「僕が懸念しているのはむしろ、環境に存在する放射線についての大衆の理解(と情報)の欠如なんだ」─ 福島原発事故による海の放射能汚染状況を調査し続けている海洋学者が海の現状を伝えるAMA(なんでも聞いて)。 

3/10 AM11:50 
一文訂正いたしました。すでに読んでくださった方々には申し訳ありません。深くお詫び申し上げます。

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photo credit: The Deep Blue via photopin (license)

元スレ:Science AMA Series: I’m Ken Buesseler, an oceanographer who has been studying the impacts of Fukushima Dai-ichi on the oceans. It’s been 5 years now and I’m still being asked – how radioactive is our ocean? and should I be concerned? AMA. (2016/03/07)  

(OP)
僕はケン・べッセラー。海中の放射能を研究している海洋学者だよ。1960年代前半がピークだった大気圏内核兵器実験の放射性降下物を調査し、1986年(僕が博士号を取った年)に起きたチェルノブイリ原発事故後の黒海を研究し、今は2011年の福島第一原発による前代未聞の放射性核種の源を調査している。海洋炭素循環の研究技法として、自然に海に生じるトリウムのような放射性元素も研究してるる:http://cafethorium.whoi.edu
5年前の3月11日に起きた東北地方太平洋沖地震と津波後の日本の惨状は、自然の脅威を改めて思い起こさせるものだった。数日後に福島第一原発で起きた爆発は、自然によってその引き金を引かれた一方で、人災と見なされた。原発を守るために作られた35フィートの防波堤をはるかに超える高さの津波の兆候があったにも関わらず、重大な施設を沿岸に建築していたからだ。
放射性物質の80%以上は、僕が研究している海へと行き着く。チェルノブイリを超える海洋汚染だ。2011年6月以降、海への影響の全貌を知るために、日本やアメリカ、海外の仲間とともにサンプルを集める調査航海を何度も行っている。僕たちは2014年1月に「Our Radioacive Ocean」というキャンペーンを立ち上げた。クラウドファンディングを行い、市民科学者たちがボランティアで福島から来る放射性核種(セシウム同位体を測定することで識別できる)の兆候を調べるために北西海岸と沖のサンプリングを行っているよ。参加したい人、結果を知りたい人、もっと学びたい人はチェックして: http://OurRadioactiveOcean.org 
さて、福島原発事故から5年後の今、僕らがなにを知ってるか?それがこのAMAを行ってる理由だ。僕らの調査結果を説明して、質問を受けるためだよ。

証明:
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Q. 放射性物質って水に沈むの?それとも浮く? 

A. それは完全に個々の放射性物質の化学的性質による。僕らが研究している放射性セシウムとストロンチウム、この2つの大部分は海に溶ける。だから塩やその他の溶ける物質のように作用する。放射性物質は水を通じて拡散し、海流に乗って広まる。だから大部分は海水中だ。ごく一部(1%以下)は海洋粒子(プランクトンやセシウムの粘土粒子)に関係してる。このごく一部は海底に行き着くよ。 
ここを読んで:http://www.biogeosciences.net/11/5123/2014/bg-11-5123-2014.pdf 

Q. 放射性物質はどのくらい離れた海まで移動する?
 

A. 日本から太平洋を横断して、アメリカ北西海岸まで渡ってきてるよ。

Q. 海がきれいになって放射能が完全になくなるまでには、理論上どれぐらいの時間がかかるのかな?
 

A. 海から放射性物質がなくなることは決してない ── 海には自然発生する放射性同位体がたくさんあるんだ。 

Q. なにがどう恐ろしい?

A. これはおそらくちょっと主観的かもしれないけど。
僕は魚を食べるのも海で泳ぐのもやめないし、原子炉から2分の1マイル以内に小型船で行くのすらやめない。
僕が懸念しているのはむしろ、環境に存在する放射線についての大衆の理解(と情報)の欠如なんだ。

Q. 君が測定したもっとも高い数値は?それを測定した場所は?その地域の通常のバックグラウンドレベル(自然に存在する放射線量)は? 

A. 2011年6月初旬、僕らは福島第一原発から約60マイル(約97km)の海上で4500Bq/m3(ベクレル毎立法メートル)を測定した。これは事故以前よりはるかに高いレベルだった。同じ測定器で調べて約2Bq/m3だったんだ。でもこれは海の汚染レベルがピークだった2011年4月初旬(日本の報告では、このとき放射性セシウムは5000万Bq/m3に及んだ)よりはずっと低かった。 
今は原子炉付近で数百Bq/m3レベル ── 流出が今も続いている証拠だ。でも以前よりはずっと低いよ。

Q. 今年のはじめに宮城県でサーフィンをした。それで疑問だったんだ。第一原発から100kmほど北上した海中に、そこで数時間過ごした人に影響を及ぼす、測定可能な放射性物質がまだあるのかなって。なにか測定結果がある? 

A. 宮城は南に流れる親潮や、もっと小さい沿岸の海流(これも主に南へ流れる)の影響の方が大きい。宮城県近海(仙台湾北端)で記録したもっとも高いレベルは約10Bq/m3。これは太平洋のこちら側やハワイ北部で計測した最高レベルと同じくらいだ。そのときに海水中で数時間過ごした人にだって、重大なリスクはもたらされないよ。 
 
Q. 僕は日本の大阪に住んでる。君は本州の西で獲れた魚介類はどのぐらい安全だと言える?


A. 現在の日本近海、原子炉付近を除いた太平洋で獲れた魚介類や他の海産物は、今のところ日本が食用として厳しく設定した制限を下回ってる。日本近海の何万もの魚が検査されてきたし、いまもされている。もし制限を超える魚が見つかったら、商業漁業は行えないままだ。
2011年に福島近海で獲れた魚の50%は日本の基準値(1kg当たり100ベクレル)を超えていた。2014年にそれは1%まで下がったよ。
話は変わるけど、太平洋の「僕らの側」で獲れた魚で、日本が設定した基準値やもっと高いアメリカ・カナダの基準値を超えたものは一匹もいないんだ。
このサイトを見て: http://www.whoi.edu/fileserver.do?id=215606&pt=10&p=115754   http://fukushimainform.ca/

Q. 過去5年のうちに、データをぼかそうとしたり、情報公開を妨害したりする組織外部の企てを見聞きしたことある?

A. 事故直後に、学術論文を共同執筆していた日本人がいた。でも彼は政府の研究所で働いていて、その学術論文から名前を消さざるをえなかった。僕らは福島とチェルノブイリを比較しようとしていたからだ。 
その他のケースでは、大学や日本の国立研究所で働いている日本人科学者たちと、率直で素晴らしい交流をしてきたよ。  

関連記事:【チェルノブイリ】原発事故の緊急対応員だったけど、なんか質問ある?【プリピャチ】

Q. 君の気づきの中でもっとも予測していなかったものはなに? 

A. 2011年に日本近海でサンプルの採取をしていたときは、瓦礫に当たって調査船が壊れることを心配してた。小型の機器で測定していた放射能レベルよりも。
他には、予測していなかったことじゃないかもしれないけど、アメリカ連邦政府機関のどこも放射能研究に責任を持とうとしなかった事実には失望させられたね。 

Q. どのくらいの規模の放射性物質が福島原発から海へ放出されたと見積もってる?

A. トータルのレベルは汚染物質によって変わる。けど、もしセシウム137について述べるなら、チェルノブイリの10倍以上が、地球規模で行われた核実験の中で放出された。このセシウム137について言えば、チェルノブイリは福島の2~5倍だ。チェルノブイリの放射性降下物は海ではなく地上に降り注いだけど。

ウランの代表的な核分裂生成物として、ストロンチウム90と共にセシウム135、セシウム137が、また原子炉内の反応によってセシウム134が生成される。この中でセシウム137は比較的多量に発生しベータ線を出し半減期も約30年と長く、放射性セシウム(放射性同位体)として、 核兵器の使用(実験)による死の灰 (黒い雨)や原発事故時の「放射能の雨」などの放射性降下物として環境中の存在や残留が問題となる。
Wikipediaより

Q. 平均的なシアトル人男性である僕は日常での被曝を心配すべき? 

A. 最大の被曝経路は医療処置だ。君や僕が被曝するバックグラウンド放射線(自然発生している放射線)量は平均2~3ミリシーベルト。もし全身のCTスキャンを受けたら、それにプラス10ミリシーベルトの被曝をする。でも放射線がもたらすリスクと医療を受けないリスクを天秤にかけなきゃいけない。
他の放射線源はバックグラウンド放射線と比べても些細なものだよ。 

Q. 中学の科学教師だよ。僕(とインターネット)がただちに解くべき海洋性放射能に関する大きな誤解ってなにかな? 

A. 危険なのは放射線量だ。だからあらゆるレベルの放射能被曝を気にすべきとはいえ、そのレベルによってとても大きな違いが存在している。福島のセシウムの場合は、僕らが使った装置では2~5000万の幅があった。ここには地球の温度と太陽の中心部の温度ぐらいの差がある。海には福島原発事故以前から放射性セシウムが存在する。だから、福島原発事故によってどのぐらいの放射性セシウムが海に追加されたか、というのは難しい質問だ。でも核兵器実験以降、海でも陸でも、多くの放射性核種を測定できることに気付いておかなきゃならない。 

Q. 福島第一原発からもっとも放出された核種はセシウム134だと理解してる。あの同位体が比較的短い半減期をもつなら、どのぐらいの期間海で検出されうると予想してる?

A. 約20%のセシウム134が5年経った今でも残っている。あと3~5年は検出し続けられるよ。サンプルのサイズにもよるけど。セシウム134は追跡子として、福島の「指紋」として重要だ。セシウム134は相対的に言って短命で、僕らが見つけるどんな量のセシウム134も福島由来に間違いないから。そのおかげで、サンプルに含まれるセシウム137のどれだけが福島由来かを測定することができるんだ。

Q. あなたはセシウム137と134がもっとも検出される放射性核種だと言っていたけど、どうしてストロンチウム90は同じぐらい見つかっていないのかな?

ストロンチウムはカルシウムと化学的性質が類似するため、動物体内では摂取されると一部は排泄されるものの大部分が骨に取り込まれて体内で 90Srおよびその娘核種の90 Yが β線を放出し続ける。崩壊時に γ線は殆ど放出しないが、90 Yの崩壊においては極一部、90Zrの励起状態の核種である1.761 MeV順位(スピン0 +, 0.01%)および2.186 MeV順位(スピン2+ , 1.4×10 -6%)への崩壊に進む。また半減期が比較的長いため放射線を長期間に亘って出し続けることになる。特に内部被曝による 骨腫瘍の危険性がある。
Wikipediaより

A. いい質問だね。セシウムはストロンチウム90よりも早く福島から放出された。大きな理由はセシウムはストロンチウムよりも揮発性があること。だから高い温度をともなう最初の水素爆発で放出された。
2011年当初、僕たちが海で計測したストロンチウム90はセシウム137の40分の1だった。でも陸では、セシウム137がストロンチウム90の1000倍以上あったんだ。(訳注)
今後長い期間をかけて、僕の研究所とスペイン、スイス、オーストラリアの仲間たちで、海や海底、海洋生物相にあるストロンチウム90やトリチウム、他の複数の放射性同位体の測定を続けるつもりだよ。 

(訳注)3/10 11:50 追記
「陸ではセシウム137がストロンチウム90の~」のところを「陸ではストロンチウム90がセシウム137の~」としていました。申し訳ありません。

Q. 君は海洋学者だからこの質問は適してないかもしれないけど。福島原発から大気中や陸へと放出された放射性物質は海へよりも多かった?海と大気中・陸ではどういう効果の違いがある?

A. 福島原発から大気への放出(放射性降下物)はあった。日本にとっては幸運なことに、80%以上の風は沖に向かって吹いている。だから放射性降下物のほとんどは日本近海に落ちた。でも僕ら(と他の人たち)は、3月11日から10日後に、ここウッズホールで大気中に含まれた痕跡レベルの放射性降下物を検出した。チェルノブイリ後(福島より大きな事故)のここの大気よりも高いレベルだった。でもどちらのケースにおいても、健康にただちに影響することはない。
忘れないで。もし君たちが影響を探しているなら、遠く離れた場所よりもずっと大きな健康上の懸念があるのは、被曝源(福島原発)付近 と2011年3月11日後の初期に放出された、ヨウ素131みたいな短期間で消える放射性汚染物質だよ。 

ヨウ素131が放射性降下物として環境中に高濃度で存在する場合、摂取する食品を経由して甲状腺に蓄積される可能性が高まり、これが崩壊することで甲状腺にダメージを与える。高濃度のヨウ素131を取り込んだ場合の危険性は、主に放射線がもたらす遅発性の甲状腺ガンであるが、良性の腫瘍や甲状腺肥大の可能性も指摘されている。
Wikipediaより
 
Q. あの大災害はどれだけ地理的に不運(あるいは幸運)だった?

A. まずはじめに、あんなことが起きていい場所なんかどこにもない。でもある点においては、陸の風下にある沿岸で起きたことは不幸中の幸いだった(でなければ人々の避難や汚染された土壌の最終的な浄化(そして処分)がずっと難しくなる)。海洋環境に関して言えば、福島近海は黒潮(ガルフ・ストリームみたいな強い西岸境界流)が日本からそれて北太平洋中部に流れ込んでいる。その結果、汚染物質は海岸から太平洋の深海(汚染物質が極めて希釈される場所)へと運ばれる。
もちろんこの水流の東の果ては北米だけど、汚染がとても低いレベルまで希釈されていることは明白だ。
カリフォルニアとブリティッシュコロンビア (カナダの最西部太平洋側の州)近海を調査した最近の結果はここで見られるよ:http://ourradioactiveocean.org/results.html

Q. 放射線のモニタリング結果の共有は効果的だと思う?もしそうなら、どのモニターを選択したらいいかな?

A. 東京を拠点にしている「SAFECAST」は素晴らしい市民グループだ。彼らは携帯型ガイガーカウンターを使って、陸上の放射線量をマッピングしてるんだ。海ではちゃんと機能しないけど(試したけど実際より低いレベルだった)、陸でなら日本のホットスポット(高放射線量地点)がわかるよ。

Q. あの災害の後、日本政府が災害によって起こったヒステリー状態と戦うために、食物に含まれる放射性物質の「安全基準値」を引き上げたって記事を読んだよ。食べても安全だと見せるために。それってほんと?

A. 実は、事故の1年後の2012年4月に、日本は安全基準値を500Bq/kgから100Bq/kgへと5分の1に引き下げたんだ。これは私見だけど、保険物理学の新たな証拠に基づくものというよりも、政治的な選択による引き下げだったと思う。もっとも低い基準値(今も実施されてる)をもうけることで、大衆の信頼感を取り戻すことができる。不運にも、教育も無しに制限を変えることは、前の年には500の魚を食べても安全だと言われていたのに、翌年になって100以下しか安全じゃないと言われた大衆には混乱をもたらす。
ご参考までに。僕ら(アメリカ)やEUのほとんど、カナダの基準値は1000~1200ぐらいだ。日本人が僕らよりずっと海産物を口にしていることを思えば、日本独自の500Bq/kgの倍の基準値を設定することは理にかなってる。
この問題は、魚の中にある自然発生のポロニウム210を含む他の汚染物質の存在によっても複雑化されている。ポロニウム210は通常もっとも高い放射線量を生じるけど、安全とされている。 
肝心なのはこの厳しい基準値が使われていること。日本はなにが市場に出てなにが出ないかをコントロールしている。彼らは他の国に独自の安全基準値を超える食べ物を売ってはいない。僕が日本に行ったときは魚を食べるし、日本が他の国よりも食糧供給をちゃんとモニタリングしてると確信してるよ。
 
Q. もし原子炉のそばのタンクに貯められている放射性汚染水全部が、突然全部海や地下水に流れ出たら ── その結果はどれだけ深刻なものになるだろう? 

A. 僕らがもっとも心配し続けてるのが、数千もの貯水タンクからの新たな流出だ。タンクには処理待ちの高放射性汚染水が入っている。実は2011年に流出したものの何百倍ものストロンチウム90があのタンクの中にはあるんだ。汚染水の流出は報告され続けている。僕らがストロンチウムのモニターを続けている理由の一つが、その流出の兆候を見つけるためなんだ。骨へ蓄積する性質を鑑みれば、ストロンチウムはイワシのような丸ごと食べられることの多い小さな魚において、より大きな懸念事項になる。だけどこれまでのところ、それほどのレベルのストロンチウム90が魚に含まれている兆候はない。セシウム137よりずっと低いままだよ。
もっと知りたければこのページを読んで: http://www.whoi.edu/page.do?pid=83397&tid=3622&cid=94989#sthash.zytWQDe6.dpuf  



(OP)
今夜はこれでログアウトするよ。明日あと数問回答できたらと思ってる。
このサイトで更新や新たな結果やスポンサーのリスト、市民科学者たち(みんなありがとう!)の写真、さらなる情報へのリンクをチェックし続けて:http://ourradioactiveocean.org



1知らないから怖い、というのはよくあることではないかと思うので、こうやって専門家が詳しく説明してくださるのはありがたいことです。
ここではご紹介していない回答もたくさんありますので、ぜひ元スレでご覧ください。

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