肺炎、脳炎、流産、子宮内膜炎、皮
炎、乳房炎などをおこします。ネコエイ
やネコ白血病などに感染し、免疫力が弱
ているネコは、本菌
ネコの症状:下唇に肉芽腫を形成(日本大学生物資源科
学部 長谷川 篤彦先生 提供)
真菌感染症
44

Page 49
⑤ 人の症状
日和見感染が多いと考えられています。免疫不全状態にあると容易に発症します。
状(カゼ様症状から慢性肺疾患)、神経症状(髄膜炎)、皮膚症状(ニキビ
ウ膜炎など)が主なものです。
アメリカではクリプトコックス症患者の85%が、HIV 感染者から発生しています。
た人々、特に HIV 感染者は注意が必要です。
⑦ 予防のための注意
弱っているペットは、飼い主が十分注意して感染源(公園などハトが多
は公園や駅構内の梁など、ハトの
糞が堆積している場所に近づかないことです。
呼吸器症
皮疹、毛包炎、潰瘍肉芽腫など)、眼症状(ブド
発生状況
国内における発生状況は不明です。
免疫が抑制され
免疫力の
ところ)に近づけないことが重要です。健康な人は特別な注意は必要なく、手洗
い、うがいで十分です。免疫力の低下している人
コラム
身の回りには、カラスやハト、ネズミ、野良ネコなど、ペットでも野生動物でもなく、
人間生活に依存した動物が数多く生息しています。これらは、都市型野生動物と呼ば
れています。都市型野生動物は生息密度が高いことが多く(群れを作るものが多い)、
一度感染症が侵入すると、多くの動物へと感染する可能性があります。
伝播経路
カラス・ハト
ネズミ類
(ウ) リンパ球性脈絡髄膜炎
咬傷・ひっか
き傷など
(サ) 鼠咬症、パスツレラ症
(ウ) 高病原性鳥インフルエンザ、ニュ
ーカッスル病
(ウ) リンパ球性脈絡髄膜炎、腎症
候性出血熱
直接伝播
接触、咳、排
泄物(糞口感
染)
(サ) サルモネラ症、Q 熱、オウム病 (サ) サルモネラ症、リステリア症、
レプトスピラ症、Q 熱
(ウ) ダニ媒介性脳炎
(サ) ペスト、野兎病、発疹熱
ベクター媒介
(ウ) ウエストナイル熱
(ゲ) バベシア症
食品媒介
(サ) サルモネラ症、リステリア症、
エルシニア症、鼠咬症、リス
テリア症
(サ) サルモネラ症、オウム病、Q 熱 (ウ) 腎症候性出血熱
(サ) サルモネラ症、レプトスピラ
症、リステリア症、鼠咬症、Q
間接伝播
環境媒介(水・土壌)
ズマ症
(シ) クリプトコックス症、ヒストプラ
(ゲ) クリプトスポリジウム症
ネズミ類:ドブネズミ、クマネズミ、ハツカネズミなど。アンダーラ
(ウ):ウイルス、(サ)細菌、(ゲ):原虫、(シ):真菌
(出典)神山恒夫・高山直秀「こどもにうつる動物の病気」都市型野
イン:日本で感染動物の報告がないもの。
生動物からうつる病気 p86-87表 2005年(真興交易(株)
医書出版部)を一部改変
45

Page 50
6
菌症
イヌ・ネコに多いイヌ小胞子菌(Microsporum canis)や、
)、土壌性の石膏状
な原因菌です。
ペット動物では主にイヌ・ネコが感染し、その他ウサギ、リス、マウスなどにも
や家庭のほこりに生息していた
④ 動物の症状
全く症状を
場合と、皮膚に病変が現れ
あり
、いったん
病変ができると急
ケ、
脱毛、発疹、
れ)
ると化膿し
.10 皮膚糸状
病原体
皮膚糸状菌症は真菌類(カビの仲間)による感染症で、
毛瘡菌(Trichopyton mentagrophytes
胞子菌(Microsporum gypseum)が主
Microsporum canis の大分生子(千葉
大学真菌研究センター 佐野 文子先
生 提供)
関係する動物
感染します。
感染経路
イヌ小胞子菌や毛瘡菌の感染は、感染したイヌ・ネコ、ウサギなどのペット動物
との接触により人に感染し、石膏状小胞子菌は土壌
ものが動物や人に感染します。皮膚糸状菌症は人から人にも伝染します。
示さずに被毛に付着してい
る場合とが
ます。病変は体の各所にみられ
速に広がります。フ
痒み、びらん(皮膚のただ
および出血がみられ、重篤にな
ます。
接触
接触
接触
真菌感染症
ネコの症状(きさらず皮膚科クリニック 高橋容子先生 提供)
46

Page 51
人の症状
ら、頭部白癬(しらくも)、体部白癬(ゼニタムシ)、ケルスス禿瘡などに
部分に円形の脱毛班が
や浮腫などはみられず、
周辺が盛り上がった境界が明白な環状
れ、痒みを伴います。
部分に小さな膿疱が多
数発現し、発赤や腫脹がみられ、圧痛を
病変部の毛髪は抜け落ち、膿
⑥ 発生状況
皮膚糸状菌症の原因菌は輸入ペットやエキゾチックペットによってもたらされ
たものが多いと考えられています。水虫などを含めた白癬といわれる病気は、日本
国内で1000万人以上が罹患しているといわれ、このうち、毛瘡菌が約28%、イヌ小
胞子菌が約1.9%とされています。
イヌ小胞子菌は、イヌよりもネコに広く感染しています。
⑦ 予防のための注意
感染している動物に接触しないことです。感染しているペットは、他のペットと
隔離する必要があります。長毛種の刈り込みや、飼育環境(土壌、獣舎)の消毒を
適切に行うことも予防に効果的です。
病状か
類されます。頭部白癬は幼・小児に多く、毛髪に覆われる
現れます。脱毛班はぬか様のフケで覆われています。発赤
痒みがあります。
体部白癬は体幹部、四肢、顔面などに、
の皮疹として現
ケルスス禿瘡は幼・小児に多くみられ、
毛髪に覆われた
伴います。
から膿を出すため、やがて患部全体が
かさぶたで覆われます。
人の症状(みずほ台動物病院 兼島 孝先生 提供)
47

Page 52
6.11 トキソプラズマ症
① 病
染症です。
感染します。
型の3つの形態をとり、ペットではネ
の中でのみ増えることができます。オーシ
の小腸の細胞内で有
とと
もに環境中に排出され、成熟して感染力を持ちます。オーシストが他の動物(人や
に経口感染すると、宿主の細胞内で無性分裂し、増殖型を生産します。
原体
トキソプラズマ症は単細胞の原生動物トキソプラズ
マ・ゴンディ(Toxoplasma gondii)による人とネコ(そ
の他動物)の共通感
関係する動物
宿主域が広く、人を含む多くの動物に
育段階によってオーシスト、シスト、増殖
コが終宿主となります。
感染経路
トキソプラズマ原虫は生きている細胞
ストはネコ(特に子ネコ)
性生殖によって形成され、糞便
イヌなど)
殖型は筋肉内などでシストに分化し、宿主内で永く生存することになります。草
食動物はオーシストによって、肉食動物はオーシストとシストの両方によって感染
します。人の場合、トキソプラズマ原虫に感染した家畜(特に豚)の肉を生に近い
状態で食べたり、ネコから排出されたオーシストを経口摂取したときに感染します
トキソプラズマオーシスト(国立感染症研
究所寄生動物部 遠藤 卓郎先生 提供)
原虫感染症
中間宿主(イヌ・人等)
(オーシスト)
(シスト)
経口
糞便
経口
外界
経口
経口
胎盤感染
(増殖型)
食品(肉類)
終宿主(ネコ)
48

Page 53
④ 動物の症状
成長した健康なネコやイヌが感染しても、ほとんどが不顕性感染です。子ネコや
は、発熱、食欲不振、呼吸困難、咳、嘔吐、黄疸等の複雑な症状が現れ、
重症化すると、神経症状や運動障害をきたして死亡することがあります。
<先天性感染>
マの増殖型が妊娠中の母体から胎児へ胎
ズマ抗体が陽性であれば、
の感染であれば流産、妊娠中期・後期の感染であれば、
胎児に精神・運動障害、脳内石灰化、水頭症が起きます。
ーシストを排出しているとされます(1970∼1990年の調査)。オーシストを排出す
るネコは生後1年以内の子ネコで、短期間に免疫を獲得し、オーシストの排出は止
まります。繁殖期後の子ネコの多い時期は特に危険な時期といえます。
⑦ 予防のための注意
終宿主であるネコへの感染を防ぐことが重要です。乾燥フード、缶詰、または完
全調理の餌を与え、鳥類やネズミ類の捕食を防ぎます。
ネコの便中のオーシストが環境を汚染しないように、毎日ネコの便器を清掃消毒
します。また、複数のネコが水飲み容器を共用しないようにしましょう。できれば
室内で飼育し、餌の残りは速やかに処分しましょう。人用のワクチンはありません。
子イヌで
人の症状
トキソプラズ
盤を介して感染すること
あり、これを先天性感染といいます。母体のトキソプラ
防御免疫が働いて問題ありませんが、母体が妊娠中に初感染した場合には、胎児の
発育に障害がおき、妊娠初期
<後天性感染>
オーシストとシストの経口感染によるもので、感染後に生産された増殖型が増殖
を繰り返す段階で、リンパ節炎、眼の網脈絡膜炎を発症することがあります。これ
を後天性感染といいます。増殖の過程で免疫応答が起き、虫体の増殖と細胞への感
染が阻止されるため、多くは不顕性感染となります。
発生状況
日本ではネコの約5%が感染歴を有し(1994∼1999年の調査)、ネコの0∼1%がオ
49

Page 54
6.12 犬糸状虫症
① 病原体
犬糸状虫症はイヌのフィラリア症の原因である犬
糸状虫(Dirofilaria immitis)による感染症です。
② 関係する動物
イヌが最も重要な宿主です。人にはまれに感染します。
③ 感染経路
イヌ糸状虫の成虫はイヌの右心室や肺動脈に寄生しており、血中にミクロフィラ
リアを産出します。吸血によって蚊に取り込まれたミクロフィラリアは24時間以内
に蚊のマルピーギ管に移行し、その後感染幼虫に発育します。感染幼虫をもった蚊
に人やイヌが刺されると、体内に感染幼虫が侵入します。
しかし、蚊を媒介して人の体内に入った感染幼虫の大部分はそこで死滅します。
一部の幼虫は肺や皮下組織に移行して、ある程度まで成長して肉芽腫を形成します
が、成虫にまでは発育せずにいずれ死滅します。
④ 動
ネコでは特徴的な症状は認められませんが、急性例では呼吸困難、全身の痙攣を
亡することがあります。慢性例では嗜眠、食欲低下、嘔吐、下痢などを
血中のミクロフィラリア(国立感染症研
究所寄生動物部 杉山 広先生 提供)
寄生虫感染症
.
.
蚊が媒介
蚊が媒介
物の症状
イヌの場合、軽症例では軽度の咳程度ですが、中等症例では貧血、皮毛の粗剛、
栄養低下、運動忌避、呼吸困難、運動後の失神等がみられます。さらに症状が進行
すると、腹水の貯留、心肥大、栓塞、皮下浮腫、諸臓器のうっ血などの重度の循環
器系の障害を起こし死亡します。
起こして死
50

Page 55
51
起こします。
⑤ 人の症状
幼虫
によって、肺犬糸状虫症と肺外犬糸状虫症とに分けられます。肺
犬糸状虫症は全体の75%を占め、幼若幼虫が肺血管内に栓塞を起こした結果発症し
ます。咳、血痰、発熱などの症状を認めますが、無症状の場合も多く、胸部 X 線で
偶然陰影として病変が発見され、肺ガンや肺結核と間違われて開胸手術を受ける例
もみられます。
肺外犬糸状虫症の場合は幼虫が皮膚爬行症の原因になったり、皮下、腹腔、子宮、
眼球などの組織中に腫瘤を形成することがあります。
⑥ 発生状況
日本国内の平均感染率はイヌが40%(1953∼1973年の調査)と高く、ネコの感染
率は0∼7%(1953∼1994年の調査)となっています。
人では1964年の第1例報告以来、現在まで90例を越える報告があり、そのうち肺
寄生例(肺犬糸状虫症)が約75%、肺外寄生例(肺外犬糸状虫症)が約21%、その
他が4%となっています。
⑦ 予防のための注意
中間宿主である蚊の駆除を徹底します。イヌ・ネコに対しては、蚊の活動時期に
合わせて、獣医師の指示のもと予防薬を投与します。
イヌ心臓における寄生状況(大阪府立大学大学院 生命環境科学研究科
小谷 猛夫先生 提供)
の寄生部位

Page 56
寄生虫感染症
6.13 イヌ・ネコ回虫症
による感染症です。
② 関係する動物
イヌ・ネコが排泄した回虫卵を経口摂取することにより、人に感染します。
③ 感染経路
経口摂取された回虫
卵は
に寄生し、成長したイヌではほ
④ 動
す。
① 病原体
イヌを終宿主とするイヌ回虫(Toxocara canis
と、ネコを終宿主とするネコ回虫(Toxocara cati
イヌ回虫(Toxocara canis)(国立感染症研究所
杉山 広先生 提供)
寄生動物部
イヌ・ネコが排泄した回虫卵は1ヶ月ほどで成熟して感染力を獲得します。これ
を経口摂取することで人が感染します。回虫の幼虫が含まれる動物の肉(特に肝臓)
を加熱不十分な状態で摂取して感染することもあります。人に
小腸で孵化し、幼虫は門脈を経由して肝臓へ達します。さらに血流に乗って循
環し、全身の臓器や器官に達します。人の体内では成虫になることはありません。
イヌ回虫の成虫は生後2∼3ヶ月の子イヌの腸管
とんど寄生がみられません。ネコ回虫は成長したネコでの寄生率が高いです。
.
イヌ
成熟卵
未成熟卵
胎盤感染
糞便
イヌ回虫の感染環
食肉
経口
経口
物の症状
イヌ回虫症は、母イヌから胎仔へ、妊娠中に胎盤経由で移行するのが主な感染経
路です。子イヌに多数の幼虫が感染した場合、栄養状態の悪化、下痢、腸閉塞、肺
炎、気管支炎を起こすことがありま
ネコ回虫の場合、胎盤感染は起こりませんが、乳汁を通して子ネコに感染します。
症状はイヌ回虫に感染したイヌの場合と同様です。
52

Page 57
⑤ 人の症状
回虫の幼虫が眼に移行する眼移行型と、肝臓や肺などの臓器に移行する内臓移行
型があります。眼移行型の場合、視力障害や視野障害、霧視、飛蚊症などがおこり
ます。内臓移行型では、好酸球増多症や肝腫大、肺炎症状、ぜん息発作、関節痛、
筋肉痛などの症状があらわれます。
⑥ 発生状況
世界的に発生しています。日本では1965年∼1991年の間に、 ヌ回虫による症例
が96例、ネコ回虫に
発生すると
いわれていましたが、高年齢層の発生も増加傾向にあるといわれています。
⑦ 予
よる症例が21例報告されています。幼・小児に多く
防のための注意
イヌ・ネコとの接触の後や砂場で遊んだ後は石鹸でよく手荒いし、虫卵の経口摂
取を避けることです。子イヌの飼育を始めるときは糞便検査をし、獣医師の指示の
もと定期的に駆虫薬を投与します。イヌ・ネコともに感染予防のためのワクチンは
ありません。
コラム
定着・繁殖している現状があります。これらの「野生ア
ライグマ」は、全国の47 都道府県のうち32 都道府県で確認されています。北米原産
のアライグマに普通に見られるアライグマ回虫(Baylisascaris procyoni )はイヌ・ネ
の虫卵を経口摂取すると幼虫移行症を引き起こすため、野生化し
たアライグマ
以来、
日本では人への感染事例
は現在まで報告されていませんが、動物園および観光施設で飼育されているアライグマ
には本虫の寄生が見つかっており、最近、東日本の観光施設のウサギ群にアライグマ回
虫による脳幼虫移行症が発生していたことが明らかになりました。現在のところ(2002
年10 月)、これらの「野生アライグマ」からはアライグマ回虫の寄生例は確認されてい
ません。
(出典:感染症のはなし「アライグマ回虫による幼虫移行症」国立感染症研究所 感染症情報センター)
日本では1977 年のアライグマを主人公としたテレビアニメによるブーム以来、多い年
には年間1,500 頭を数えるアライグマが輸入されていました。その結果、国内で飼育さ
れたアライグマは現在までに総計2万頭を越えると推計され、その一部が飼育しきれずに
逃亡や遺棄されたため、野外で
コ回虫と同様、人がそ
から人への感染を防ぐことが必要です。米国においては1981 年の初発例
アライグマ回虫の感染を原因とする重症脳障害患者が少なくとも12 例確認され、
そのうち10 例は6 歳以下の小児で、3 名が死亡しています。
53

Page 58
寄生虫感染症
6.14 エキノコックス症
性エキノコックス(Echinococcus
ています。
② 関係する動物
野ネズミ、キタキツネ、イヌ、家畜、人に感染し、ニホンザル、オランウータン
等の動物園動物にも感染します。
③ 感染経路
多包条虫は終宿主(キツネ、イヌ)の小腸内に寄生し(成虫期)、虫卵はキツネ
やイヌの糞便と一緒に排出され(虫卵期)、中間宿主(野ネズミ)が虫卵を経口摂
取して多包虫(幼虫期)となります。自然界では野ネズミとキタキツネの間で感染
環が成立しています。人への感染は、手や食品についた虫卵を口に入れたり、虫卵
④ 動物の症状
終宿主(キタキツネ・イヌ)に成虫が多数寄生すると下痢などが起こりますが、
無症状です。
腸の中で孵化して幼虫になり、その後肝
すると肝機能障害を起こし
① 病原体
日本に定着しているエキノコックスは、多包
multilocularis ;多包条虫)の幼虫によるも
ので、北海道に分布し
多包条虫(Echinococcus multilocularis)(国立
感染症研究所寄生動物部 杉山 広先生 提供)
で汚染された沢水等を飲むことによって成立すると考えられます。
.
糞便
外界
経口(食品・沢水・埃)
中間宿主(ネズミ)
終宿主(イヌ・キツネ)
虫卵
捕食
幼虫
虫卵
成虫
幼虫
少数寄生では
人の症状
虫卵が口から入ることで感染し、虫卵は
に寄生して増殖します。感染後、数年から数十年ほどたって自覚症状が現れます。
初期には上腹部の不快感・膨満感の症状で、さらに進行
54

Page 59
ます。
⑥ 発
の多包虫症例は累計で434例あり、本州、九
州等においても870例以上が報告されています(多くが北海道での居住歴があり、
染したと考えられています。)。
を更に拡大させるのではないかと懸念されています。
⑦ 予
対策として、キタキツネが人家に近づかないよう、ゴミを野外に放
置しないことと、野ネズミを捕食しな よう、イヌを放し飼いにしないことが重要
です。また北海道から移動するペットのイヌに駆虫を行うことが望ましいでしょう。
人用・イヌ用ワクチンはありません。
⑧ 関係法令
感染症法で4類感染症に指定されています。
生状況
北海道では1937年に礼文島において人への感染が確認されて以来、1965年の根室、
釧路を含む北海道東部での流行を経て、1990年代には北海道全域に流行が広がりま
した。2002年までの北海道における人
北海道で感
自然界の主たる終宿主であるキツネの感染率は約40%(2000年、2001年)であり、
1966年から2002年までのイヌにおける感染率は1%となっています。
近年のキタキツネの市街地への進出と、ペットのイヌへの感染の拡大が、流行
防のための注意
個人の予防対策として、キタキツネや野良イヌに素手で触らないこと、接触後は
よく手洗いすること、加熱していない山菜や沢水を摂取しないことがあげられます。
社会的な予防
コラム
999年から埼玉県衛生研究所と埼玉県動物指導センターが共同で実施している「犬にお
るエキノコックスの実態調査」において、これまでに埼玉県内で捕獲又は所有権放棄さ
た犬550頭のうち、2005年5月に埼玉県内で捕獲された雌犬(雑種)1頭にエキノコ
クスが寄生していたことが判明しました。埼玉県では今後、飼育放棄犬で北海道関連が
認されたものの検査と、中間宿主である野ねずみのエキノコックス感染調査を行うとし
います。
海道から本州へは、転居および旅行の随伴犬他として、毎年約1万頭以上の犬が移動し
いるといわれます(犬のエキノコックス症対策ガイドライン2004)。これまで北海道以
での野生
1
動物間でエキノコックスの感染環の成立は確認されていませんが、イヌを同伴
して北海道から転居する前や、旅行から本州に戻った際には、獣医師と相談して虫卵検査
または駆虫を行うことが望ましいでしょう。
55

Page 60
寄生虫感染症
6.15 ウリザネ条虫症
通に見られ
ることから、別名イヌ条虫とも呼ばれます。
② 関
ネコ科の動物や人の小腸に寄生します。
ったノミの
成虫を、イヌや人が飲み込むと感染します。幼虫は小腸に頭部を挿入して固着させ
て、3∼4週間で成虫に育ちます。終宿主はイヌの他にネコ、キツネなどイヌ科やネ
コ科の多くの動物が知られています。ノミの他にハジラミも中間宿主になります。
ウリザネ条虫(Dipylidium caninum)の頭部(国
立感染症研究所寄生動物部 杉山 広先生提供)
① 病原体
ウリザネ条虫症は、サナダムシ(条虫)の一種
であるウリザネ条虫(Dipylidium caninum)によ
る共通感染症です。世界中のイヌに普
係する動物
ウリザネ条虫の成虫が、イヌ科や
③ 感染経路
ウリザネ条虫の成虫は、頭部と多くの節が連なった片節からなっています。虫体
後半部の片節は10∼20個の卵を包んだ卵嚢で一杯になっています。通常は卵が中に
入ったままの状態で片節が繋ぎ目で切れてイヌの便とともに外界に出ます。外界で
片節から遊離した卵は雑食性のノミの幼虫に食べられ、その体内で幼虫になります。
この幼虫(発育段階にある幼虫:シスチセルコイドと呼ばれます)を持
ノミ(中間宿主)
.
糞便
摂食
イヌ
ノミを摂食
シスチセルコイド(幼虫)
④ 動物の症状
イヌ、ネコでの感染率が高いとされています。感染が軽度(寄生虫の数が少ない)
の場合は無症状で経過することが多く、遊離片節が毎日排出されます。多くは肛門
より出た片節が肛門周辺などに付着するため、刺激を受けて肛門を地面にこすりつ
56

Page 61
けたり、かゆいのでかむため肛門周囲の脱毛がみられることがあります。多数感染
例では、神経性の異常緊張、嘔吐、けいれん、慢性の下痢や腸炎などがみられます。
7∼82.8%)、ネコでは平均24.3%(1.4∼
.4%)と、イヌがわずかに高いという報告があります(1993年)。
ザネ条虫症に感染するのはまれで、国内では1925年の第1報告以来、現
⑦ 予防のための注意
中間宿主であるノミやハジラミを
飼養環境を清潔に保つことが重要です。
またペットの便中の片節や遊離した卵は人に対して感染力はありませんが、感染環
写真左:イヌ小腸における寄生状況、右:イヌノミ(国立感染症研究所寄生動物部 杉山 広先生 提供)
⑤ 人の症状
感染者のほとんどが乳幼児で、不機嫌、食欲不振、軽度の腹痛、軟便、下痢、じ
んましん、肛門のかゆみなどがあります。寄生虫が多いと出血を伴い、消化障害が
られます。全く症状の無いこともあります。
発生状況
国内のイヌの感染率は平均39.8%(0.
51
人がウリ
までに14例の報告が知られているだけです。
駆除し、
を断ち切るために、ペットの便を適切に処理することも必要です。
57

Page 62
6.16 疥癬
① 病原体
イヌセンコウヒゼンダニ(Sarcoptes scabiei)、ネ
ショウセンコウヒゼンダニ(Notoedres cati)によ
染症です。
る感
② 関係する動物
ヒゼンダニはイヌ・ネコやその他の動物に
し、
人へまれに寄生することがあります。
③ 感
④ 動物の症状
イヌセンコウヒゼンダニの寄生部位は全身に及びます。痂皮(主に体表の傷など
の表面を被う凝固した血液や膿の混合物)の形成が特徴的で、皮膚の肥厚や脱毛な
どもみられます。
ネコショウセンコウヒゼンダニはネコの顔面や耳介に多数が寄生します。痂皮の
形成、皺襞(ひだ状になった皮膚)の形成などの皮膚病変を起こします。
イヌセンコウ
ネコから採取されたヒゼンダニの一
種(みずほ台動物病院 兼島 孝先生
提供)
寄生虫感染症
染し、人にも感染します。ネコショウセンコウヒゼンダニはネコを主な宿主と
染経路
動物間では、動物同士の直接接触、感染動物のケージ、消毒不備なグルーミング
用品などから感染します。動物から人へは感染した動物を抱いたりした時に直接人
の肌に感染します。
人の間でも夫婦間、親子間など親密な共同生活者の間で肌から肌へ直接感染しま
す。寝具などを介して間接的にも感染します。
接触
接触
.
.
58

Page 63
いずれのヒゼンダニの感染においても強い痒みが起こり、病変部を掻くことによ
り皮膚を傷つけ、細菌による二次感染が生じやすくなります。
ネコの疥癬(みずほ台動物病院 兼島 孝先生 提供)
⑤ 人の症
ヒゼンダニは全身に寄生し、特に胸部、腹部、背部、腋窩、指間、陰茎などに病
ることが多いです。寄生部位に丘疹や小水泡(内部に漿液が貯留して隆
菌などの二次感染を受けること
があります。
⑥ 発
が、近年は
とはいえませんが、場合によって
はダニが定着し、次世代を生産することがあります。特に免疫機能が低下している
症しやすくなります。
とが重要で
す。感染したイヌ・ネコは早期に治療 行い、治癒するまで感染動物を隔離する必
要があります。感染動物に触れたら速やかに手洗いを行いましょう。動物のケージ
などは常に清潔を保つことが必要です。
変を形成す
した小さな発疹)がみとめられます。病態が進行すると、角質の増殖が起こり、
病変部が白色を呈します。疥癬は激しい痒みが特徴で、時に不眠になることがあり
ます。また皮膚を掻くことによって外傷が生じ、細
生状況
世界的に発生が認められ、日本においては、以前は多発していました
少しています。ただし海外からの帰国者に認められることがしばしばあります。
動物のヒゼンダニは人への感受性が必ずしも高い
場合には、本症を発
予防のための注意
動物からの感染を防ぐには、疥癬に罹患している動物と接触しないこ
59

Page 64
60

Page 65
◇海外からの侵入を警戒すべき人と動物の共通感染症
61

Page 66
62
6.17 狂犬病
① 病原体
狂犬病ウイルス(Rabies virus)による感染症です。
② 関係する動物
全ての哺乳類に感染します。感染したイヌやネコなどから、
人に感染します。
③ 感染経路
狂犬病ウイルスは宿主の唾液中に排泄されるので、人には感染したイヌやネコに
④ 動物の症状
感染したイヌは1ヶ月ほどの潜伏期の後、目的もなく動き回ったり、吠えたりす
る前駆症状が現れ、性格の変化がみられます。次いでわずかな刺激にも反応して攻
撃する興奮期にはいり、食事をとらなくなります。咽頭部のけいれんや麻痺が起こ
ると水分摂取ができなくなり、唾液も飲み込めないため涎を流し続けます。やがて
けいれん発作がおこり、呼吸が停止して死に至ります。他の哺乳類も症状は同様で、
発症すると100%死亡します。
⑤ 人の症状
通常1∼3ヶ月の潜伏期間の後発症します。初期は風邪に似た症状で、咬まれた
部位に知覚異常が見られます。不安感、恐水症、興奮、麻痺、錯乱などの神経症状
が現れ、数日後に呼吸麻痺で死亡します。発症すると100%死亡します。
かまれたり、ひっかかれたり、傷口をなめられたりして感染します。
狂犬病ウイルスの電子顕微鏡像
(出典:国立感染症研究所感染症
情報センター 感染症発生動向調
査週報)
Sample
.
唾液
唾液
咬傷
イヌ
ネコ
ウイルス感染症

Page 67
⑥ 発生状況
狂犬病は、日本、台湾、ノルウェー、スウェーデン等一部の国を除く世界中で発
生しており、年間5万5千人もの人が
います(WHO、2004年)。イヌ・ネ
コ以外にもキツネ、オオカミ、ジャッカル、マングース、スカンク、アライグマ、
コウモリなどから感染した例があります。
日本国内では
にネパールにお
いて1例、2006年にフィリピンにおいて2例、狂犬病に感染したイヌに咬まれ、帰
国後発症した輸入感染症例があります。
⑦ 予防のための注意
・ 万一の発生時に備え、日本では飼いイヌに必ず年1回狂犬病の接種を受けさ
せます(4-6月)。
・ 飼いイヌは市町村窓口で登録します(イヌの取得時に1回)。
・ イヌ、ネコ、アライグマ、キツネ及びスカンクを輸出入する場合は必ず検疫
を受けます。
・ 海外ではむやみに動物に手を出さないことです。
・ 渡航先で狂犬病のおそれのあるイヌ等に咬まれたら、すぐに傷口を石鹸と水
でよく洗い、医療機関ですぐに傷の処理と狂犬病予防ワクチンを接種します。
⑧ 関係法令
感染症法で4類感染症に指定されています。
狂犬病予防法において、年1回のイヌの狂犬病予防接種が義務付けられています。
亡くなって
1957年以降、狂犬病の発生はありませんが、1970年
コラム
日本は狂犬病の撲滅に成功した
数少ない国の1つです。1950
年に狂犬病予防法が施行され、狂
犬病の予防接種、輸入犬の検疫、
野犬の捕獲を徹底し、1957 年
以降日本では狂犬病が発生して
いません(輸入感染症例を除く)。
狂犬病撲滅後 50 年が経った現
在、飼養者等の狂犬病に対する危
機意識は低く、予防接種率は
40%を割り込んでいます(平成
17 年の推定値)。狂犬病の予防
接種は飼養者の義務であり、その
社会的責任の重要性を改めて認
識する必要があります。
厚生労働省統計資料(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou10/02.html)
日本ペットフード工業会(htt
0
200
400
600
800
1,000
1,200
1,400
平成6年 7年
8年
9年 10年 11年 12年 13年 14年 15年 16年 17年
登録頭数
予防接種頭数
推定飼育頭数
(万頭)
(%)
推定接種率
0
10
20
30
40
50
60
p://www.jppfma.org/shiryo/shiryo-set.html)
(出典)
63

Page 68
ウイルス感染症
6.18 高病原性鳥インフルエンザ
鳥類
、人のインフ
とは別の A 型インフルエンザウイルスによる感染症です。このうち感染し
症状を発症したり、特に強い病原性を示すものを「高病原性鳥イン
フル
凝集素)の種類によって亜型に分類され、病
高いトリ・
インフルエンザウイルスとしては H5あるいは H7亜型に含まれるウイルス株が知ら
② 関係する動物
トリ・インフルエンザウイルスは鶏などの他にも、様々な種類の鳥に感染し、中
でも家禽類には、特に感染しやすい種類(鶏、あひる、七面鳥など)があることが
知られています。家畜の豚やその他の哺乳類への感染はあまり見られません。なお、
従来、水鳥、特に野生のカモは、感染しても無症状あるいは軽症で経過し、低病原
性のウイルスを運ぶ自然宿主であると考えられていましたが、これらの無症状の水
鳥から高病原性のウイルスが分離された事例は、現在のところ報告されていません。
③ 感染経路
鳥の間では、基本的に飛沫や汚染された排泄物の吸入や餌、水などを介して腸管
や呼吸器に感染し、ごく限られた状況でのみ空気感染が疑われることが知られてい
ます。人への感染はめったに起こりませんが、H5N1亜型に感染した病鳥や死鳥の排
の濃厚な接触や、これらからの飛沫の吸入が原因と考えられる感染例
① 病原体
のインフルエンザは「鳥インフルエンザ」と呼ばれる
ルエンザ
た鳥が死
亡したり、全身
エンザ」と呼びます。インフルエンザウイルスは、ウイル
パク質 HA(赤血球
の表面にあるタン
原性の
れています
泄物や体液へ
あります。
飛沫
接触
接触 飛沫
(まれ)
64

Page 69
④ 動物の症状
⑤ 人
ンザ症状から結膜炎、また多臓器不全に
至る重症なものまで様々な症状があります。
⑥ 発
H5N
ア、アフリカ、中東、ヨーロッパにまたがり、家禽、
うち10カ国
2006年
⑦ 予
日本
っているため、通常の生活では病気の鳥と接触したり、フンを吸い込んだりするよ
ほとんどありません。そのため、人が鳥インフルエンザにかかる可能性
物の速やかな処理を行うことが必要です。飼養している鳥が普段と様子が違う、弱
っているなど、健康状態に異常があ
には獣医師に相談し、飼養者が身体に
不調を感じた場合には早めに医療機関を受診するこ
⑧ 関係法令
感染症法で4類感染症に指定されています。
家畜伝染病予防法の監視伝染病に指定されています
ずら、七面鳥)
※最新の情報は、環境省、厚生労働省、農林水産省のホーム
急性なものは症状を呈さず急死します。その他食欲不振、元気消失、産卵率の低
下、衰弱、咳、くしゃみ、ラッセル呼吸音、流涙、羽毛逆立、顔面、肉冠と肉垂の
浮腫とチアノーゼ、神経症状や下痢等の症状がみられます。
の症状
H5N1亜型は世界的に拡大しており、海外ではまれに人に感染した事例も報告され
ています。発熱、咳などの人のインフルエ
生状況
1亜型は2003年以来アジ
鳥を含めてこれまで53カ国にて鳥における発生がみられており、その
おいて263例の人における感染と、うち死亡158例が報告されています(2003年∼
)。
防のための注意
では、この病気にかかったニワトリの処分や施設等の消毒などを徹底的に行
うなことは
きわめて低いと考えられます。
一般的なことですが、鳥の健康状態に注意を払い、鳥に触った後の手洗いや排泄
った場合
とも大切です。
(対象動物:鶏、あひる、
ページで公開されています
65

Page 70
6.19 その他
●ウエストナイル熱
ほとんどの人は無症状。発症すると発熱、頭痛。重症では
意識障害、昏睡。
流行地では蚊に刺されないように注意する。(長袖、長ズボ
●エ
③ 感染経路
血液や体液との直接接触が主な感染経路と考えられている。
サルから人への感染経路は不明である。
出血、肝機能障害などの症状が現れ、6∼10日で100%死亡
する。
⑤ 人の症状
突然の高熱とともに、関節痛、筋肉痛、頭痛が出現し、やが
てのどの痛み、下痢、腹痛が現れる。その3∼4日後、約半
数で出血傾向が現れる。(人での致死率 55∼85%)。
●マールブルグ病
① 病原体
マールブルグウイルス
② 関係する動物
サル
③ 感染経路
血液や体液との直接接触が主な感染経路と考えられている。
サルから人への感染経路は不明である。
④ 動物の症状
アフリカミドリザルでは、出血熱を起こし、100%死亡する。
病原体
ウエストナイルウイルス
関係する動物
鳥類、蚊
感染経路
蚊の刺傷
動物の症状
トリ種により感受性が異なり、ウイルス血症を起こし感染源
となり致死するものや、無症状のものもある。ウマは多くの
場合無症状。
人の症状
⑥ 予防法
ンなど皮膚を露出しない服装、皮膚の露出部への蚊除け剤の
使用)
ボラ出血熱
病原体
エボラウイルス
関係する動物
サル
アフリカ株とアジア株(レストン株)があるが、アジア株
(レストン株)はサル類のみに致命的な疾患であり、人の症
状はない。
動物の症状
カニクイザル、アフリカミドリザルでは、元気消失、沈うつ、
66

Page 71
⑤ 人の症状
発熱、悪寒、頭痛、筋肉痛が突然始まり、発病後5日目から
●ペスト
エルシニア・ペスティス
⑤ 人の症状
感染ルートや臨床像によって腺ペスト、敗血症型ペスト、
肺ペストに分けられる。
敗血症型ペスト:ヒトペストの10%。急激なショック症状、
昏睡、手足の壊死。発症後2∼3日以内に死亡する。
肺ペスト:まれ。腺ペストや敗血症型ペストの末期に肺に侵
ノミの咬まれないようにし、マスク、手袋、ゴ
胸や背中、腹部に発疹が現れ、続いて嘔吐や下痢、さらに
進行すると、出血傾向が現れる。(人での致死率約25%)
① 病原体
関係する動物
げっ歯類(ネズミ、ハムスター、プレーリードッグなど)
感染経路
保菌ノミの咬傷、感染動物との接触
動物の症状
急性の敗血症
腺ペスト:ヒトペストの80∼90%。感染部位近くのリンパ節
の腫脹、壊死、突然の発熱、頭痛、悪寒。発症後3∼4日後
に敗血症を起こし、2∼3日以内に死亡する。
入した菌が呼気から排泄され、人から人へ伝播する。強烈な
頭痛、嘔吐、高熱、呼吸困難。発病後24時間以内に死亡する。
予防法
感染を疑う動物を扱う場合には皮膚の露出を避け、昆虫忌避
剤を使用して
ーグルなどを着用する。
(東京都「動物取扱責任者研修資料」より引用)
67

Page 72
引用
(総論)
届出制度と輸入の現状. モダンメディア. 52(11)
兼島
32:特別号
兼島孝. 2002. ヒトに伝染るペットの病気. 実業之日本社.
兼島
消毒を見直そう④−. Infovets(10)
兼島
消毒を見直そう⑤−. Infovets(1)
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兼島
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物、都市型野生動物
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68

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(健感発第 0704001 号・環自総発第 060704001). 2006. 神戸市の鳥類展示施設における
員のオウム病患者発生について.
(健感発第 1127001 号). 2003. 静岡県内の犬繁殖施設におけるイヌブルセラ症の流行につい
て.
69

Page 74
7 関係法令
の愛護及び管理に関する法律
5号)(抜粋)
物の愛護に関する事
の涵
産に対する侵害を防止することを目的とする。
又は苦しめることのないようにするのみでなく、人と動物の共生に配慮しつつ、その習性
(普及啓発)
養に関し、前条の趣旨にのつとり、
る教育活動、広報活動等を通じて普及
(動物の所有者又は占有者の責務等)
第7条 動物の所有者又は占有者は、命あるものである動物の所有者又は占有者としての責
分に自覚して、その動物をその種類、習性等に応じて適正に飼養し、又は保管する
体若しくは財産に害を加え、又は人に迷惑を及ぼすことのないように努めなければならな
病に
ための措置として環境大臣が定めるものを講ずるように努めなければならない。
第8
に対し、当該動物の
(基準遵守義務)
業者は、事業所ごとに、環境省令で定めるところにより、当該事業所に係
12 条第1項第1号から第5号までに該当する者以外の者でなけれ
、環境省令で定めるところにより、動物取扱責任者に動物取扱責任者研
なければならない。
7.1 動物
7.1.1 動物の愛護及び管理に関する法律(昭和48年法律第10
(目的)
1条 この法律は、動物の虐待の防止、動物の適正な取扱いその他動
項を定めて国民の間に動物を愛護する気風を招来し、生命尊重、友愛及び平和の情操
養に資するとともに、動物の管理に関する事項を定めて動物による人の生命、身体及び財
(基本原則)
2条 動物が命あるものであることにかんがみ、何人も、動物をみだりに殺し、傷つけ、
を考慮して適正に取り扱うようにしなければならない。
3条 国及び地方公共団体は、動物の愛護と適正な飼
相互に連携を図りつつ、学校、地域、家庭等におけ
啓発を図るように努めなければならない。
任を十
ことにより、動物の健康及び安全を保持するように努めるとともに、動物が人の生命、身
い。
動物の所有者又は占有者は、その所有し、又は占有する動物に起因する感染性の疾
ついて正しい知識を持ち、その予防のために必要な注意を払うように努めなければならな
動物の所有者は、その所有する動物が自己の所有に係るものであることを明らかにする
環境大臣は、関係行政機関の長と協議して、動物の飼養及び保管に関しよるべき基準を
めることができる。
(動物販売業者の責務)
条 動物の販売を業として行う者は、当該販売に係る動物の購入者
適正な飼養又は保管の方法について、必要な説明を行い、理解させるように努めなければ
ならない。
21 条 動物取扱業者は、動物の健康及び安全を保持するとともに、生活環境の保全上の支
障が生ずることを防止するため、その取り扱う動物の管理の方法等に関し環境省令で定め
る基準を遵守しなければならない。
(動物取扱責任者)
22 条 動物取扱
る業務を適正に実施するため、動物取扱責任者を選任しなければならない。
動物取扱責任者は、第
ばならない。
動物取扱業者は
修(都道府県知事が行う動物取扱責任者の業務に必要な知識及び能力に関する研修をい
。)を受けさせ
70

Page 75
7
愛護及び管理に関する法律施行規則(平成 18 年環境省令第 1 号)
(遵守基準)
ようとする動物について、その生理、生態、習性等に合
当たって、あらかじめ、次に掲げる
文書(電磁的記録を含む。)を交付し
確認を行わせ
場合にあっては、ロからヌまで
に掲げる情報については、必要に応じて説明すれば足りるものとする。
い疾病の種類及びそ
ホ 主な人と動物の共通感染症その他当該動物がかかるおそれの高い疾病の種類及びそ
所等を登録している動物取扱業者に通知するものとする。
3 動物取扱業者は、選任したすべての動物取扱責任者に、当該登録に係る都道府県知事の
開催する動物取扱責任者研修を次に定めるところにより受けさせなければならない。ただ
し、都道府県知事が別に定める場合にあっては、当該都道府県知事が指定した他の都道府
県知事が開催する動物取扱責任者研修を受けさせることをもってこれに代えることができ
る。
一 1年に1回以上受けさせること。
二 1回当たり3時間以上受けさせること。
三 次に掲げる項目について受けさせること。
イ 動物の愛護及び管理に関する法令(条例を含む。)
ロ 飼養施設の管理に関する方法
ハ 動物の管理に関する方法
ニ イからハまでに掲げるもののほか、動物取扱業の業務の実施に関すること。
7.1.3 家庭動物等の飼養及び保管に関する基準(平成 14 年環境省告示第 37
号)(抜粋)
第3 共通基準
6 人と動物の共通感染症に係る知識の習得等
(1)所有者等は、その所有し、又は占有する家庭動物等と人に共通する感染性の疾病に
ついて、動物販売業者が提供する情報その他の情報をもとに、獣医師等十分な知識を
有する者の指導を得ることなどにより、正しい知識を持ち、その飼養及び保管に当た
っては、感染の可能性に留意し、適度な接触にとどめるなどの予防のために必要な注
意を払うことにより、自らの感染のみならず、他の者への感染の防止にも努めること。
(2)家庭動物等に接触し、又は家庭動物等の排せつ物等を処理したときは、手指等の洗
浄を十分行い、必要に応じ消毒を行うこと。
.1.2 動物の
(抜粋)
8条 法第 21 条第1項の環境省令で定める基準は、次に掲げるものとする。
販売業者にあっては、販売をし
致した適正な飼養又は保管が行われるように、契約に
当該動物の特性及び状態に関する情報を顧客に対して
て説明するとともに、当該文書を受領したことについて顧客に署名等による
ること。ただし、動物取扱業者を相手方として販売をする
ト 主な人と動物の共通感染症その他当該動物がかかるおそれの高
の予防方法
タ 当該動物の病歴、ワクチンの接種状況等
貸出業者にあっては、貸出しをしようとする動物の生理、生態、習性等に合致した適正
な飼養又は保管が行われるように、契約に当たって、あらかじめ、次に掲げるその動物の
特性及び状態に関する情報を提供すること。
の予防方法
動物取扱責任者研修)
10 条 都道府県知事は、動物取扱責任者研修を開催する場合には、あらかじめ、日時、場
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7.1.4 展示動物の飼養及び保管に関する基準(平成 16 年環境省告示第 33 号)
4 人と動物の共通感染症に係る知識の習得等
管者は、人と動物の共通感染症及びその予防に関する十分な知識及び情報を習得
指等の洗浄を十分に行い、必要に応じて
消毒を行うように努めること。
人と動物の共通感染症及びその予防に関する十分な知識及び情報を習得する
4 個別基準
おける展示
ア 観覧者と動物園動物又は触れ合い動物が接触できる場合においては、その接触が
の監督の下に行われるようにするとともに、人への
販売方法
また、飼養及び保管が技術的に困難な販売動物については、終生飼養がされにくい
(抜粋)
第3 共通基準
飼養保
するように努めること。また、展示動物の飼養及び保管に当たっては、自らの感染のみな
らず、観覧者への感染を防止するため、感染の可能性に留意しつつ、不適切な方法による
接触を防止し、排せつ物等を適切に処理するように努めること。さらに、展示動物に接触
し、又は動物の排せつ物等を処理したときは、手
管理者は、
ように努めること。また、感染性の疾病の発生時に、必要な対策が迅速に行えるよう公衆
衛生機関等との連絡体制を整備するように努めること。
1 動物園等に
管理者及び飼養保管者は、動物園動物又は触れ合い動物を飼養及び保管する動物園等に
おける展示については、次に掲げる事項に留意するように努めること。
5)展示動物との接触
十分な知識を有する飼養保管者
危害の発生及び感染性の疾病への感染の防止に必要な措置を講ずること。
2 販売
管理者及び飼養保管者は、販売に当たっては、次に掲げる事項に留意するように努める
こと。
(3)
ウ 販売動物の販売に当たっては、その生態、習性、生理、適正な飼養及び保管の方
法、感染性の疾病等に関する情報を提供し、購入者に対する説明責任を果たすこと。
傾向にあることから、このような販売動物に関する情報の提供は特に詳細に行うこ
と。
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年法律第 114 号 )(抜粋)
(国
(獣
地、動物園、博
覧会の会場その他不特定かつ多数の者が入場する施設若しくは場所における展示を業とし
はそ
症を人に感染させることがないように、感染症の予防に関する知識及び技
の必要な措置を講ずるよう努めなければな
らない。
(獣
三類感染症又は四類感染症のうちエボラ出
血熱、マールブルグ病その他の政令で定める感染症ごとに当該感染症を人に感染させるおそ
り、又はかかっている疑いがあると診断したときは、直ちに、当該動物の所有者(所有者以
の者が管理する場合においては、その者。以下この条において同じ。)の氏名その他厚生
寄りの保健所長を経由して都道府県知事に届け出なければなら
い場合において、当該動物が
(感
第十五条 都道府県知事は、感染症の発生を予防し、又は感染症の発生の状況、動向及び原
るときは、当該職員に一類感染症、二類感染症、三
者、疑似症患者及び無症状病原体保有者、新
るおそれがある動物若しくはその死体の
な調査をさせることができる。
.2 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律
(平成 10
民の責務)
第四条 国民は、感染症に関する正しい知識を持ち、その予防に必要な注意を払うよう努
るとともに、感染症の患者等の人権が損なわれることがないようにしなければならない。
医師等の責務)
五条の二 獣医師その他の獣医療関係者は、感染症の予防に関し国及び地方公共団体が講
る施策に協力するとともに、その予防に寄与するよう努めなければならない。
動物等取扱業者(動物又はその死体の輸入、保管、貸出し、販売又は遊園
行う者をいう。)は、その輸入し、保管し、貸出しを行い、販売し、又は展示する動物又
の死体が感染
の習得、動物又はその死体の適切な管理その他
医師の届出)
十三条 獣医師は、一類感染症、二類感染症、
が高いものとして政令で定めるサルその他の動物について、当該動物が当該感染症にかか
労働省令で定める事項を最
ない。
前項の政令で定める動物の所有者は、獣医師の診断を受けな
同項の政令で定める感染症にかかり、又はかかっている疑いがあると認めたときは、同項の
定による届出を行わなければならない。
染症の発生の状況、動向及び原因の調査)
因を明らかにするため必要があると認め
類感染症、四類感染症若しくは五類感染症の患
感染症の所見がある者又は感染症を人に感染させ
有者若しくは管理者その他の関係者に質問させ、又は必要
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7
第一章
(目的)
ことにより、公衆衛生の向上及び公共の福祉の増進を図ることを目的とする。
第二章
(登録)
第四条
生後九十日を経過した日)
の所在地を管
ければならな
、その犬の所有者に犬の鑑
5 第一項及
所有者は、
市町村長に届け出なければならない。
(予防注射)
第五条
について、
ればならない。
2 市町村長
を交付しなければならない。
3 犬の所有者は、前項の注射済票をその犬に着けておかなければならない。
(輸出入検疫)
第七条 何人も、検疫を受けた犬等(犬又は第二条第一項第二号に掲げる動物をいう。以下
同じ。)でなければ輸出し、又は輸入してはならない。
2 前項の検疫に関する事務は、農林水産大臣の所管とし、その検疫に関する事項は、農林水
産省令でこれを定める。
.3 狂犬病予防法(昭和 25 年法律第 247 号 )(抜粋)
総則(第一条―第三条)
第一条 この法律は、狂犬病の発生を予防し、そのま ん 延を防止し、及びこれを撲滅する
通常措置
犬の所有者は、犬を取得した日(生後九十日以内の犬を取得した場合にあっては、
から三十日以内に、厚生労働省令の定めるところにより、その犬
轄する市町村長(特別区にあっては、区長。以下同じ。)に犬の登録を申請しな
い。ただし、この条の規定により登録を受けた犬については、この限りでない。
市町村長は、前項の登録の申請があつたときは、原簿に登録し
札を交付しなければならない。
犬の所有者は、前項の鑑札をその犬に着けておかなければならない。
4 第一項及び第二項の規定により登録を受けた犬の所有者は、犬が死亡したとき又は犬の所
在地その他厚生労働省令で定める事項を変更したときは、三十日以内に、厚生労働省令の定
犬の所在地を変更したときにあっては、その犬の新所
めるところにより、その犬の所在地(
在地)を管轄する市町村長に届け出なければならない。
び第二項の規定により登録を受けた犬について所有者の変更があつたときは、新
三十日以内に、厚生労働省令の定めるところにより、その犬の所在地を管轄する
6 前各項に定めるもののほか、犬の登録及び鑑札の交付に関して必要な事項は、政令で定め
る。
犬の所有者(所有者以外の者が管理する場合には、その者。以下同じ。)は、その犬
厚生労働省令の定めるところにより、狂犬病の予防注射を毎年一回受けさせなけ
は、政令の定めるところにより、前項の予防注射を受けた犬の所有者に注射済票
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Page 79
7.4 その他
なお、以下のような通知が厚生労働省、農林水産省から発出されています。
内の飼い犬におけるエキノコックス感染例及び北海道から移動する
のオウム病対策について
平成16年1月15日
厚生労働省健康局結核感染課長通知
* その他
ペット動物(犬・猫)由来人畜共通伝染病予防対策について
昭和63年12月26日
厚生省生活衛生局乳肉衛生課長通知
* エキノコックス症対策
北海道
犬の感染実態調査結果と感染予防対策について(情報提供と啓発依頼)
平成16年4月2日
厚生労働省健康局結核感染課長通知
* オウム病対策
小鳥
昭和62年10月7日
厚生省生活衛生局乳肉衛生課長通知
* 高病原性鳥インフルエンザ対策
高病原性鳥インフルエンザ対策における留意点について(通知)
同上(通知:第2報)
平成16年1月29日
同上(通知:第2報)
平成16年2月27日
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8 参考資料
厚生労働省
クス症対策ガイドライン2004 厚生労働省
物の衛生管理の徹底に関するガイドライン2006 厚生労働省
) 全国ペット小売業協会発行
HP 研究所
動物由来感染症(新健康教育シリーズ)岡部信彦監修 少年写真新聞社
染症−その診断と対策− 神山恒夫・山田章雄編著 真興交易㈱医書出版部
物の病気−ペットから学校飼養動物、都市型野生動物まで− 神山恒夫・
書出版部
ついて(http://idsc.nih.go.jp/jinju_hp/pet.htm) 国立感染
症研究所
人と動物の共通感染症研究会(http://www.hdkkk.net/mokuji.html)人と動物の共通感染症
研究会
人と犬や猫との共通の病気(http://nichiju.lin.go.jp/breed/breed.html)日本獣医師会
狂犬病対応ガイドライン2001
動物展示施設における人と動物の共通感染症ガイドライン 厚生労働省
身体障害者補助犬の衛生確保のための健康管理ガイドライン 厚生労働省
犬のエキノコッ
愛玩動
動物由来感染症ハンドブック2007 厚生労働省結核感染症課
動物由来感染症ハンドブック 日本医師会
共通感染症ハンドブック 社団法人日本獣医師会
家庭動物販売士テキスト(第3版
ヒトに伝染るペットの病気 兼島孝著 実業之日本社
ペットとあなたの健康−人獣共通感染症ハンドブック 高山直秀編 メディカ出版
ヒトの狂犬病−忘れられた死の病− 高山直秀著 時空出
イヌからネコから伝染るんです 藤田紘一郎著 講談社
ペット感染症が危ない 岡部信彦 著 P
ペット溺愛が生む病気−しのびよる人畜共通感染症− 荒島康友著 講談社
動物由来感
これだけは知っておきたい人獣共通感染症 神山恒夫著 地人書館
子どもにうつる動
高山直秀編著 真興交易㈱医
子どもと育てる飼育動物―学校での動物飼育ガイド 高山直秀編 メディカ出
動物由来感染症を知っていますか(http://www.forth.go.jp/mhlw/animal/)厚生労働省
感染症情報(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou.html)厚生労働省
ペットから感染する疾病に
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人と動物の共通感染症に関するガイドライン
環境省自然環境局総務課動物愛護管理室
〒100-8975 東京都千代田区霞ヶ関 1-2-2
電話:03-3581-3351
請負者:株式会社 フィスコ
〒142-0043 東京都品川区二葉 3-13-8
電話:03-3786-0851
発行:平成19年3月
)】
座長
役)
今岡 浩一(国立感染症研究所
究官)
院長)
事 )
丸山 秀樹(千葉県健康福祉部衛生指導課生活衛生推進室 主査)
【ガイドライン策定検討委員(50音順
山口 安夫(社団法人
日本動物保護管理協会
相談
獣医科学部
主任研
兼島 孝 (みずほ台動物病院 琉球動物医療センター
小島 章義( 全 国 ペ ッ ト 小 売 業 協 会
専 務 理
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