いたヒト皮膚由来線維芽細胞からは iPS 細胞が
いっさい誘導されなかったことから,エリートモ
デルの存在が示唆された(図 1).また,Muse 細
胞由来 iPS 細胞との比較により,遺伝子導入がな
されることで Muse 細胞に腫瘍性増殖能が付与さ
れた結果 iPS 細胞に変化したのではないかという
誘導メカニズムの可能性も示唆された[4].また,
ヒト皮膚由来線維芽細胞を用いる場合,Muse 細
胞のみが iPS 細胞に変化し得るのであれば,あら
かじめ Muse 細胞を分離することで iPS 細胞への
誘導効率を向上させることが可能であると考えら
れる.また,皮膚由来線維芽細胞は様々な細胞種
を含む細胞集団であることが知られているが,比
較的均質な細胞集団である Muse 細胞を iPS 細胞
誘導に用いることで,その誘導メカニズムの解明
に役立てることが可能であると考えられる.
1. Kuroda Y, et al.: Proc Natl Acad Sci USA.
107: 8639―43, 2010
2. Takahashi K, et al.: Cell 126: 663―76, 2006
3. Yamanaka S, et al.: Nature 460: 49―52, 2009
4. Wakao S, et al.: Proc Natl Acad Sci USA. 108:
9875―80, 2011
多能性幹細胞を用いた心筋再生療法の開発
柴 祐司(信州大学大学院医学系研究科循環器
病態学)
心筋梗塞を始めとする虚血性心疾患に対する再
生医療は近年急速に研究が進展し,骨髄幹細胞等
の体性幹細胞を用いた再生医療はすでに臨床応用
されている.しかし,これまでの臨床試験から,
細胞移植の効果は限定的とされている[1].これ
は移植された幹細胞そのものが,心筋細胞には分
化しないことが一因と考えられている[2].
ES細胞を始めとする多能性幹細胞は,無限の増
殖能と万能性を有しており,心筋細胞への分化も
証明されているため,心臓病に対する有望な再生
医療の細胞源と考えられている.これまでの前臨
床試験で,移植されたヒト ES 細胞由来心筋細胞
(hESC-CM)は,心筋梗塞部位に生着し心臓の収
縮能を改善することが示されている[3].しかし,
移植心筋細胞が効率的かつ安全に機能するために
は,宿主心筋細胞と電気的に結合し,一体となっ
て収縮する必要がある.本研究では,ヒト ES 細
胞移植後の電気生理学的特性について検討した.
蛍光 Ca センサー GCaMP をヒト ES 細胞に遺伝
子導入し,hESC-CM を作製したところ,in vitro
において GCaMP+hESC-CM の細胞収縮と一致し
た蛍光 GFP シグナルを確認した.さらに,心筋梗
塞発症モルモットに対して,GCaMP+hESC-CMを
移植した.移植 4 週間後の心臓では,グラフト心
筋が宿主心筋の収縮と一致して収縮していること
が確認できた[4].
次に,細胞移植後の致死性不整脈の発生頻度に
ついて検討したところ,細胞移植モルモットにお
いては,コントロール群に比べ,致死性不整脈の
発生頻度が有意に低いことが分かった[4].
hESC-CM は心筋梗塞心臓に移植された後,宿
主心筋細胞と電気的に結合し,心臓の収縮能改善
だけでなく電気的安定性にも寄与することが示さ
れた.
1. Lipinski MJ, et al.: J Am Coll Cardiol 50: 1761―
1767, 2007
2. Murry CE, et al.: Nature 428: 664―668, 2004
3. Laflamme MA, et al.: Nat Biotechnol 25: 1015―
1024, 2007
4. Shiba Y, et al.: Nature (in press)
再生医療における人工多能性幹細胞の展望
岳 鳳鳴1,友常大八郎1,市川比奈子1,白澤佐
季子2,横山忠幸2,永井美圭2,原 一生3,斉藤直
人3,薄井雄企4,遠藤守信4,佐々木克典1(1信州大
学医学部組織発生学講座,2ブルボン先端健康研究
室,3信州大学医学部保健学科応用理学療法学,4信
州大学工学部)
人工多能性幹細胞(Induced pluripotent stem
cells,iPS)とは,体細胞へ四つの遺伝子を導入す
ることにより,ES 細胞(胚性幹細胞)のように非
常に多くの細胞に分化できる分化万能性(pluripo-
tency),分裂増殖を経てもそれを維持できる自己複
製能を保持した細胞のことです.京都大学教授の
山中伸弥教授らのグループによって,マウスの線
維芽細胞(皮膚細胞)から 2006 年に世界で初めて
作られました.2007 年 11 月,京都大学の山中伸
弥教授らのチームがヒト人工多能性幹細胞(iPS
細胞)作製に成功したとの発表は,再生医療の新
しい時代の幕開けとして世界に大きなインパクト
をもたらしました.iPS 細胞樹立の成功により,
ES 細胞の持つ生命倫理問題を回避することがで
きるようになり,免疫拒絶の無い再生医療の実現
に向けて大きな一歩となりました.
我々の研究は外胚葉由来の色素細胞,視細胞,
神経細胞,内胚葉由来のインスリンを分泌する膵
β 細胞,amylase を分泌する膵外分泌細胞,中胚
葉由来の骨芽細胞など,ヒト iPS 細胞からさまざ
まな種類の細胞を作り出すことに成功しています.
特に,ヒト iPS 由来網膜色素細胞との共培養に
よるヒト iPS 細胞から視細胞への分化誘導を成功
させました.これまで報告されている視細胞の分
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