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勧 告 書
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2006年4月17日
内閣総理大臣 小 泉 純一郎 殿
日本弁護士連合会
会 長
平 山 正 剛
勧 告 書
当連合会は、カネミ油症人権救済申立事件について調査した結果、国として、立法
措置も含め、以下の方策を採るよう勧告します。
第1 勧告の趣旨
1 国が主体となって、カネミ油症の認定手続を確立するとともに、全てのカネミ
油症の被害者を救済すること。
2 国が主体となって、カネミ油症の治療方法の研究・開発を進めるとともに、専
門的知見のある医師等の養成、受診しやすい専門的医療機関の整備を行い、各医
療機関に対してカネミ油症の理解及びその治療方法の周知を図ること。
カネミ油症の被害者に対し、医療費、医療関連費(健康の維持・回復のために
必要とされる費用を含む)及び生活補償費の支給を行うこと。
4 いわゆる仮払金返還請求の対象となっているカネミ油症の被害者に対し、一律
に全額免除する措置を採ること。
第2 勧告の理由
別添調査報告書記載のとおり

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2006年4月17日
厚生労働大臣 川 崎 二 郎 殿
日本弁護士連合会
会 長
平 山 正 剛
勧 告 書
当連合会は、カネミ油症人権救済申立事件について調査した結果、国として、立法
措置も含め、以下の方策を採るよう勧告します。
第1 勧告の趣旨
1 国が主体となって、カネミ油症の認定手続を確立するとともに、全てのカネミ
油症の被害者を救済すること。
2 国が主体となって、カネミ油症の治療方法の研究・開発を進めるとともに、専
門的知見のある医師等の養成、受診しやすい専門的医療機関の整備を行い、各医
療機関に対してカネミ油症の理解及びその治療方法の周知を図ること。
カネミ油症の被害者に対し、医療費、医療関連費(健康の維持・回復のために
必要とされる費用を含む)及び生活補償費の支給を行うこと。
4 いわゆる仮払金返還請求の対象となっているカネミ油症の被害者に対し、一律
に全額免除する措置を採ること。
第2 勧告の理由
別添調査報告書記載のとおり

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2006年4月17日
農林水産大臣 中 川 昭 一 殿
日本弁護士連合会
会 長
平 山 正 剛
勧 告 書
当連合会は、カネミ油症人権救済申立事件について調査した結果、国として、立法
措置も含め、以下の方策を採るよう勧告します。
第1 勧告の趣旨
1 国が主体となって、カネミ油症の認定手続を確立するとともに、全てのカネミ
油症の被害者を救済すること。
2 国が主体となって、カネミ油症の治療方法の研究・開発を進めるとともに、専
門的知見のある医師等の養成、受診しやすい専門的医療機関の整備を行い、各医
療機関に対してカネミ油症の理解及びその治療方法の周知を図ること。
カネミ油症の被害者に対し、医療費、医療関連費(健康の維持・回復のために
必要とされる費用を含む)及び生活補償費の支給を行うこと。
4 いわゆる仮払金返還請求の対象となっているカネミ油症の被害者に対し、一律
に全額免除する措置を採ること。
第2 勧告の理由
別添調査報告書記載のとおり

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2006年4月17日
衆議院議長 河 野 洋 平 殿
日本弁護士連合会
会 長
平 山 正 剛
勧 告 書
当連合会は、カネミ油症人権救済申立事件について調査した結果、国として、立法
措置も含め、以下の方策を採るよう勧告します。
第1 勧告の趣旨
1 国が主体となって、カネミ油症の認定手続を確立するとともに、全てのカネミ
油症の被害者を救済すること。
2 国が主体となって、カネミ油症の治療方法の研究・開発を進めるとともに、専
門的知見のある医師等の養成、受診しやすい専門的医療機関の整備を行い、各医
療機関に対してカネミ油症の理解及びその治療方法の周知を図ること。
カネミ油症の被害者に対し、医療費、医療関連費(健康の維持・回復のために
必要とされる費用を含む)及び生活補償費の支給を行うこと。
4 いわゆる仮払金返還請求の対象となっているカネミ油症の被害者に対し、一律
に全額免除する措置を採ること。
第2 勧告の理由
別添調査報告書記載のとおり

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2006年4月17日
参議院議長 扇
千 景 殿
日本弁護士連合会
会 長
平 山 正 剛
勧 告 書
当連合会は、カネミ油症人権救済申立事件について調査した結果、国として、立法
措置も含め、以下の方策を採るよう勧告します。
第1 勧告の趣旨
1 国が主体となって、カネミ油症の認定手続を確立するとともに、全てのカネミ
油症の被害者を救済すること。
2 国が主体となって、カネミ油症の治療方法の研究・開発を進めるとともに、専
門的知見のある医師等の養成、受診しやすい専門的医療機関の整備を行い、各医
療機関に対してカネミ油症の理解及びその治療方法の周知を図ること。
カネミ油症の被害者に対し、医療費、医療関連費(健康の維持・回復のために
必要とされる費用を含む)及び生活補償費の支給を行うこと。
4 いわゆる仮払金返還請求の対象となっているカネミ油症の被害者に対し、一律
に全額免除する措置を採ること。
第2 勧告の理由
別添調査報告書記載のとおり

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2006年4月17日
X株式会社
代表取締役社長 U 殿
日本弁護士連合会
会 長
平 山 正 剛
勧 告 書
当連合会は、カネミ油症人権救済申立事件について調査した結果、貴社に対し、下
記のとおり勧告します。
第1 勧告の趣旨
カネミ油症の被害者に対して支払う医療費の範囲を拡充するよう努めるこ
と。
カネミ油症事件に関する訴訟終了後に新しく認定されたカネミ油症の被害者
に対し、相当額の賠償措置を講ずること。
3 貴社がカネミ油症の被害者に対して訴訟上支払義務を負うこととされた損
害賠償債務について、その弁済をすること。
4 国が行うべきカネミ油症の治療方法の研究・開発等に関する事業並びにカネ
ミ油症の被害者に対する医療費、医療関連費及び生活補償費の支給に関する事
業に対し、相当額の金員を支出して協力すること。
第2 勧告の理由
別添調査報告書記載のとおり

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2006年4月17日
株式会社Y
代表取締役社長 V 殿
日本弁護士連合会
会 長
平 山 正 剛
要 望 書
当連合会は、カネミ油症人権救済申立事件について調査した結果、貴社に対し、下
記のとおり要望します。
第1 要望の趣旨
1 申立人らのうち、貴社から和解金等の支払を受けていないカネミ油症の被
害者に対し、既に和解金等の支払を受けた者と均衡を失しない金額の金員を
支払うこと。
2 国が行うべきカネミ油症の治療方法の研究・開発等に関する事業並びにカネ
ミ油症の被害者に対する医療費、医療関連費及び生活補償費の支給に関する事
業に対し、相当額の金員を支出して協力すること。
第2 要望の理由
別添調査報告書記載のとおり

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カネミ油症人権救済申立事件調査報告書
事件番号
2004年度第2号事件
申 立 人
A 外371名
申立代理人
弁護士 保田 行雄
申 立 人 B 外146名
申立代理人
弁護士 吉野 高幸 外8名
相 手 方
X株式会社
株式会社Y
第1 結論
1 国に対し、立法措置も含め、以下の方策を採るよう勧告する。
(1)国が主体となって、カネミ油症の認定手続を確立するとともに、全てのカネミ油症
の被害者を救済すること。
(2)国が主体となって、カネミ油症の治療方法の研究・開発を進めるとともに、専門的
知見のある医師等の養成、受診しやすい専門的医療機関の整備を行い、各医療機関に
対してカネミ油症の理解及びその治療方法の周知を図ること。
(3)カネミ油症の被害者に対し、医療費、医療関連費(健康の維持・回復のために必要
とされる費用を含む)及び生活補償費の支給を行うこと。
(4)いわゆる仮払金返還請求の対象となっているカネミ油症の被害者に対し、一律に全
額免除する措置を採ること。
2 X株式会社に対し、以下のとおり勧告する。
(1)カネミ油症の被害者に対して支払う医療費の範囲を拡充するよう努めること。
(2)カネミ油症事件に関する訴訟終了後に新しく認定されたカネミ油症の被害者に対し、
相当額の賠償措置を講ずること。
(3)X株式会社がカネミ油症の被害者に対して訴訟上支払義務を負うこととされた損害
賠償債務について、その弁済をすること。
(4)国が行うべきカネミ油症の治療方法の研究・開発等に関する事業並びにカネミ油症
の被害者に対する医療費、医療関連費及び生活補償費の支給に関する事業に対し、相
当額の金員を支出して協力すること。
3 株式会社Yに対し、以下のとおり要望する。
(1)申立人らのうち、株式会社Yから和解金等の支払を受けていないカネミ油症の被害
者に対し、既に和解金等の支払を受けた者と均衡を失しない金額の金員を支払うこと。
(2)国が行うべきカネミ油症の治療方法の研究・開発等に関する事業並びにカネミ油症
の被害者に対する医療費、医療関連費及び生活補償費の支給に関する事業に対し、相

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当額の金員を支出して協力すること。
第2 人権救済申立の概要
1 申立の趣旨
申立人らは、以下の趣旨の勧告をすることを求める。
(1)国に対して
① 国は、カネミ油症(以下単に「油症」ともいう)の被害の原因究明と治療方法の
研究・開発・確立についての取り組みを抜本的に強化すべきである。
② 国は、その責任で、油症被害者救済のため、医療面(医療費・医療費関連費用の
負担)・生活面(「健康管理手当」の給付等)での新たな支援措置を含む救済制度を
確立すべきである。
③ 国は、「仮払金返還問題」についても油症被害者救済の立場で関係法令を柔軟に適
用して早期解決を図るべきである。
④ 国みずからの責任で行う患者認定手続を確立し、また、診断基準を柔軟に運用し
て全ての油症被害者に対して救済の途を開くべきである。
(2)X株式会社(以下「X」という)に対して
① Xは、申立人らをはじめ全ての油症被害者に対して誠意をもって謝罪し、医療及
び生活上の支援措置を講ずるべきである。
② 未訴訟の油症被害者ら及び新規認定患者らに対し、相当の賠償措置を講ずるべき
である。
③ Xは、訴訟による執行金の未払部分について、弁済の努力をすべきである。
(3)株式会社Y(以下「Y」という)に対して
① 申立人らのうち、訴訟等により和解金を受領していない油症被害者らに対し、和
解した者と均衡を失しない金員の支払をすべきである。
② Yは、油症被害の治療法の開発や、油症被害者らに対する生活援助などの支援事
業に取り組むべきである。
2 申立の理由
(1)申立人について
申立人らはXが製造・販売したカネミライスオイル(以下「ライスオイル」という)
を摂食し、または、摂食した母親から生まれた子らであるが、いずれも、ライスオイ
ルに含まれていたポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)などのダイオキシン類及びポ
リ塩化ビフェニール(PCB)などの有害化学物質中毒によって、治癒が困難な健康
被害(以下「カネミ油症」という)を引き起こされた者らである。
申立人らは、「油症研究班」の診断により都府県から油症患者と「認定」された者及
び未認定の油症被害者である。認定された油症患者は、Xから少額の「見舞金」や「油
症券」の交付をうける外、訴訟により一定の和解金を取得した者もいる。しかし、極

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めて一部の者を除き、損害賠償金の全額を受け取った者はいない。
申立人らには、未認定の油症被害者が存在する。申立人らは、食品衛生法でいう「食
中毒患者」であるが、通常の食中毒事件とは異なり、カネミ油症においては「診断基
準」が作られ、要件をみたし、「認定」された者が「患者」とされ、膨大な未認定の「食
中毒患者」を残している(1969年に届出を行った1万4320名中、認定を受け
た者は申立時現在1867名で13パーセントにすぎない)。
油症被害者は、国、Y、X等を被告として訴訟をたたかい、統一訴訟第1陣及び第
3陣は、下級審において国に勝訴し、一定額の仮執行金(以下「仮払金」という)を
受領したが、その訴訟の取下げによりいわゆる仮払金返還問題が生じた(合計829
名・26億9705万円)。現在も約20億円の未払債務が未解決のままである。申立
人の中にはこの仮払金の返還義務を負担する者が多数いる。
油症被害者へは、Xの「油症券」により医療費の自己負担分や医療関連経費の一部
支払が行われているが、極めて不十分であるほか、Xによって恣意的に運用されてお
り、およそ恒久対策の名に値しないもので、年々先細りしている(2005年度で約
5000万円)。被害者には他にどこからも支援措置はない。
(2)相手方について
国の担当行政機関は、食品衛生法及び国民の医療、社会保障を担う厚生労働省及び
仮払金返還問題を担当する農林水産省である。
Xは、原因食品のライスオイルを製造・販売した直接の加害者である。
Yは、直接の原因物質であるカネクロール400を製造し、Xに供給した原因企業
である。Yは、戦後日本のPCBの大半を製造、供給していた。このPCBの処理に
は、多額の公費が使われている。
(3)カネミ油症被害者の現状と人権侵害
① 申立人ら油症被害者たちのおかれた現状は悲惨であり、深刻な人権侵害の状態に
ある。医療から見捨てられ、生活に苦しみ、そして今も差別や偏見をおそれて暮ら
している。その人権侵害は、社会生活の全般に及ぶ極めて深刻なものである。
② 油症被害者は、中毒初期に特徴的にみられたクロルアクネと呼称される皮膚症状
にとどまらず、「病気のデパート」と称されるような全身病に苦しんでいる。
③ 発生から30年以上経った今日でも、油症被害者の体内には通常人よりも数倍か
ら数十倍のPCBやPCDF等のダイオキシン類が残留し、汚染がいまだに継続し
ていることが、油症研究班の調査によっても判明している。
事件発生時、母親の胎内で曝露、あるいは母乳を通じて曝露された子が成長し、
母となって産んだ子供から「コーラベイビー」と呼ばれるいわゆる「黒い赤ちゃん」
が生まれている。しかし、このような世代間の被害の拡がりは、胎児期や乳児期に
曝露された子供たちに対するその後の影響や、同人らの生殖に与える影響などとと
もに、医学上も社会的支援の上でも全く無視されている。
④ 生活苦と仮払金返還問題

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油症被害者は、様々な疾病に長期にわたり罹患し、そのことから満足に働くこと
ができず、生活に苦しんでいる者も少なくない。また、これに加えて仮払金返還問
題がある。
申立人には、この仮払金の返還義務を負った者が多い。現在、857人(相続人
を含む)が総額20億円余り(元本のみ・遅延損害金は含まない)の債務を負担し
ている。仮払金の処理は、国の債権の管理等に関する法律(以下「債権管理法」と
いう)に基づき行われており、同法の規定によれば、「免除」をうける以外に債務を
解消する方法はなく、債務は相続を通じて何世代にも受け継がれていくことになる。
全面解決の見通しはない。
この仮払金返還問題は、油症被害者を、癒えぬ病状に加えて二重三重に苦しめて
いる。仮払金の支払義務を負う者は、この義務を負った当時未成年者だった者も少
なくなく、支払義務を負うことで結婚を諦めたり、このことを隠して結婚したり、
発覚を恐れたりしながら暮らしている者や、このことが発覚して離婚した者もいる。
仮払金の問題により前途を悲観し、自殺した者もいる。
⑤ 未認定問題
油症被害の届出は、1969年7月1日現在で1万4320人である。これ以降
公式の届出数は公表されていない。これに対し、認定された油症被害者は申立時現
在1867人で認定者の割合は13パーセントである。この「認定」率は食中毒事
件としては極めて異常である。
カネミ油症事件は、食中毒事件であるにもかかわらず、最終的な報告文書はどこ
にも存在しない。この異常に低い「認定率」は、初期の「皮膚症状」に偏った「診
断基準」による患者切り捨て以外の何ものでもない。食品衛生法の規定とおよそか
け離れた検診・認定制度によるものである。通常の食中毒事件においては、医師の
届出・保健所による調査により「認定」されるが、カネミ油症事件では、法にない
「認定制度」により、多数の未「認定中毒患者」が生み出された。
また、カネミ油症被害に対する「恒久対策」がないことから、「苦労」して「認定」
してもらっても実りは少なく、このことが被害者を検診に消極的にさせている。
⑥ 社会的な差別や偏見
これまで油症被害者は数々の社会的差別を受けたり、周囲から偏見の目で見られ
たり、場合によっては家族同士の間でもいわれない差別と屈辱的な扱いを受けたり
してきた。例えば、「黒い赤ちゃん」が生まれた女性の場合には、夫から黒人と関係
してできた子ではないのかと疑われたり、周囲からこのような噂をたてられたりす
るケースもあった。また、子どもの結婚に支障が出ることを恐れて、子どもにさえ
も自身が油症被害者であることを秘密にせざるを得ないといった家族も多く生じた。
仮払金の返還請求書を国から受け取った者が、はじめて自分が油症被害者から生
まれた子どもであることを知って、前記のとおり、離婚したり、前途を悲観して自
殺したりした場合もあった。

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(4)カネミ油症被害者の苦難は何故もたらされたのか
カネミ油症被害については、国やY、X等を相手に訴訟が提起され、下級審で7
つの判決が下されたが、最終的には1989年3月までに全ての原告とX、Yとの
間で和解が成立し、他方、国に対する訴えは取り下げられて終結した。
このように、カネミ油症事件は訴訟上は一応の決着を見たのであるが、油症被害
者らにとって「解決」はなかった。
それは、油症被害そのものが、本来、未知の化学物質による被害として、金銭賠
償を原則とする訴訟のみでは解決し得ない性質と拡がりを内包するものであったか
らである。国は、訴訟とは別に食中毒事件として、食品衛生法に基づく調査を徹底
して実施し、「食中毒患者」としてその症状を把握しておくべきであった。改正前の
食品衛生法27条に規定された「中毒に関する届出、調査及び報告」は、ほとんど
履行されていなかったのである。
このように、カネミ油症事件においては、事件全体に関する調査・報告が欠落し
ていることが、被害に関する全体の正しい把握を困難にし、その後の対策を樹立す
る上での困難を決定的なものにした。カネミ油症を「未知の」「慢性食中毒事件」と
して調査し、患者の苦難に対処するという医療・生活面での恒久対策は、今日に至
るまで何も行われていない。
また、国は、訴訟の「終結」と離れて恒久対策を確立すべきであった。水俣病公
害事件、スモン薬害事件、薬害エイズ事件等の様々な事件において、国はその責任
の有無を離れて、被害者救済の立場から恒久対策を確立してきた。しかし、カネミ
油症事件では、医療面・生活面いずれをとっても国の関与する恒久対策は全くない。
これは、他の事件に比べて著しく不平等である。
② 企業の対応の問題点
(ア) Xは、資力がないことを理由に損害金の支払を怠り続けている。「油症券」によ
る治療費などの一部支払は、その支払基準に「明確な基準」はなく、被害者らか
らは「恣意的」と評価されている。国は、油症券による医療費の支払のための「X
支援」として、Xの倉庫を利用することによりカネミに対して「保管料」を支払
い、その額は年間1億円を超えるが、その内油症券の支払は半額以下の約500
0万円となっている。この点から見てもXが、損害金の支払を怠る理由はない。
(イ) Yは、最高裁判所での和解を根拠として、カネミ油症事件に関する訴訟終了後
に新しく認定されたカネミ油症の被害者(以下「新認定被害者」という)への和
解金の支払を拒んでいるが、支払を拒む合理的根拠はない。Yは、我が国におけ
るPCBのほとんどを製造・供給した企業である。このPCBの処理に、現在ま
で莫大な公費が支払われていることを考慮すれば、Yが油症被害者に支払を拒み
続けることについて、社会的理解を得ることはできない。
また、認定された油症被害者との間で既にされた和解の内容が新認定被害者ま
で拘束するものとすることは法律上不当である。

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(ウ)油症研究班の問題点
油症被害者が放置されてきたことについて、「油症研究班」の責任は、その医
学・専門性に鑑みれば軽くない。また、油症研究班が法的に根拠のない「診断基
準」で、法にない食中毒患者の「認定」方法をとることによって多くの患者を切
り捨ててきたことは不当である。また、油症研究班が、油症被害者の長期の疫学
調査を怠ってきたことは、治療・研究の障害となっている。化学物質中毒にもか
かわらず、皮膚科を中心とした油症研究班が構成されたこと、また、それが継続
されてきたことに根本的原因がある。
第3 調査の経過(略)
第4 認定した事実
カネミ油症事件の概要
(1)カネミ油症事件とは
カネミ油症事件とは、米ぬか油であるライスオイルを製造・販売していたXが、製
造工場の脱臭工程において、Y(当時の商号は鐘淵化学工業株式会社)の製造に係る
PCB(ポリ塩化ビフェニール)製品である「カネクロール400」を加熱炉で25
0度まで加熱した上、ステンレス製パイプに送り込んで脱臭塔内のライスオイルに熱
を伝えて脱臭する仕組みをとっていたところ、ライスオイルにカネクロール400が
混入し、これが販売されて消費者が摂食したことによって発生した化学性食中毒事件
である。
(2)事件の発生と原因物質
1968年2月頃から10月頃にかけて、北九州を中心とする西日本一帯で、皮膚、
爪、歯茎が黒変(メラニン色素の沈着による)し、全身にニキビ状の発疹(クロルア
クネと呼称される)ができ、目やにがひどく、手足がしびれるという奇病が発生した。
1968年10月14日には、九州大学、久留米大学、福岡県衛生部を中心とした
油症研究班が組織され、また、同年10月19日には厚生省による米ぬか油中毒事件
対策本部(以下「対策本部」という)が設置されて、原因物質の究明が開始された。
1968年11月4日、油症研究班は、油症被害者が食べたライスオイルに含まれ
たPCBが原因物質であると発表し、対策本部も、1969年3月、同様にPCBが
原因物質であると断定した。
その後の研究により、1974年には、油症の主な発生因子は、PCBの加熱によ
り生成されたPCDF(ポリ塩化ジベンゾフラン)であることが判明し、1983年
6月の全国油症治療研究班の会議において、PCDFが原因物質の一つであることが
確認された。PCDFは強毒性のダイオキシン類である。その毒性はPCBの数千倍
で人体への残留性と毒性が特に強く、肝臓や皮下脂肪に残留する性質のものとされて
いる。

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その後、1987年までには、原因物質にコプラナーPCBも含まれていることが
発表された。コプラナーPCBは、PCBのうち特に毒性の強い同族体の化学物質で
あり、同じくダイオキシン類の一つである。
2 患者の症状等
(1)症状
① 多様な症状
油症の初期に高頻度に発生する主な症状としては、①爪の色素沈着、②毛嚢の腫
大、③手の平の発汗、④皮膚の発疹(塩素痤瘡であり、クロルアクネと呼称される)、
⑤全身のかゆみ、⑥皮膚の色素沈着、⑦粘膜の色素沈着、⑧目やにの増加、⑨結膜
の充血、⑩一時的な視覚障害、⑪上まぶたの腫脹、⑫全身の倦怠感、⑬手足のしび
れ、⑭頭痛、⑮嘔吐、⑯下痢などが挙げられる。
カネミ油症事件の発生した1968年2月から同年12月の間に福岡県内で油症
被害者から生まれた13人について、その内2人は死産であった。残りの11人の
内10人は全身の皮膚が褐色であり、9人は目やにの多量分泌が見られ、5人は爪
と歯茎が褐色であるという所見がそれぞれ報告されている。
1969年8月に油症研究班が福岡県内の油症被害者365人を対象に行った検
診では、末梢神経の障害が40歳代で半分以上、50歳以上になるとほとんど全員
に認められた。内臓疾患及び心臓機能の障害で死亡した青年や全身衰弱で死亡した
中学生もいた。
② 症状の変遷
発症時に診断基準となった皮膚の発疹(クロルアクネ)・眼脂(目やに)・頭痛・
手足のしびれなどは現在でも更に悪化している例が少なくない。
頭痛・手足のしびれなどの神経系の病気、肝臓・腎臓・心臓・胆のう・膵臓・肺・
胃腸などの内蔵疾患が多く、発がんに至った例も数多くみられる。
婦人科系では、流産が多く、妊娠・出産異常、生理異常、子宮内膜症、無月経・
20代での早期閉経、子宮の早期老化、子宮がん、乳がん、卵巣がんなどが見受け
られる。
各地で出生した「黒い赤ちゃん」と呼称される油症新生児は、虚弱体質が特徴的
であり、成長期にも発熱・気管支炎・心臓病・呼吸困難などを併発した。皮膚の色
は成人になる過程で軽減したとしても、血液の病気、呼吸器系・腎臓・肝臓の病気
のほか、眼病・耳鼻疾患などを患っている。結婚した後出産したらその子も「黒い
赤ちゃん」であった例もある。
骨折しやすい状態となり、骨折した部分の骨が壊死したり、壊死のため手足や脚
の切断をせざるを得なかったりした例や、両脚切断後に死亡した例もある。
口腔内に関しては、歯茎の化膿により手術を余儀なくされたり、永久歯を早期に
喪失したり、歯骨手術を何度も繰り返したり、歯骨障害による歯芽への影響が出た
りしている。

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生殖障害としては、精子減少、精巣減少症、性器未発達、無月経、子宮の早期老
齢化・閉経といった例がある。
耳鼻科関連では、耳鳴り、内耳化膿後の難聴、鼻腔性黒色腫・内耳の真珠性膿腫
などの例が見られる。
泌尿器系では、尿管狭窄(尿管に脂肪が蓄積する)、血尿、腎臓病、膀胱がん・前
立腺がんなどが見られる。
また、高熱・全身の激痛・目まい・けいれんなどが年々悪化し、入退院を繰り返
している例がある。
(2)治療方法
治療方法としては、原因物質であるPCB及びダイオキシン類の排泄を促進するの
が最も効果的であるが、現在のところ有効な排泄促進方法は見出されていない。この
ため、治療は対症療法を中心に行われているのが現状である。
3 申立人
(1)申立人らの概要
申立人らは、Xが製造・販売したライスオイルを摂取した者(その相続人5名を含
む)、ライスオイルを摂取した者から生まれた者(二世代)及びライスオイルを摂取し
た者から生まれた者の子(三世代)が515名、これらの者の家族が4名の合計51
9名である。
申立人らの居住地は、長崎県内が214名、福岡県内が210名、それ以外が他県
である。
申立人らの年齢層としては、8割以上が40歳以上でであり、このうち70歳以上
は128名である。
(2)「油症」の認定・未認定の別
申立人のうち、家族4名を除き、「油症」として認定された油症被害者(その相続人
4名を含む)は447名であり、認定を受けた者のうち2004年以降に認定された
者は17名である。その余の68名は未認定である(相続人1名を含む)。
認定を受けた申立人について、Xが製造・販売したライスオイルを摂取したことに
よる油症被害者と認められることは言うまでもないが、未認定の申立人についても、
当委員会による事情聴取ないし申立人から提出された資料に基づき、ライスオイルを
摂取した時期と症状の発症の前後関係、症状の内容等を検討した結果、油症被害者で
あると認められた。
4 申立人らの被害の実態
(1)症状の多様性と深刻さ
申立人らは、現在も、全身の吹き出物や目やに、指等の変形、手足等の痛み・痺れ・
むくみ、骨折、歯が抜ける、身体のだるさ、頭痛、脱毛、動悸、目まい、吐き気等に
悩まされているほか、関節の病気によって歩行困難となった者も多く、多くの者が将
来に対する不安を抱えている。

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症状は、いわば次から次へと様々な形で現れている。特に、高血圧や高脂血症、糖
尿病、脳梗塞、胃潰瘍、心臓・肝臓等の機能障害、子宮ガン、メヌエール症など、様々
な疾患を抱えている者が多く、数度の手術を受けた者もいる。
さらに、このような身体症状に加え、生活苦や不安などから、不眠、うつ病、ノイ
ローゼになった者もいる。
(2)世代を超えた被害の実態
油症被害は、一世代だけでは終らず、世代を超えて発生している。
何度も流産を余儀なくされた者のほか、生まれてきた子どもが、「黒い赤ちゃん」で
あったり、耳が聞こえなかったり、心臓疾患・頭痛・身体のだるさ・アレルギー体質
を有していたり、病弱であったりする場合もある。
さらに、油症被害者の孫が虚弱体質やアレルギー体質であるなど、油症被害が三代
にわたる家族もある。
(3)検診・認定の問題点
家族で、同じようにライスオイルを摂取したにもかかわらず、油症と認定された者
と認定されない者とに分かれたり、認定された時期にも差が生じたりしている。
身体の痛み、頭痛、目まい等に悩まされていたが、検診で「出来物が出ていない」、
「目やにが出ていない」ことを理由として、10年以上認定されなかった者もいる。
「PCQ濃度が正常」とされて認定されなかった者が、2004年の新認定基準とな
った後、「PCDF濃度のみならず、PCQ濃度も高い」として新たに認定された例も
ある。また、油症と認定されるべき症状が見られるにもかかわらず、何度認定を申請
しても、「異常なし」として認定されない者も多い。
さらには、検診日が限られていたり、検診の仕方に疑問や不信感を抱いたり、認定
の結果の連絡が遅かったりするといった理由から、検診に行かなくなった者も多い。
(4)治療・医療機関の問題点
油症に対する有効な治療法が開発されておらず、専門の病院も設置されていないた
め、健康食品等を購入してこれに依存している者も多い。
病院から病院へといわゆる「たらい廻し」の状態にされるほか、医師・医療機関が
有するカネミ油症に関する知識や情報は極めて不十分である。
中には、陰部の吹き出物を梅毒と誤診するなど、全く理解のない医師もおり、その
ため、夫婦の関係が悪化した者もいる。
また、油症を専門とする婦人科の医師がいないため、女性が適切な治療を受けられ
ないという問題もある。
(5)経済的負担
① 収入の減少
油症による様々な身体的疾病を原因として、仕事に就くことができず、仕事に就
いたとしても通院や体調の不良・悪化により仕事が継続できず、収入が不安定とな
っていることが多い。

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また、全員が油症に罹患した家族の場合、大黒柱である者の収入が不安定になる
ばかりか、生活費に加えて、自己や家族の医療費や介護費も捻出しなければならな
い状態になる。
そのため、自己の身体の不調を押して仕事をせざるを得ないことから、体調が悪
くても休むことができず、病院の検査にさえ行けない者もいる。
少ない収入や年金のみの生活にもかかわらず、医療費等を負担せざるを得ないこ
とから、貧困にあえいでいる者も多い。
② 医療費の重い負担
油症と認定されなければ、医療費は全て自分で負担しなければならない。
他方、油症と認定されると、Xから「油症患者受療券」という治療券が交付され、
同社が治療費を支払うことになっている。しかし、治療費は一部の病院を除いて油
症被害者が一旦立替払をした上で同社に請求しなければならず、同社から振り込ま
れるまで日数が掛かることから、重い負担となっている。
また、「油症と無関係」、「年数が経過している」などの理由により、Xから医療費
の支払を拒否された例もある。
さらに、油症と認定されたとしても、認定前の治療費については一切支払が受け
られない。
このようなことから、当初から治療費を同社に請求することをあきらめ、自分で
負担して支払っている者も多い。
他方、油症被害者であることを家族に知られないようにするため、治療券を使用
することができない者もおり、そのため、医療関係費の自己負担額が多額となるこ
とから、やむを得ず通院回数を減らすことになる者もいる。
また、症状の原因が不明であった時期や、油症と認定されるまでの間、多数の医
療機関で受診せざるを得なかったことから、多額の医療費の出費を余儀なくされた
家族もある。
さらに、少しでも症状を緩和させようと、栄養剤、健康食品等を摂取している者
も多いが、これらの費用やマッサージ代なども全て自費で負担せざるを得ないこと
から、このことも重い負担となっている。
(6)生活上の被害
油症被害者らは、肉体的・経済的被害のみならず、以下のとおり、家庭生活・社会
生活上の被害を被っていることが認められる。
皮膚が黒かったり、吹き出物が出ていることなどから、いじめられたり、差別され
たりした経験をもつ者、結婚を反対されたりした者もいる。最愛の家族を油症で亡く
した者、家族が油症を苦にして自殺した者、油症が原因で結婚できなかった者や離婚
した者などもいる。
身体の調子が悪いにもかかわらず、自分が油症であることを家族に隠している者や、
子供が油症の認定を受けているにもかかわらず、そのことを子供本人に話すことがで

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きないでいる者もおり、そのことで悩んでいる例も多い。
カネミ油症事件に関する訴訟
(1)刑事訴訟
刑事訴訟では、1978年3月24日、Xの代表者に対する無罪判決が確定した。
また、1982年1月25日には、Xの工場長に対する有罪判決がなされ、その後、
確定した。
(2)民事訴訟
油症被害者らが起こした民事訴訟は、添付の図表4(略)のとおり、姫路、福岡、
小倉1陣、小倉2陣、小倉3陣、小倉4陣、小倉5陣及び油症福岡訴訟団による訴訟
の合計8件である。
① 姫路
姫路訴訟では、姫路市の未認定の油症被害者が、Xを被告として、本人訴訟によ
り提訴したが、第一審で敗訴して確定した。
② 福岡(福岡カネミ訴訟、福岡訴訟九電グループ)
X、Xの代表者及びYを被告とした福岡訴訟では、1977年10月5日、福岡
地裁で第一審判決がなされ、三者ともに責任が認められた。
その後、1984年3月16日には、福岡高裁にて控訴審判決がなされ、同じく
三者ともに責任が認められた。
これに対し、同月29日にYが上告したところ、1987年3月20日、最高裁
にていわゆる全訴訟一括和解方式により和解が成立した。
Yとの和解の内容は、①原告一人につき金300万円をベースとした見舞金を支
払うものとし、仮執行の金額が見舞金の金額を超えている原告については、Yに対
して返還すべき金額から当該金額を控除するが、仮執行の金額が上記の見舞金の金
額に達していない原告については、差額分を見舞金として支払うこととする(この
措置によるYの追加の支出は約19億円であった)、②上記①による調整後のYの原
告らに対する返還請求権について、Yは強制執行等による履行を求めないというも
のであった。
③ 小倉1陣(カネミ油症事件全国統一民事訴訟第1陣)
X、Xの代表者、Y、国及び北九州市を被告とした小倉1陣訴訟は、1978年
3月10日、福岡地裁小倉支部にて第一審判決がなされ、X、Yの責任は認められ
たものの、X代表者、国及び北九州市の責任は否定された。
その後、1984年3月16日には、福岡高裁にて控訴審判決がなされ、X、X
代表者、Y及び国に責任を認めたが、北九州市の責任は否定された。
これに対し、同月29日にYと国が上告したところ、1987年3月20日、前
記のとおり、最高裁にてYとの間で全訴訟一括和解方式による和解が成立した一方
で、同年3月26日、原告は国に対する訴えを取り下げた。
④ 小倉2陣(カネミ油症事件全国統一民事訴訟第2陣)

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X、Xの代表者、Y、国及び北九州市を被告とした小倉2陣訴訟は、1982年
3月29日、福岡地裁小倉支部にて第一審判決がなされ、X、X代表者及びYの責
任は認められたが、国及び北九州市の責任は否定された。
その後、1986年5月15日には、福岡高裁にて控訴審判決がなされ、X及び
X代表者の責任は認められたが、Y、国及び北九州市の責任は否定された。
これに対し、同月26日に原告が上告したところ、小倉1陣訴訟と同様に、最高
裁にてYとの間で全訴訟一括和解方式による和解が成立した一方で、原告は国に対
する訴えを取り下げた。
⑤ 小倉3陣(カネミ油症事件全国統一民事訴訟第3陣)
X、Xの代表者、Y、国及び北九州市を被告とした小倉民事3陣訴訟は、198
5年2月13日、福岡地裁小倉支部で第一審判決がなされ、X、Xの代表者、Y及
び国の責任は認められたが、北九州市の責任は否定された。
これに対し、Yと国が福岡高裁に控訴したところ、小倉1陣訴訟と同様に、最高
裁にてYとの間で全訴訟一括和解方式による和解が成立した一方で、原告は国に対
する訴えを取り下げた。
⑥ 小倉4陣(カネミ油症事件全国統一民事訴訟第4陣)
X、Xの代表者、Y及び国を被告とした小倉4陣訴訟は、1985年7月29日
に提訴されたが、小倉1陣訴訟と同様に、1987年3月20日、最高裁にてYと
の間で全訴訟一括和解方式による和解が成立した一方で、原告は国に対する訴えを
取り下げた。
また、同年10月15日には、原告とX及びXの代表者との間で和解が成立した。
和解の内容の骨子は、①XとXの代表者は連帯して、原告に500万円の金員を
支払う、②原告はXが銀行取引停止や破産等の状態にならない限り、①について強
制執行等による履行を求めない、③Xは①とは別に原告らに治療費を誠実に支払う、
④Xは、治療費の支払いに関し、原告から協議の申入れがあった場合には、これに
誠実に対処するというものであった。
⑦ 小倉5陣(カネミ油症事件全国統一民事訴訟第5陣)
X、Xの代表者、Y及び国を被告とした小倉5陣訴訟は、1985年11月29
日に提訴されたが、小倉1陣訴訟と同様に、1987年3月20日、最高裁にてY
との間で全訴訟一括和解方式による和解が成立した一方で、原告は国に対する訴え
を取り下げた。
また、同年10月15日には、原告とX、Xの代表者との間で小倉4陣訴訟と同
様の和解が成立した。
⑧ 油症福岡訴訟団による訴訟(油症福岡旧未訴訟グループ)
X、Xの代表者及びYを被告とした油症福岡訴訟団による訴訟は、1986年1
月6日に提訴されたが、福岡訴訟と同様に、1987年3月20日、最高裁にてY
との間で全訴訟一括和解方式による和解が成立した。

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また、同年12月21日には、X、Xの代表者との間で小倉4陣訴訟と同様の和
解が成立した。
カネミ油症事件に先立って起きたダーク油事件
(1)ダーク油事件の概要
カネミ油症事件発覚に先立つ1968年2月から3月にかけて、西日本各地の養鶏
場で、鶏の大量中毒事件(以下「ダーク油事件」という)が起きた。同事件では、約
200万羽の鶏が中毒となり、内約49万羽がへい死した。
この事件の原因は、Xがライスオイルを製造する際に生じる副産物であるダーク油
にカネクロール400が混入し、これを配合飼料に添加したことによるものであるこ
とが判明した。
(2)ダーク油事件発生後の事実経過
これに対する行政の対応は概ね以下のとおりであった。
① 農林省福岡肥飼料検査所(以下「福岡肥飼検」という)は、1968年3月15
日、農林省畜産局流通飼料課(以下「流通飼料課」という)にダーク油事件の発生
を報告するとともに、同年3月16日、東急エビス産業株式会社に対して、ダーク
油を原料として使用している配合飼料の生産と出荷の停止を指示した。
② 同年3月18日、福岡肥飼検は、九州、山口の各県にXのダーク油を使用した飼
料の回収を指示するとともに、同一飼料による再現試験の実施を依頼した。
③ 同年3月19日、福岡肥飼検は飼料課長のC課長らを鹿児島県に派遣し実情調査、
東急エビス産業株式会社九州工場に係官を派遣して立入調査を行った。
C課長は本来の職務権限としては農林大臣の指定している飼料生産工場に対して
立入調査権限が認められるにとどまり、Xに対しては立入調査権限はなかったが、
Xの了解を得て同年3月22日に現地実態調査の実施に踏み切った。
C課長はダーク油の製造工程を見て廻るうち食用油も同一原料により同一工程で
製造されていることが判ったが、X側から、食用油の方はダーク油とは全く関係が
ないという説明がなされた上、それ以上触れられたくないという口振りであったし、
余り深く追求すると今回の調査に影響すると考え、またC自身の職務も餌の検査、
飼料の調査を所管するものであって食用油を所轄するものではないから、Xの方で
関係ないという以上ことさらに関心を持つまでもないと思い、結局あえて食用油の
方には触れずダーク油の調査一本にしぼった。
X側は、C課長の調査に対して、ダーク油はいつも同じ工程で同じ原料を使用し
ており、何ら異常はなく問題もない筈であると反発した。これに対してC課長は、
Xがダーク油を混入した配合飼料によって現実に事故が発生していると反論したが、
Xの代表者らはこれを否定した。
④ C課長は福岡肥飼検のD所長に対し、実態調査の結果について「ダーク油の大ま
かな工程を把握したがその製造工程中にはなんら心配がない」旨報告し、その旨は
直ちに農林省流通飼料課に連絡された。さらにC課長から福岡県農政部の係官に対

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して非公式に、「実態調査の結果では食用油には危険を生じないであろう」という情
報が伝えられた。これが後日福岡県農政部が同県衛生部にダーク油事件の経緯を連
絡しなかった理由の一つにあげられた。
同年3月25日、福岡肥飼検から農林省家畜衛生試験場(以下「家畜衛試」とい
う)に配合飼料及びダーク油を添えて原因物質の究明を目的とした病性鑑定が依頼
された。
⑤ 同年6月14日、家畜衛試のEは、鑑定回答書を福岡肥飼検に提出したが、回答
書には、「本中毒と極めて良く類似した鶏の中毒がアメリカで1957年に発生し
ている。アメリカで発生した中毒の毒成分と同一であるかどうかは不明であるが、
油脂製造工程中の無機性化合物の混入は一応否定されるので、油脂そのものの変質
による中毒と考察される」と記載されていた。
Eは当時農薬、殊に有機塩素系のBHC,DDTの研究に従事していたところ、
当時有機塩素系化合物の検出にガスクロマトグラフィを使用することは、専門家の
間では一般的知見であった。そして上記の「考察」にいう「油脂の変質」がなされ
たかどうかを調べるについては、簡単な手続で一応の検査をすることもでき、さら
に酸価、過酸化物の数値、カルボニール価、不けん化物の含有量の性状分析等検査
すべき全項目にわたって分析調査しても、一週間余りあれば容易に検査しうるにも
かかわらず、家畜衛試では油脂の変質の存否について何らの化学分析、検査等も行
わなかった。
⑥ 厚生省国立予防衛生研究所で食品衛生部主任研究員をしていたFは、同年8月1
6日、友人から借りた家畜衛試の病性鑑定書を読み、鶏がこれだけ死ねば常識的に
見ても精製食用油も人体に影響を及ぼすのではないかと思い、同月19日流通飼料
課のG技官に電話し、「農林省の方ではよく検査していないようだから厚生省の方
で検査してみたいのでダーク油を分けて欲しい」と頼んだが、同技官から「ダーク
油事件は既に解決済みであるし、ダーク油そのものも廃棄処分にした」として拒否
された。
そこで、Fは同日厚生省に赴き、同省食品衛生課のH課長補佐に対し、ダーク油
事件では精製油にも危険性があるのではないかと注意を促した。
(3)ダーク油事件に関する国会での質疑
1975年11月16日の衆議院農林水産委員会で、社会党(当時)のI委員が、
ダーク油事件に関して、1968年3月22日の福岡肥飼検のC課長のXの立入り調
査の際にライスオイルの汚染について何も調べていなかったこと、また、その時点で
農林省から厚生省に知らせていないこと等について追及した。
この点に関し、J農林省畜産局長は「現実に食用油工程の一分岐としてダーク油が
生産されていたことから見て、また油症事件が発生し、原因物質が判明した時点でい
ろいろ振り返ってみると、調査方法について、より適切な方法を取るべきではなかっ
たかという反省はしている。」と答弁している。

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また、K農林政務次官は「厚生省との連絡についても、不十分な点があったことは
今にして考えると、ご指摘のとおりである。私どもは単に配合飼料のみを考えるので
はなく、食品衛生全般について今後、足らざるところは十分に反省をし、また厚生省
を始め関係当局との連携も密にするように、今後努力をしていきたい」と答弁してい
る。
7 事件発生後の国・自治体の対応
(1)事件直後の対応
1968年10月3日、油症被害者から大牟田保健所に届出があり、同月8日、同
保健所は福岡県衛生部に報告し、同月11日に同部は厚生省食品衛生課に報告した。
同月15日、食品衛生法に基づき、福岡県が、Xに対してカネミライスオイルの販売
禁止命令を行い、北九州市が、同社に対して1か月の営業停止処分を行った。
(2)その後の対応
① 米ぬか油中毒事件対策本部・カネミ油症問題関係省連絡会議
前記のとおり、対策本部は、1968年10月19日に設置されたところ、19
69年3月20日までに4回の会議を行なっているが、その後に開催されたとの事
実は認められなかった。また、会議の内容は、事件の経過、研究結果の報告などで
あった。
2003年3月28日、カネミ油症事件が再度社会問題化する中で、カネミ油症
問題関係省連絡会議が設置され、2004年10月1日までに4回の会議が行われ
ているが(厚生労働省に対する照会結果によれば、その後も随時開催しているとの
ことである)、現時点では各省の情報提供、意見交換にとどまっている。
② 厚生省における調査研究
厚生労働省に対する照会結果によれば、「1968年度に、厚生省国立衛生試験所
等の研究員が、油症並びにダーク油中毒事件における原因物質としての塩化ジフェ
ニルの役割を明確にする目的で研究を行った」とのことであるが、国がカネミ油症
事件に関して残した記録としては、1972年6月の厚生省環境衛生局食品衛生課
編「全国食中毒事件録」以外には見当たらず、その内容も、事件の端緒の概要が記
載されているにすぎない。
一方で、厚生省の担当部署の係官の作成した論文が1969年から1973年ま
でに4本発表されている。この内、「PCBによる人の健康に及ぼす影響」厚生省環
境衛生局食品衛生課近寅彦著(「食品衛生研究」1973年5月号))によれば、「カ
ネミ油症問題は油症に対する診断と治療の開発と健康障害による生活困窮の救済が
必要である。」、「診断と治療についてはまだ研究の余地が大きい」「最近改訂された
診断基準によってもなお疑症は残っている。」、「未認定患者の把握(診断)も含めて患
者の追跡調査は慢性中毒事件として急性中毒と同様に行政機関が中核となってもっ
と積極的に対策をすすめてゆくことを考える必要がある。」などといったことが既に
指摘されていた。

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しかるに、国は、事件発生当初は、上記論文に窺われるように、「慢性中毒事件と
して急性中毒と同様に行政機関が中核となってもっと積極的に対策をすすめてゆく
ことを考える必要がある」といった認識を持ちながら、その後は現在の全国油症治
療研究班に研究を委ね、研究費の支出を行うのみにとどまっている。しかも、次に
記載のとおり、同研究班の活動は、油症被害者の救済・支援にとって、十分な役割
を果たしてきたとはいえない。
③ 油症研究班の活動
油症の研究・治療は、1968年の事件発生当初より、九州大学医学部を中心に
組織された油症研究班が行ってきた。その後、研究・治療を行う組織は、添付の図
表2(略)のとおり変遷してきた。現在、油症の研究・治療を行う組織である全国
油症治療研究班は、油症治療研究班並びに班長の下部に組織される追跡調査班、油
症診断基準再評価委員会及び油症相談員によって構成されている。
全国油症治療研究班は、2001年度からL九州大学大学院皮膚科学教授が班長
になり、「熱媒体の人体影響とその治療法に関する研究」を行っている。
追跡調査班は、油症治療法に関する基礎的な臨床的研究を行うとともに油症患者
の検診並びに追跡調査を目的としており、全国に11(千葉県、愛知県、大阪府、
島根県、広島県、山口県、高知県、福岡県、長崎県、鹿児島県及び関東以北ブロッ
ク。関東以北ブロックについては、東京都、川崎市、埼玉県、茨城県、長野県、福
島県、横浜市、神奈川県及び栃木県の9自治体で構成されている)設けられている。
追跡調査班の活動内容は、研究班会議への参加、油症患者の追跡調査、油症患者の
実態把握、定期検診の実施、健康管理の指導、油症患者からの相談等である。
厚生労働省は全国油症治療研究班に対して研究費を補助しており、その額は19
68年度の2265万2000円から始まり、2004年度は1億4214万90
00円となっている。
なお、関連する規程は、厚生労働科学研究費補助金取扱規程、厚生労働科学研究
費補助金取扱細則、厚生労働科学研究費補助金公募要綱である。
④ 認定制度・治療体制の問題点
現在でも油症専門の病院等はなく、油症被害者は、それぞれの個別症状に対する
処置を一般の病院において行っているのが現状である。油症であることを伝えない
で受診している油症被害者も多く、陰部の症状など、受診しづらい症状も多々ある。
PCBの排泄促進に向けた治療など、油症治療研究班の研究成果を活かした治療を
行う専門病院などは存在しない。
油症についての認定は、都道府県と指定都市が行っており、その基準は、現在の
全国油症治療研究班が定めている。認定までの主な手続の流れは、添付の図表1(略)
のとおりである。診定会議は、福岡県、長崎県、広島県のみで開催されており、そ
れ以外の県では、診定を全国油症治療研究班の油症患者診定委員会に委託している。
認定されると、Xに請求すれば、一時金22万円が支払われ、医療費についても、

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Xに請求すれば支払われるが、手続は煩雑である。
この認定手続によって、1969年に認定された患者は、1万4627人の届出
の内、わずかに913人で、2006年1月末までの累計でも、1892人にとど
まっている。
認定に至るまでの問題点としては、受診のためのアクセスの障害や、認定基準の
問題点、認定を受ける意義が少ないことが指摘されている。
すなわち、認定を受けるための検診は、年1回しか実施されておらず、検診場所
も福岡県と長崎県で各3ヶ所、他の9県では各指定病院1ヶ所に限られている。油
症被害者は散在しており、遠方から行くことは容易でない。症状が悪ければそもそ
も行くことすらできない。油症によって十分に働けず、経済的に困窮している患者
も多く、交通費も負担となっている。
認定基準の変遷については、添付の図表3(略)の「油症診断基準比較表」のと
おりである。認定基準については、皮膚症状に偏った診断がなされてきた。届出に
対する認定の割合はわずか13%ほどにとどまり、ほとんどの被害者が認定されて
こなかったという経緯がある。また、1983年にPCDFが原因物質の一つと確
認されてからも、それに対応する形で基準自体は見直されず、2004年になって、
ようやくPCDFの血中濃度が判断要素に加えられたにすぎない。これについても、
ライスオイルを摂取してから長い年月が経過しているため、一旦PCDFが体内に
入っても年月の経過によって排出されてしまうこともあり、基準として十分とはい
えないという問題がある。
そもそも、食中毒事件においては、同じ飲食物を摂取し、体調に変調を来たした
集団を対象にして行政対応がとられ、症状の特異性には拘泥しないのが通常である。
しかるに、カネミ油症事件では、皮膚症状に偏った診断がとられてきたため、同
じ家族で、同じようにライスオイルを摂取しながら、認定・不認定が分かれるなど、
不合理な状況が生じている。
さらに、仮に認定されても、一時金が22万円支払われるだけである。医療費は、
認定されると、前述のとおり、Xが治療券を交付し支払うことになっているものの、
Xに医療費を直接請求してくれる医療機関は限られており、一旦医療機関に立替払
をした後、Xに請求するという手続をふまなければならない。
以上のとおり、患者個人が、それぞれの症状について、自費で医療機関に通って
対症療法を受けているのが実情である。しかも、カネミ油症であることを秘匿せざ
るを得ない患者が多く、かつ、医師側に、油症に関する専門的知見のある者はほと
んどいないため、どこまで適切な医療がなされているかは、極めて疑問である。
⑤ 生活支援
油症被害者には、症状によって職を失った者、十分に働けなくなった者が多数存
在する。これは当然、収入の減少につながり、生活の困窮をもたらしている。民事
訴訟により、Yから、和解金等の支払を受けた者や、国から仮払金の支払を受けた

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者もいるが、治療費・生活費として使用してしまい、それでもなお困窮から抜け出
せない状態である。
日常生活においても、体の障害、だるさ等から、不便を来たし、他人の助力を必
要とする者もいる。通院は容易ではなく、交通費の負担も少なくない。
また、次世代への影響があるとされていることから、婚姻をあきらめた者、出産
をすることを控えた者も少なくない。油症被害者のほとんどは、自身が油症被害者
であることを秘匿しており、このことが親戚に知られることをおそれている。その
ため、父母等の仮払金返還債務についても、相続放棄によって第2順位の親族らが
請求を受けることになるのを避けるため、相続放棄をせずに支払うこととしたり、
子らが婚姻する際、その相手方に発覚することを避けるため、無理をして子の債務
だけは支払ったりした者もいる。しかし、これらの油症被害者の苦難について、国
から何らかの援助、支援等がなされたとの事実は認められなかった。
⑥ 1985年の法務、農林、厚生三大臣協議
1984年3月の小倉1陣訴訟の控訴審判決及び1985年2月の小倉3陣訴訟
の第一審判決において、国の責任を認める判断がなされたことを受け、同月22日、
法務、農林、厚生三大臣は協議を行い、国の法的責任について争うこととは別個に、
「カネミ油症事件に関する措置について」と題して、以下の措置を行う合意をした。
Ⅰ 油症被害者に対し、厚生省と農林省は、さらに綿密な連携の下に必要な対応
を行う。
Ⅱ 油症治療研究と油症被害者追跡検診の有機的連携を図る等研究体制を整備強
化するとともに、生活困窮世帯に対し、世帯更生資金の特例貸付けを引き続き
実施する。
Ⅲ Xに対し、JAS認定工場としての必要な指導を行うほか、こめ油製造業に
ついての中小企業近代化促進法に基づく経営合理化の指導、こめ油製造業にお
ける米ぬか油の円滑な調達のための協力要請及び同社所有の倉庫について米の
需給操作上可能な範囲内での有効活用の配慮を行う。
この合意のうち、国は、Ⅲについては、Xに対して、毎年倉庫料を支払ってきた。
しかし、Ⅰ、Ⅱについては、前記の点以外に顕著な取組みの成果はなかった。申
立人らからの事情聴取等によっても、この協議以降で、状況に変化は認められない。
8 仮払金返還問題
(1)仮払金返還問題の発生
① 問題発生の経緯
1984年3月の小倉1陣訴訟の控訴審判決及び1985年2月の小倉3陣訴訟
の第一審判決において、国が敗訴し、仮執行宣言付の判決がなされたことから、国
は一人当たり約300万円の仮払金を支払った。支払日、支払額等は下記のとおり
である。
(小倉1陣)

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支払年月日
1984年3月17日
支払金額
24億9536万8175円
対象者及び人数
原告756名
(小倉3陣)
支払年月日
1985年2月14日
支払金額
2億0233万7119円
対象者及び人数
原告73名
しかし、1987年以降、原告らは、Yとの和解に際し、国に対する訴えを取下
げることにし、国もこれに同意した。そのため、国が判決に基づいて原告らに支払
っていた仮払金約27億円について、原告らに返還義務が生じることとなった。
もっとも、これ以降、国は、8年間にわたり督促状を送るだけであったが、10
年近く経過して消滅時効を1年後に控えた1996年6月上旬になり、油症被害者
である原告本人のみならず、子などの相続人を含めてかなりの数の者に対し、突然、
仮払金の返還を求める督促状を郵送した。
② 督促により発生した問題
上記の督促状は、油症被害者らの生活に様々な問題を引き起こした。油症被害者
らは経済的な困窮もあって、ほとんどが支払われた仮払金を生活と医療のために使
い果たしていた。督促は加齢と油症のため体が弱く働けず、収入がなく治療費もか
かり困窮している被害者を追い詰めるものであった。督促状を送られたことにより、
親が隠していた幼児期の油症被害を初めて知って衝撃を受けた者、親に仮払金返還
義務のあることを知った子、また、仮払金が支払われた当時、幼少であったことか
ら、親が自分の仮払金を受け取っていたことを初めて知った者もいた。月9万円の
年金の中から毎月6万円を返還していた者や、結婚後の住所に督促状が送付された
ことから、相手方に自身が油症であることを知られ、離婚されそうになった者、さ
らには、仮払金の返還を苦にして自殺した者もあった。
(2)仮払金債権の現状
① 調停、再調停、免除
上記の状況を少しでも打開すべく、旧原告団の代表及び弁護団が国の歳入徴収を
担当していた農林省九州農政局と仮払金返還問題について協議を重ねた結果、19
96年に調停手続を用いて解決を図るとの関係者間の合意が成立した。
上記の合意に基づき、1995年から、調停手続が開始され、1996年から1
999年にかけて、調停対象者698名全員について、調停による返還方法の合意
が成立した。
調停による合意の内容は、以下のとおりである。
5年分割払い
255名
5年以内一括払い
66名
5年履行延期
118名

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10年履行延期
259名
また、このうち履行期限が5年以内の被害者で、かつ、履行期限を延長しないと
対応できない者について、2001年10月から2004年 1 月までの間、285
名の再調停が行われた。
さらに、調停による合意のとおりの返済が困難となった場合には、随時再調停に
より返還方法の変更等が行われている。
② 仮払金債権の現状
国は、1996年からの調停の結果、10年履行延期している油症被害者及び2
001年10月から2004年1月までに再調停をした油症被害者については、返
還が終了しない限り、2006年9月以降に再調停が必要であると判断し、今後、
その方法について検討を行うこととしている。
なお、仮払金の返還状況は別紙1(略)の「仮払金債権返還状況」のとおりであ
り、2005年2月末日の債権残高は17億5800万円となっている。
(3)申立人のうちの仮払金受領者の現状
① 受領者の数と金額等
申立人のうち、Xらに訴訟提起した者は426名で、うち国から仮払金を受領し
た者は352名である。このうち335名が未だ国に対し仮払金返還義務を負担し
ており、その金額としては200万円以下が14名、200万円以上400万円以
下が262名、400万円以上600万円以下が52名、600万円以上が7名で
ある。
これらの者は、いずれも国との間で分割払いもしくは履行延期の調停を行ってい
る。
② 現状
仮払金については、少ない年金の中から返還をしている者が多く、中には死亡し
た家族の相続分や子の分も含めて返還を余儀なくされている者もいる。また、収入
の状況から全く支払えない状況にある者も多い。仮払金のことが頭から離れず、不
眠やノイローゼ状態にさえなっている者もいる。
9 Xによる油症発生原因の作出と油症被害への対応
(1)油症発生原因の作出
Xは、ライスオイルの脱臭工程において、有害で人体に重大な被害をもたらすカネ
クロール400を加熱炉で250度まで加熱させ、これを薄いステンレス製の蛇管の
中に循環させて脱臭塔の中のライスオイルに接しさせていたが、このような構造から
してライスオイルにカネクロール400が混入する可能性が大であり、かかる装置の
導入自体、食品の安全性確保という点で問題があった。
また、Xは、このような形で脱臭工程にカネクロール400を用いるにあたって、
カネクロール400の製造・供給業者であるYのカタログを見た以外には、特にカネ
クロール400の毒性・危険性について格別の検討をなさなかった。

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さらに、Xは、蛇管の金属腐食や損傷によりカネクロール400がライスオイルに
混入することを防止する措置や、カネクロール400がライスオイルに混入した場合
の検出方法について、いずれも何ら講じていなかった。
油症被害は、上記のような状況のもとで、蛇管の中のカネクロール400がライス
オイルの中に混入し、それが製品としてそのまま出荷されたことにより発生したもの
である。
(2)油症被害への対応
Xは、認定された油症被害者に対し、一律22万円の一時金を支払っているが、未
認定の油症被害者に対する金員の支払は一切行っていない。
また、Xは、判決又は和解により、油症被害者に対して支払義務を負うこととされ
た損害賠償債務について、完全に履行していない。
医療費については、認定された油症被害者のみに対し、Xが治療券を交付して支払
う形になっている。しかし、治療券を提示することにより、治療費を直接Xに請求す
る医療機関は一部に限られており、治療券はもとより、油症そのものについての情報
が周知されていない医療機関が多い。このため、油症被害者は、自分で一旦医療費を
支払い、その後、Xに請求する場合も多く、その場合、同社から支払がされるまで時
間を要したり、同社の担当者から「油症被害と関連性がない」などと言われたりして
支払を拒否される場合もある。このようなことから、治療券を利用することなく、自
ら治療費を負担することにしてXに請求することをあきらめている者も多い。また、
Xは、油症被害者と認定されたとしても、認定前にその者が負担していた医療費の支
払には応じていない。
さらに、油症についての確たる治療方法が確立されていないことから、油症被害者
には健康食品等を摂取している者も多いが、Xは、これらの健康食品等の購入費の支
払にも応じていない。
なお、Xから油症被害者に対する1969年度から2005年度までの支払状況は、
別紙2の「年度別油症経費支払状況」のとおりである。
10 Yのカネクロール400の供給に当たっての危険性の警告状況と油症被害への対応
(1)カネクロール400をXに供給するに当たっての危険性の警告状況
Yは、1954年に日本で最初に「カネクロール」という商品名でPCBの製造を
開始し、1957年ころから熱媒体用途の製品として生産・販売を拡充していった。
しかし、PCBの毒性については、労働科学研究所の野村茂元熊本大学医学部公衆
衛生学講座教授が、PCBの動物実験により、極めて激しい中性脂肪変性を起こして
死に至ることや、PCBが皮膚疾患を起こすこと、また、それにとどまらず、PCB
が皮膚を通じて体内に入り込み、肺、腎臓、副腎に一定の変化を起こすことを究明し、
このような研究成果を労働科学研究所発行の「労働科学」1949年11月10日号
に発表していた。また、同人は、1953年ころ、科学工業協会安全衛生委員会に提
出した「有害な科学物質一覧表」にPCBを挙げ、その中でPCBを体内に取り込む

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- 22 -
と肝臓障害や塩素ニキビが起きることを指摘していた。
Yは、日本で他の企業に先立ってPCBの生産を開始したものであるが、PCBを
食品の熱媒体用として製品化するに当たり、それが人体に危険を及ぼすおそれの高い
分野であるにもかかわらず、独自に動物実験を行ってその毒性の程度や生体に対する
有害性を確かめたり、又は他の研究機関に調査を委託したりするなどしてその安全性
を確認したという事実は認められない。
また、YがXにカネクロール400を販売するに当たって、PCBの危険性につい
て周知徹底を図っていたという事実も認められない。Yのカネクロール400のカタ
ログには、「カネクロールは塩素化合物として若干の毒性をもっていますが、実用上ほ
とんど問題となりません」「皮膚に付着した時は石鹸洗剤で洗って下さい。もし付着し
た液がとれ難い時は、普通の火傷の手当で結構です。」「カネクロールの大量の蒸気に
長時間曝露され、吸気することは有害です。カネクロールの触媒装置は普通密閉型で、
作業員がカネクロールの蒸気に触れる機会はほとんどなく、全く安全であります。」と
いった記載がなされている程度であった。
(2)油症被害への対応
前記のとおり、1987年3月20日、最高裁において、原告とYとの間で、上告
審係属中の二つの事件に下級審継続中の全ての訴訟の原告が利害関係人として参加し
た全訴訟一括和解方式による和解が成立した。
最高裁の和解成立時までに、Yは合計約86億円を支払っていた。その内訳は、①
一連のカネミ油症事件に関する訴訟の仮払仮処分、下級審の判決に基づく仮執行によ
る約77億円、②1978年7月の確認書に基づく660人の未訴訟油症被害者への
見舞金8億5800万円である。
カネミ油症事件に関するYの支払総額は約105億円となっている。なお、仮執行
の金額が見舞金を超えている場合で、本来Yに対して返還されるべき金額は和解条項
に基づく計算上約48億円となっているが、返還はされていない。
他方、Yが和解後に認定された油症被害者に対し、和解した者と同様に支払措置を
講じたという事実は認められない。
第5 当委員会の判断
1 申立人らに対する人権侵害
第4、4項で認定したとおり、申立人らは、油症により、身体的・経済的被害にとど
まらず、家庭生活や社会生活上、ひいては人生そのもののあり方にまで及ぶ重篤な被害
を被っており、重大な人権侵害を受けている事実が認められる。
2 国に対する救済制度確立に関する申立について(国の行為の人権侵害性)
(1)ダーク油事件発生時における国の人権侵害性
まず、事件発生時における国の人権侵害性について判断する。
① 国家賠償請求訴訟における国の責任の判断と人権侵害性の判断の関係

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国家賠償請求訴訟をめぐる裁判所の判断は、いかなる場合に国の法律上の権限不
行使が国家賠償法上の違法性を帯びるかという争点をめぐるものであった。そして、
ライスオイルによる健康被害の発生及びそれに先行するダーク油による鶏の大量死
に対する国の対応に関しては、高裁判決レベルにおいて国の責任を肯定した判決(福
岡高判1984年3月16日判時1109号24頁)も、否定した判決(福岡高判
1986年5月15日判時1191号28頁)も、いずれも国の関与についての事
実認定についてはほぼ共通している。食品衛生法上の権限の行使・不行使が、行政
庁の自由裁量に委ねられていることを前提とした上で、その権限不行使が違法性を
帯びるか否かの一般的判断基準についても、いずれもいわゆる裁量権収縮説(行政
庁に裁量が認められている場合であっても、一定の場合においては、その裁量の幅
が小さくなり、一定の行為をなすことを義務づけられるという理論)に立っている。
また、違法性判断の具体的要件としては「①国民の生命、身体、財産に対する差し
迫った危険、②行政庁において右危険の切迫を知り又は容易に知り得べき状況、③
行政庁が容易に危険回避に有効適切な権限行使をすることができる状況」が存在す
ることを挙げている点でも共通している。
上記の両判決の判断と本件の人権救済申立における人権侵害性の判断については、
前者が国家賠償法1条における公務員の不作為の違法性の判断を行っている点で、
後者のダーク油事件の発生から食用油による人体に対する健康被害の発生にかけて
の国の不作為が申立人らの人権を侵害したものであるか否かという観点と基本的に
共通する面がある。そこで、両判決における違法性の判断基準を本件の判断におい
ても参考にすることとする。ただし、弁護士会の人権救済申立制度における判断は、
もっぱら憲法及び確立された国際法規である国際人権規約などに照らして、当該被
害について人権侵害の有無を判断するものであるから、国家賠償請求訴訟における
違法性判断より広い観点から、食品による健康被害が切迫している状況のもとで、
最も重要な人権の一つである国民の生命・身体の安全を保護するために公務員に期
待される行為規範に照らして積極的な判断をすることが求められるというべきであ
る。以下においては、上記の観点から本件における人権侵害性を判断することとす
る。
② 事件発生時における国の不作為と人権侵害性
(ア)憲法25条及び食品衛生法
憲法25条は「1 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利
を有する。 2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆
衛生の向上及び増進に努めなければならない。」と規定する。これを受けて食品衛
生法は「この法律は、食品の安全性の確保のために公衆衛生の見地から必要な規
制その他の措置を講ずることにより、飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止
し、もつて国民の健康の保護を図ることを目的とする。」(1条)と規定している。
(イ)社会権規約

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また、1966年12月16日の第21回国連総会で採択され、1976年1
月3日に発効した経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(以下「社会
権規約」という)(日本政府は、ダーク油事件発生から約10年経過した1978
年5月30日に社会権規約に署名し、1979年6月6日の国会承認、同21日の
批准書寄託、同年8月4日の公布を受けて、同年9月21日に日本国内で効力が生
じた。)は、第12条(健康を享受する権利)において、以下のとおり規定してい
る。
「1 この規約の締約国は、すべての者が到達可能な最高水準の身体及び精神
の健康を享受する権利を有することを認める。
2 この規約の締約国が1の権利の完全な実現を達成するためにとる措置に
は、次のことに必要な措置を含む。
(a)死産率及び幼児の死亡率を低下させるための並びに児童の健全な発育
のための対策
(b)環境衛生及び産業衛生のあらゆる状態の改善
(c)伝染病、風土病、職業病その他の疾病の予防、治療及び抑圧
(d)病気の場合にすべての者に医療及び看護を確保するような条件の創出」
上記の規定のうち、2項(c)の「伝染病、風土病、職業病その他の疾病の予
防、治療及び抑圧」の「その他の疾病」には、例示されている「伝染病、風土病、
職業病」の他、本件におけるような食品による疾病も含まれていると解すべきで
あるから、国にはその「予防、治療及び抑圧」のために積極的な役割が期待され
ているというべきである。また、2項(d)の「医療及び看護を確保するような
条件の創出」という規定からも、国の適切な医療体制を整備する義務を定立する
ことができるというべきである。
③ 憲法と国際人権規約から見た国の人権侵害性
まず、「①国民の生命・身体に対する差し迫った危険」という点については、当時
ライスオイルを摂取することにより、国民の生命・身体に重大な危険が切迫してい
た事実が認められることは明らかである。
次に、「②国において危険の切迫を容易に知り得べき状況にあったか」、「③国に
おいて容易に危険回避のための有効適切な権限行使をすることができたか」の要件
について検討する。
この点、農林省と厚生省は、国民に安全な食品を供給するという共通の目的を有
し、所掌事務は事実上密接に関連しているというべきである。とりわけ、国民に危
険な食品が提供されるようなことがあるならば、憲法25条で国民に保障されてい
る健康で文化的な生活を営む権利自体が侵害されるという重大な問題に直結しかね
ないのであるから、この点における両省の連絡・調整は強く要請されるところであ
る。
また、社会権規約12条の2項(c)に照らしても、当時食品の生産流通を職務

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とする農林省の係官が、自己の職務を独自に執行中であったとしても、その過程で
食品の安全性が疑われるような事実を探知し、食品の安全性について相当な疑いが
あれば、食品衛生業務を本来の職務としないとはいえ、これを所管の厚生省等に通
報し、もつて権限行使についての端緒を提供する義務を負うものと解すべきである。
なぜなら、高度に工業化されたシステムの中で、主要な生産物のみならず副生産
物の利用など複雑かつ多様な生産過程を経て、日々新しく開発される多種類の化学
物質を駆使して生産活動を行っている現代社会における食品生産の仕組の中では、
一定の規制権限を有する公務員は、その本来の職務の範囲にのみ閉じこもることな
く、所轄の権限の分野以外の事柄についても、少なくとも事実上密接な関連がある
と容易に判断できる分野については、行政庁相互間の有機的連携に意を用いなくて
は、食品の安全を十分に確保することは困難であるからであり、上記の程度の義務
を課したとしても過重な負担を強いるものとはいえないからである。
なお、カネミ油症事件発生当時、日本政府は、社会権規約を正式に批准してはい
なかったが、その時点ですでに国連において採択され、確立した国際法規となって
いた人権保障基準としての国際人権規約の趣旨に照らし、社会権規約12条2項
(c)は上記の義務の根拠となるというべきである。
さらに、食品衛生法1条に規定されている「飲食に起因する衛生上の危害の発生
を防止し、もつて国民の健康の保護を図る」という国の責務から見ても、国は上記
の義務を負うと解するのが相当である
④ そこで本件について検討するに、ダーク油事件において、1968年3月22日、
福岡肥飼検飼料課長は、Xの現地調査を行った際、ダーク油の製造工程につき事情
聴取したときに、ダーク油がライスオイルの製造工程でできる副産物であることが
判明したにもかかわらず、ダーク油の汚染原因やライスオイルが汚染されていない
か等について追及をなさず、食品衛生庁への報告も行わなかった。
また、鶏の大量死という事件に直面し、農林省本省は、福岡肥飼検に常時密接に
指示を与えていたうえ、ダーク油と食用油が、同一の工場において、同一の原料、
同一の製造工程により製造されていることを知る立場にあったにもかかわらず、よ
り詳細な実態調査や病性鑑定も指示しなかった。
⑤ 仮に、1968年3月下旬に福岡肥飼検から食品衛生行政の担当機関に通報がな
されていたとすれば、同機関としては、ダーク油事故と同様の危険性が食用油にも
及んでいるのではないかという疑いを抱くことは当然であると考えられ、そうすれ
ば、食品衛生行政の担当機関において、食品衛生法17条に基づき、Xに必要な報
告を求め、たとえXの協力が得られなくとも、Xに臨んでダーク油と食用油の関連、
帳簿書類を検査し、ダーク油の出荷の時期とほぼ同時期に出荷された食用油の流通
先を追跡した上、これを回収することにさしたる困難はなかったと思われる。
そして、食用油にもダーク油と同じような有害物質が含まれていることについて
は、適切な方法による食用油回収期間を2週間、動物実験による毒性試験に必要な

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期間を4週間と見ても、遅くとも同年5月中旬には判明しえたはずであって(その
有害物質が何であるのか、なぜ混入したのか等の究明は追ってさらに困難な調査・
検討が続くとしても)、食用油中に有害物質が含まれていることが判明すれば、食品
衛生行政において、この有害な食用油の回収、販売停止等の措置を直ちに講じると
ともに、既にこれを購入・使用している消費者に対して警告を発することができた
といえるのであって、遅くとも同年6月以降はその摂取を防止でき、油症被害の拡
大を阻止することができたものと認めることができる。
以上によれば、ダーク油事件発生当時、国においては、ライスオイルという有害
な食品により、消費者である申立人らに生命・身体の危険が切迫していることを容
易に知り得る状況にあり、かつ、国民に安全な食品を供給するという目的をもつ国
の機関として、ダーク油事件の調査段階でライスオイルの回収命令等の有効・適切
な対応を行っていれば、食用油に有害物質が混入されていることを実際よりも早期
に知ることができ、ライスオイルの摂取が相当程度防止されることによって、被害
の拡大を容易に防げたと考えられるから、国はその初動対応において、作為義務違
反により、申立人らの人権を侵害したというべきである。
(2)油症事件発生後の国の人権侵害性
① 被害回復義務
国は、ダーク油事件の調査段階において、必要な規制権限を行使せず、被害の発
生・拡大を招いた点で、申立人らの人権を侵害したのであるから、油症被害発覚後
においては、先行する人権侵害行為について、その被害の回復、すなわち、油症被
害者に対する適切な医療の提供、健康の維持・回復、生活面における支援をなすべ
き作為義務があったというべきである。
しかるに、国は油症被害の発生・拡大を防止しなかったのみならず、その後、現
在までの対応においても、以下に述べるとおり、被害の回復のための作為義務を尽
くしているとはいえないから、不作為による人権侵害性が認められる。
② 事件発生後の国の責任
前記のとおり、事件発生から5年後の1973年までに発表された厚生省環境衛
生局食品衛生課の係官作成の論文において、カネミ油症事件については、今後も慢
性中毒事件として、行政機関が中核となって油症の診断と治療の研究・開発等につ
いて積極的な対策を採っていくべきことが指摘されていた。
すなわち、国自身も、事件発生後、比較的早い時期において、被害が継続・深刻
化していくことを予見していたものといえる。
しかるに、国が採ってきた主な対応は、全国油症治療研究班への研究費の支出、
Xへの支援(倉庫料の支払)にとどまっている。1983年にPCDFが原因物質
の一つと確認され、1985年の三大臣協議においても、対応の必要性が再確認さ
れていたにもかかわらず、施策に大きな変化は認められなかった。2004年にな
って、ようやくPCDFの血中濃度が認定基準に加えられたものの、救済措置にお

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いて、その他の大きな変化や改善措置は認められない。総じて見ると、油症被害に
ついての研究は行われてきたものの、油症被害者に対する実効的な救済措置は採ら
れてきていないといえる。
一方で、油症被害者は、長年にわたって多様かつ深刻な全身症状に苦しみ、その
症状は、時間の経過に伴って、身体の各部位に変遷して現れ、世代を超えた影響ま
でもが生じてきている。
油症被害者は、国による人権侵害を受けながら、その実効的な救済措置を受ける
ことなく、自助努力で、これらの症状と戦ってきたというほかない。
また、油症被害者は、健康被害だけではなく、これに起因して、生活、職業等の
社会生活上のあらゆる場面において多大な不利益を被ってきたほか、婚姻や出産な
どでもいわれのない制約を受け、個人の尊厳も危機にさらされている状態である。
国が、今後も、現在の施策にとどめ、油症被害者に対する実効的措置を採らずに放
置するとすれば、さらに油症被害者の個人の尊厳を脅かし、生存権を侵害していく
ことになるものといわざるを得ない。
現行の食品衛生法60条は、「厚生労働大臣は、食中毒患者等が厚生労働省令で定
める数以上発生し、若しくは発生するおそれがある場合又は食中毒患者等が広域に
わたり発生し、若しくは発生するおそれがある場合であって、食品衛生上の危害の
発生を防止するため緊急を要するときは、都道府県知事等に対し、期限を定めて、
食中毒の原因を調査し、調査の結果を報告するように求めることができる」と定め、
本件のような広域・大規模な食中毒事件についての迅速な原因の究明・対策を要請
している。
また、厚生労働省の本来の責務についても、厚生労働省設置法3条(任務)は、「厚
生労働省は、国民生活の保障及び向上を図り、…社会福祉、社会保障、公衆衛生の
向上及び増進並びに…を任務とする」と定め、4条(所掌事務)3号及び21号は、
「3 疾病の予防及び治療に関する研究その他所掌事務に関する科学技術の研究及
び開発に関すること」、「21 治療方法が確立していない疾病その他の特殊の疾病
及び治療に関すること」とそれぞれ定めている。
加えて、上記のとおり、社会権規約12条は、「すべての者が到達可能な最高水準
の身体及び精神の健康を享受する権利を有すること」を認め、これを実現するため、
締結国に対し、同条2項において、「(c)伝染病、風土病、職業病その他の疾病の
予防、治療及び抑圧 (d)病気の場合にすべての者に医療及び看護を確保するよ
うな条件の創出」をそれぞれ求めている。
しかし、国が、これらの法令にしたがって、適切な対策をとってきたとはいえな
い。
国は、先行する人権侵害行為によって、申立人らに対して被害回復義務を負うと
ともに、個人の尊厳・生存権といった憲法上の人権保障の規定及び上記の食品衛生
法等に定められた責務に照らし、事件発生後、申立人らに対して、被害回復のため

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に必要な措置をとるべき義務を負っていたといえる。しかしながら、国は、現在ま
でこれを怠ってきたものであって、申立人らに対する不作為による人権侵害性が認
められるものというべきである。
本件による被害が、広範で深刻かつ将来にわたること、被害回復のためには様々
な対策を要すること、被害者が全国に散在していること等を考えると、国には、国
が主体となって、積極的に救済策を講じていく義務があるというべきであり、現状
の対策にとどまることは、さらに、申立人らの人権を侵害していくことになるとい
わざるを得ない。
(3)国に対する仮払金に関する申立について
① これまでの経緯
仮払金に関しては、前記のとおり、1996年から1999年にかけて、調停対
象者全員について、調停による返還の合意が成立している。調停内容としては、債
務者の経済的状況に応じて、①5年分割払い、②5年以内一括払い、③5年履行延
期、④10年履行延期などの内容となっており、国としては、支払方法という限定
的な範囲においては、一応の配慮をしてきたことが認められる。
② 仮払金返還問題の深刻さ
しかし、訴訟を提起した油症被害者らは、XやYから一定の金員の支払を受けて
はいるものの、その額は油症被害者らの精神的・肉体的・経済的損害を填補するに
は甚だ不十分なものであったといわざるを得ない。
そのため、実際、油症被害者らが国から受け取った仮払金については、カネミ油
症による治療費、収入減に伴う生活費の補填、長年の訴訟のための費用等に充てら
れてしまい、現在も受領した金額が残っている者はほとんどいない。
その上、実際に仮払金の返還をしている者も、月々のわずかな年金収入の中から
国に返還をするなど、経済的には極めて困窮している者が多い。中には、経済的に
困窮しているにもかかわらず、相続放棄もすることなく、自殺した子どもの仮払金
を支払った者もいる。また、相続をした分も含め、夫婦で1000万円以上の仮払
金返還請求を受けている者もいる。さらに、支払の延期がされている者も、国の仮
払金のことが頭から離れず、夜も眠れない者もおり、また、自分が死亡した後に子
どもらに請求がされることを心配している者も多い。このため、ほとんどすべての
油症被害者らが、仮払金の支払の免除を希望している。
このように、油症被害者らは、カネミ油症による被害のために健康で文化的な最
低限度の生活を送ることすら侵害されてきた上、仮払金の支払のためにさらに経済
的に厳しい生活を余儀なくされているのである。
③ 仮払金返還請求における人権侵害性
既に述べたとおり、国においては、ダーク油事件の調査段階において、必要な規
制権限を行使しなかったことや、油症事件発生後も油症被害者らの被害回復のため
に必要な措置を怠ってきたという点で、人権侵害の責任が認められるのである。

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そして、国が主体となって、油症の認定や救済、油症治療方法の研究・開発、更
には医療費・医療関係費及び生活補償費の支給等についての施策を講じてこなかっ
たことに鑑みれば、経済的に困窮状態にある油症被害者に対して国が仮払金の返還
を請求することは、健康で文化的な最低限度の生活を送ることをより一層困難にさ
せることとなるのである。
憲法25条に規定する生存権の社会権としての法的性格については、プログラム
規定説、抽象的権利説、具体的権利説等の説があるが、いずれの立場に立っても、
生存権の自由権的側面、すなわち、現に有している健康で文化的な生活を侵されな
いという権利性については、具体的な法的効力があると解されている。いわゆる総
評サラリーマン税金訴訟第一審判決(東京地判1980年3月26日行集31巻3
号673頁)も、「国家は国民自らの手による健康で文化的な最低限度の生活を維持
することを阻害しては成らないのであって、これを阻害する立法、処分等は憲法の
右条項に違反し無効と言わなければならない」と判示して、憲法25条の自由権的
側面の具体的な法的効力を認めている。なお、同控訴審判決(東京高判1982年
12月6日判時1062号25頁)も同旨である。
本件において、国が油症被害者らに対して仮払金の返還請求を続けることは、ま
さに、国民が自らの手によって健康で文化的な最低限度の生活を維持することを阻
害することであって、生存権の自由権的側面を侵害するものである。
④ 解決の方向性
債権管理法は、10条で、「債権の管理に関する事務は、法令の定めるところに従
い、債権の発生原因及び内容に応じて、財政上もっとも国の利益に適合するように
処理しなければならない」と規定している。また、24条では、「債務者が無資力又
はこれに近い状態にあるとき」や「債務者が当該債務の全部を一時に履行すること
が困難であり、かつ、その現に有する資産の状況により、履行期限を延長すること
が徴収上有利であると認められるとき」などには、履行期限を延長する特約又は処
分をすることができると規定している。そして、32条では、債務者が無資力又は
これに近い状態にあるため履行延期の特約等をした債権について、当初の履行期限
から10年を経過した後において、なお債務者が無資力又はこれに近い状態にあり、
かつ、弁済することができることとなる見込みがないと認められる場合には、当該
債権並びにこれに係る延滞金及び利息を免除することができることを規定している。
本件においては、債権管理法を柔軟に適用して油症被害者の債務を免除すること
も考えられる。しかし、前記のとおり、国が油症被害者らに対する人権侵害の責任
を免れ得ないこと、国が油症被害者らに対して仮払金の返還請求をすることが生存
権の自由権的側面を侵害するものであることに鑑みるならば、端的に、立法措置を
講じるなどして、油症被害者らの債務を一律に全額免除すべきものである。
(4)勧告の趣旨
以上の検討をふまえ、国に対しては、下記の勧告をなすのが相当と認める。

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① 認定制度について
現在の認定制度のもとでは、認定率は極めて低く、同じくライスオイルを食し、
同様の症状を訴えながら、認定上の結論に差異が出るなど、不合理な点があること
は否定できない。これは、認定に際して、皮膚症状に偏った認定がなされている点
も一因と考えられる。再度、油症被害が食中毒事件であることに立ち返り、喫食調
査を重視し、症状の特異性に拘泥しない認定方法を検討すべきである。また、本件
は、ダイオキシン類による曝露という極めて異例かつ深刻な事案であり、ダイオキ
シン類が人体に及ぼす影響についても未だ解明されるに至っていないことからして
も、皮膚症状やPCDFの血中濃度にこだわらず、油症にしばしば見られる自覚症
状や病態に着目して、油症被害者をあまねく救済できるよう認定基準を再検討すべ
きである。
また、現在の認定制度では、ほぼ全面的に認定の作業が全国油症治療研究班に委
ねられており、国が主体となった取り組みにはなっていない。
認定のための受診の機会も年1回であり、検査場所も限られていることから、身
体的・経済的負担から、受診することさえ困難な油症被害者が多数いる。
認定基準の再考、油症被害の全国的調査の実施、油症被害の救済のためには、国
の主体的活動が不可欠である。
よって、国に対し第1の1(1)のとおり措置を講じるよう勧告する。
② 治療方法の研究・開発等について
これまで、全国油症治療研究班によって、カネミ油症の治療方法が調査・研究さ
れてきており、一定の実績は認められる。
しかしながら、現地調査や申立人らからの事情聴取の結果によれば、いまだ、各
症状への対症療法によって、症状を抑えるにとどまっており、根本的・効果的な治
療方法は確立されていない。全国油症治療研究班に委ねるのみではなく、国が主体
となって、さらに治療方法の研究・開発を進めるべきである。また、油症被害者ら
は、油症についての専門的知見に乏しく、設備の整っていない医療機関で受診を継
続している実情がある。
したがって、国において、油症治療について専門的知見のある医師・医療機関を
養成・確保し、一般の医療機関にも、油症や、油症治療についての実情・知見の周
知徹底を図るべきである。さらに、油症は、未解明なダイオキシン被害であり、性
別の差や、世代を超えた未知の影響が考えられるのであるから、将来にわたって実
態を明らかにしケアとサポートをする必要もある。
よって、国に対し第1の1(2)のとおり措置を講じるよう勧告する。
③ 医療費、医療関連費及び生活補償費の支給について
油症被害者らは、油症被害についても自費で医療を受けており、カネミが発行す
る治療券も、一般には周知されていないことから、利用困難なものとなっているこ
と、賠償金も十分ではなく、既に医療費、生活費等に使用した者が多数であること

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は、前記のとおりである。
油症被害者らは、単に被害によって治療費がかかるだけではなく、通院のための
交通費の負担、就職困難による生活費の不足などにも直面している。
国が被害の発生・拡大を阻止できず、被害発生後も、対策を怠ってきたことに鑑
みると、他の公害、薬害被害者等における救済措置や、特定疾患・難病患者に対す
る支援と同様の支援を行うべきである。具体的には、まず、医療費、医療関連費(通
院費用や、治療方法が確立していないことをふまえ、健康の維持・回復のために必
要とされる費用も含む)の支給を行うべきである。
さらに、油症被害による労働能力の減少・喪失に見合う、生活補償を行うべきで
ある。
よって、国に対し第1の1(3)のとおり措置を講じるよう勧告する。
④ 仮払金返還問題について
上記のとおり、油症被害者らは油症による健康被害だけではなく、自費で医療を
受けるなど経済的な負担も過大となっている。しかも、十分な賠償金も受け取るこ
とができていない。その上、国から仮払金の返還請求を受け続けることは、油症被
害者らの健康で文化的な最低限度の生活をする権利をより一層侵害するものであり、
生存権の自由権的側面を侵害するものというべきである。国は、これ以上油症被害
者の生存権を侵害しないためにも、油症患者が負担している仮払金の返還義務を一
律に全額免除すべきである。
よって、国に対し第1の1(4)のとおり措置を講じるよう勧告する。
3 Xに対する申立について
(1)PCB製品である「カネクロール400」を食用油に混在させて健康被害を招来さ
せたことによる人権侵害性
① 食品の製造販売業者であるXは、食品によって消費者に危害を与えてはならない
という極めて高度の安全を確保すべき注意義務を負っていたというべきである。
すなわち、有害・危険な物質を食品の製造工程に使用する場合には、高度の技術
を用いて有毒物質が食品中に混入しないよう製造工程における万全の管理をすると
ともに十分な製品検査をし、また、有害物質の混入を疑わせる異常を発見したとき
は、直ちに製造食品の出荷を停止するなどして、有毒物質の混入した食品が消費者
に供給されることがないよう万全の措置をとり、食品による人体被害の発生を未然
に防止すべき極めて高度の注意義務を負っていたものである。
しかるところ、Xは、前記のとおり、ライスオイルの製造工程において、有害で
人体に重大な被害を及ぼすカネクロール400を用いて、これをライスオイルに混
入させ、また、これが混入したライスオイルを漫然と出荷したものであり、前記の
注意義務の違反が容易に認められる。
そして、このことにより、本件の油症被害が発生したことは明らかであるから、
Xには人権侵害性が認められる。

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(2)履行すべき責任を果たさないことによる人権侵害性
① その上、Xは、油症被害者らとの間の訴訟で確定した損害賠償債務を完全に履行
していない。また、その後に認定された油症被害者に対しても、一時金22万円を
一律に支給しているにすぎない。これらは油症被害に対する賠償措置としては、あ
まりにも低すぎるといわざるを得ない。
このように、Xが本来履行すべき責任を果たさないことにより、申立人らは、健
康で文化的な最低限度の生活を送ることすらできない状態に陥っている。
② また、Xは、認定された油症被害者に対し、治療費の負担をすることを合意した
上、「油症治療券」を発行しているが、前記のとおり、治療券で医療を受ける患者の
物理的・精神的負担は非常に大きく、このことから、治療券の利用を断念している
者も多い。また、健康食品等は治療券の支給対象から除外されているため、この点
でも油症被害者の負担は大きい。
また、Xは、新認定被害者の医療費について、認定前のものについては償還を拒
否している。
このように、Xの対応は、医療支援の点でも極めて不十分であるといわざるを得
ない。
③ 以上のとおり、Xは、カネクロール400の混入したライスオイルを製造販売す
ることによって、多数の者の人権を侵害したのみならず、訴訟上において支払うべ
きことが確定した賠償義務すら十分履行せず、医療費及び医療関係費の支払も十分
に行っていないのであって、本来履行すべき責任を果たしていないという点から見
ても、更なる人権侵害行為を重ねているものと評価せざるを得ない。
(3)結論
以上のように、本件油症被害事件を起こしたこと及びその後の対応の問題性から、
Xによる人権侵害性を認定できるというべきである。
よって、Xに対しては、第1の2項に記載したとおりの勧告をするのが相当と判断
する。
4 Yに対する申立について
(1)食品の安全性は、食品製造業者に高度の安全確保義務を課すことだけで確保され得
るものではなく、食品の製造工程において、食品の安全性に重大な影響を及ぼすおそ
れのある危険な資材・原料・装置等を提供する関連業者の安全確保のための取り組み
等の寄与があって、はじめて万全のものとなることはいうまでもない。
とりわけ、PCBのような人体に極めて有害な合成化学物質は、万一、食品を介し
て人体に直接摂取されるようなことになれば、多数の人の生命・身体に計り知れない
害悪を及ぼす危険性があるのであるから、供給者においては、その危険性につき事前
に十分調査し、需用者に可能なあらゆる手段を尽くしてその物質の危険性を正確に認
識させ、安全性の確保の重要性につき十分に注意を喚起させるべきである。
(2)YがXへ供給したカネクロール400は、閉鎖された循環系での使用を前提とした

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ものであるが、Yは、万一、それが漏出して製造過程でライスオイルに混入して食品
として出荷されたならば、人体にどのような危害を与えるのかにつき、十分に調査・
研究を尽くし、その調査・研究の結果に基づき、Xに対し、カネクロール400の使
用にあたっての危険性の警告及び情報の提供をなすべきであった。
ところが、前記のとおり、Yは、PCBの危険性につき、事前に十分に調査・研究
し、Xに対して必要な警告を尽くしたとはいい難い。
Xがカネクロール400を出荷した行為は、食品製造業者として著しい過失が認め
られるが、そこにはカネクロール400の危険性に対する認識不足も起因していたも
のと認められる。仮に、YからXに対し、カネクロール400の人体への有害性に対
する十分な警告と情報の提供がなされていれば、Xのカネクロール400の危険性に
対する認識が変わっていた可能性、ひいては、Xによるカネクロール400が混入し
たライスオイルの出荷が防げた可能性は否定し難い。したがって、Yには上記の警告
並びに情報提供をする義務を怠った過失による人権侵害性が認められるというべきで
ある。
その上、Yについての和解が成立して7年を経過した後の1994年には、我が国
においても製造物責任法が制定され、製造者に厳格な責任を課すことが製造物による
被害の防止と救済を図ることに資すること、そして、それが、社会の要請でもあると
いう考えが確立されてきていることに照らしても、人体に有害なPCB製品のカネク
ロール400を製造して食品の製造工程に利用させる目的でXに供給したYには、企
業の社会的な責任という観点からしても、現在もなお続いている悲惨かつ深刻な油症
被害の救済を行うことが求められると考える。
また、Yが見舞金を支払った油症被害者は、和解をした油症被害者に限られており、
そうでない油症被害者との間には大きな対応の格差が存在するのであり、この点につ
いても、侵害されている油症被害者の人権の救済という観点から見逃すことはできな
い。
(3)以上から、Yに対しては、第1の3に記載のとおり要望する。
以 上