ATのリアリティーがVRにマッチ

 日本アニメ史に燦然と輝くSFロボットアニメの傑作『装甲騎兵ボトムズ』。そのハードボイルドチッツな内容には熱心なファンが多い。かくいう記者もそのひとりで、1983年のテレビ放送時は、毎週楽しみにしていたものである……。と、つらつら書いていくと、筆がすべっていかに『装甲騎兵ボトムズ』が魅力的かを語ってしまいそうなので、自主規制しておくが、とにかく『装甲騎兵ボトムズ』はかっこいい!のだ。

 で、そんな『装甲騎兵ボトムズ』ファンに、先週驚愕のリリースがもたらされた。そう、東京・お台場のダイバーシティ 東京プラザ内にある“VR ZONE Project i Can”(企画・プロデュース:バンダイナムコエンターテインメント、運営:ナムコ)にて『装甲騎兵ボトムズ』のVRコンテンツが登場するというのだ。名づけて“VR-ATシミュレーター『装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎』”。うーん、『装甲騎兵ボトムズ』のVRとはなんとも酔狂な……、もとい、なんて渋いセレクションなのだろう! と思った記者は矢も立てもたまらず、“VR ZONE Project i Can”に駆けつけた次第。

VR-ATシミュレーター『装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎』を体験! 「ATに乗りたい!」という長年の夢がVRで実現した!_02

 『装甲騎兵ボトムズ』といえば、なんといってもAT(アーマードトルーパー、スコープドッグともいう)。この“VR-ATシミュレーター『装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎』”は、プレイヤーがATに乗り込み対戦相手と1対1のバトルをくり広げるという、対戦アクション型のVRコンテンツだ。アニメを見ている方なら、「ATに乗りたいなあ」と誰しも一度は思ったことと思うが、そんな男子長年の夢を叶えてくれるコンテンツだと言える。“バトリング”というと、ATによる格闘競技としてアニメにも度々登場しているが、本作はそれを忠実に再現したものだと言える。

 コンテンツは、まずは30秒ほどの映像を見るところからスタート。こちらは、バトリング前の格納庫といった趣きで、目の前にATが鎮座しており、どんどん気分が盛り上がる。ATは、アニメよりは深い緑となっており、相当に渋い。にしてもリアル。

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▲見た目はほとんどキリコ・キュービィではありませんか!

 映像のあとは、いよいよゲームプレイへ。用意されていたのは、ATのコックピットを模した専用のマシン。基本的な操作は2本の操縦桿で行い、左右両方を前に傾ける前進、後ろに傾けると後退、両方左に傾けると左へ、両方右で右へ……となる。さらに本作では旋回も可能。旋回したい方向の操縦桿を手前に引いて、逆の操縦桿を反対方向に押し出すことで操作できる。ペダルはふたつあり、左が制御(いわゆるブレーキ)で、右がアクセルとなる。「基本、プレイ中はアクセルを踏みっぱなしにしていたほうがいいですよ。止まると倒されてしまうから」と、インストラクターの方からアドバイスを受ける。肝心の攻撃方法は、右のトリガーを押すとマシンガンで、左のトリガーがミサイルとなる。視線を向けることで、ターゲットが決することになる。マシンガンは120発、ミサイルは9発と弾数制限があり、それが尽きると肉弾戦しか残されてない。つまり、むやみやたらと撃ちまくるのは厳禁というわけだ。バトルは90秒が2本で、よりダメージを与えたほうが勝利となる。「撃ちどころが悪いと、一撃で倒されることもありますよ」とのこと。

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▲ほとんど自覚はなかったが、マシンも動作することで臨場感を高めているようだ。

 というわけで、いざ“バトリング”へ。コックピット越しに覗く闘技場がまさにリアルで、いやが上にも高まる緊張感。こわごわとATを前進させる。プレイするまでは、「操作できるかな……」と少し不安だったのだが、習うより慣れろといったところ。とはいえ、闘技場は思ったよりも広い印象で、ある程度広い場所でプレイさせることで、VR空間での快適なゲームプレイを優先したのかもしれない。などということはプレイ時には感じる暇もなく、とにかく目の前に来る敵を撃つだけ! 対戦相手の方も慣れていなかったのか、1本目はお互いの攻撃がほとんど当たることなくドロー。攻撃したい方向に視線を向けるという動作を、意外と忘れてしまうのですな。2本目は、徐々に操作方法に慣れてきたこともあってか、たまに敵にマシンガンをぶち込むことができて、こちらの勝利となった。戦場の臨場感とまでは言わないが、最初に『装甲騎兵ボトムズ』を見てから33年(!)、「ATに乗りたい」という少年の夢を叶えた瞬間であった……。

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 というわけで、会場に居合わせた“VR ZONE Project i Can”のコヤ所長にお話をうかがってみた。やっぱりいちばん気になるのは、なぜ『装甲騎兵ボトムズ』のVRコンテンツを作ったのかということで、その点を率直に聞いてみると、「本作にはHPの要素がないのですが、なぜだかわかりますか?」と逆質問された。記者が答えられずに戸惑っていると、「ATは、マッスルシリンダーと呼ばれる人口筋肉と、ポリマーリンゲル液という特殊な液体が化学反応を起こして生じる駆動力を利用して稼動しているんです。このポリマーリンゲル液に発火性があって、当たりどころによってはいきなり破壊されてしまうんですね。それを再現するためにあえてHPという概念をなくしたわけです」と、流れるように語られて、記者も若干タジタジ。そのうえで、「つまり何が言いたいかというと……」とニコリとしたコヤ所長は、「好きなんです!」と断言。そう、コヤ所長の『装甲騎兵ボトムズ』に対する愛が、今回のVRコンテンツを実現させたのだ。好きに勝るものはなし!

 とはいえ、社内ではさすがに「なぜ、『装甲騎兵ボトムズ』なのか?」という議論があったそうだ。そもそも“VR ZONE Project i Can”では、運営開始当初は、IP(知的財産)のVRは避けていたという。「IPが人気なのか、VRが人気なのかわからなくなるので、とりあえずVRの魅力を訴求しようと判断した」(コヤ所長)というのがその理由だ。それが、4月の“VR ZONE Project i Can”運営開始から数ヵ月経ち、満を持してのIPタイトル投入となったわけだが、その第1弾が『装甲騎兵ボトムズ』となった理由については、「あまりにも人気のあるIPだと好き嫌いが激しくて、好きな人だといいですが、嫌いな人だと敬遠されがち。それが『装甲騎兵ボトムズ』だと、知らない人は知らないので、ふうつに“ロボットのVR”ということで楽しんでくれると思ったんです」とコヤ所長。まあ、『装甲騎兵ボトムズ』をVR化したいがための、社内を説得するための理論武装に聞こえなくもないが、たしかに誰でも楽しめるコンテンツなのは確か。

 さらに『装甲騎兵ボトムズ』とVRとの親和性を高めているのが同作のリアリティー。“ロボットアニメ最高のリアリティーを持つ”との評価も高い同作は、ATは実際の兵器に極めて近い。「“VR ZONE Project i Can”には、ほかにもロボットもののVRがあるのですが、(ロボットの)サイズが大きいので、気ぐるみみたいな感じになってしまうんですよね。それがATだと4メートルなので、視線も低くて、まさに“兵器に乗っている”という感覚があるんです」(コヤ所長)とのこと。なるほど、『装甲騎兵ボトムズ』はVRと相性のいいIPであったのだ。

 となると、『装甲騎兵ボトムズ』のVRコンテンツの今後の展開が気になるところだが(そもそも、つぎがあるのかも気になるが)、コヤ所長は「組み立てたり、パーツをカスタマイズしたり、そんなことを実現していきたいですね」と夢を語る。そもそも“VR ZONE Project i Can”自体が実験のための研究施設といった趣きがあり、ここでいろいろと試して幅広く展開することを目的としているというから、今後はいろいろな展開が期待できそう。これからに『装甲騎兵ボトムズ』、そしてほかのIPでの展開などにも期待したい。

[2016年7月13日午後5時55分修正]文中、一部“バトリング”の表記に誤記があったため修正させていただきました。お詫びして訂正します。

気分はスーパースターの『マックスボルテージ』

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 さて、『装甲騎兵ボトムズ』への愛に溢れるあまり、“VR-ATシミュレーター『装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎』”について語りまくってしまったが、“VR ZONE Project i Can”では7月15日からもうひとつのアクティビティーの投入を予定している。スーパースターの気分が味わえる『マックスボルテージ』だ。こちらのアクティビティーはプレイヤー自身がバンドのボーカルとなって、曲に合わせて歌やパフォーマンスでオーディエンスを盛り上げていくという、VRでライブ気分を満喫できるコンテンツ。現状、用意されている楽曲は“リンダ・リンダ”と“夏祭り”の2曲となっている。キモはちゃんと歌を歌うこと。『マックスボルテージ』には、カラオケの採点機能に近い感じの歌を認識する仕組みがあるそうで、プレイヤーの歌が、オーディエンスの盛り上げに重要なカギを握っているのだ。

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▲体験時は気づかなかったのですが、コントローラはこんな使いかたをしていたのですなあ。これもアイデア!

 『マックスボルテージ』で注力したのは、「インタラクションですね」と担当の大石勇気氏。視点を向けることで観客が盛り上がるなど、さまざまな仕掛けを施しているという。「なるべく観客との距離を近づけて、臨場感を高めています」というのも工夫点のひとつだ。曲の合間に歓声を上げることでもオーディエンスは盛り上がるらしい。

 試遊して実感されるのは、アーティストのたいへんさ。記者は“夏祭り”を体験したのだが、1曲だけでヘトヘト。そして、記者の盛り上げかたのバリエーションの少なさ(苦笑)。2時間もの長きにわたって、高いパフォーマンスでオーディエンスの盛り上げを維持できるアーティストは本当に偉大だなあと実感。VRはリアルなので、こういったことでも想像力を働かせられるわけです。

 スーパースター気分が味わえる『マックスボルテージ』は、まさに未来のカラオケといった趣きで、実際のところその用途への可能性も広がるような気がするのだが……。デュエットできたり、友だちをバンドを組んだりするとさらに楽しそう。「セットリストを選べるようにしたらおもしろいですよね。楽曲を口にしたら観衆が盛り上がったり」と大石氏も将来への夢を語る。“歌”の要素も交えた、VRの新機軸と言えるだろう。

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▲大石勇気氏。

 両アクティビティーは7月15日から“VR ZONE Project i Can”にて体験可能。事前予約制で、“VR-ATシミュレーター『装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎』”は、700円(651バナコイン)、『マックスボルテージ』は1000円(930バナコイン)となっている。

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