ステルス戦闘機「F-35」、通称「空飛ぶスイス・アーミーナイフ」の話です。この戦闘機の話を直近でしたのは…同機の開発陣がパイロットの緊急脱出装置に見つけたバグ(不具合)を修正して、突然の脱出を余儀なくされたパイロットの首がちぎれないようにしていたときだったかと思います。

その「F-35」でなんと、今度は酸素供給システム関連で問題が見つかったことが明らかになりました。

このことをもし気付かずにいたら、少なくとも脱出するパイロットの首がちぎれる危険性よりも、はるかに深刻な問題が生じる可能性があるものです。ニュースサイトの「ビジネス インサイダー」では、この件について次のように伝えています。 

引用:「Business Insider」 Jun. 9, 2017より】

米空軍の幹部は、先週金曜日にルーク空軍基地で予定していた「F-35」のフライトをキャンセルしました。この判断は、「F-35」のパイロットから酸素の欠乏による低酸素症のような症状を訴える報告が、1カ月以上前から出ていたことを受けてのものでした。空軍はこの件について、すべてのケースでバックアップ・システムが作動し、死亡者もなく飛行機の損失もなかったとしています。ですが、世界で最も高価な戦闘機を操縦するパイロットたちが、自分たちが酸欠状態になっていることに気づいたのです。これは問題です。米海軍の保有する「F-35C(アメリカ海軍での使用を主とした通常離着陸型であり艦載型のモデル)」のパイロットからは、「空母からの発進時に同機が激しく振動し、パイロットがキャノピーにひどく頭をぶつけることが時としてある」との報告も出されていました。なかには、ひどく執拗な痛みが残った場合もあるとのことです。さらに、「F-35」の緊急脱出装置が体格の比較的小柄なパイロットに対し危害を加える可能性もあるとの報告もありました。2015年10月にはニュースサイト「ディフェンス ニュース」で、体重136ポンド(約62キログラム)以下のパイロットが「F-35」から脱出しようとした場合に、首をへし折られる可能性があると報じられていました。

現時点で「F-35」の開発・製造プロジェクトのコストは、最終的に総額1兆5300億ドルに達し、事前の計画に比べて350億ドルの予算超過となる見通しです。そして、そのツケはアメリカ国民全員に回されることになるわけです。

それにもかかわらず、「F-35」は現在、トランプ政権が朝鮮半島や周辺で行おうとしている事柄の一部として、世界のステージにおいて大いに脚光を浴びています。情報サイト「ザ・ドライブ」によると、空軍は「F-35」を沖縄に配備する計画で、また少し前には韓国で開催された航空ショーに数機の「F-35」が参加した話も報じられていました。しかしながらあの戦闘機が、いまだに問題がいくつか残っていることに対して、誰も別に驚いたりはしないことしょう。「ブルームバーグ」は、次のように伝えています。

【引用:「Bloomberg」Oct.24,2017より

「F-35」において、不具合の部品修理にかかる時間は平均172日で、「開発時における目標の約2倍」の長さであることが米連邦政府監査院(GAO)の調査で明らかになりました。同機は、必要な部品が手に入らず、今年1月から8月の間には飛行できる状態にない時間が約22%にもおよんだのです。「F-35」は米国史上もっとも多くの費用がかかった兵器システムですが、その膨れあがる開発・製造コストについて、ペンタゴン(米国防総省)は「すでに抑制可能な状態になっている」とし、総額は4065億ドルとの見通しを示しています。それに対し、GAOは報告書のなかで、「F-35」のメンテナンスとオペレーションにかかる費用について、新たな疑問を投げかけています。「F-35」のメンテナンスとオペレーションにかかるコストは、公式な見積もりによれば60年間で総額1兆1200億ドルとされています。「ブルームバーグ」が入手した草稿のなかでは、GAOはすでに「国防省は今後のシステム開発ならびに製造に伴う必要を満たしながら同時に、すでに配備している250機以上の航空機を維持するために、そのリソースを上手に配分しなくてはならない」と述べています。
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私はこの分野の専門家ではありません。ですが以前どこかで、「戦闘機は時々戦闘で空を飛ぶことがあり、そしてそのときに当然のことながら攻撃を受け、しばしば被害を被ることがある」といった話を読んだ覚えがあります。すでに述べたように、私は専門家ではありませんが、それでもこの「交換部品」に関わる問題は、「F-35」を実際に世界各地の戦闘地域に送り込む前に手当てしておくべきものだったのではないでしょうか。

【引用:「Bloomberg」Oct.24,2017より

ペンタゴンでは、最終的に米軍用として2456機の「F-35」を製造するほか、同盟国に販売する700機以上の製造も計画し、現在、そのための準備を進めています。今後、これらの製造が本格化すれば、「F-35」の維持はさらに難しくなるでしょう。ペンタゴンの「F-35」開発推進部門とロッキード・マーチン社は、「部品を入手しやすくするための方法をすでに見つけ出し、機体数の増加に伴う問題の悪化は防げるとしている」とGAOは述べています。しかしながらペンタゴンの文書には、「同開発・製造プログラムが、このタイムラインをどの程度スピードアップできるかは不確実」との示唆もみられています。
この件に関する過去の経緯を踏まえると、ここには不確実なものばかりは並んでいるようにしか思えないのです。

またGAOは、来年に配備開始が予定されている「F-35B(同機の海兵隊向けバージョン)」について、海上で必要とされるメンテナンスおよび修理の能力が確保できず、「臨戦態勢能力が低下」することになる可能性があることも明らかにしています。ペンタゴンで新たに調達担当次官に就任したエレン・ロード氏は、今月陸軍関係者に対して行った講演のなかで、新たな兵器システムに関する課題について次のように説明していました。「私の当初の結論は、(F-35の開発で)我々は信じられないほど多くの調達に対して時間を費やしています。その一方で、維持側にはごくわずかな時間しか費やしていないということになります。われわれがこれまでに進めてきた兵器開発プログラムの大半では、維持側に約70%の時間が費やされています。つまり、われわれはこの問題を早急にただす必要があります」(ロード氏)
「維持側」とは、何ともうまい言い方です。巧みな婉曲表現を使って公的な資金を奪い取ることにかけては、我が国の国防省と彼らと取引する取り巻き企業にかなうものはいません。なお、この記事の執筆に関連して、パイロットがひとりも負傷していない点を「エスクァィア」では強調したいと思います。

軍用機F-35の画像集

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アメリカの代表する戦闘機「F-35」。航空機メーカーは、ロッキード・マーティン社が中心となって開発しているステルス戦闘機になります。
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開発計画時の名称として統合打撃戦闘機を意味する「Joint Strike Fighter」を略称して、「JSF」で呼ばれることもあります。
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初飛行は2000年。概念実証機「X-35」として行っています。競作機「X-32」と比較しながらのテストで、「X-35」がJSFに選定されることに…。「F-35」として量産機になり初飛行したのは2006年。現在でも開発は継続中です。ですが、アメリカ空軍への本機納入は2011年5月から開始され、初期作戦能力(IOC)獲得は2015年7月31日のアメリカ海兵隊の「F-35B」が初となりました。2015年内には、1年間で45機製造という量産化の目標に関して初めて達成しています。
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JSF(統合打撃戦闘機)と言うだけあり、ほぼ同一の機体構造を用いながら、基本型の通常離着陸機(CTOL)として「F-35A」があり、短距離離陸・垂直着陸機(STOVL)として「F-35B」があります。また、艦載機型(CV)の「F-35C」といったように、派生型の3タイプを製造するという画期的なプロジェクトにもなっています。「F-35」は、わりと小型である機体でありながら多任務の遂行可能であり、ステルス能力も付加、そして同一の基本設計の機体で通常離着陸機(CTOL)と垂直離着陸機(VTOL)を派生させるという革新的な製造方法を用いるプロジェクトにより、この機を採用すようという国も複数に上ることに。また「F-35B」に関しては、世界初の実用超音速の垂直離着陸(VTOL)戦闘機になります。
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配備に関しては当然ながら、アメリカの空軍・海軍・海兵隊。さらにイギリス空軍・海軍、トルコ空軍、日本の航空自衛隊、そしてノルウェー空軍などで採用を決定しています。
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左が「F-35」で、右は「F-22」。「F-22」はロッキード・マーティン社とボーイング社の共同開発によるもので、同様にステルス戦闘機になります。愛称は猛禽類の意味となる「Raptor(ラプター)」。この2機の違いはと言えば…、「F-22」は空対空戦闘能力に特化した機体になります。一方「F-35」は、汎用性を重視した機体になっています。
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無人戦闘機の開発が進むなか、この「F-35」は「最後の有人戦闘機」と呼ばれることもあります。
Source / ESQUIRE US
Translation / Hayashi Sakawa
※この翻訳は抄訳です。