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とする農林省の係官が、自己の職務を独自に執行中であったとしても、その過程で
食品の安全性が疑われるような事実を探知し、食品の安全性について相当な疑いが
あれば、食品衛生業務を本来の職務としないとはいえ、これを所管の厚生省等に通
報し、もつて権限行使についての端緒を提供する義務を負うものと解すべきである。
なぜなら、高度に工業化されたシステムの中で、主要な生産物のみならず副生産
物の利用など複雑かつ多様な生産過程を経て、日々新しく開発される多種類の化学
物質を駆使して生産活動を行っている現代社会における食品生産の仕組の中では、
一定の規制権限を有する公務員は、その本来の職務の範囲にのみ閉じこもることな
く、所轄の権限の分野以外の事柄についても、少なくとも事実上密接な関連がある
と容易に判断できる分野については、行政庁相互間の有機的連携に意を用いなくて
は、食品の安全を十分に確保することは困難であるからであり、上記の程度の義務
を課したとしても過重な負担を強いるものとはいえないからである。
なお、カネミ油症事件発生当時、日本政府は、社会権規約を正式に批准してはい
なかったが、その時点ですでに国連において採択され、確立した国際法規となって
いた人権保障基準としての国際人権規約の趣旨に照らし、社会権規約12条2項
(c)は上記の義務の根拠となるというべきである。
さらに、食品衛生法1条に規定されている「飲食に起因する衛生上の危害の発生
を防止し、もつて国民の健康の保護を図る」という国の責務から見ても、国は上記
の義務を負うと解するのが相当である
④ そこで本件について検討するに、ダーク油事件において、1968年3月22日、
福岡肥飼検飼料課長は、Xの現地調査を行った際、ダーク油の製造工程につき事情
聴取したときに、ダーク油がライスオイルの製造工程でできる副産物であることが
判明したにもかかわらず、ダーク油の汚染原因やライスオイルが汚染されていない
か等について追及をなさず、食品衛生庁への報告も行わなかった。
また、鶏の大量死という事件に直面し、農林省本省は、福岡肥飼検に常時密接に
指示を与えていたうえ、ダーク油と食用油が、同一の工場において、同一の原料、
同一の製造工程により製造されていることを知る立場にあったにもかかわらず、よ
り詳細な実態調査や病性鑑定も指示しなかった。
⑤ 仮に、1968年3月下旬に福岡肥飼検から食品衛生行政の担当機関に通報がな
されていたとすれば、同機関としては、ダーク油事故と同様の危険性が食用油にも
及んでいるのではないかという疑いを抱くことは当然であると考えられ、そうすれ
ば、食品衛生行政の担当機関において、食品衛生法17条に基づき、Xに必要な報
告を求め、たとえXの協力が得られなくとも、Xに臨んでダーク油と食用油の関連、
帳簿書類を検査し、ダーク油の出荷の時期とほぼ同時期に出荷された食用油の流通
先を追跡した上、これを回収することにさしたる困難はなかったと思われる。
そして、食用油にもダーク油と同じような有害物質が含まれていることについて
は、適切な方法による食用油回収期間を2週間、動物実験による毒性試験に必要な