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4. 溶融塩燃料サイクル
核燃料を溶融塩に混合し、液体状態で利用する、原子
炉と燃料サイクルが一体化した燃料サイクルである。上
述した固体燃料を用いる燃料サイクルと比べて、固体燃
料で必要な成型加工やせん断・溶解等の工程が省略でき
るため、設備・施設や二次廃棄物の生成量を大幅に低減
できる可能性がある。また、原子炉中でも液体のまま燃
焼するため、燃料集合体や燃料被覆管など、中性子照射
による劣化のため交換が不可欠であった部材も省略でき
るため、廃棄物量を低減するとともに、燃料交換のため
の停止期間を短縮することができる。また、中性子を吸
収する部材が削減されるため、中性子経済の向上効果も
期待できる。これに加え、原子炉の運転中に燃料の化学
処理が可能であり、核分裂反応を妨げる核分裂生成物の
除去や燃料核種の添加を連続的に実施することで、原子
炉の運転効率を大幅に高めることも可能になる。非核分
裂性核種のトリウムから、核反応により核燃料となるウ
ランを増殖し、このウラン燃料を取り出して再利用する
ことが必須なトリウム燃料サイクルと組み合わせた概念
の提案が多い。安全性の観点では、燃料温度の上昇に伴
って燃料密度が低下し、異常な温度上昇時に負の反応度
が印加される、高い自己制御性(密度効果)を有するこ
とも大きな特徴である。また、燃料は溶融状態で利用さ
れているため、炉心溶融事故は当然ながら生じることは
ない。
溶融塩原子炉は、1960年代に米国で試験研究炉が運転
された実績があるが、溶融塩の融点を超える高温での運
転、運転中にオンラインで再処理を行う化学工程、再処
理設備の併設に伴う燃料インベントリの増大などの課題
があり、政策として採用に至った国はない。本概念につ
いては、第4世代原子炉の研究を多国間で進めている
Generation 4 International Forum (GIF)で次世代炉の
候補の一つとして研究が進められている5)ほか、EUの
Framework Program、チェコ共和国やエネルギー源確保に
積極的な中国が研究開発を進めている4)。
また、燃料が液体であること、反応生成物の連続除去
が可能であることなどを活用し、崩壊熱が比較的高いマ
イナーアクチノイドを多量に添加する核変換炉や加速器
駆動炉への応用も提案されている4)。
なお、GIFで検討されている溶融塩炉以外の次世代炉候
補では、基本的に前述のウラン燃料を用いる燃料サイク
ルが採用されている。
参考文献
1) 原子力委員会 原子力発電・核燃料サイクル技術等検
討小委員会 第6回 資料第1-1号より著者作成
2) World Nuclear Association Website Information
Library (http://world-nuclear.org).
3) International Atomic Energy Agency “Status and
Advances in MOX Fuel Technology”, Technical
Review Series #415 (2003).
4) J.P.Revol, et al. (ed), “Thorium Energy for the
World”, Proc. ThEC13 Conference (2016).
5) The Generation 4 International Forum Website,
(http://www.gen-4.org)