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日本先天異常学会 | 福島原発事故について
   
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福島原発事故の実態とこれから

 福島原発事故から2年9か月が経過した。しかし、未だに15万人を超える住民が避難生活を送っている。災害関連死も1400名を超えている(平成25年6月現在)。しかし、原発事故に直接起因する割合は正確にはわかっていない。最近まとめられた国連科学委員会報告(UNSCEAR)やWHO報告なども参考に、福島原発事故の実態をできるだけ正確に示し、これから我々がどう行動すべきかを考えたい。

福島原発事故とチェルノブイリ原発事故
 表1にチェルノブイリ原発事故と福島原発事故の比較を示す。
まず、チェルノブイリ原発事故では原子炉本体の爆発があったのに対し、福島事故では水素爆発で原子炉建屋は壊れたが原子炉本体の爆発はなかった。その為放出された放射性物質の量が約1/10であった。また、放射性ヨウ素やセシウムの放出量はチェルノブイリ原発事故では炉心に蓄積されていたヨウ素、セシウム総量のそれぞれ50~60%、20~40%だったのに対して、福島原発事故では僅か2~3%に留まった。甲状腺被ばくは平均で20mSvとチェルノブイリの1/10以下、最高値は82mSvとチェルノブイリの1/60であり、甲状腺がんを誘発する可能性のある100mSvに達する例はなかった。もともと日本人には潜在的ヨウ素不足がなく、早期の避難と放射性物質の食品規制が早くから行われたことで被ばくを低く抑えることができた。ただ、放射線被ばくへの過度な不安から多くの避難者が生じた点は両国の事故に共通している。

電話による被ばくカウンセリング
 現地住民やひろく国民の不安にできるだけ中立的立場で応えるべく電話による被ばくカウンセリングを行った。100件近い相談を受けた。表2はその概要である。放射線の胎児や子どもへの健康影響に関する不安と将来の発がんリスク、食の安全性への不安が大多数を占めた。表3は妊婦からの主な相談内容、表45に具体的なQ&Aを示した。表6は乳幼児を育てている家族からの主な相談例である。表7は将来の発がんリスクの相談Q&Aを示した。

放射線の健康被害とは
 放射線の影響には確定的影響と確率的影響がある(図1表8)。確定的影響とはある一定レベルの線量(しきい値)以下では影響はみられず、それを超えて初めて影響が現れるものである。目の水晶体混濁は1,000mSvから、脱毛は3,000mSv、永久不妊4,000mSvとしきい値はかなり高線量である。胎児の奇形発生のしきい値は100mSvとされている。確率的影響の中心は発がんである。100mSv以上の線量では線量の増加に比例して発がん率が上昇するが、100mSv以下の低線量で発がん率がふえたというエビデンスはない。100mSvの放射線被ばくでがん死亡が0.5%、200mSvで1%、300mSvで1.5%押し上げられるに過ぎない。表910に確定的影響と確率的影響の知見を、表11に放射線による発がんの概要をまとめた。被ばくカウンセリングではこれらの知見に基づいて相談にのっている。また、国民の放射線への不安が極めて大きいので、放射線の発がんリスクがどの程度かを表12に示した。100-200mSvの放射線被ばくは野菜不足や塩分の取りすぎと同程度の発がんリスクに過ぎず、喫煙の発がんリスクは2,000mSv以上の被ばくに匹敵する事実をしっかりと認識する必要がある。

福島事故の実態と予測される健康被害
 原発事故から2年以上が経過して、不安の中心は外部被ばくから内部被ばくに移っている。表1にも示したように放射性ヨウ素の甲状腺被ばくは避難区域内1歳児で20~82mSv、30キロ圏外の1歳児が33~66mSv、成人が8~24mSvでいずれも甲状腺がんが増えるとされる100mSv以下であった。セシウム被ばくも平均5mSv未満で問題にならない。
今年5月末に明らかにされた国連科学委員会報告(案)によれば、事故直後にとられた放射線防護対策(早期の避難、放射性物質汚染食品の規制など)のおかげで、被ばくの可能性は1/10に下げられ、日本人の被ばくは低い、または極めて低い状況になった。したがって、がん発生率の増加やその他の健康被害が起こることはないであろうとされている。
また、事故現場に深くかかわった25,000人の労働者にも、放射線関連死や急性放射線影響はみられていない。ごく少数の高線量被ばく労働者でも、甲状腺がんの過剰発生が検知されることはないであろう。ただし、100mSv超の被ばく者には個人レベルで起こり得る放射線誘発の晩発性健康被害を監視する手段として、長期にわたる特別な健診(甲状腺、胃、大腸、肺のがん検診)が必要である。

チェルノブイリ原発事故対応の教訓が福島に生かされたか
 ロシア政府から2011年チェルノブイリ事故後25年の総括と展望が発表された。表13にそのまとめを示した。これらの教訓は福島にいかされているだろうか。残念ながら現在までのところ福島原発事故後の対応にその教訓が生かされているとはいえない。福島事故では放射線障害ではなく、事故に伴う二次的影響が既に出始めている(表14)。

福島事故対応の問題点
1) 早期帰還の遅れと過剰な除染活動
 空中線量が依然と高く除染も不十分のため帰還できないとされているが、その判断が正しいであろうか。そもそも、事故後の復旧期にもかかわらず、平常時の1mSvを目標としたことが誤りではなかったか。チェルノブイリ事故では事故後5年の許容量でさえ1~5mSvなのである。また、100mSv以下でLNT仮説を裏付けるような識別可能な影響が出ている集団はない。ブラジル、インド、中国、イタリア、フランス、イランなどでは10~100mSv以上の線量を受けている地域があるが、明らかな影響は知られていない。ロシアが5mSv以上の地域の住民を強制的に避難させたために(政治的な判断か)、放射性障害は封じ込めたが、避難に伴う深刻な二次的健康影響が起こり、平均寿命の短縮まで招いた事実を教訓とすべきである。平成25年6月29日の新聞各紙に被ばく線量が除染で目標を達成できなかったこと、再除染は行わない政府の方針が報じられ、危険なのになし崩し的な帰還の流れがあるのは、住民に責任転嫁するものとして非難されている。しかし、除染後の線量は平均毎時0.32~0.54μSvで自然放射線より低い値なのである。安心して生活できるレベルであることを明確に示すべきである。再除染を行わないとする政府の見解が出されたのは歓迎すべきことである。もともと必要性がほとんど無かった地域の除染に費やされた膨大な資金は無駄で、この資金を深刻な汚染状況にある福島原発付近の除染と大部分の帰還可能地域の生活再建に必要なインフラ整備に投資すべきであった。最近出されたIAEAの報告書にも、除染だけで年1mSvを達成することは不可能で、除染活動を行っている現状では1-20mSvを許容範囲とすべきであること、最終目標の1mSvに向けては段階的に取り組み、現在投入されている莫大な除染費用は生活再建に必要なインフラ整備に回すことを助言している。年1-20mSvの範囲内であれば、除染で得られる利益と負担のバランスを考慮して、原発事故からの復興・生活再建を目標に最適な方策を行うべきであろう。

2) 食品中の放射性物質基準値を引き下げたこと
 しきい値無し直線仮説(LNT仮説)は100mSv以下の被ばくには当てはまらないが、放射線防護の立場から0~100mSvにも外挿して使用されている。従って100mSvから0mSvに直線を伸ばして放射線リスクを計算するために使用すべきではないとされている(UNSCEAR)。しかし、100mSv以下でも直線的にリスクが下がっていくと仮定して(誤用)、福島事故の放射線被ばくへの過剰反応から基準値見直しを行った。表15は世界的に認められた食品中の放射能レベルである。福島事故後国民の放射線への不安が高まっていることがメディアで報じられたため、政府は不安を鎮めようと基準値を従来の半分に抑えた。しかし、不安が収まらなかったため、更に基準を引き下げた。結果的にわが国の基準値は国際基準の1/10から1/20になってしまった。生産者や流通業界では更に低い値を自主的に決める事態を招いている。なお、欧米の基準値はIAEAやUNSCEARなどの組織が数十年にわたる研究に基づいて設定したものである。それをただ不安解消のために何の根拠もなく厳しくしたのがわが国の基準値なのである。通常であれば安全な食品さえも突然出荷制限の対象にされた。結果的に東北三県の農漁業、林業などは壊滅的な影響を被っている。これはまさにLNT仮説の誤用が招いた人為的被害といえる。基準値の大幅な引き下げは日本の農家や消費者を痛めつける結果となっている。

3) 汚染水漏れ問題
 最近汚染水貯蔵タンクから汚染水が漏れ出ていたことが明らかになった。海水への汚染水流出の影響がどれほどのものか、十分明らかにされていない。今後汚染水漏れを防止する抜本的対策を講ずべく内外の英知を集めて取り組むことと、海水や魚類等のモニタリングを強化する必要があろう。ただ、厳しすぎる食品の基準値があるので、内部被ばくの危険性はそれほどないであろう。国の責任ある対応が求められる。

福島のこれからと全国民の生き方
 最後に福島のこれから(表16)と全国民の生き方(表17)を示した。
また、放射線防護の三原則(表18)、内部被ばくを防ぐには(表19)、調理法による放射能低減率(表20)を参考までに示した。

 この報告が国民の放射線に対する正しい理解の一助になり、放射線に対する過剰な不安の払しょくに役立つことを願っている。

参考文献
1 黒木良和:住民が不安がる福島原発事故の実態とは-事故後3か月の電話相談から―.医学のあゆみ 240(12):1000-1004, 2012
2 黒木良和:妊婦及び乳幼児育児中の家族を対象にした原発事故関連放射線相談、日本人類遺伝学会第56回大会シンポジウム「放射線被ばくと遺伝学」千葉, 2011
3 黒木良和:福島の今とこれから-住民の心に寄り添った被ばくカウンセリング-、日本先天異常学会第52回学術集会 特別企画「東日本大震災津波から1年“よりよい明日をめざして我々ができること、これからすべきこと”, 東京, 2012
4 放射線の影響がわかる本(増補改訂).放射線影響協会, 2000
5 ウラジーミル・バベンコ:自分と子どもを放射線から守るには(辰巳雅子訳)世界文化社, 2011
6 ICRP Task Group 84: Report of ICRP Task Group 84 on Initial lessons learned from the nuclear power plant accident in Japan vis-a-vis the ICRP system of radiological protection, 2012 November
7 No Immediate Health Risks from Fukushima Nuclear Accident Says UN Expert Science Panel. UNIS/INF/475, 31 May 2013
8 Health risk assessment from the nuclear accident after the 2011 Great East Japan Earthquake and Tsunami based on a preliminary dose estimation, WHO, 2013
9 ロシア国政府報告書:チェルノブイリ事故25年 ロシアにおけるその影響と後遺症の克服についての総括と展望 1986 -2011
10 福島の除染に関するIAEA報告書概要 朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞 2013.10.15~23


黒 木 良和(臨床遺伝専門医・指導医)
川崎医療福祉大学客員教授
聖マリアンナ医大客員教授(遺伝診療部)
                      
*本論文は、第52回学術集会(2012年、東京)のシンポジウム「東日本大震災大津波から1年 “よりよい明日をめざしていま我々ができること、これからすべきこと”放射障害と先天異常:科学に基づいた正しい判断のために」における講演に基づき、掲載しております。

                      


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