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産業の空洞化と雇用喪失 - スウェーデンの今
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産業の空洞化と雇用喪失


EUが去年の5月に東欧諸国に拡大し、10カ国が新たに加盟国となった。(エストニア・ラトビア・リトアニア(以上バルト三国)、ポーランド、チェコ、スロバキア(今はそれぞれ独立国)、ハンガリー・スロヴェニア(旧ユーゴ)・マルタ・キプロス) EUの大きな柱である、域内の関税の撤廃と生産物やサービス、そして労働力の自由な移動という原則がこれらの国々に対しても一部条件付だが、適用されることになった。ベルリンの壁が崩壊してから急速に市場経済を取り入れ、経済発展を目指すこれらの国々にとって、EUに加盟したことによる外国からの投資の増大は、今後の発展のための大きなカギだ。

黄色:加盟国、オレンジ・緑:加盟交渉中

西欧から東欧への投資は、それ以前からも進んでいたが、このスピードに拍車がかかったわけだ。EU加盟がこれらの国々に持つ意味は単に経済的なものだけではなく、民主化と法の統治の促進による政治の安定化や汚職の減少に対する期待も大きい。外国の企業にとって、せっかく投資した分が実らなければ意味がない。政治不穏で生産ができなくなったり、汚職のために収益がどこかに消えてしまったりするようでは、投資をする気にはなれない(例えば、スウェーデンの家具メーカーIKEAがロシアで苦戦しているのは、地元政治家の執拗な贈賄要求のためという)。

東欧の安い労働力をうまく利用することは、ヨーロッパの企業にとって生き残りのための死活問題。東欧よりもさらに労働コストの低い中国などでの生産も大きな選択肢の一つだが、距離による輸送費と時間を考えた場合に、西欧市場に近い東欧諸国にもまだまだ魅力がある。だから、スウェーデンをはじめとする西欧諸国が製造業を中心に生産拠点を東へ東へと移している。

もちろん、西欧諸国にとってはこれは同時に国内での産業の空洞化を意味する。EU加盟国の中でも特に労働コストが高いスウェーデンではこの問題は深刻だ。80年代終わりまで2%の低失業率を誇っていたスウェーデンの経済も90年代始めに日本同様のバブル経済の崩壊によって、2年間のうちに10%まで達した。経済政策の素早い対応によって、幸い1996、97年頃までには経済の混乱が落ち着き、国家財政も黒字に転じるようになったが、失業率のほうはそれでも5~6%までにしか低下せず、それにさらに職探しを諦めた隠れ失業率が存在する。こうした事実だけを見てみても、スウェーデンを取り巻く現在の産業・経済の環境が80年代とは全く異なってしまったことが分かる。

スウェーデンの基幹産業は、自動車(Volvo, Saab)、通信(Ericson)、IT、そして、規模少し違うが音楽産業。興味深いことに、武装中立・非同盟の立場をとるスウェーデンは、自国産の兵器の輸出も行っている。(詳しくは書かないが、中立・非同盟を保つためには他国に頼らず、自国産の兵器で国防を賄っていく必要があるが、国内の需要だけに応える少量生産だと、開発費などの固定費の元が取れないため、ある程度の生産規模を保たなければならず、そのために輸出が必要というのが一つの論理。輸出先に関しては、非紛争地などの条件付)

ちょっと余談だけれど、兵器の中でのスウェーデンの目玉は多目的戦闘機JAS-39“グリペン”で、昨年は政府間の交渉によってブラジル・チェコ・ハンガリーへの輸出が決まった。製造元Saab(そう、もともとは車ではなく航空機が専門)の工場がある地元は、特需に湧いた。それと時を同じくして、スウェーデンの家電メーカーであるEuroluxが、別の町にある掃除機製造の工場を閉鎖し、ハンガリーに生産拠点を移した。この二つの出来事、その時点では全く関連が無いように見えたのが、数週間ほどして明るみになったのは、ハンガリーへの戦闘機輸出の交渉の時に、猛烈なアメリカからのF-16戦闘機の売り込みに勝つために、スウェーデン政府がハンガリー政府に民間工場設立という形での直接投資をバーターとして約束していたのだった。

このように製造業や軽工業を中心にして、国外へ産業が逃げてしまう問題は、日本の企業がNIES諸国、そして中国へ進出していった結果、日本国内の特に農村部での産業空洞化の問題に似ている。実際、スウェーデンでも製造業を中心に多くの失業者が生まれている。こうした事態に対処するためのスウェーデンの方針としては、国内の失業者に教育を提供し、彼らの能力を高め、それと同時に今後成長が期待されそうな産業部門へ彼らの移動が可能なように支援するということだ。失業者に対する職業訓練などは「積極的労働市場政策」として70年代から盛んに行われてきたが、“知識社会”と呼ばれるこれからの時代に必要とされるのは、さらに高度で大規模な職業訓練ということで、大学教育の拡張が80年代後半以降行われた。伝統的な総合大学を拡張すると同時に、それまで各県に少なくとも一つあった職業専門大学を再整備し、様々な特色を備えた大学へと格上げした。こうした政策の結果、2000年までに大学生の数が2倍近くまで膨れあがった。
(*「積極的」というのは、失業保険の一方的給付のような「消極的」雇用対策に対比する呼称)

この政策の評価に関しては賛否が分かれるところだが、今後は伝統的な軽工業や製造業ではなく、付加価値の高く、熟練労働者を必要とする先端産業や情報産業が雇用創出のカギであることでは意見は一致している。

こうした点をふまえた上で、スウェーデンの各地方や産業がどのような形で雇用を延ばそうとしているのか、折に触れて書いてみたい。(続く・・・、乞うご期待)
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