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1-9 世界の核燃料サイクル政策
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1-9 世界の核燃料サイクル政策
1. はじめに
核燃料サイクルを導入することにより、使用済燃料中
に残存する核燃料の有効利用が図れるとともに、放射性
廃棄物の処理・処分の効率化も可能となる。一方、核燃
料サイクルにはウラン濃縮技術や再処理技術などの核兵
器開発に繋がる技術が関連するため、その利用や研究開
発には厳しい監視・制限が課されている。そのため世界
各国は、それぞれの国情に合った核燃料サイクル政策を
採用あるいは検討してきている。本章では、これまでに
提案されてきた核燃料サイクル概念のうち、世界各国で
政策として採用あるいは研究開発されているものについ
て、その概念と主な採用国を概説する。
なお、核燃料サイクルのうち、原子力発電を行うまで
を「フロントエンド」、原子力発電以降の使用済燃料の取
扱いからその処理・処分までを「バックエンド」と呼ぶ
が、多くの核燃料サイクル概念においてフロントエンド
はほぼ共通であり、政策として議論されるのは主にバッ
クエンドサイクルである。
2. ウラン燃料を用いる燃料サイクル
天然ウラン鉱石中に0.7%程度含まれるウラン235を核
燃料として用いる核燃料サイクルであり、現在商業的に
運用されている核燃料サイクルは全てウラン燃料サイク
ルである。様々なバックエンドサイクル概念が提案され
ているが、主として以下の4種類に大別される。
(1) クローズ燃料サイクル
軽水炉による発電に伴って排出される使用済燃料を再
処理し、発電に利用可能なウランとプルトニウムを回
収・再資源化して繰り返し発電に利用する、閉じた円環
を構成する燃料サイクルを指す(第1図1)。1-1章の第2図
も同様)。ウラン濃縮や再処理に関わる技術は、「核兵器
の不拡散に関する条約(NPT)」及び原子力利用に係る二
国間協定等に基づき、米国・ロシア・イギリス・フラン
ス・中国の5核兵器保有国及び日本、欧州原子力共同体
(EURATOM)にだけその利用が認められており、その平和
利用が厳格に管理される。このため、クローズ燃料サイ
クルの政策的な採用が可能な国は事実上6カ国及び1地
域に限定されることになり、実際に商業規模の再処理施
設を持つ国は、ロシア、イギリス、フランス、日本だけ
である2)。また、フランスの協力の下、中国が商業規模
の再処理施設の建設計画を進めている。高速増殖炉のよ
うに、核燃料の燃焼により新たな燃料を増殖して利用す
るためには、クローズ燃料サイクルの採用が前提条件と
なる。
第1図 クローズ燃料サイクル

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(2) 完全クローズ燃料サイクル
クローズ燃料サイクルに加え、長期的に放射性毒性を
有するマイナーアクチノイド元素も繰り返し燃焼し、そ
の毒性低減を図る、分離変換技術を統合した燃料サイク
ル概念である。分離変換技術は、基礎的研究開発段階の
技術であり、政策として採用している国はまだないが、
今後の原子力エネルギーの持続的な利用に有効な技術と
の位置づけのもと、日本、欧州(フランス)を中心に、
研究開発が進められている。中国でも、今後増大してい
く放射性廃棄物処分の合理化の有効な手段として、研究
が進められている。第2図1)に燃料サイクル概念の一例を
示す。
(3) 修正オープン燃料サイクル
米国で検討された核燃料サイクル概念であり、使用済
ウラン燃料を再処理し、回収したプルトニウムを一度だ
け用いてMOX燃料を製造、発電を行うサイクルである。使
用済MOX燃料の再処理は行わず全て直接処分される。再処
理による廃棄物量の低減効果が得られるとともに、発電
に要するウラン資源量の節約効果が期待できる。検討段
階の概念であり、採用している国はない。プルトニウム
を多く含む使用済燃料は、原理的にはウランだけを原料
とする使用済燃料と同様にPUREX法で再処理が可能であ
り、日本やフランスのラ・アーグ再処理工場で試験的に実
施された例がある3)。ただし解決すべき課題も多く、現
在は商業規模での再処理は行われていない。このため、
使用済MOX燃料に対応した再処理施設が整備される前の
過渡的な状況がこの燃料サイクル概念に相当すると考え
てよい。燃料サイクルの概念を第3図1)に示す。
(4) オープン燃料サイクル
一般的には ワンススルー方式 と呼ばれ、発電に供
した核燃料を直接深地層に埋設処分する。核燃料の流れ
が閉じた円環とならないため、オープン燃料サイクルと
称される。核燃料の再処理を実施可能な国は限られてい
るため、新興国をはじめ多くの国がオープン燃料サイク
ルを採用していることになる。また、欧州の一部の国も
オープン燃料サイクルを選択しており、既に直接処分場
の選定・設置を進めている。米国は、再処理技術を保有
するが、核拡散防止の観点から再処理を行わず、使用済
燃料を直接処分するオープン燃料サイクルを採用してい
る。第4図1)にオープン燃料サイクルの概念を示す。
3. トリウム燃料サイクル
核燃料として前述のウラン235ではなく、トリウム232
の中性子捕獲より生成するウラン233を用いる燃料サイ
クルである(1-10章参照)。トリウム資源は、ウラン資源
よりも広範囲かつウラン産出国とは異なる国に存在する
ため、資源獲得リスクが少ないと考えられること、ウラ
ン238が不要なため、プルトニウムやマイナーアクチノイ
ドなどの核物質防護や放射性廃棄物処分で問題となる核
種の生成量が少ないこと、トリウムがウラン233に遷移す
る過程で高エネルギーのガンマ線を放出するプロトアク
チニウム233が生成するため、核拡散抵抗性が高いことな
第2図 完全クローズ燃料サイクル

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どの特徴を有する。
炉について、トリウム・プルトニウム混合燃料の試験
照射が欧州、カナダ等を中心に実施されているほかは、
現行のウラン・プルトニウム燃料サイクルとインフラを
共用できない場合が多く、既にウラン燃料サイクルを導
入済みの国での新規導入には課題が多い。一方、豊富な
トリウム資源を有するインドは、将来的にトリウム燃料
サイクルに移行する独自の発電シナリオを策定し、積極
的な研究開発を推進している4)。将来のエネルギー源確
保を目指す中国も研究開発を実施している4)
第3図 修正オープン燃料サイクル
第4図 オープン燃料サイクル

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4. 溶融塩燃料サイクル
核燃料を溶融塩に混合し、液体状態で利用する、原子
炉と燃料サイクルが一体化した燃料サイクルである。上
述した固体燃料を用いる燃料サイクルと比べて、固体燃
料で必要な成型加工やせん断・溶解等の工程が省略でき
るため、設備・施設や二次廃棄物の生成量を大幅に低減
できる可能性がある。また、原子炉中でも液体のまま燃
焼するため、燃料集合体や燃料被覆管など、中性子照射
による劣化のため交換が不可欠であった部材も省略でき
るため、廃棄物量を低減するとともに、燃料交換のため
の停止期間を短縮することができる。また、中性子を吸
収する部材が削減されるため、中性子経済の向上効果も
期待できる。これに加え、原子炉の運転中に燃料の化学
処理が可能であり、核分裂反応を妨げる核分裂生成物の
除去や燃料核種の添加を連続的に実施することで、原子
炉の運転効率を大幅に高めることも可能になる。非核分
裂性核種のトリウムから、核反応により核燃料となるウ
ランを増殖し、このウラン燃料を取り出して再利用する
ことが必須なトリウム燃料サイクルと組み合わせた概念
の提案が多い。安全性の観点では、燃料温度の上昇に伴
って燃料密度が低下し、異常な温度上昇時に負の反応度
が印加される、高い自己制御性(密度効果)を有するこ
とも大きな特徴である。また、燃料は溶融状態で利用さ
れているため、炉心溶融事故は当然ながら生じることは
ない。
溶融塩原子炉は、1960年代に米国で試験研究炉が運転
された実績があるが、溶融塩の融点を超える高温での運
転、運転中にオンラインで再処理を行う化学工程、再処
理設備の併設に伴う燃料インベントリの増大などの課題
があり、政策として採用に至った国はない。本概念につ
いては、第4世代原子炉の研究を多国間で進めている
Generation 4 International Forum (GIF)で次世代炉の
候補の一つとして研究が進められている5)ほか、EUの
Framework Program、チェコ共和国やエネルギー源確保に
積極的な中国が研究開発を進めている4)
また、燃料が液体であること、反応生成物の連続除去
が可能であることなどを活用し、崩壊熱が比較的高いマ
イナーアクチノイドを多量に添加する核変換炉や加速器
駆動炉への応用も提案されている4)
なお、GIFで検討されている溶融塩炉以外の次世代炉候
補では、基本的に前述のウラン燃料を用いる燃料サイク
ルが採用されている。
参考文献
1) 原子力委員会 原子力発電・核燃料サイクル技術等検
討小委員会 第6回 資料第1-1号より著者作成
2) World Nuclear Association Website Information
Library (http://world-nuclear.org).
3) International Atomic Energy Agency “Status and
Advances in MOX Fuel Technology”, Technical
Review Series #415 (2003).
4) J.P.Revol, et al. (ed), “Thorium Energy for the
World”, Proc. ThEC13 Conference (2016).
5) The Generation 4 International Forum Website,
(http://www.gen-4.org)
日本原子力研究開発機構 佐々敏信
(2017年1月4日)