「東京五輪期待の星」が新エースへ名乗り フォーム改造で復活、自信を得た鈴木祐貴=バレー

田中夕子

鈴木「力強さが戻った」

高校時代から「東京五輪期待の星」として期待される鈴木祐貴(左から2番目)。けがを乗り越え、力強さを取り戻した 【坂本清】

 バレーボールコートが4面並ぶ小田原アリーナ。4月22、23の両日、関東1部リーグに所属する男女22チーム(男子12、女子10)が一堂に会し、関東大学バレーボール春季リーグが開催された。

 16日にセリエA(イタリア)、ラティーナでのシーズンを終えた石川祐希の復帰戦であることも注目を集めたが、ひときわ大きな歓声が送られたのが開催地の小田原に程近い神奈川県秦野市にキャンパスがある東海大学。3月23日に発表された今季の全日本候補選手の中に、東海大学からは主将でミドルブロッカーの小野寺太志、ウイングスパイカーの鈴木祐貴、新井雄大の3名が名を連ねた。

 次世代の主役ではなく、3年後に迎える東京五輪の主役候補がそろう東海大の中でも、8日に開幕した春季リーグで総得点ランキングでも3位に入るなど、活躍を見せるのが2年生の鈴木だ。ラリー中、レフトから「ズドン」と放つスパイクの音は、明らかに1年前とは違う。鈴木自身も手応えを感じていた。

「自分でも今までになく(ボールを)たたけている感覚があります。力強さが戻ったというか、やっと、ちゃんとスパイクが打てるようになりました」

けがと周囲の注目に苦しんだ高校時代

雄物川高校では春高で1年時に3位となったものの、その後は2年連続で初戦敗退を喫した(写真は2016年) 【坂本清】

 東京五輪の開催が決まった2013年の夏、当時中学生ながら高身長だった鈴木は「東京五輪期待の星」と注目を集めた。地元・秋田県の雄物川高校へ進学し、1年時から春高バレー(全日本バレーボール高等学校選手権大会)に出場。鈴木以外にも攻撃陣がそろっていたこともあり、「先輩に助けられて、ただ楽しくやっていたら勝つことができた」と振り返るように、ベスト4まで勝ち進むと、準決勝で敗れはしたものの、3位と堂々の成績を残した。

 しかし、2年時は08年の北京五輪にも出場した宇佐美大輔監督の指導下で「エース」としてそれまで以上の注目を集めたものの初戦で敗退した。全国で勝つどころか、右肩関節唇損傷に見舞われ、3年時の国体前は「右手を上げることもできないぐらい痛かった」と言うほど、肩の状態は悪化。最後の春高予選はミドルブロッカーとして出場したが、ブロック時に相手のスパイクの威力でさらに痛みが増し、スパイクを打つどころか、パスも満足にできない状態が続いた。何とか春高出場を決めることはできたが、万全と言うには程遠い状態が続く。

 そんな状況でも2メートルのウイングスパイカーは、「注目選手」として常に多くのカメラに取り囲まれる。鈴木自身が「何もできなかった」と振り返るように、2年連続で初戦敗退を喫した後、悔し涙すら流せずにいた鈴木を無数のフラッシュが照らした。

「注目してもらえるのはありがたいですけれど、負けた後もワーッと人が来るじゃないですか。自分自身もけががあったり、全然満足のいく結果が出せなかったので、余計に悔しかった。たくさんの人に囲まれることがすごく嫌でした」

コーチの言葉で新しいフォームに挑戦

 卒業後は東海大へ進学。活躍を期待されたが、再び肩の痛みと左膝のジャンパーズニー(膝蓋靭帯炎)にも苦しめられた。入学前は「体力トレーニングや技術習得に時間を割いて、もっとレベルアップする」と描いたはずの大学生活1年目は、オポジットとして試合出場の機会に恵まれはしたものの、出場数も限られ、決して本意なものではなかった。

 満足のいくデビューを飾ることはできなかったが、地道なリハビリの成果も出て、昨年のインカレ前には肩の痛みはなくなっていた。だが、痛くないのにスパイクの威力が戻らない。「ズドン」どころか、「ペチン」と軽くたたくようなスパイクしか打てない。

 いつまでも思い通りのプレーやスパイクができない自分にもどかしさを抱えていると、「Team CORE(チームコア)」のアシスタントコーチでU−23やU−20日本代表のコーチを務める長江祥司コーチから「フォームを変えてみないか?」と提案された。

 高校時代は高さを生かし、高い打点でボールを捉えてまっすぐに腕を振り上げて打つことを意識してきた。だが、直上に近い軌道のトスだけではなく、大学や年代ごとの代表チームでは速さを求められることもあり、高校までのフォームでは対応するのに限界がある。何より、力が乗らずに「思い通りのスパイクが打てない」という鈴木の悩みを解消するためには、新しい挑戦に取り組み自信をつけさせることが大事なのではないか、と長江コーチは考えた。

「責任感が強い選手なので、自分が“やらなきゃ”という気持ちはあるけれど、打力がなかなか、気持ちもなかなか上がらない。自信をつけさせるためには、自分でスパイクが“決まる”と手応えをつかませること。結果を残すための1つのきっかけになれば、と新しいフォームづくりに取り組みました」

1/2ページ

著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

コラムランキング

スポーツ情報ならスポーツナビアプリ

スポーツ情報をアプリで見る

新着記事