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ビジネス価値創造におけるサービス場の適用
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ビジネス価値創造におけるサービス場の適用
西岡 由紀子(アクト・コンサルティング)、小坂 満隆 (北陸先端科学技術大学院大学)
Applying Service Field Approach for Business Value Creation
Yukiko Nishioka (ACT Consulting)、 Michitaka Kosaka (JAIST)
1. まえがき
「動かないコンピュータ問題」(1)-(2)が指摘されて久しい
が、確たる解決策が見出せないまま今に至り、最近では、
急速な市場ニーズの変化やサービスの多様化にシステムが
追従できず、新規分野への参入が遅れるなど、IT(情報技
術)が経営を左右する時代になっている。
筆者らは、長年 IT 業界に身を置き、IT 化の構想策定から
構築、運用までコンサルタントとして参画し、IT 化の諸問
題解決に向け尽力してきた。たとえば、IT 化構想策定段階
では、現状業務を分析し、将来像を策定するが、IT 化のた
めの(最適なシステムを構築することを目的とした)将来
像を作る。企業全体の将来像を考えるには組織や制度など
も同時に検討が必要となるが、IT の領域外のため、踏み込
むことができず、IT 化のプロジェクトの枠内で将来像を作
ることに違和感を覚えていた。
今回、ある企業で、企画部門主導による企業全体の将来
構想策定を支援したところ、IT 化構想策定と同様な手順で
企業全体の将来像を策定することができ、上記の忸怩たる
思いを払拭することができた。その経験を通じて得られた
のは、業務モデリング=サービス場を定義すること、に他
ならないという気付きである。
本稿では、企業の将来像を検討する上で不可欠のビジネ
ス価値創造について、サービス場理論を適用することが有
効であることを示す。
2.ビジネス価値創造に関する現状の問題点
企業では、その存在価値を示す「ビジョン」が多かれ少
なかれ掲げられており、それを実現するために「戦略」を
策定しているが、戦略はビジネス価値創造のシナリオと言
い換えられる。戦略策定の正攻法は、現状を分析し、その
企業が成り立つために必要な業務機能を抽出し、将来ある
べき姿を描き、全体の業務を鳥瞰した上で、将来像実現に
必要な機能を再配置し、組織、人材、制度、マネジメント、
IT 等の機能要素に落とし込んで行くことである(図 1)。
しかし、その戦略策定には確たる方法論もなく、経験と
勘と度胸で決定しているのが現状ではないだろうか。全体
を見渡した整合の取れた戦略が描けないことにより、実態
に合わない組織や、要員の過不足、部分最適な IT システム
等が続出しているのが実情である。
図 1. 機能要素の相互作用による将来像実現イメージ
Fig. 1 An image of achieving ToBe through interaction of various
functions
3.ビジネス価値創造とサービス場
<3.1>ビジネス価値創造に向けた「サービス場」の適用
サービス場とは、企業がそのお客様に対し、自社の商品・
サービスを提供する環境であり、サービス場の状況を把握
して、その状況に応じた適切なサービスを提供することが、
サービス価値を高めるために必要とする考え方が提唱され
ている(3)。下図に業務モデリング(サービス場)のイメー
ジを示す。
図 2. 業務モデリング(サービス場)のイメージ
Fig. 2 An image of AsIs/Tobe modeling (service field)
平成 26 年 3 月 20 日 (於)愛媛大学
電気学会全国大会シンポジウム
ビジネス価値創造とサービスサイエンス S15-6 より再掲

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ビジネスモデルを考える上で必要となるサービス場の構
成要素は、エージェント(サービスの受取手、直接の提供
者ならびにサービスの実現に関わる関係者を総称する)、サ
ービスプロセス、タイミング、文脈など、サービスの授受
が行なわれる環境全般である。サービス場を把握すること
により、サービスのあり方、内容、提供方法などが明らか
になり、また、サービスに影響を与える要素が見える化さ
れることで、サービスを実現するために必要な組織、人材、
制度やそれらを支える IT システムについて、その機能を定
義することができる。
サービス場の継続的発展に関して、(3)では KIKI モデル
が提示されている。現状のサービス場を認識し、将来必要
なサービス場を想定することにより、全体最適な価値創造
が期待できる。下図に KIKI モデルを示す。
図 3. KIKI モデル
Fig. 3 KIKI model
KIKI モデルは、以下の 4 ステップで構成される。
①ステップ 1(K1)では、サービスとサービス場を定義
し、サービス目的とその環境に関する情報を共有する。
②ステップ 2(I1)では、サービス場を同定し、サービス
ニーズに関するデータの収集とデータの分析を行なう。
③ステップ 3(K2)では、サービスをデザインし、技術、
サービスの活用と統合を行なう。
④ステップ 4(I2)では、サービスの実装と顧客へのサー
ビスの提供を行なう。
一方、ビジネス価値創造に関しては、サービス場を定義
した上で、お客様に何を提供すべきか、という目的価値と、
その目的価値を実現するための手段(業務プロセス、組織、
制度、システム等)に関する機能価値を見出すことが重要
である(4)。なお、目的価値、機能価値の明確化については
次節で言及する。
<3.2>サービス場明確化の方法論
KIKI モデルにおけるサービス場の継続的発展ステップは、
下図に示す IT 化構想策定プロセスと類似している。
図 4 . IT 化構想策定プロセス
Fig. 4 Grand design process in IT solution service
上記プロセスの成果物である業務モデリング(現状)、業
務モデリング(将来)は、KIKI モデルにおけるサービス場
を記述したものと言える (5)。
筆者らは、IT 化構想策定で、方法論 MUSE(Methodological
Universe for Services Environment (6))を用いているが、企業
全体の将来像策定においても MUSE を用いることで、ビジ
ネス価値創造に向けたサービス場を明確化できることが判
明した。
なお、IT 化構想策定のプロセスの概要は以下のとおりで
あるが、企業全体の将来像策定においても同様な流れで実
施できる。
①現状把握(図 4 第 1、第 2 ステップ)
現状の業務の問題点・課題を抽出するステップである。
第 1 ステップは、経営者、管理職、現場の担当者の 3 階
層に分かれ、集中討議により現状の問題点・課題を抽出
し、整理・体系化する(KIKI モデル K1 に相当)。下図
は、集中討議の様子である。
図 5. 集中討議の情景
Fig. 5 A snapshot of a session performing the MUSE method
第 2 ステップでは、個々の業務について、役割の担い手
とその機能、そこで扱う情報を、関係者・部門との関わ
K1:Knowledge sharing related to
collaboration:
Definition of service and service
field, Sharing the objective of the
service and its environment
I1:Identification of the service field:
Collecting and analyzing data
related to service and finding
needs for services
K2: Knowledge creation for the new
Service idea:
Creating new service idea using
various technologies
I2:Implementation of the new service
idea:
Realizing the service idea in
customer’s company
Spirally development
目的価値の抽出
機能価値への展開

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りを含めて業務フローに表わし、個々の業務フローを集
約して全体像を作成する(業務モデリング(現状))。全
体像の中を仮想的に歩く(ウォークスルーする)ことで、
お客様や取引先を含めた業務の関わりを理解し、無理、
無駄、ムラといった全体を鳥瞰することにより見えてく
る業際間の問題、全体の課題を読み取る(同 I1)。これ
らはすべてお客様との協働作業で行なう。
②将来像の策定(図 4 第 3、第 4 ステップ)
現状業務の問題点と課題、現状業務の流れと全体像を関
係者で共有した上で、将来像を策定するステップである。
第 3 ステップでは、①現状把握の集中討議メンバーで、
企業、部門、業務のあるべき姿について集中討議し、方
向性、将来像を検討する。
第 4 ステップでは、現状把握の過程で明らかにした業務
を「機能」要素(計画、商品・サービス、購買、経理等
の業務機能、ならびに組織、人材、制度、マネジメント
等の業務実施に必要な付帯機能)に分解し、最適配置し
た将来像を描く。将来像をウォークスルーし、将来像を
実現するための業務のあり方、流れを確認する。また、
このステップでお客様に何を提供すべきかという目的
価値を明確化する(同 K2)。
③IT化構想の策定(図 4 第 5、第 6 ステップ)
将来像実現に向けた IT 活用を検討し、IT 化のコンセプ
トを定め、要件定義を行い、IT 化の実施計画を作成する
ステップである。
第 5 ステップでは、IT 化を行なうに当っての基本的な考
え方、たとえば、全体の整合性をどう取るか、全体最適
とは何か、等を検討し、方向性を確認し、IT 化のコンセ
プトを打出す。
第 6 ステップでは、システムの機能価値と併せて、組織、
制度、設備・環境等の機能価値についても定義し、IT
化の要件定義を行い、IT 化の実施計画を策定する。その
上で、これら 6 ステップの成果を IT 化構想としてまと
める。
これらの作業を行なった上で、IT 化を実現するステップ
に移行する(IT 化実現を含め、KIKI モデル I2 に相当)。
なお、各ステップ終了後、経営者を交えた報告会を行い、
確認を取りながら次ステップに進める。この報告会は、非
公式のオーソライズの場ともなり、順次全社の理解を得な
がらプロジェクトを推進して行くことができる。
<3.3>実施体制
サービス場は、現状のしがらみにとらわれず、客観性を
持って検討することが重要である。そのため、サービス場
の検討は、利害関係のない第 3 者が主導することで、バラ
ンスの取れたサービス場の設計が可能となる。
筆者らは、「設計事務所」という概念を企業の IT 化プロ
ジェクト参画時に適用してきたが、その役割は、IT 化構想
策定段階においては、お客様の目的価値をより客観的な視
点から顕在化させ、利害関係者の合意形成を図り、IT 化実
現段階においては、発注側と受注側の橋渡し役としてコミ
ュニケーションの仲介をすると共に、IT 化システムの語り
部として、運用段階に至るまでブレない方向性の維持とシ
ステムのライフサイクルマネジメント役を担うというもの
である(設計事務所とは、建設業界から借りてきた言葉で
あるが、施主の立場から建築物を設計し、施工まで責任を
持つことから、その概念を参考にしている)。
サービス場の考え方を適用したビジネス価値創造につい
ても、同様の考え方で設計事務所の活用が可能であり、現
在進行中の企業における将来像構想策定に適用しており、
所期の目的が達成できるものと考えている。次章にて、当
該企業における将来像策定事例を紹介する。
4. 事例紹介
本事例は、企画部門主体で推進している企業全体の将来
構想策定プロジェクトであり、筆者らは、設計事務所とし
て参画している。3.2 節で紹介した IT 化構想策定プロセス
を準用し、MUSE 等の方法論を用いてサービス場の検討を
行なった。
その結果として、特に大きな修正もなくプロセスを推進
することができ、下記の結果を得ることができた。
①今後の業務領域は、コア業務の延長線上とすること
②組織・体制については、本部、支部、事業所の 3 階層組
織とし、本部は戦略策定に特化して、支部の独立採算制
を採用すること
③処遇制度では、やる気の出る働きやすい年俸制・出来高
制を併用すること
参考までに現状把握で作成した業務モデリング図(現状)
を下図に示す。
図 5 業務モデリング図(現状)例
Fig. 5 An example of AsIs Modeling

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IT 化構想策定で培った方法論が、企業の将来像策定に充
分に適用可能との確信を得た瞬間であり、今後機会を作っ
て他にも適用し、方法論としての充実を図って行きたい。
なお、MUSE は、業務モデリングツールとしての役割の
ほか、コミュニケーションツールとしての役割を持ち(図 4
の第 1、第 3 ステップで活用)、当該企業内のメンバー間の
意思疎通の場の醸成と活発な意見交換に寄与している。従
前は、経営層の前で萎縮していた管理職が今では堂々と意
見を交わしており、主催者である企画部門も驚いているほ
どだ。
5. おわりに
本稿では、サービス場の理論を利用して企業のサービス
価値創造が行なえることを示し、サービス場の明確化に資
する方法論 MUSE を紹介した。特に、実施体制については、
設計事務所の第三者の視点を有効に活用することにより、
全体整合の取れた成果物を期待できることを示した。
事例に紹介した企業のプロジェクトは、現在、将来像に
基づく業務プロセス、組織、人材、制度と併せてシステム
機能の設計を行っている。当プロジェクトが終了した暁に
は、サービスの視点から、企業全体の将来像策定とその実
現について分析を加え、紹介する予定である。
以上は、人が知恵を絞り、新たな価値を創造するサービ
ス場とプロセスについての考察でもある。どれだけきれい
な将来像が描けたところで、人の意志と合力なくしては、
その実現は画餅になってしまう。手順や仕組み、道具立て
などより、人の「意志」が一番の力である。サービスを実
現するのは人であり、サービスの根底にあるものは、相手
を思う心であり、技と意志を併せ持った人間力である。こ
の人間力の醸成は、サービス分野に限らず、諸方面で求め
られている。一人より、集団の力、衆知に解決の糸口があ
るのではないだろうか。今後はそういった観点からも考察
を加えて行きたい。
文 献
(1) 特集プロジェクトの成功率は 26.7%, 日経コンピュータ,
No.587, pp.50-71 (2003).
(2) ITpro: 測る企業は成功率が 2 倍に,
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20090128/323664/
(3) 小坂満隆:サービス価値創造モデル, 小坂満隆(編) サービ
ス志向への変革, 第 6 章, pp.82-103, 社会評論社 (2012).
(4) 西岡由紀子: 設計事務所が導く IT 化の目的価値の実現,
情報処理学会デジタルプラクティス, 特集 価値を導き出す
コンサルティング, Vol.1, No.4, pp 190-199 (2010).
(5) Y. Nishioka, M. Kosaka: Service Value Co-creation for
Enterprise IT Solution Services, ACIS2013, SS(Serve) (2013).
(6) 西岡由紀子: IT 化構想段階における MUSE Method の有効
性, 電気学会 第 30 回情報システム研究会および横断型基幹
科学技術研究団体連合「システム工学とナレッジマネジメン
トの融合に関する調査研究会」合同研究会, IS-07-22, pp.31-34
(2007).